「好きなことを自由にしてほしい。」チェンマイで1人働く山本あゆみさんから学ぶ素敵な海外での働き方

タイ北部、チェンマイで日本人ゲストハウス「スローハウス」のオーナーを務める山本あゆみさん。おおらかで心優しい雰囲気をまとう一面とは裏腹、世界一周を経験し、日本での就職を経て今はチェンマイでゲストハウスのオーナーをしているというアクティブな経歴をもっていらっしゃいます。日本人1人でスローハウスを切り盛りする山本さん。大変なことだらけと思いますが、大変さを感じさせません。いつも笑顔でゲストを迎え、居心地の良い空間を作り出す山本さんがチェンマイで1人働く姿を取材しました。

<プロフィール|山本あゆみ氏>

チェンマイにて日本人宿スローハウスの3代目オーナーを務める。飲食の専門学校を卒業後、世界一周を決意し、日本で6年働いた後に2012年より1年半ほど世界一周をする。帰国後、世界一周中に出会ったスローハウスの2代目オーナーに誘われて、2015年よりスローハウスでスタッフとして働きその約半年後からスローハウスオーナーに就任。

世界一周を経てゲストハウスのオーナーに

ー スローハウスとの出会いはどういったものでしたか?

初めてスローハウスと関わったのは、私が世界一周をしていた時なんです。4年前くらいの正月明けにお客さんとしてスローハウスを利用しました。でも、そのとき滞在したのは3日くらいで、まさかここで働くことになるとは思ってもいませんでした。

中南米から世界一周をスタートしてアジアは最後の時期でした。そろそろ日本に帰りたい思いもあったし、タイのあとのバリ島に行く飛行機もとってあったので、長居することもなく3日だけの滞在でした。ただ、ちょうど正月あけでお客さんが少ない時期でしたので当時のオーナーさんとゆっくりと宿の話や旅の話をすることができて、素敵だなと感じていました。

仲のいい友達のお家のようなスローハウス

―世界一周をされていたんですね!そもそも世界一周をすることになった経緯を教えてください。

2012年から1年半くらいかけて世界一周しました。もともと「将来、海外で働きたい!」とか海外志向だったわけではないんです。

飲食の専門学校の研修旅行で行ったヨーロッパが初めての海外経験でした。専門学校を卒業していざ就職を考えたときに、漠然と世界一周に興味が出てきたんです。それで、過去の旅人の経験談をインターネットや本で調べていたら、「意外といけるじゃん!」とわかりました。それまでは夢見心地だった世界一周が、金銭面でも期間面でも現実的なものとして考えられるようになって気が付いたら、世界一周をするための長期計画を立てていました。

就職も「自分のやりたいこと+世界一周の実現」という明確な目標のもと進めました。そうはいってもなかなか計画通りにはいかなくて、資金集めのために日本で3年間働く予定が、結局は6年間働いてやっと世界一周に踏み切ることができました。

世界一周中にペルーのマチュピチュに行かれた時の一枚

―世界一周のなかで、やはりチェンマイが一番よかったんですか?

チェンマイも好きな街ですが、一番よかったというわけではないんです

世界一周している人によっては居心地の良い国や地域を見つけて、そこでフリーアコモデーション(ホステルなどで働く代わりに無料で宿泊させてもらうこと)などをしながら長期間滞在する人もいます。私も世界一周中に次の国に行かず、ハンガリーのブダペストに長期滞在していました。そのために世界一周の後半はかなり駆け足の旅になったかなと思います。アジアは一周の終盤で、チェンマイに来たのは日本に帰国する少し前。観光もあまりせず3日間くらいしか滞在できませんでした。でもアジアは日本からも近いし、チェンマイもきっとまた近いうちに来るだろうなと思ってました

ただ、チェンマイがよかったというより「スローハウスがよかった、また来たい。」と思ったのは覚えています。スローハウスの人とそのゆったりとした雰囲気がすごく好きでした。

ー世界一周のあとすぐにチェンマイで働き始めたのですか?

いえ、帰国してから1年くらいは日本で働いていました。ある時、日本で仕事をやめることになったんです。その時に私が海外のゲストハウスで働くことに興味があることを知っていた当時のオーナーがスローハウスで働いてみないかと誘ってくれたんです。本当にご縁ですね。

それから少しの間はスタッフとしてスローハウスで働いていたんですが、そんな時に、当時のオーナーが日本に帰国することになって、「次のオーナーが見つからなければスローハウスはつぶすしかない。」と言われたんです。スローハウスのことは大好きだったので潰すというのは避けたかったけれど、元々はただのスタッフとして1年だけ働くためにチェンマイに来ていたので突然自分がオーナーになるなんて考えられませんでした。

不安の方が大きかったし決意も必要でした。でも、やっぱり潰したくはなかった。スタッフになってまだ短かったけれど、たくさんの人と出会えた場所だったので。それに元々ゲストハウスの経営には興味があったので自分自身にとっても貴重ないい経験になると思い3代目のオーナーになりました。完璧に成り行きだったんですよ。

タイで、ひとり、オーナーとして働く大変さ

ータイで一人働くとなると、大変なことも多いと思いますが、どんなことが大変でしたか?

タイの人と働くことの大変さを感じています。

スローハウスで一緒に働いてくれているタイ人のスタッフの子は、日本語が話せて、時間を守るとか報告や連絡をしっかりするといった「日本の感覚」を持っているので大変さは感じないのですが、外部のタイ人との仕事は大変。タイでゲストハウスを運営するとなると、当たり前に外部のいろいろなタイ人と仕事で関わることになります。私がかかわったタイ人の印象はよく言うとのんびりしていて、悪く言うと超適当!!!

例えば、スローハウス内の水回りや電気工事などを業者に依頼したとき基本的に約束の時間には来ないし、電話してみると「今日は忙しいから明日で」と言われることもしばしばありました。計画通り進むことはほぼなかったですね。さらに依頼した工事が直ってなかったとしてもきっちりお金はとっていくことも・・・。

もちろんタイ人全員が悪いというわけではありませんが、時間や約束に正確で仕事をきっちりこなす日本人の気質とは違うんだなと痛感しました。

最初は、この適当さに少し苛立っていました。でも、苛立ってもしょうがないんですよね。ここはタイなので。タイ人の良いも悪いも適当な人柄に触れているうちに、日本がきっちりとしすぎているんじゃないかなとも考えるようになりました。日本人のきっちりとした性格と仕事をきちんとこなす働き方は素晴らしい、誇るべき点だと思います。でもそれが日本で暮らす上で大変な部分でもあるのかなというような気もします。タイと日本を足して2で割るのがちょうどいいのかなとふと思うこともあります。

スローハウスのシェアスペース。世界地図やたくさんの本があり旅に出かけたくなる。

―日本でも少し働いてからタイに来たからこそ感じることかもしれないですね。日本で働くのと比べて大変にかんじますか?

大変なのは、日本だから、タイだからということではないですね。

日本だから、タイだからという違いというより、立場が違うために大変さは感じています。日本では企業に入って働いて、お金をもらう立場でしたが、今はオーナーという立場なので利益を生み出すことを考えなければいけません。もしこれがゲストハウスのスタッフならただ楽しいだけだったのですが、オーナーとして毎月の支払いなどのお金の管理はもちろん、どうすればもっとお客さんに居心地よく過ごしてもらえるか、スタッフに気持ちよく働いてもらえるか、などすべてを考えることは本当に難しいですね

だからこそ、いっぱいいっぱいになってしまいそうになることももちろんあります。そういうときは、1人の時間をとったり、意識して手を抜くようにしてますよ。

オーナーがいつも忙しそうでいっぱいいっぱいでイライラしていたら、お客さんから見て嫌じゃないですか。だからこそ、あえて自分で手を抜くことを意識しています。お客さんが気兼ねなくくつろげるように、ゆったりした空間でいられるように。全部を一人で完璧にこなすなんて無理なので、スタッフやお客さんみんなに助けてもらいながらやってます。タイの人のいい意味での適当さも時には必要なのかもしれません。

ーなるほど。そうやって適度に手を抜くのって難しいですよね。お客さんがくつろげるようにとおっしゃっていましたが、どのようなことを大切にしていらっしゃいますか?

常に居心地の良さを意識しています。チェンマイの街がのんびりとした雰囲気なので、スローハウスに来てくれた方にゆったりとした気持ちで過ごしてもらいたいんです。一人の時間を大事にしてもらってもいいし、みんなでわいわいしゃべってもいい。色んな人との共同生活になるのでルールやマナーはもちろんありますが、スローハウスではそれぞれ思い思いにのんびりくつろいでほしいですね。

とはいえ、お客さん同士が仲良くなって一緒に出掛けたり、日本に帰ってからもずっと繋がっていたり、そういう素敵な出会いもたくさんあればいいなと思っています。

これまでのゲストが思い思いに書いた一言が残っている

海外だからって肩ひじはらずに「自分のすきなこと」をやってみること

ー最後にメッセージをお願いします。

世界一周にしろ、海外で働くことにしろ、思ってるよりもたくさんの人がやっていて、意外とハードルは低いのかなって思います。だから、海外に長く住むのも海外で働くのも案外選択肢としてありですよって伝えたいです。

特にチェンマイは1か月から保証人なしでコンドミニアムが借りれたり、ノマドワーカーがたくさんいたり、環境が住みやすいように思います。「ちょっと住んでみようかな」がやりやすい場所かなと思います。もちろん海外で働くのは、自分でなんでもやらなきゃいけないし、大変なことの方が多いかもしれません。でも、あまり身構えずに、自分の好きなことをやってみること、挑戦してみることがいいんじゃないかなと思います。

ぜひ、チェンマイにくるときはスローハウスにも立ち寄ってみてくださいね。

編集後記

私自身、スローハウスに宿泊してみて「また帰ってきたいな」って思うくらい、居心地がよかったです。それは、笑顔が柔らかく素敵なオーナーのあゆみさんの作り出す空間によるものかなと思います。タイ人のいい意味での適当さ、自分の好きなことをやってみること、日本にいるとついつい忘れてしまいがちなことをチェンマイで、スローハウスで気づかせてもらえたような気がします。