「一緒に働く人を大切にする。」よく言われるフレーズだが、果たして新興国でそれを実践できている人がどれだけいるだろうか?元々日本で働いていたが、「何があっても海外に挑戦したかった」と語る黒田氏は、ベトナムやフィリピンで働きながら、現地目線で彼らと接することを心がけていたという。果たして彼がASEANと、そこに住む人たちに抱く思いとはどのようなものなのだろうか?
〈プロフィール|黒田正人氏〉
2008年大手、サービス業界のエリアマネージャーなどを経て、
2009年電力代理店業務を請け負うグループのマネージャーとし
2011年に通販業務がメインの福岡拠点の立ち上げ責任者として
2013年にBPOセンターとなるベトナム拠点のThousan
100名体制の拠点に拡大に成功し、
現在はベトナム拠点を300名体制に向けて邁進中。
目次
何があっても海外に挑戦したかった。
—まずは、入社時のことからお聞きしたいと思います。どうしてサウザンドクレインに入社したのですか?
今から7年前、グループの代表である高橋に魅力を感じて入社しました。
面接のときに、「この人とだったら絶対に会社を大きくできる!」と感じたんです。人がまとうオーラってありますよね。面接なのに、「もっともっと、大きな組織にしたいんだよね!」と語ってくれ、わくわくした記憶があります。その時にこの会社に入って一緒に働きたいと思いました。
面接の段階から、将来の夢を一緒に成し遂げようと語った面接は今までにありませんでした。通常、面接というのは“個人を知るためのもの”だと思っていましたが、“一緒に未来をこういう風にしていこう”と熱く語ってくれた社長は今までにいなかったんです。
—なるほど、それで入社されたんですね。それでは、ベトナムに行ったのはどういった経緯からでしょうか?
2年くらい前に、ベトナム法人立ち上げの希望者を決めるプレゼンテーション大会が社内で行われ、立候補しました。
残念ながらその時は選考には残れず、現地法人は他の人が設立しました。しかしその1年ほど経った後、再び行けるチャンスが訪れたのです!
なぜ行きたいと思ったかと言うと、少子高齢化で日本市場が縮小していくなか日本のビジネスにも限界があり、海外に出なければ更なる市場の開拓、業務の拡大ができないのではないかと思ったからです。私自身30代前半で、年齢的にも人生のチャレンジのタイミングだと思いましたのでためらわず渡航を決めましたね。
—海外に目を向けるきっかけは何かありましたか?
セブ島をはじめとするアジアへ、プライベートの旅行で何度か行ったことがありました。その時から、言葉では言い表しにくいアジア特有の「アツさ!」を感じていました。雰囲気ですね、それは実際に行って感じていたことでした。
そこで出会った人たちは明るい人が多かったんです。そういう人たちと一緒に仕事をすることに、単純にワクワクしていました。
海外で働くことの楽しさは、ズバリ“人”にある!
—ベトナム(ホーチミン)で最初はどのような業務を行っているのですか?
ベトナムではBPO事業*という、日本語のデータエントリーですね。紙ベースのデータをデジタル化する業務を行っています。インターネット回線の申し込み書やポイントカードの申し込み書など、アナログな部分をお手伝いする仕事です。 そのデータの入力業務を現地のベトナム人の従業員が行ってくれています。
*BPO事業・・・Business Process Outsourcing。人事・総務・経理などの業務について,子会社や外部企業などに業務委託を行うこと。コトバンクより
—元々、働いてみたいと思った理由が「現地の人と一緒に働いてみたい!」という思いだとおっしゃっていましたが、働いてみて、その思いと現実にギャップはありましたか?
ありませんでした。むしろ、楽しくてしょうがなかったですね!
ベトナムに来て感じたことは、皆が素直で勤勉だということです。 外国語の学習態度で言うと、“日本人で英語を勉強している人”と“ベトナム人で日本語を勉強している人”では全く意識が違うことに気付きました。彼らは、日本語を覚えることが自分の将来に直結します。人生を懸けて、夢を掴む手段として日本語を学んでいましたね。
ですので、少しでも分らないことがあればすぐに質問してくれます。 それから、何でも正直に話してくれる人が多いですね。いわゆる、日本人の“本音と建前”みたいなものはありません。「黒田さん、髪型が変ですね」とか「また、太りましたね」といったこともハッキリ言ってくるんです。「余計なお世話だよ!(笑)」みたいな感じで、楽しく過ごしています!
—反対に、課題点はなんでしょう?
文化の違いなのでしょうが、時間にルーズで遅刻が多いことですね。遅刻しても悪びれないんです。
その点は、限られた時間で業務を遂行することの意味や目的を、業務開始前の始礼の際に伝えることで、意識高く取り組んでもらえるようにしています。
—お話を伺っているだけで、職場の楽しい雰囲気が感じられます!ベトナムの次に、セブに拠点を移したとのことでしたが、セブではどのような事業を行っているのですか?
現段階では日本語のコールセンターを運営しています。学生やインターンの方に来ていただいて、フィリピンから日本へ発信してもらう業務です。CRM事業*というのを日本で行っているのですが、日本企業に対してのビジネスを現地で行っています。
*CRM・・・Customer Relationship Management。CRMとは、主に情報システムを用いて顧客の属性や接触履歴を記録・管理し、それぞれの顧客に応じたきめ細かい対応を行うことで長期的な良好な関係を築き、顧客満足度を向上させる取り組み。IT用語時点 e-words
日本人は5名です。現地人は3名。まずは会社の立ち上げとして自分たちが得意とする日本語のコールセンターで土台を確立させた上で、今後は日本語の仕事から英語の仕事にシフトして行く予定です。
—英語の仕事というのはどういったものでしょうか?
例えば、2020年に東京オリンピックを控えておりますが、日本でも外国人が気軽に問い合わせできるような英語のコールセンターや英語のサービスなど、英語の仕事のチャンスは大きいと思います。飲食店やホテルでも英語を話すお客様の集客ができるかが鍵になるでしょう。
また、フィリピンの英語業務の土台をしっかり固めることがアメリカ進出、ひいては世界に繋がる道だと考えています。弊社の場合、英語圏への道はフィリピンからだと思っています。
ローカルに入りこみ、現地と同じ視線で関わる。
—海外で働くにあたって、どんなことを大切にしていますか?
弊社の考え方として、「人を大切にする」ということがあります。 海外では“ジョブホッピング”という言葉がある通り、転職が当たり前です。けれど、そのイメージが弊社には無く、転職していく人はほとんどいません。
私たちは、一人ひとりの人生を大事にしていて、仕事のことから、プライベートな話まで、コミュニケーションをよく取っています。 そうすると、一人一人が家族みたいな存在になってくるので、だんだんベトナム人、フィリピン人といった「外国人」ということが関係なくなってくるんです。仲間を大切に想い、皆で喜怒哀楽を共感するということ。それは国籍や人種は関係ないことなんです。
—従業員との会話は日本語なんですか?多くの従業員がいる中、一人一人とコミュニケーションを取るのは大変ではないのでしょうか?
基本的に日本語ですね。皆、知らない日本語などは積極的に覚えようとしてくれますので、日々のコミュニケーションは皆の語学力を高めるという意味でも大切なことですね。熱心に言葉を理解しようとしてくれますので、コミュニケーションを取る事は大変では無いですし、楽しんでいます。
またコミュニケーションを取る上で、飲み会などの交流の場を多く設けるようにしています。ほぼ毎月やっていますね。それも全て「ローカル」でやっています。現地の人たちが主役になるためにも現地の文化、現地のお店など皆が落ち着ける場所に私たちが参加する事も大切だと思っています。
—海外で働くとなると、日本人と現地の人でセパレートされているイメージがありますが・・・
はい、例えば「現地の店や料理は汚い、我々は日本人だ」みたいに、偏見から入ってしまう方もいると思いますが、そのような気持ちのままだとセパレートされてしまうのかもしれませんね。
現地の社員の心を開くには、まずは現地の従業員たちの生活などを知ることが大事だと思います。 日系の高い飲食店に連れて行ってあげるよりも、現地の人たちがよく行く馴染みの店や、ローカルの屋台に行っていますね。彼らがどんな生活を基盤としているのか知ることで、より深く理解していくことができるんです。 ですので、基本的にはランチも現地の屋台など、現場の皆が普段行くところについて行ってよく話します。そのような点では自分たちが現地化するということもポイントですね。
—HPで「アジアを体感してほしい。」とおっしゃられていましたよね。アジアが好きな理由ってどんなものでしょうか?
やはり、“人”ですかね。ベトナムにいる従業員の皆は教えたことを素直に聞いて、一緒に一生懸命取り組んでくれる姿勢がうれしく、アジアを更に好きになりましたね。そして何より喜怒哀楽がハッキリしている人が多いので、喜んでくれるときは全力で喜ぶんです。
彼らには夢があって、全体の7割くらいの従業員はいつか日本に1度でいいから行ってみたい、「日本に行くことが私の夢です」という人がたくさんいます。 日本人の社員達ができることの一つとして、事業を成功させることで彼らの夢を叶えてあげることもできるということです。そういった、夢を叶えるチャンスを作ることができることも私の目標の一つです。日本の電車、日本の桜、日本の雪、夢の国のようなイメージがあるようです。
−社員の中で日本に来たことがある方もいるのでしょうか?
はい。 弊社では年に1回経営方針説明会があり、国内の全社員が集まって行うイベントがあります。会社に大きく貢献した海外社員にも、日本の経営方針説明会に参加してもらうんです。
昨年は箱根で実施し、温泉を皆で満喫しました。他にもディズニーランドや浅草など、彼らが行きたいところへ行けるようなツアーを組みました。 初めて行く日本で、空港に到着したときの彼らのうれしそうな顔を見たときは、泣きそうになるくらいうれしかったですよ。
—その制度、素敵です!モチベーションに繋がりますよね。
模範となる社員たちが頑張った結果、「日本に行く」ということが実現出来る。皆に「そのチャンスがあるんだ!」と知ってもらうことは、皆のモチベーションにも繋がっていると思っています。 だから、もっともっとそういう機会をつくっていきたいですね。フィリピンも同じことで、自分たちの会社があることで、彼らの人生が変わる、夢を叶えることが出来ると思うと、もっともっと頑張らないといけないなと思います。自分自身のモチベーションにも繋がりますね。
宿泊費、語学学校、食費無料のインターンプログラム!
—フィリピンインターンは、宿泊費・語学学校・食費を無料で提供されていると思うんですが、どういう仕組みなんですか?
コール業務を行って頂くことで、会社としては売上が立ちます。フィリピンでの事業は利益の確保を目的とする段階ではまだありません。インターン生が来て、その人たちが作った売上げで宿泊費や、語学学費、食費などをまかなっています。
フィリピンは英語圏への進出が一番の目的で、その為の土台を創ることが直近の目標です。まずは土台作りをこれからの日本を担う学生の皆に協力してもらいながら出来たらと思いました。今では20名ほどの学生の方にお手伝い頂いています。 セブで仕事をすることによってアジアと日本をもっと近い距離に感じることができます。
このインターンプログラムを通してアジアと日本を繋ぐような人材を増やしていきたいと思っています。一歩出て、一気に人生観や考えが変わることってあるんですよ。そのようなきっかけに、私たちがなれればいいなと思っています。 フィリピンはそのような思いがあってのビジネスモデルですので、現時点ではここでは大きな利益は考えていません。英語のビジネスがスタートしてから、利益も追求していきます。
−どんな学生に参加してほしいと思っていますか?
意識が高い人にも来てほしいですし、また自分の人生に海外は関係ないと思っている人たちにも来てもらいたいですね。 日本にとって、高齢化は危機ですが、それを支えるのはASEANの人たちなんです。日本の学校教育も含めて今後見直していく必要もあるのではないかと、現地に来てみてそう思いました。
日本という狭い箱の中で現在の20代、30代の世代が見てきたものは、私たちの親の世代が創りあげてきたものであり、これからは違うということを気付いてほしいです。現状を幸福と感じている日本人はきっと多いのではないでしょうか?だから、なかなか外を見ようと思わないです。 自分たちが大人になるときは今と違う日本になっているのだということを認識する必要があるかと思います。
ですので、来てほしい学生というよりも日本の全ての学生に来てもらいたいくらいですね。
プログラムの内容で言うと、これからは、今まで以上に現地の人との交流も活発にしていけたらいいなと思っています。
例えば小学校で日本料理を一緒に作ってみるとか、現地の学生に日本の文化を伝えたり、海や道路をキレイにしたりするというような活動です。 インターンに来た学生にフィリピンの今を見てもらって、「自分達にできることをしよう!」という取り組みをしていきたいです。
ASEANの人たちとの繋がりが、日本の将来を支える。
—今後、個人として目指していることって何でしょう?
アジアの人たちを、今よりもさらに日本に結び付けたいと思っています。
気軽に日本に行けて、日本のビジネスにもっともっと積極的に参加してもらいたい。アジアの人たちと、気軽にコミュニケーションを取れるような関係を築いていきたいですね。
−ありがとうございます。それでは最後に、海外に興味はあるけど、一歩踏み出せない学生へ何か一言お願いします。
一歩外に出てみるところで必ず、その人の考え方や人生観を変えるものになるはずです。日本という国を日本の外から見ると、日本の中にいては気付かないこと、見えないことを第3者目線で見ることもできます。
期間はどのくらいでもいいと思っています。短くてもいいです。
まだ気付いていない人が多いのですが、全ての業種、業態がASEANに繋がっているんですよね。例えば、飲食、ファッション、車、バイク、コピー機、カラオケ、建築(空港、地下鉄)、ITなど普段の生活で目にするあらゆるものです。今後、どのようなところで働いても繋がっていくと思います。 日本の小さな商店街の店舗にもアジアとの繋がりで大きなビジネスチャンスが眠っているかもしれない!といったことも気付いていないことがまだまだたくさんあるのではないでしょうか?
海外の現地の人たちがどのようなことを考えているかを知り、日本と海外、ASEANとの繋がりを学ぶ。そこからアジア各国とどのような付き合いをしていけば皆が幸せになるかを考える機会になるはずです。
もちろん就職活動にも役立つと思うのですが、それ以上に就職したあとの働き方、考え方も日本という枠ではなく、グローバルな視野を持って考えることができると思います。大学生は学習することが目的だと思いますが、これから先、職に就く前の経験の一つとして、必ず経験したほうが良いと思います。自分の将来を、異国の地から見つめるのも良いかと思います。
たった1ヶ月行っただけでもそういった視点が身に付くわけですから、絶対海外へは行っておいたほうがいいですね。ぜひ、1歩踏み出してください!