大手新聞社勤務を経ての新たな試み。起業先としてミャンマーを選択するに至った経緯は何か。現地で挑戦を続ける北角裕樹氏の想いに迫りました。
《プロフィール|北角裕樹氏》
ヤンゴン在住ジャーナリスト。日本経済新聞社や教育機関での勤務を経てミャンマーに活動の場を移す。2016年に "ヤンゴン編集プロダクション" を起業。記者経験を活かした現地向けの情報発信に努めると同時に人材育成も行っている。
1人の“記者”として
― 人生のミッション・目標をお聞かせください
現在は会社を経営していますが、あくまで私のアイデンティティは "記者" ですので、ジャーナリズムを通して情報を発信していくことが私のミッションになります。
ミャンマーは世界的にみて、まだまだ知られていないことが多い国です。
ジャーナリズムを通じて、その認知されていない部分をミャンマー国内のみならず、日本を始め世界に発信していきたいですね。
ミャンマーで仕事をしていると、国内メディアの現状に課題が山積していることがわかります。例えば、ジャーナリストの人材が不足している点です。また日本では考えられないことですが、権力者らが法律を使ってジャーナリストを逮捕してしまうようなことも起きています。
他方、こうした厳しい環境の中で奮闘する地元ジャーナリストらが存在することも事実です。そうした状況を間近で見ているうちに「私も彼らと協力しながら頑張っていきたい」、そう思うようになりました。仕事を共にする仲間も個性豊かで魅力的です。
先ほども述べた通り、現地人ジャーナリストらと協力しつつ、情報を広く届けることが現在の個人的な目標になっていますが、ミャンマーの地でジャーナリストとして共に働く人材を増やしていきたいという思いから人材育成も行っています。
厳しい環境の中で奮闘する現地人ジャーナリストの姿は北角氏の心の支えとなっている。
いざ、ミャンマーへ
― ミャンマーで働くようになったきっかけどのようなものだったのでしょうか?
私は日本経済新聞社で 12 年間ほど働いていました。その後、教育関係の仕事を経て、現在に至ります。日経に勤めていた頃から海外で取材がしたいと思っていたので、当時メディアから最も注目されていた国に行ってみようと決心しました。
当時は中東が荒れていたり、ミャンマーで半世紀ぶりの民主的な政権交代が可能になる総選挙が予定されていたりと世界的に重大な出来事がたくさんありました。その中で、総選挙を控えたミャンマーの状況を自分の目で確かめたいとの思いが強く、ミャンマーに行くことを決心したのです。
渡航後、その総選挙の様子を実際に見ながらフリーペーパーの編集長を1年ほどやらせてもらいました。それを経て、ミャンマーで起業するに至ったという経緯になります。
― 北角さんのモチベーションはどこにあるのでしょうか?
やはり、ミャンマーのメディアを盛り上げたいですね。ミャンマーという 国はびっくりするような出来事がとても多いのでそれを広く伝えていきたいという思いが 1 番のモチベーションになっています。他方で心の憶測に野次馬根性が眠っていることも事実です。長年マスコミ関係の仕事をしているためか、目の前で起こっている現実をいち早くたくさんの人に伝えたいという揺るがない思いがあります。
現地で直面した課題
― 事業の中で困難に思うことを教えてください
日本と異なる体制が敷かれるミャンマー国内において自分たちの事業ができるのか否か、不明な点が多いです。そこを冷静に判断し「やる」という決断を下すことがとても難しいです。
また、日本人とミャンマー人に共通して見られる傾向なのですが、何かに行き詰ってしまった際に「これはできないのではないか」というような判断を先に下してしまう人がいると感じます。そういった人たちをどうやって事業に巻き込んでいくかが課題ですね。
― 北角さんが考えるあと一歩のところでできると捉えられる人/捉えられない人の違いはどこにあるでしょうか?
基本的には覚悟の差だと感じています。1つの大きなことを成し遂げるためには多くの努力を要しますし、一筋縄ではいかないこともあります。いかなる事態に直面した場合にも、それを乗り越える覚悟がないと成し遂げられないのではないでしょうか。
異なるバックグラウンドを有する者が集い仕事を共にする環境。大切なのはやり抜く覚悟をもつこと。
今後の展望
― 具体的な今後の方針を教えてください
現在はミャンマー向けの情報発信に力を入れています。ミャンマー人のみが出演するコメディ映画の製作がその一例です。ミャンマーではそうした映画がなかったため、かなり喜ばれまして、ミャンマーの国際的な映画祭にも出展することが出来ました。
なんと、そこで元インターン生の茂野新太さんが監督した日緬共同制作ドキュメンタリー『アンセスターズ・メモリーズ』が、ロサンゼルス映画賞(2019 年 3 月期)で最優秀中編ドキュメンタリー賞を受賞したのです。
― 学生の皆さんにメッセージをお願いします
学生の皆さんには初めは短い期間でもいいので海外に出て、現地の生活や仕事に触れてみることをお勧めします。
私は日本には様々な枠があると感じています。たとえば学生は校則を遵守しなければならないだとか、同じ大学を卒業した先輩を多く受け入れている会社への就職を勧められるというようなことです。
上記で言われているようなことって必ずしも正しいわけではないですし、他の国に行ったら全く逆のことが正解だったりすることもあります。このような思考のバイアスから抜け出すきっかけの1つになるのが海外に行き、そこの生活を肌で実感することではないでしょうか。
※本記事は、海外インターンを紹介するWebメディア『Mash Up』様よりご寄稿いただいた記事を元に、アセナビで独自に再編集した記事となります。