2015.01.27
6年前からサイバーエージェント・ベンチャーズのベトナム代表として、立ち上げ時から奮闘してきたズン氏。まだまだスタートアップへの投資という概念が浸透していない時から地道な営業活動を経て、今のサイバーエージェント・ベンチャーズ・ベトナムを作り上げた。「これからが楽しみだ。」と話しす同氏に、投資したい起業家の特性やベトナムにおけるベンチャー投資のこと、そしてベトナム人から見て日本人はどう見えるかなど、取材した。
《プロフィール|Nguyen Manh Dung グェン マン ズン氏》
ハノイ貿易大学国際経済学科、及び法政大学経済大学院経済学研究科卒。日系メーカー企業での貿易業務、ベトナム最大手ソフトウェア企業での日本市場開拓等の複数プロジェクトを経て日本に留学し、金融及び経済の研究に従事。2009年4月、サイバーエージェント・ベンチャーズに入社。ベトナムオフィスの代表として、ベトナム最大のモバイルゲームプラットフォームTeamobiやSEM代理店最大手のCleverAds、ベトナム最大のグルメサイトFoody設立投資など、数々のベトナムの有望なベンチャー企業への投資を手掛けている。2013年以降のタイ市場進出もリードし、タイ最大の価格比較サイトPricezaへの出資を実施・現在はベトナム・タイ拠点を管轄している。
*これより、サイバーエージェント・ベンチャーズはCAVと表記します。
「社会を良くしたい」という大きな夢をサポートしたい。
—現在はCAVのベトナムオフィスの代表であるズンさんですが、これまでの経歴を教えてください。
大学で、第二外国語として日本語か中国語を選ぶ必要がありました。それまでは、特別日本とは関わりはありませんでしたが、”Made in Japan”などの良いイメージは子どもの頃から持っていたので、第二外国語として日本語を選んだのです。
卒業後は、ハノイにある工業関連の日系企業に就職して2年ほど働きました。その後、ホーチミンのIT企業に転職し、ベトナムのエンジニアとクライアントである日本の企業のパイプ役を担当していて、数ヶ月大阪に常駐していたことがあります。
そこでは関西弁がわからず苦労をしたんですよ。(笑)中途半端な日本語ではいけないなと思い、日本の大学院に留学することにしました。大学院に通いながら、現在のCAVでアルバイトをするようになって。
卒業後は、そのまま入社を決めました。
—なるほど。現在CAVで行っている事業を教えてください。
ベンチャーキャピタル事業を行っています。夢を持つ若い人を中心に、その夢を叶えるための事業を作りたい起業家をサポートしていますね。
ベンチャー企業は早い成長を求めているのですが、起業家ががんばっても簡単にできることではありません。だから、事業を伸ばすためにパートナーとマッチングさせたり、投資家のネットワークを駆使したりして一緒になって戦っています。
CAVの強みは、グローバルネットワークを持ちアジア市場を把握しているので、起業家に対して短期・中長期戦略のアドバイスをすることが出来ます。
だから、投資・事業プラン・プロダクト・マーケティング・人材・戦略・資金調達など、できる協力はなんでもやっていますね。
—いろんな起業家と面談を重ねてきたと思いますが、どのような起業家に出資をしたいと思いますか?
ベンチャーキャピタルのビジョンの一つとしては「世界を変えるサービスプロダクトを作る会社に出資をする」という考え方があるので、大きなビジョンを持つ経営者を支援したいです。
つまり人のため社会のためを1番に考えていて、根本的ニーズを解消しようと起業した人ですね。ニッチな市場ではなく、スケールを目指すビジネスにフォーカスをしています。
反対に、単に利益だけを狙っている経営者はあまりサポートしたくありません。人生と同じように、ビジネスはいつも順調にいくわけではないので、目先の利益ばかり求める人にはふさわしくないと考えるからです。
大きなビジョンを持って社会発展のためを思っている起業家であれば、どんな苦労があっても乗り越えようとする姿勢が最初からあるはず。だから、ビジョンの大きさを重視しています。
—今までサポートしてきた中で、印象に残っているサービスどんなものでしたか?
Foody(ベトナム版食べログのようなもの)は、今ではベトナム最大手のレストランの口コミ検索サイトになっていますね。90%のマーケットシェアがあって、2番手とは10倍ほどの規模です。
(Foodyのホームページ)
Foodyが良かった点は2つあります
1つは、ユーザーの根本的なニーズを見出して、ユーザーの行動を変えたサービスになったことですね。
例えば、1つのお店にばかり行く人は、新しいお店にチャレンジをしない傾向がありますよね。
口コミサイトの存在によって、新たなお店にチャレンジすることができるようになります。
お店側としても、客観的なコメントがあることによって新規のお客さんの獲得にも繋がるし、コメント参考にしてお客さんが求めるサービスを提供することもできますよね。
例えば、「もっとお客さんとコミュニケーションを取ったら新規のお客さんがリピートしてくれるんじゃないか?」というように。
このサイトがあることによって、お店・ユーザーの双方にとって良いことですし、社会としてもどんどん良いお店が出やすくなる。そういった意味で、人の行動を変えた誇れるサービスだと思います。
2つめは、途中で諦めずにやりきることができたら、成功できるという証明をしたことです。もっと便利にできる、もっとユーザーのためになる、という想いでやりきった結果、大きなインパクトを生み出せましたね。
苦節6年、立ち上げの苦労話。
—立ち上げから6年以上ベトナムで奮闘されているズンさんですが、今までの苦労話をお聞きしたいです。
苦労はたくさんありましたよ。
最初来た時ぶつかった壁は、サイバーエージェントのことを誰も知らないので、起業家からの信頼は低かったし、どんなことを助けてくれるのか、ということもわかってもらえていませんでした。
そもそも、スタートアップへのベンチャー投資という概念が普及していなかったので、「なんでいきなりお金出してくれるの?」「なにか裏があるんじゃないの?」というように思われていて。立ち上げに苦労しましたね。
—そこから、どのようにして現在のブランドを確立したのでしょうか?
一社一社ずつ面談のアポを取ったり、メールをしまくったりして数百社に直接会いに行きました。今では千社を越えていると思いますね。
それだけではなく、IT関係者が集うイベントを開き、メディアを集めて発言しました。ベンチャー投資やベトナムのIT産業はどうなっていくのか、などについてです。
投資対象を見つけるのですが、株式や法律に対する知識を持っている人があまりにも少なく、それを理解してもらえるように説明をしていました。とても時間がかかって苦労していましたね。
—ベンチャーキャピタルに対する認知度が低かったんですね。
ベトナムの投資に関する特徴があって、投資家の年齢が若すぎると起業家が耳を傾けてくれないんですよね。
理由は2つあって1つは説得力に欠けるから。ベンチャーキャピタルが起業家と一緒に事業を作っていきますし、独り立ちするまでに2~3年かかるので、事業経験がないと説得力に欠けてしまいます。
もう1つは、事業を拡大させていく時のファイナンスが難しいんですよ。他の市場の場合はエコシステムが存在しているので、良い会社であれば次のラウンドで投資家からのアプローチが来るのですが、ベトナム市場の場合は積極的に営業をかける必要があります。
しかも、投資はゴールではなく、エグジットを考えないといけないので、そこでも営業が必要です。ベトナムではIT企業の上場はあまりなく、起業家にはファイナンスの経験がないので、難しい。
しかし、現在では市場も変化しています。ベトナムのスタートアップコミュニティは活発になってきて、アーリーステージの投資家の数も増えて海外の投資家もどんどん来ているので、状況は良くなっていると感じますね。
CAVはベンチャーキャピタルとして積極的に投資をしているし、今では案件がバンバン来ています。エグジットも何社かできていますし、大型の資金調達もあるので、今まで戦ってきた大変さを乗り越えた感覚ですね。
ー立ち上げから6年以上かけて信頼を勝ち得てきたんですね。
はい、だからこれからが楽しみです。もちろんまだまだ頑張らないといけないですが。
これまでは構築フェーズ、そしてこれからは収穫・事業拡大フェーズに入っていきます。
日本人の強みは「やり切ること」。では、弱みは?
—ズンさんのビジョンをお聞きしたいです。どんな未来を作りたいと思っていますか。
私は、何もなかった時代からがんばって、自分の人生も変えました。
人は、貧乏に生まれても頑張ればなんとかチャンスがある、自分の人生を変えたければ変えられる。
そんなことを確信するようになりました。
私は「お金のため」じゃなくて「社会のため・人のため」にやりたいという起業家の想いの後押しをしていきたいです。
良い会社を作ることができれば起業家の人生を変えられるし、それだけじゃなくて従業員やご家族のためにもなります。だから、できるだけ多くの起業家、それも社会に大きなインパクトを与えられる会社を作る起業家をサポートしていきたいのです。
—ちなみに、ベトナム人であるズンさんからして、日本人はどのように映りますか?
昔、日系企業に勤めていました。伝統的な製造業の会社です。
伝統的な日系企業は、あまりにも動きが遅い。年功序列があるし、保守的な企業が多いですね。
私は、アメリカ・韓国・シンガポールの会社もやっているんですけど、彼らはもっとアグレッシブですよ。日本人はそういう姿勢を変えていかないと、これからの競争は大変じゃないかなと感じています。
私は日本人も料理・文化も好きですし、日本に対してネガティブなイメージはほとんどありません。でも、日本人の保守的な部分はあまり好きじゃない。もっとアグレッシブにならないと。それを変えるべきだと思っています。
—なるほど、保守的では世界で戦ってはいけないということですね。それでは最後に、ASEANで事業を行っていきたいと思う起業家や、アグレッシブな若者に向けてメッセージをお願いします!
人材会社とか、何もない状態からゼロからでも頑張れば作れますし、ベトナムはチャンスが非常にある国なので、しっかりやれば成功確率は非常に高いんですよ。けれど、中途半端にやっている人が多いなと感じますね。
その点、日本人の強みはやり切れる部分だと思っています。特にサービスの品質を高めることは徹底的にやっている。
頑張ることができれば、成功は時間の問題だけ。もちろん、ちゃんとベトナムにローカライズしないといけないですけど、強みを活かして維持することができれば、ベトナムで成功できる会社は増えていくと思っています。
CAVも、今はまだ大成功じゃないですけど、しっかりやってきたのでなんとか軌道に乗せることはできています。
やり切れるということを強みにして、保守的な部分は捨てて、もっとアグレッシブに!がんばってほしいと思います。
【編集後記】
アセナビでは、日本の方にお話しを伺うことが多いけれど、今回は違った視点から「ASEANで働く」ということをお届けしました。主に、ASEANでの起業を目指す方に何かを感じてもらえたらなあと思います。
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