マレーシアをきっかけに、世界中の人々が国境を越えてともに働く世界をつくる Jobbatical代表Karoli Hindriks(カロリ・ヒンドリックス)氏

2017.05.03

2017年3月29・30日に開催された、テック系スタートアップの祭典“Slush Tokyo 2017”(イベントレポート)。そこで出会ったスタートアップ界の豪傑5名へのインタビューを掲載するのが、本連載「アジアで活躍する欧米人の頭の中」です!

第2回は、世界40ヶ国以上のスタートアップでのテック系の仕事が見つかる“Jobbatical(ジョブバティカル)”代表のカロリ・ヒンドリックス氏。Jobbaticalは世界中の優秀な人材に最短1年間の世界各地での移住経験と、現地のスタートアップで仕事をする機会を提供している。遠隔ではなく、実際に現地で暮らしながら働く点が特徴だ。

エストニアは小さな国であるため、海外に目を向けざるをえなかったと語る彼女の目に、日本や東南アジアはどう映っているのだろうか?また、彼女が描く労働の理想像とは。

《プロフィールカロリ・ヒンドリックス氏》
1983年生まれ、エストニア出身。国内最年少の16歳で最初の起業を果たし、23歳でエストニアMTVのCEOに就任。2007年には「ヨーロッパを代表する若手起業家20」の1人に選出され、北ヨーロッパで7つのテレビチャンネル立ち上げに成功。シンギュラリティ大学を経て、2014年には「世界中の人々が国境を越え、ともに働く」をミッションに掲げる人材プラットフォーム“Jobbatical”を創業。最短1年間外国に移住する新しい働き方を提案している。

"What Is Jobbatical?"

海外で働く上で重宝されるスキルはプログラミング、次にマーケティング

ー カロリさんは普段日本に来られないということで、まずは日本人について質問させてください。日本人が海外のスタートアップで仕事をするためには、どんなスキルやマインドが必要でしょうか?

ある程度の英語を話せることは前提として必須。ラテンアメリカやヨーロッパ、さらに東南アジアだろうと、職場環境をマネジメントできるくらいの英語力はないといけないですよね。その上で、1番大事なスキルはプログラミング。どの国でも開発者の数は足りていないから、プログラミングはいい仕事を見つける際に重宝します。マーケティングスキルはプログラミングより比重は下がるけど、重要ですね。特定のマーケティング力が高い人材も多くの国で不足しているので。

日本人が海外で働こうとする場合は、テック系のスキルは持っていなくても、日本市場に対する理解はあることがスキルとなり得るでしょう。多くの企業が日本市場に進出しようとしているから、最近は色々な方法で海外で働くことができるようになってきてるんですよね。

 

ー やはり、一番必要とされるのはエンジニアなのですね。

世界中でJAVAやPHPの開発者もしくはUXデザイナーなどは求められていますからね。

Jobbaticalで応募している職種も、日本語話者のマーケターや営業はほとんどありません。プログラミングが一番重要なんです。

 

マレーシアが働きやすい!日本はもっとオープンになれるか

Jobbaticalが提供するサービスを"dating before marriage"と表現し、「ちょっと違う国で働いてみる」ことの意義を説く。

ー では次に、カロリさんが自身の個人的な意見を聞かせてください。東南アジアのスタートアップで働くとしたら、どの国が一番いいですか?

マレーシアですね。入国がとてもたやすく、何より英語を話す人々が至るところにいることが素晴らしいので、他国は見習うべきだと思います。さらに、マレーシアでは多くのマーケターやテクノロジー企業が成長しており、アジアなのに英語を使ってマネジメントをすることができる。だから他国の人材が働く上で、アジアの中でマレーシアは最高の地だと考えています。

以前私はマレーシアで8日間の休暇を過ごし、やることがなくなってしまったことがあったのですが、その時の経験が元になって、長期休暇とテック系の仕事を組み合わせたJobbaticalを創業したんです。

シンガポールもアジアの中で働きやすさは上位5ヶ国に入りますが、市場がマレーシアよりも小さいんですよね。ちなみに、世界的にみると、ドイツの働きやすさが一番です。

一方で、日本人はかなりのハードワークをしていながら、昨年は日本で人材不足と感じている企業が86%にまで上ったと聞いています。それは世界でも最高水準の数値です。このことは海外からの人材招致のいいきっかけになるはずなのですが、日本の環境がそれを許すのかが疑問です。これからの日本は英語話者をどれだけ受け入れられるかが争点になります。日本は50年後に人口が3,000万人以上減っていると予想されることもあり、日本への入国はもっと簡単になるべきなんです。他国と比べて巨大な経済圏である日本が、この現状にどう適応していくかがとても楽しみですね。

 

ー それでは、Jobbaticalの今後について聞かせてください。Jobbaticalは30ヶ国でビジネスを展開していますが、次に着目しているマーケットはどこですか?

実は日本なんです。規模の観点でいうと、日本は世界でも超優良市場だと思います。課題は人とビジネス環境のオープンさでしょうか。他国と比べると分かりやすいのですが、マレーシア・シンガポール・エストニア・イタリアなどの入国手続きは簡単で早く、コスタリカまで簡略化を検討しているなど、色んな国がどんどんオープンになっているんですよ!一方で、日本に外国人が入国するには、国によっては煩雑な手続きが必要なんです。

人の移動が国境を越えてスムーズになると、人々は自分にとってよりよい場所にたどり着くことができるようになるんです。今までは日本には日本人しかいなくてドイツにはドイツ人しかいないと思い込んでしまっていたから、人々はどの国が成功しただの、どの国が成功していないだのと決めつけたがっていましたが、そんなものは10年や15年で激しく変動するんです。今は人々が国境を越え、それぞれの場所で経済の発展に寄与している。最高の時代だと思いませんか!

 

ー Jobbaticalには、日本の問題を解決するポテンシャルがあるのではないですか?

私たちのサービスが価値を提供する対象が“人”であることを考えると、日本のビジネス環境のオープンさの解決は難しいと思っています。ボーダーレスな働き方は会社の許可なくてはありえませんし、そもそもその会社は国の方針に従っているものです。果たして、日本の会社は日本語を話さない仲間を迎える準備はできているのでしょうか?日本には大きな機会がある一方で、もっと市場からのサポートもあった方がいいんです。さらに、人材側にも問題はあります。例えば、スペインやドイツに行く時などは多くの人が現地語を学ぼうとするはずなのですが、なぜか日本に来るときは多くの人が日本語を話したがらない。日本市場のニーズを満たすためには、この人材側のマインドセットも変える必要があり、人材側と市場側の相互の歩み寄りが必要ですね。

 

ー だからカロリさんも今回日本にいらしたんですね。日本は難しいマーケットだということですが、Jobbaticalを普及させる上で他に参入しにくい市場はありますか?

アメリカですよ!私たちはもうアメリカ国内の会社とはビジネスができなくなってしまいました。アメリカは人材の宝庫なので、アメリカから他国への求職者との関係は変わらず継続していますが、外国人材の就職としてのアメリカ入国は政府が望んでいないため、とても厳しくなってしまいました。トランプが大統領になってから、Jobbaticalは大変ですよ(笑)。

人がパスポートで判断されない、国境なき開かれた世界をつくる

ー では最後に聞きたいことがあります。カロリさんのお仕事の中枢にある概念は「ダイバーシティ」だと思うのですが、異なる文化背景の人々と一緒に働く上で気をつけていることを教えてください!

よくぞ聞いてくれました(笑)。私は普段、インド人スタッフや香港人エンジニアなど、11ヶ国から来た24人のチームで仕事をしているのですが、いつも大切にしていることは、人を信じることです。例えば、インターネットの世界を考えてみてください。他国にいる人にSkypeをかけるときにパスポートなんて必要ないですよね。しかし、なぜかこの身体世界では、ドイツ人には入国許可が降りて、パキスタン人は追い返されるということが起きている。偶然生まれ落ちたその国によって判断されるなんて、馬鹿げてます。

私は2年前にJobbaticalを創業してから、国境を越えた1人1人のサクセスストーリーを見てきました。彼らは、国境をまたいで人生を変え、さらに彼らの周りの人たちの人生も変えていった。こんなにわくわくすることは他にあるでしょうか。この1人1人の行動が少しずつ、偏見のない開かれた世界をつくっていくんです。

私たちは今テクノロジーとマーケティングに注力して、金銭の発生するビジネスをしています。しかし私たちが本当にやりたいことは、国境なき世界を築くためのビジネスなんです。誰もが場所を問わずにキャリアを築くことができ、どんな会社でも世界中から選んだベストな人材を採用できる世界にしていくつもりです。

ー 国境なき世界は、自分の理想でもありとても刺激を受けました。ありがとうございました!

Diversityを体現する、国籍豊かなJobbaticalのチーム

あとがき

カロリ氏が「国境なき世界を実現するために毎朝起きて仕事をしているの」と高揚感混じりに語ってくれた素敵な未来図。カロリ氏が提案する働き方は、多くの人が憧れながらも、気づかぬうちに諦めていたものなのではないか。VISA緩和の流れがある日本では、このJobbatical【“Job(仕事)”+“Sabbatical(長期有給休暇)”】な働き方ができるようになるのだろうか?

“Jobbatical”の関連サイトは以下

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