2014年6月末までマレーシアの大学に約10ヶ月交換留学をしておりました。私は日本の大学では英語専攻でしたが、趣味で始めたインドネシア語がきっかけで最終的にはマレーシアに留学への留学を決意しました。
マレーシアの公用語は「マレーシア語、英語、中国語、タミル語」です。そして人によって差はあれど実はマレーシア語はインドネシア語と60%~90%似ていると言われているのです。
例えば以下の例文、
Aku mau pergi ke perpestakaan tetapi, tidak ada buku yang mau membaca.
(私は図書館に行きたいが、読みたい本が無い。)
この文章、マレーシア語でもインドネシア語でもまったく同じ意味で通じます。
私はマレーシアへの渡航前、インドネシア語が通じるならおそらく大丈夫だろうと楽観的に考えておりました。
しかし実際は違う点が多く、今思えば事前に知っておけばよかったなと後悔も少々あります。今回は私の留学を通して学んだ一種の戦利品とも言える両言語の違い、そしてどうして似ているのかなど、みなさんにお伝えしたいと思います。
目次
なぜ似た言語と言われるのか?
マレーシア語とインドネシア語が似ているという背景は、大航海時代よりオランダの植民地下に苦しんだインドネシアの青年たちが1945年の独立よりもずっと前となる1928年に青年会議を開き「Satu Nusa, Satu Bangsa, Satu Bahasa(一つの祖国、一つの民族、一つの言語)」という思想を掲げていたことから始まります。
この中の「言語」というのが当時交易言語であったマレー語であり、一つの言語によって多くの民族を結束させる役割を期待されました。そしてインドネシアが独立した後、マレー語はインドネシア語として国語の機能をしっかりと果たし、現在2億5000万人の人口を抱えるインドネシア国民の生活を支えています。
1928年時のできごとを「青年の誓い」と言います。
近年ではマレーシア語と呼ばれている、マレー語ですが、もちろんマレー人の住むマレーシアの公用語なので、インドネシア語と似ていて当たり前ですよね。
また両言語はジャウィ文字というアラビア文字に似た文字を一昔は使っていましたが、現在は一般的にアルファベットを使用しています。
ジャウィ文字で書かれた文章。ブルネイではいまだによく見かけます。
Photo by hakim.org
起源は一緒。でも両言語の違いとは一体何なのか?
違いは探せば沢山ありますが、やはり両言語の基本的な違いは「単語の綴り」、「発音」、「言葉の選択の仕方」です。特に、インドネシア人はRの発音の時は強く/rr/とかなり巻きます。マレーシア語はRの発音は英語と同じでなめらかに発音します。
インドネシア人と英語で会話すると気づくと思いますが、彼らはVをFayと発音します。例えばマレーシア語でUiversityはUniversiti(ユニバーシティ)ですがインドネシア語は少々綴りが異なりUniversitasとなり発音は(ウニフェルシタス)となります。
始まり同じアルファベットを使用していても読み方が異なります。また綴りに関してさらに詳しく言いますと、近年は、日本もそうですが「自国の言葉より同義の英単語の方が優勢に扱われるケース」が多いです。
どういうことかと言いますと、
例:Computer Science
日本語 : コンピューターサイエンス
マレーシア語 : Sains Komputer (サインス コンプーター)
インドネシア語 : Ilum Komputer(イルム コンプタル)
Computerという単語は3言語とも自国の言葉に置き換えておりませんが、インドネシアのみScienceという単語を「科学」という意味の「Ilum」というインドネシア語に置き換えていることが分かります。
急速なIT技術の進歩とグローバル化によって、上記のようなIT関連の新出単語がさらに両国内に流入しつつありますが、インドネシアではこういった単語はインドネシア語と同義の単語に置き換え、「標準語(Bahasa Baku)」として普及させる傾向にあります。しかしマレーシアはその対応が遅く、また学生は英語の教材を読んで理解をする傾向にあるようです。
実際にインドネシア語をマレーシアで使ってみて気づいた違い
似ているようで若干の違いがある両言語ですが、インドネシア語のみ勉強してきた私がマレーシア語の知識無しで飛び込み、実際にマレーシアで生活してみた感想は、インドネシア語でもまったく問題なく生活できるということです。
ただ、「あなたはインドネシア語勉強したの?」と聞かれます。留学後半の目標を「マレーシア語の発音を模倣する」と設定した私は「それはインドネシア語だよ!」と言われ続けてきた単語に気をつけて生活し、最終的には「君はサラワク州(ボルネオ島にある一つの州)出身?」と、私にとっては感動の質問を受けるようになりました。まだまだ完璧とは程遠いですが、それまでに至る過程で知り得た違いを最後に例とともに紹介します!
①車
マレーシア語 車:Kereta(クレタ)
インドネシア語 車:Mobil(モビル)
※マレーシアでは車はKeretaであり、インドネシアではKeretaは基本的に電車もしくは汽車を意味します。個人的に両国を行き来するとどっちがどっちだか忘れてしまうことがしばしばあります。
②できる
マレーシア語 できる:Boleh(ボレ)
インドネシア語 できる:Bisa(ビサ)
※Bolehはインドネシア語では「~してもよい」という意味で、これを「~できる」という意味として使うのはインドネシア人にとってちょっと変に感じるかもしれません。ちなみにBisaは基本的にはマレーシアでは使わず、辞書では「毒」という意味として載っています。
③病院
マレーシア語 病院:Hospital(ホスピタル)
インドネシア語 病院:Rumah sakit(ルマ サキッ)
※Rumah Sakitとは直訳すると「病気の家 / 痛い家」という意味となります。マレーシア人にとってはかなり不気味に聞こえるようです。逆にインドネシア人にとってHospitalという単語は「英語のまんまじゃん!」と思っている方が多いようでした。
④事務所
マレーシア語 事務所:Pejabat(プジャバッ)
インドネシア語 事務所:Kantor(カントール)
※インドネシアは約300年間オランダの植民地だったため、オランダ語からの借用語が多いです。Kantorはその一つです。Pejabatはインドネシア語で「高官」を意味します。
⑤スプーン
マレーシア語 スプーン:Sudu(スドュ)
インドネシア語 スプーン:Sendok(センドッ)
※Sendokはジャワ語です。インドネシア語の中にはジャワ語が沢山含まれています。特にインドネシアの経済と政治の中心であるジャワ島ではジャワ語が日常的に使用されているのです。もちろんマレーシア語もジャワ語の影響を受けています。
さいごに
みなさん、いかかでしたか?どうして両言語は似ているのか、どこらへんが違うのか、そしてどうして違いが生まれたのか、なんとなくお分かりいただけましたか?
現代のインドネシアとマレーシアは古来より巨大な王国によって交易で栄え、その後植民地化の時代を乗り越えた地域です。借用語としては英語、オランダ語、ジャワ語に留まらず、サンスクリット語、アラビア語、ポルトガル語、広東語、福建語などの言語も当てはまるのです。
年月を重ねるに連れ、かなりの要素を取り入れ変化してきた両言語ですが、インドネシアとマレーシアだけではなく、ASEAN諸国ですとブルネイ、シンガポールそしてASEANのオブザーバーとして参加している東ティモールで通じます。ASEAN加盟国4カ国で通じるとあらば、将来的に両言語に何かしらの変化がまだまだ訪れるかもしれません!