mixiへの企業売却、シンガポールでの起業、1.5億円の調達。アジアでセルフィーメッセンジャーアプリを展開するCinnamon代表 平野未来氏


「夢はでっかく」をスローガンに、これまで
mixiへのバイアウト、シンガポールでの起業、ベトナムで開発拠点の立ち上げと、突き抜けたキャリアを持つ女性起業家である平野未来氏。日本の名だたるベンチャーキャピタルより1.5億の資金調達を実施し、手がけるアプリのグローバルリリースを行った。数多くの実績を持ち、アグレッシブにアジアを飛び回る同氏を取材した。

 

《プロフィール|平野未来氏》
1984年生まれ、東京都出身、東京大学大学院修了。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。HTMLを書くだけでiOS/Android/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をmixiに売却。「何も繋がりがなくても、行ってから道を切り開く!」をモットーに全くコネクションがない中、2012年にCinnamonをシンガポールに創業、2013年ベトナムに開発拠点を設立し、現在はタイでマーケティングチームを立ち上げ中。ビジュアルなプライベートコミュニケーションサービスでアジアNo.1を目指し、Koalaを運営する。

  

目標ユーザー数5億人!世界で使われるコミュニケーションサービスを

 

サービスの内容を教えてください。

セルフィー(自撮り)に一言吹き出しでメッセージを入れて送り合える、セルフィーメッセンジャー「Koala」の開発、運営を行っています。近年、アジアでは若い女性がセルフィーを一日に何十枚も撮ることが流行しています。しかし撮った写真を使用し、たまにフェイスブックのプロフィールアイコンを変えるくらいで、毎日何十枚も増えていくセルフィーがほとんど使われずにスマホに保存されるだけです。そこで私たちはセルフィーに注目し、仲の良い友人に一日に何枚でもセルフィーを送れるように設計しました。具体的には、セルフィーの上にマンガのような吹き出しと「おはよう」「今何してるの?」といった一言メッセージを入れられるようにしました。

ターゲットとしている国はアジア全体ですが、初期のターゲットは日本、台湾、タイで、一番マーケティングがしやすいタイでリリースしました。タイでテストマーケティングを行い、それが成功すれば他のアジア圏の国にも広げていく予定です。

 Koalaスクリーンショット

               「Koala」のイメージ

―なぜタイリリースをすることを決められたのですか?

日本や他の国に比べて、マーケティングコストが安いことが理由ですね。もちろんベトナムのように人件費がより安い国はありますが、日本文化が比較的浸透しているタイは、日本テイストのサービスが成功しやすいと思いました。アジアの中でも様々な文化圏があり、タイや台湾、日本などの「日本文化圏」、韓国やベトナムなどの「韓国文化圏」、中国や香港、マカオ、シンガポールなどの「中国文化圏」、マレーシア、インドネシアなどの「マレー文化圏」に分けられると思います。その中で「日本文化圏」内の国の方が、プロダクトのデザインやコンセプト設計において、日本人の感覚を持つ私たちからするとやりやすい。また、タイ人は日本人より「新しいもの好き」で、新しい物は何でも試してみるという姿勢を持っている人が多く、比較的サービスが流行りやすいとも思いました。

 

―サービスの目標を教えてください。

ユーザー数5億人を目標としており、世界で使われるようなプロダクトになることを目指しています。また、これまで日本のベンチャーキャピタルより1.5億円の投資を受けており、金銭的なリターンを返すためにも、IPOかバイアウトも視野に入れていますね。IPOをするなら日本か香港、またはアメリカで、バイアウトするなら中国、日本、またはアメリカの会社ですね。

 

―タイのスタートアップ市場は盛り上がってきていますか?

この1、2年ほどで随分増えてきましたが、日本と比較するとスタートアップの数は圧倒的に少ないです。スタートアップにはトレンドがあって、景気が良くなると起業する人は増えるし、景気が悪くなると減る。それを一つの世代と考えると、日本だとスタートアップの歴史が長いので、日本は現在第四世代、第五世代くらいにいます。でもタイはまだ第一世代で始まったばかりです。

日本の場合、サイバーエージェントの藤田さんや楽天の三木谷さんなどの成功事例があり、さらにシード資金からレイトステージまで資金調達ができる環境が揃っているので、起業直後からIPOやバイアウトをするまで、ステップごとにコマを進めていくことが可能です。

しかしタイでは、スタートアップの最初のステージに対して投資をする個人投資家はいますが、会社が拡大するフェーズで安定的に投資を行うベンチャーキャピタルがほとんどいません。スタートアップは、会社が生まれてからバイアウトやIPOをするまで何度も資金調達をしなければならず、その回を重ねるごとに調達額もどんどん大きくなる。しかし、タイではそのように資金が調達しにくい環境なので、まだ日本のように成功事例は多くありませんね。

また、ちゃんと機能しているマーケットがなく、スタートアップを買収する会社もないので、タイ国内でのIPOやバイアウトも難しいと思います。バイアウトをする場合、日本や中国、アメリカの会社に売らなければならず、国外の会社にコネクションが必要ですが、そのような人脈を持っているタイ人はあまりいない印象です。

 

大学院時代にスタートした会社をmixiに売却、その後シンガポール、ベトナム、タイとアジアを飛び回る

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―平野さんのこれまでのキャリアを教えて下さい

小さい頃はパイロットになるのが夢でしたがなれず、大学に入る際はロケットや飛行機を作りたいなと思っていました。そして大学の情報科に入り、大学3年生のときにGREEやmixiなどのサービスを触って、「これは凄い!」と感動しました。「私もそういうサービスを作れる人になりたいな」と思い、学部を卒業した後、大学院に進学し一年生の時に会社を作りました。当時、政府の「未踏ソフトウェア創造事業」という、IT系のアイデアに対して国が助成金を出すコンペのようなものがあり、それに応募したところ出資を勝ち取ることができました。それを資金に一つ目の会社「ネイキッドテクノロジー」を創業し、モバイルテクノロジープラットホームの開発を行っていました。当時、フィーチャーフォン(ガラケー)、iPhone、Androidと端末が乱立している状態でした。アプリを提供する場合、フィーチャーフォンのDocomo、au、Softbankそれぞれに向けて別々のものを作らなければならず、更にスマートフォンのiPhone、Android向けにも作る必要があり、大変な手間がかかりました。その手間を削減するため、一つアプリを開発するだけで、それが全ての携帯会社の端末で操作できるようなテクノロジーを開発しました。その結果、そのテクノロジーが評価されてmixiに企業を売却し、その後同社で1年間勤務しました。

一つ目の会社をやっていた時から、海外でビジネスをやりたいという思いがあり、mixiを退職した後はシンガポールで「Cinnamon」という会社を作りました。そのままシンガポールに移住する前に、ユーザーリサーチとして東南アジアを周ろうと思っていましたが、一番最初に訪問したベトナムが直感的に好きになり、ここに住みたいなと思い始めました。(笑)さらにベトナムを調べた結果、エンジニアがすごく沢山いて、さらに人件費が安いということが分かり、もうベトナムに住むしかないなと思いましたね。ベトナムに開発拠点を設立した後、資金調達のために一度日本に戻り、今はマーケティングの拠点であるタイにいます。

 

夢をでっかく持ち、それをアップデートすることが大切


―平野さんのビジョンを教えてください。

「夢はでっかく」ということを意識して生きていきたいですね。

常に大きな夢を持ち、その夢を更新していくことが大事だと思います。数十年後の具体的なプランは、あまり考えていないですね。10年後、20年後の夢を具体的にしすぎると、それに縛られてしまうので、夢を書くのはあまり好きではないです。常に数カ月から3年以内の夢を持っておくのがいい。それを口に出す、または自分の中で思うなどアップデートしやすい方法で夢や目標を意識していますね。いまの私と比較した時に、1年後の私の方がステージが上がっていると思うし、その時に描いた夢の方が今の夢より大きくなっていると思います。なので、常に夢をアップデートできるような柔軟性を持った上で、一年先くらいの目標くらいは決めるというバランスがちょうどいいですね。

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私の場合、夢を描いて実現させるための「儀式」として、ランニングをしている時にお寺に寄ってお祈りをしますね。(笑) その時に15個以上自分の欲しいものを思い描きます。例えば、ユーザー○○人獲得とか、あの人が会社に入ってほしいとか、インドに住みたいとか。(笑) 曖昧なことはお祈りをしても実現しにくいので、具体的なことを数多く祈ると良いと思います。私は、ランニングでお寺に向かう途中に「今日は何をお願いしようかな」と考え、帰りに「実現するためには何が必要なのか」を考えるようにしています。そうすると「私、こういうものが欲しかったんだ」と、新しく欲しいものに気づくことができます。それを2週間に1回くらいのペースで繰り返していくと、本当に欲しいものがクリアになり、夢がアップデートされていきます。さらにそれを周りに話すと、フィードバックをもらうことができ、実現に近づきます。

  

―日本の若者に伝えたいことはありますか?

まず海外に出て何かをやってみることが大切です。私がベトナムやシンガポール、タイに行った時は、誰も知り合いがいない状態でしたがなんとかなるんですよね。来る前に現地にあったツテは、大学の時の友達や、仕事関係の知り合いの知り合いくらいしかいませんでした。しかし、そういう人から無理矢理人を紹介してもらって、人脈を広げていきました。日本で事前にリサーチをしても、そこで得られる情報はすごく少ないんですよね。ネットや本に載ってるような情報はある程度古いし、全てが書かれてるわけじゃない。実際こっちに来て得た情報と、事前に調べていた情報の量や質に圧倒的な差があるので、海外で何かをしたいならまず現地に行った方がいいです。

ただ、ITでスケールさせることを目指すスタートアップをやる場合は少し話が別です。これは、最初は売り上げが無くても、資金調達をして最初の数年をしのぎ、将来的にスケールさせることを目指す考え方です。しかし、タイなどの東南アジアではスタートアップが成長するような環境がまだ整っておらず、あまり経験がないうちにそのような場所に行くと、間違ったことが頭に入る可能性があります。なので、スケールを目指すスタートアップをやるのであれば日本や中国、シンガポールに行くのがいいんじゃないかと思います。

Interviewed in Aug 2014

 

(文・インタビュアー:長屋智揮 校正:杉江美祥)




ABOUTこの記事をかいた人

長屋智揮

同志社大学政策学部卒。在学中に休学し、インド・バンガロールで会社の立ち上げ、事業拡大に関わる。それをきっかけに、今後急成長が見込まれるアジア各国の市場に興味を持ち、現在ASEANを周遊しながらインタビューを行う。現在は渋谷のIT系企業に就職。