【社会起業家特集】これからの社会を担う若者が自分らしい生き方を選択できる社会を創る alternative project代表,徳住佳子氏

2017.03.21

社会起業家 from Indoensia 特集第10弾です!いよいよこの特集、最後の記事となりました。

この特集は若者に視野を広げる機会を提供しているalternative:project日本財団学生ボランティアセンター(Gakuvo)と提携して発信してきました。

特集の最後として、若者にインドネシアの多様性や社会起業家に触れる機会を提供するalternative:projectを設立した社会起業家である徳住佳子氏にお話を伺いました。

 

≪プロフィール|徳住 佳子(とくずみ よしこ)氏≫
インドネシア在住。成蹊大学法学部卒業。学生時代はワークキャンプやNGO活動にいそしむ。
新卒でインドネシアに行き、日系企業で出版部、海外引越部を経験。その後、「次世代をつくる若者に、色々な世界を見てほしい。多国籍な仲間と共に、地球規模の社会問題を目の当たりしに、多様な価値観を学ぶプロセスのなかで自分らしい貢献の方法をみつけてほしい」という想いから alternative:project を設立。
ミッションは持続可能な社会・社会起業家が増える社会・多様な考え方、生き方が尊重される社会の実現。ミッションの実現に向け、インドネシアで共同体験型のリーダーシッププログラムを企画、運営し、国内外の次世代リーダーを育成している。

新卒でインドネシアへ

ジョグジャカルタにあるチョデ川にて

-現在の事業内容を教えてください。

日本人とインドネシア人の共同生活型のリーダーシッププログラムをインドネシアでつくっています。これからの世界をつくっていくのは、感受性の高い20歳前後の若い人たち。

普段の生活ではあまり見られない多様な価値観・生き方と、貧困問題や環境問題といったグローバルな社会問題を自分の肌で感じてもらいたいんです。その中で彼らが日本の、インドネシアの、ASEANの、さらには世界のリーダーとして社会をよくする視点を身につけてほしいと思います。

 

-具体的にどのようなプログラムを提供しているのでしょうか?

Alternative Leadership Programという18歳以上の日本在住の若者とインドネシアに住むインドネシア人の若者を対象にした、2週間の共同生活型プログラムです。

文化・教育コースと社会起業家コースの2種類にわけて、ジョグジャカルタとジャカルタで企画・運営しています。どちらも、宗教がそれぞれの国の暮らしにどう関わっているかを理解する宗教ワークショップや、アート、ホームステイの体験をしてもらいます。

さらに、文化・教育コースでは、主に貧困地域で子どもたち向けのワークショップを学生がゼロから企画する経験、社会起業家コースでは現地の問題をビジネス的手法を用いて解決している社会起業家にインタビューをする経験をしてもらいます。

※プログラム詳細:文化・教育コースはこちら/社会起業家コースはこちら

「参加者企画の環境教育ワークショップを実施中」 2017/02/27~03/13

「社会的企業への取材結果をプレゼン」 2017/02/05~02/19

-なぜインドネシアに新卒で飛び込んだんですか?

インドネシアの民間企業で経験を積むためです。「若い人たちのマインドセットを変えるきっかけになるようなプログラムを提供する、そして場所はインドネシア」というのは、学生時代から決めていました。

また、2ヶ月間ケニアでボランティアをしていた時の現地の光景が私の心を動かしかしました。アジアよりも深刻度が高い貧困を目の当たりにした時に思ったんです。「NGOの活動って、直接NGOがやっているサービスの対象になっている人には役立つけど、問題を客観的に見たら焼け石に水状態だ」ということを。

問題が起こっているスピードよりも問題を修復するスピードの方が遅いから、マクロ的には問題が解決しない。貧困のサイクルを打ち切るんだったら、国連とかNGOとかだけじゃなくて、企業が生み出すお金の流れを変えたほうがいいと思ったんです。

それで、より大きなお金を動かしている企業が、もっと環境や人権を考えたサステイナブルなビジネスのやり方をする必要があると思いました。

企業が変わるんだったら、企業にいる人が変わらないといけないと思ったから、その人々のマインドセットを変えなきゃいけない。でも私は企業の人のマインドセットをわかっていないし、世の中の企業がどうやってお金を生み出しているのかもわかっていない。

それを知るために、民間企業で働いて勉強したほうがいいと思ったんです。そう思っている頃にちょうど大学の先生がジャカルタのある日系企業が編集部のライターを募集していることを教えてくださって。インドネシアで暮らす経験、企業で働く経験、色んな人に会える経験っていう条件がそろっていたので、インドネシアで働くことを決めました。

 

-そうは言うものの、日本で就職しないことに不安はありませんでしたか?

ありましたよ。日本って新卒で就職すると有利なこと多いですよね。新卒だからこそ、色んな研修をやってくれたり。今は徐々に変わってきたと思うけど、当時は新卒逃したら、次はスキルを持っていないと就職するのが難しいイメージでした。

だから、自分はこのチャンスを逃していいんだろうかとか思ったんだけど、海外で働きたいって想いがすごく強くて。

あと、小学生の頃から海外で働くものだと思っていたので、日本で働くことがイメージできませんでした。今の日本企業でも、海外に駐在として行くチャンスは3年から5年は待たないといけない企業が多いと思いますが、私の性格的にそれは待てなかったんです。

 

働く時間も場所も自由に選ぶ

プログラム後、インドネシア人スタッフとともに働く楽しさを感じている瞬間

-インドネシアの日系企業ではどのような経験をされていたのですか?

出版部では、インドネシア在住日本人向けの雑誌の取材や編集をする仕事と、海外引越サービス部で主に日本人駐在員向けの営業とカスタマーサービスを経験しました。全てではないけど、お金の回り方が少し見えたのと、サービス業がどうやってお金を生んでいるか、その仕組みを学ぶことができました。

文字にしたら当たり前ですが人々はかかっているコストに対してお金を払うのと同時に、生み出される価値に対して、また安心・安全に対して、お金を払っているということを働いたことで実感できました。

それと、とてもよかったのは、考え方も習慣も一般的日本人とは全然違うインドネシア人と働くことで、多様なバックグラウンドの人たちと仕事をするベースができました。

また、日本のようにシステムが整ってない環境ないし、ハプニングだらけな環境なので、フレキシブルに対応する能力が上がったと思います。2年間を経て、そろそろ国際協力というか、次世代教育の世界に戻りたいと思い、退社しました。

 

-その後、すぐに起業されたのですか?

いえ。日系企業を退社した後、日本に帰りました。

社会問題への取り組みを絡めたリーダーシッププログラムをやるにあたって、自分も何か専門を持つために大学院にいくか、もっと経験をつけるためにNGOで少し働こうとしました。

でも、「結果的にこれ!」といった研究テーマ、またNGOの仕事がみつからなかったので、アフターファイブは自分の時間を使えるような環境を探して、派遣社員として一般企業で働きながら、alternative project (以下AP) の構想を練ることを決めました。

5ヶ月過ぎた頃、どのようなビジネスモデルでAPを経営するのかが見えなかったんです。足踏みしている自分にイライラしていました。

その後、プログラムの活動内容を具体的に練るために、インドネシアに1か月間だけ戻って、プロジェクトのパートナーを探しにいきました。訪れた都市はスラバヤとジョグジャカルタ、ジャカルタ、スマラン。NGO、フリースクールを経営する方に出会いました。

その方々に私のやりたい活動とかビジョンを伝えてたところ、いくつかコラボできそうな人を見つけたんです。ジョグジャカルタのプログラムのパートナーもそこで出会いました。それからは、プログラムの構想が具体的になり前に進むことができました。

 

-そもそも、なぜ起業という選択をしたのでしょうか?

学生時代、約10のワークキャンプなどの活動に参加する中で、「もっとこうしたい、こうしたらもっと学びが多くなる」と感じることがあり、自分でつくりたいと思うようになりました。

自分の中で生まれる「これ絶対いい!絶対オモシロイ!」というアイデアを思う存分自由に組み合わせて、独自のプログラムを作りたかったし、いいプログラムにする自信があった。あと、何もない状態から創り上げるプロセスが好きで、トライアンドエラーの繰り返しが今も面白いです。

それと、働く時間や、働く都市も、自由に選びたかったんです。

 

-働く上で大切にしていることはありますか?

自分も楽しくいる」ということです。

ビジネスの規模を大きくするということだけにはこだわっていません。現場でプログラムのクオリティを確かなものにし、参加者と深く関わることもとても大切にしています。私自身、2週間参加者と一緒に生活し、ファシリテートし、彼らの成長や変化を感じるのが一番醍醐味を感じる瞬間です。

色々な困難やクレイジーな体験を共有し、深くつながる仲間が毎回増えていく。私にとって仕事で好きなことをやるのは、とても大事なことです。仕事で思いっきり心揺さぶられる瞬間がたくさんあることに幸せを感じます。

一度きりの人生、やりたいと思うことは全部挑戦して楽しみたい。仕事と生活の両方から常に好奇心を刺激される環境に身を置きたい。

自分もAPの参加者が味わうワクワクする気持ちを日常で感じながら生きています。プログラムをやるとき以外はノマド生活。ジャカルタとかバリとかで自由に仕事しながら暮らしています。

 

自分らしく活き活きと生きる

タイにてインタビュー

-今後のビジョンについて教えてください。

対象を広げたいと思っています。

今は、基本的には大学生を対象にしているけど、高校生や企業社員も対象にしたい。また、引きこもりの人のように精神的に生きづらい人を対象にしたのプログラムも考えています。「色んな生き方があるとか、違ってもいいんだ」っていう、自分開放プロジェクト。

インドネシアのハチャメチャな空間だからこそ効果があると思うんだけど、そういう人たちにどうやって参加してもらえるかが課題。金銭的な問題かもしれないから、どこか投資してもらえるところを見つけていきたいです。

あとは、社会的企業でのインターンシッププログラムも企画しています。美術大学生とか日本人の若いデザイナーが例えばインドネシアのDu’Anyam ( Du’Anyam の記事はこちら) のような芸術センスが活かせる社会的企業でインターンシップする。

日本人は、社会的企業や多様な価値観を学んで、インスピレーションを受けるし、社会的企業も人不足を解消したり、日本人のセンスから何か新たな気づきを得られたりするかもしれない。

 

-どの国の問題に取り組むか悩む人学生も多いと思います。そういった学生に何かフィールドを選ぶアドバイスはありますか。

その国で出会った人とか、文化が自分に合っているかを大切にすることが一番だと思います。

私の場合、初めてインドネシアにワークキャンプで出会った人が一番大きいですね。2人のインドネシア人参加者と親友または兄弟と思えるくらい仲良くなったんです。

そうなるとインドネシアに対する心理的距離はグッと近くなります。フィリピンとかタイとか色んな国に行ったけど、その中でもインドネシア人のオープンさとフレンドリーさと自由な性格が私にあってて。あとは、文化とか民族とか宗教とかが地域によって全然違うのも魅力的でした。

多様性があってポテンシャルのすごく大きい国だと思いました。ムスリムの多い国だけど、中東ほど厳しくない。

もし、プログラムを自分で創るときに、イスラムに対してイメージが湧かない人とか、ネガティブなイメージを持っている人がイスラムの国を知るにはすごく最適な国。そういう様々な条件がそろっていたのでインドネシアを選びました。

 

-最後に将来を担う若者へメッセージをお願いします。

世の中には色んな問題があって問題の根が深すぎてどこから、手をつけていいのかわからないときがあります。自分のやっている活動なんか無意味なんじゃないかと考えて落ち込むこともあると思います。

でも、1人1人がそれぞれ「好き」や「強み」を活かして人や社会にできることをすればいい。自分らしく、社会に役に立つ方法、かつ自分がハッピーでいられる方法をみんな見つけられたら、人生楽しいし、社会にもいいと思います。

やりたいことがあるなら、踏み出して、損することはありません。日本という安全で社会保障も比較的恵まれた国に生まれたのは本当にラッキーなことです。自分らしく生きる道を見つけて一緒に社会をよくしていきましょう。

 

取材後記

徳住さんは、活動するフィールドを選ぶ上で大切なのは、人との出会いやその国が自分に合っているか確かめることだとおっしゃっていました。

自分もインドネシアで将来仕事をしたいと思ったきっかけも、インドネシアで出会った人々でした。

将来、社会起業家と一緒になって仕事をし、徳住さんのように多くの人に気づきを与えられるような人間になりたいと思います。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

井上良太

中央大学商学部経営学科卒業。大学2年の夏にカンボジアに訪れたことがきっかけでASEANや教育、国際協力に興味を抱くようになる。 3、4年次のゼミでは社会問題を事業で解決している社会的企業を専攻し、インドネシアの社会的企業とのネットワークを広げていた。 現在は株式会社パソナの社員として雇用を通じた社会貢献の方法を勉強中。 将来は国内外で社会的企業のプラットフォーム作りに関わりたいと考えている。