「マーライオン今昔物語」~ボクが“世界三大がっかり”から人気者になったワケ~

 

世の中には様々な「世界三大○○」が存在します。芸術、美女、都市、料理など、どれも良い意味として社会に流布しているものばかりです。でも、ボクの場合はちょっと違います。シンガポールに行ったことのある人だけでなく、行ったことのない人たちからも、こう呼ばれていました。

 

「世界三大がっかり」

 

有名な観光名所であるのにもかかわらず、その過剰な期待を裏切るとされる場所の代表例です。

仲間にはベルギーの小便小僧、デンマークの人魚姫の像がいます。

写真2.3-三大がっかりこれが「世界三大がっかり」だ!左:ボク 中:小便小僧 右:人魚姫の像

 

世界三大がっかりとして有名になると、本当にがっかりするのかどうか実際に見てみたいと思うものしょう。そんなボクを見るために世界中から観光客がシンガポールを訪れてくれました。現在は、地上200mの天空プールで有名になったマリーナ・ベイ・サンズと並んで写真に収められるようになりました。人気観光スポットの代表でもあるボクですが、昔の様子を知らない人も多いかと思います。

今回は、三大がっかりから脱却して、シンガポールの人気者になったサクセスストーリーをご紹介しましょう。

 

誰もが知っている半獣半魚の不思議シンボル

紹介が遅れました。ボクは“マーライオン”です。

体の上半身はライオン、下半身は魚です。元々は今のような像ではなく、1964年にシンガポールの観光局がシンボルマークとして作ったイラストでした。

古代から中世にかけてインド亜大陸東南アジアにおいて用いられていた言語であるサンスクリット語の「ライオン(Singa)」とフランス語の「海(Mar)」の造語が名前の由来です。11世紀にスマトラ島の王族が、この地でライオンのような動物を発見したとか、荒海の中ライオンが現れて国に導いたなど、様々な獅子伝説があるくらいにライオンと縁深いのです。因みに、国名のSingaporeは、サンスクリット語の“Singapura(獅子の都)”から由来しています。

シンガポールは、日本と同様に海に囲まれた島国です。ボクの目の前も貯水池なので水に囲まれています。しかし、この水が運命というか、ボクの人生を変えることになるのです。

 

口から水が出ない?トラブル続きの幕開け

今や観光名所となっているボクのいる場所は「マーライオンパーク」といいます。

しかし、これは移転後の話。実は、以前は別の場所にいたのです。

 

写真2-以前のマーライオン(伊能すみ子)1999年、筆者初訪問時。マーライオンの背後には観光客の姿もみられる。残念ながら水は出ていなかった。

 

1972年、シンガポール建国の父であるリー・クアンユー元首相の「我が国にランドマークを!」の号令によって、海を眺められる場所(現在の位置から数十mずれている)に設置されました。しかし、これが世界三大がっかりの始まりだったのです。

 

がっかり其の一

海を正面にしたことによって、観光客はボクの背中しか見ることができませんでした。

 

がっかり其の二

口から水を出す設定にしたのに、設備の欠陥によって、水がたまにしか出てこないのです。

 

がっかり其の三

ボクを遮るように、新しく陸橋が建築されてしまいました。

 

ボクの身長は、8.6m。当時は観光客の写真スポットからも離れていて、「ちっぽけな像」という印象しかなく、元気よく水を出すこともできなかったのです。背中越しからしか見られないボクを見兼ねて、背中合わせにして小マーライオンが写真撮影用に作られました。

 

写真3-小マーライオン(伊能すみ子)目がギラギラしていてちょっと不気味。清掃は行き届いていないが、運良く水は出ていた。

 

世界三大がっかりの救世主は“風水”にあり!?

さらに不運は続きます。1997年に起こった「アジア通貨危機」です。アジア各国が不況の闇に包まれました。もちろん、シンガポールも国の存続が危ぶまれるほどに負のスパイラルに巻き込まれました。そんな中、現れたのが一人の風水師です。

「マーライオンは“水”である。道路は走る車によって“火”となる。マーライオンの“水”をもっても太刀打ちできない。国の炎上を収めるには、マーライオンを陸橋の外側へ!」

諸説ありますが、ボクのいる位置と橋の関係が風水的に悪いということが分かり、2002年に“繁栄”を意味する東側の現在の場所へ小ライオンと共に移動したのでした。そのおかげなのか、アジア通貨危機から脱出したシンガポールは、アジアのハブになるまでに発展していったのです。

 

写真6-長田さんのマーライオン今や観光スポットの定番。気軽に撮影ができるよう通路ができ、顔の表情もはっきり見える。

 

新天地は快適で、ボクのすぐそばには観光客がたくさん。定期的に清掃も行われていて水の勢いも快調です。シンガポールを訪れたことのある人ならば、必ず寄りたくなるのがボクですよね。

 

写真7-長田さんのライトアップマーライオン夜にはライトアップもされて、昼間とは違った表情も人気。背景の金融街と共にベストショットを狙える。

 

2011年には、美術展の一環でボクの顔を囲んで高級ホテルにする企画もありました。ボクの顔を触ることもできたし、間近に見ながら宿泊ができたのですよ。これは斬新な企画でした。

実は、シンガポールにとって風水は重要な存在で、何をするにもまずは風水を確認することが大切です。建築するならどの場所にいつ着工するか。入り口をどの向きにするかなど、細部に至るまで風水に頼ります。他の観光スポットも風水と関係していることが多いので、その話はまたの機会にいたしましょう。

ボクは風水のおかげで世界三大がっかりから、みんなに愛される人気者になれました。

これからも世界中の人たちに愛され続けらるようにがんばります!