シンガポールやバンコクで日本食を広めるモバイルサービスを展開する大畠佑紀氏。高校時代は日本で指折りの実力を持った器械体操の選手だった彼女が、起業家になり目指すものとは?
《プロフィール|大畠佑紀氏》
1982年生まれ。埼玉県さいたま市出身。3歳から器械体操をはじめ、中学3年時には全日本選手権で個人総合優勝、高校2年時にはバンコクでのアジア大会に日本代表として出場し、個人・団体の両方でメダルを獲得した。体操競技は高校卒業とともに引退し、一浪の末、筑波大学体育専門学群に進学。大学卒業後、新卒で人材系大手企業へ入社。ベンチャー企業での事業運営を経て、当時最先端のモバイル技術を駆使したアプリ開発などを行う株式会社ガプスモバイルの立ち上げメンバーとして参画。2011年、単身シンガポールへ渡り、現地法人を設立。現在 "Reginaa Pte. Ltd.(レッジーナ)" 代表取締役兼CEO。
成功の一般法則がない中で、日本の商品を海外で売るために
ー 現在取り組んでいる事業について教えてください。
JPassportというアジアの人たちに日本をもっと体験してもらうモバイルサイトを運営しています。簡単に言うと、日本のぐるなびさんやTポイントさんのようなサービスなのですが、会員になるとお得なクーポンをもらえたり、ポイントが溜まったりします。
JPassportは、2013年12月にサービスを開始しました。現在は日本好きのシンガポール人を33万人(人口の6%)を会員化し、シンガポールに進出済みの日系店舗200店舗をネットワークしています。また、2018年にバンコクでも事業を開始し、バンコクの会員は1年で3万人に成長しました。
ー シンガポールで日本のサービスやモノを展開していく上でコツなどはありますか?
いかにトレンドを抑え、提供企業に合った施策を打っていけるかが重要だと思っています。
シンガポールはトレンドのサイクルが日本より早いです。また、日本人が思う良いサービスやモノが必ずしも、シンガポール人にとって良いものではありません。例えば、産地直送の農家の人が丹精を込めて作った農産物は、日本人だと価値あるものだと理解してもらえると思います。しかしシンガポール人からすると、希少性は理解はできるものの、高いお金を払ってまで買うものではない、つまり「売れない」というケースが多々あります。
一般論として必ず成功する法則は存在しません。そのような不確実な状況の中で、あるサービス・モノをどうローカルのマーケットに浸透させていくか、提供企業さんと協働して企画、行動、改善するという、地道ですが確実な方法が長期的に展開していく一つの施策だと考えています。
ー 事業の中で困難はありますか?
事業をする上で難しいことは毎日ありますが、絶望的になることはありません。
あえて一つ挙げるとしたら、社員が辞めることですね。明るく笑って送り出し、顔には辛い表情を出さないように努力はしていますが...。ただ、誰かが辞めるのは辛いですが、社員が辞めた原因を考え、自分の側に非があったと思い当たればそれを改善します。次の出会いを考えれば、乗り越えられます。
心の器の大きな "いい女" になりたい
ー 人生の目標を教えてください。
"いい女" になること。
大学生の時からの目標がこの "いい女" なのですが、面白いのはこの "いい女" の定義が大学生のとき、社会人のとき、現在でずっと変化し続けていることです。昔は、何事にも挫けず、一人で生きていけるような強い女性になりたいと思っていました。でも今は、女の人としてよりは、一人の人間として相手の立場に立って物事を考え、何が起きても許容できる器の大きな人間になりたいです。
ー そのように考えるようになったきっかけを教えてください。
きっかけは、学生時代に「かっこいい彼氏が欲しい」と母親に相談した際、「じゃ、あなたがまずいい女になりなさい」と一蹴されたことです。確かにその通りだなと。それからずっとこの "いい女" を目指しています。
前述の通り、私にとっての "いい女" の定義はその都度変化してしまいます。つまり、"いい女" 像は現在の自分が置かれている環境や打ち込んでいることに影響されます。
特にここ数年は、海外での起業を通じてグローバルなメンバーと仕事をする中で形成された部分が大きいです。現在、プロジェクトメンバーはベトナム人・日本人・インドネシア人・シンガポール人など様々な価値観や考え方を持った人から構成されています。そのような職場環境において、みんなで1つの方向に向かって力を合わせていくためには、相手の考え方を想像する力や、それを許容できる柔軟な心を持つことが大事だと日々痛感しています。
そのため今の私にとっての "いい女" とは、一人の人間として相手の立場に立って物事を考えることができ、相手を許容し、共存することで相手と自分にとって最善の方向を見出すことのできる、そんな器の大きな人間なのです。
ー なぜ多種多様な人を巻き込むのですか?
答えはシンプルで、多くの人と働く方が私がワクワクするから。
私はあまりお金のためだけに動けるタイプではなく、また人生は一度きりなので、自分が面白いと思えることに挑戦していきたいと考えています。もちろんビジネス上のメリットが大きいために多国展開をしているというのもありますが、基本的には自分の直感を信じています。自分たちが楽しいと思えて、かつ世の中や周りの人達の役に立てたり価値が出せたりすることを、国境や地理的距離の枠を超えた仲間と一緒に成し遂げていきたいです。
ー 今後の目標を教えてください。
人間として成長していきたいです。世の中には本当に素晴らしい人がたくさんいます。私も彼らに少しでも追いつき、同様の価値を出せるようになりたいです。そのために改善できる点はまだ山のようにあると思っています。
例えば、事業のスキームの組み方、マーケットの見方、人に対する考え方など「私がもっと上手にできればより人々を幸せにし、世の中に影響を与える事ができるのに...」と毎日思っています。とはいえ、私の性格はとてもポジティブなので、改善点が見えるということはまだ先があるということ、と捉えています。今後もチャレンジを楽しみつつ、努力を重ねていきます。
他者の言葉に耳を傾け、目の前のことに全力を注ぐ
ー そのようなポジティブな考え方に至るまで、人生に影響を与えたものはありますか?
私には影響を受けた人はたくさんいます。 私が大切にしているのは、目の前にいる尊敬する大人が教えてくれたことは必ず実行してみること。その時の自分には分からなくても、その人の言葉にはきっと意味があるはずです。
例えば、ある経営者の先輩に大学時代の友人が選挙に立候補することを話したところ「じゃ、手伝いに行ってきたら?」と提案されたことがありました。正直に言うと私は政治にも疎かったですし、シンガポールから大阪まで、わざわざ友人の事務所にビラ配りやポスター貼りを手伝いに行くことを、なぜこの人は提案してくれたんだろう?と不思議に思っていました。
結果、大阪に行って1日だけ選挙事務所の手伝いをしました。友人は朝早くから駅の前で市民のみなさんに声をかけ、その後ろでは多くの人たちが戦略的にチームとしてサポートをしていました。その中で、彼らが本気で日本を変えていこうとする真剣な姿勢を見せてもらえました。
当時の自分には理解できなくても、実際にやってみると見える世界は全然違います。私は実践型の人なので、そのように多くの人に道を教えてもらいつつ、できる限り沢山のことに挑戦していきたいと考えています。
ー 学生へのメッセージをお願いします。
目の前の事をなんでもいいから一生懸命やり抜いてください。自分のやりたいことであれば、勉強でも遊びでもなんでもいいんです。
"思いっきり" やり抜くことが重要だと思っています。そこまでやれば、たとえ大失敗して人生のどん底だと感じても、3年後には笑ってその経験を話せるようになります。そのように目の前のことに一生懸命取り組んでいると、大抵のことには動揺しなくなります。
※本記事は、海外インターンを紹介するWebメディア「Mash Up」様よりご寄稿いただいた記事を元に、アセナビで独自に再編集した記事です。