少数民族の布を活かした手作りマスクで障がい者支援 ~「ラオスが好き」を広め、「ラオスを知る」に繋げる~ 【アジアの障害者活動を支援する会(ADDP):森木景子氏、桑原佑輔氏】

コロナ時代のグローバリゼーション特集』第3弾は、マスク作りを通じた障がい者の就労支援を行うADDP(特定非営利法人アジアの障害者活動を支援する会)。職員の森木さん、桑原さんのお二方にお話を伺いました。

【ADDP(特定非営利法人 アジアの障害者活動を支援する会)】

1992年に任意団体として設立。2000年より支援対象国をラオスにシフトし、障害者スポーツ支援と就労支援を事業の2本柱として活動を継続している特定非営利法人。


《プロフィール|森木景子氏》

社会人として経験を積んだ後、知り合いの誘いでADDPの業務に参加。初めてラオスを訪れ、現地人の優しさや温かみに触れる中で「彼らのために、彼らと共に働きたい」という思いが芽生え、ADDPに加入。現在はフアパン県でのプロジェクトリーダーを務める。

 《プロフィール|桑原佑輔氏》

大学2年次に旅行でラオスを訪れた際にADDPと接点を持つ。大学でスポーツ科学を専攻していたことがきっかけで途上国のスポーツ支援に関心を持つ。以前接点があったADDPに相談し、加入を決断。現在はパラスポーツと「Minnano café」2号店のカフェ業務を兼任。 

海を越えた就労支援×コロナ支援

― ラオス国内でマスク作り・販売をはじめたきっかけを教えてください。

桑原:ラオス国内に在住する外国人向けに、マスクを販売しようと活動を始めました。もともとADDPにはラオスの布を用いた製品の外注を受けるクラフトチームが存在し、スタッフが縫製の技術を有していたことから、マスク作りの企画後、製作へと移行する過程は比較的スムーズでした。


― なるほど、クラフトチームの存在が大きかったのですね。ところで、レンテン族のオーガニックコットンに着目した理由は何だったのでしょうか。

 桑原:これといった理由はないのですが、ADDPにレンテン族の布が好きなスタッフが多く、また偶然レンテン族の布が手元にあったためと認識しています。後々はラオスに駐在するJICA海外青年協力隊の知り合いの伝手で生産者につないでもらい、そこから仕入れるようにしました。


ー 偶然手元にあった一枚となると、何かの巡り合わせかもしれませんね。そのレンテン族とはどのような人々なのでしょうか。

森木:はい、ラオス北部のルアンナムター県に住む少数民族です。中国から移住してきたとされており、 藍染めで知られています。彼らが手掛ける美しい布製品の数々は観光客にも大変人気です。


― パラ競技の選手がマスク作りに携わっているとのことですが、どういった競技が専門の方々なのでしょうか。

森木:もともとクラフトの技術を有していたパワーリフティングと車いすバスケの選手が製造に携わっています

桑原:この選手は2人ともADDPの職員でもあるので選手をやりながらADDPでの就労もしています。そういう方たちが今回マスクを作ってくれています。

マスク作りにはパワーリフティングや車いすバスケといったパラスポーツの選手らが携わる。

― 4月1日にラオスでのマスク販売を開始後、わずか1週間程で日本でのオンライン販売に踏み切っていますが、その背景は何ですか。 

桑原:4月1日に発売を開始して、その2日後くらいに私が日本に緊急帰国することになりまして、せっかくならそのタイミングでマスクを日本に持ち帰り、販売しようという考えに至りました。比較的早い段階で日本での販売を決定していましたね。

 森木:これも先ほどの布の件と同様に偶然のことでしたね。また、桑原が帰国する便に多くの邦人が搭乗していたことから分かるように、多くの在ラオス外国人がそれぞれの母国に帰り始めました。もともと在ラオス外国人向けの値段設定だったので、これを機に日本国内での販売に踏み切れば、より高い需要が見込めるのではないかと考えたことも理由の1つです。


―日本では、マスクやトイレットペーパー、消毒液の類が商品棚から消える事態が発生しましたが、ラオスではどうだったのでしょうか。桑原さんが帰国される直前のラオスの状況を教えてください。
 

桑原:そうですね。確かに医療用のマスクや消毒液は品薄の状況でした。ただ、日本との大きな違いは、マスクが「ない」となったときに早期の段階からラオスの人々は自分たちで「作る」ことを行っていた点です。よって、日本のようにマスクの価格が高騰するようなことは見受けられませんでした。必要な物がないときに自ら工夫して生み出そうとする面がラオス人らしいと同時に、ラオス人の良さだと感じます。

 

手作りマスク販売で「ラオスが好き」を広める

― 第1回目は即完売でしたが、反響をどのように受け止めていらっしゃいますか。

桑原:そうですね、1回目の販売は、思った以上の売れ行きで驚きました。それこそ、ラオスのことをある程度知っている方々が多く購入してくださった印象を受けています。 

森木:ラオスを知っている方に加え、ADDPの会員の方がたくさん注文してくださいました。


― 第2回目の販売に当たり、お客様からもっと販売してほしいという声はあったのでしょうか。

森木:はい。第2回目に販売するマスクを仕入れた理由は、1回目が思っていた以上に好評であったこと、またADDPの会員の方からさらに購入を希望する声が挙がったことですね。

ラオス人が好む柄を万人が使用できるシンプルなものへ。デザインの選択にも工夫が見られる。

― 値段設定やデザイン性など、日本で販売する際に留意した点を教えてください。 

桑原:値段設定に関しては、当然輸送費がかかるため、日本で販売するほうが高値になります。また、ラオスの少数民族が織った布を用いている点や障がいのあるADDPのスタッフが就労し懸命に製造している点を加味し、1枚600~800円という値段にしました。高値に感じられる方もいるかもしれませんが、上記項目に加え、洗って何度も使える点を考慮すればリーズナブルと言えるのではないでしょうか。

 森木:デザインに関して、実は、初めに製作したマスクにはラオス人スタッフの手によって刺繍が施されていたのですが、外国人や日本人をターゲットとしたため、万人に好まれるよう、できる限り「シンプル」に仕上げることを心掛けました。第1回目の販売時にオンラインにアップされていた花柄のマスクはラオス人が自らのセンスで選んだものですが、日本人から見てまとまりのある柄を厳選しました。デザインや模様における日本人とラオス人のセンスの違いは大きいと思います。


―日本で市販されている不織布マスクと比較した、レンテン族の布マスクの良さを教えてください。

桑原:布マスクという点で、まず洗って繰り返し使えるため、経済的でエコにもつながると思っています。オーガニックコットンなので肌にも優しく、比較的通気性が良いです。

 

マスク販売に留まらない就労支援×コロナ支援を提案

― つい先日も障がい者の方が手作りした象型のクッキーをラオスの医療従事者にプレゼントする取り組みをされていましたね。SNSの投稿を拝見して温かい気持ちになりました。

 桑原:そうですね、JICAのラオス事務所で広報を担当されている方から医療従事者に感謝の意を示す活動を行いたい旨を伝えていただき、ADDPとして提案した取り組みがこの企画でした。

森木:実際にADDPで商品化している障がい者の手作りクッキーには象とパトゥーサイ(凱旋門)の2つの型があるのですが、象の形を選んだのは象がラオスを代表する動物であると同時に「優しさ」の象徴であるためです。


― 今後はどういった活動を予定されていますか。

森木:やはりラオス人は手先が器用な人が多いので、そうした貴重な技術を活かして新たにコースター等のクラフト商品の販売を展開していきたいと考えています。

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ADDPが販売する手作りオーガニックコットンマスクはこちらから購入が可能です。
収益は今後の障がい者の就労支援に役立てられます。

 大使公邸で開かれたイベントにて、ラオス人歌手のアリタさんと撮影。森木氏:右から2人目、桑原氏:右から5人目。


― 最後にお二人から学生にメッセージをお願いいたします。

 桑原:今現在、コロナの影響で、東南アジアの国々は海外に渡航できない状態が続いています。しかし、私たちに毎日の生活があるように、彼らには彼らの生活があり、時間は常に流れています。アフターコロナに是非ラオスに来ていただきたいですし、この記事を読んでいただけたことも、また何かのご縁ですので、ラオスでマスク作りに携わっている人々やレンテン族の人たちに興味を持ち、会いに行くきっかけとしていただければ幸いです。

森木:外出自粛が続く中で窮屈に感じることが多くあるかとは思いますが、この機会に海外の情報等に積極的に触れていただき、視野を広げるきっかけを得てもらえればと思います。コロナの影響が落ち着いて、もしADDPに興味を示してくれる方がいましたら、ぜひ遊びにいらしてください。お待ちしています。

 

編集後記

緊急事態宣言が解除されて約1ヵ月が経ちました。いかがお過ごしでしょうか?県を跨いだ移動も可能となり、今までとは違う形での「日常」というものが戻りつつあるのかもしれません。先日、日越両政府承認のもと、ベトナム航空が特別機の運航を行いました。個人やグループなどでの予約は依然として不可とのことですが、近隣諸国への渡航が可能となる日もそう遠くはないと期待しています。

海外への渡航が可能となった暁に、あなたはどこを訪れたいですか?まだ迷っているそこのあなた、この記事との出会いをきっかけに、一度ラオスに足を運んでみてはいかが?