グローバル化によってヒト・モノがより流動的になり、注目を集めるインバウンド産業。
観光だけでなく、仕事としても日本を訪れる外国人は増えています。
そんな中、新型コロナウイルスの脅威により仕事を失ってしまった、異国の地で孤立してしまった外国人の方々を支援しているゴーウェル株式会社。創業者である松田氏のこれまでの人生と、今コロナによって浮き彫りとなっている外国人を取り巻く課題について伺いました。
<経歴>
熊本県出身。早稲田大学卒業後、新卒で株式会社JTBに入社。20代前半で添乗員・営業などを務めながら、50ヵ国以上を周り東南アジアの魅力に気づく。同社のタイ現地法人に転職し、プーケット支店長として観光地開発などを務め、2003年に独立してバンコクで在タイ邦人向けに書店を起業。その後東南アジア諸国においても邦人向けに飲食事業や日本製品の販売サービス事業などを立ち上げる。日本に戻り、2010年にゴーウェル株式会社を創業。在日アジア人向け就職支援やアジア語通訳・翻訳業務などを行っている。2020年5月、コロナ禍の中、外国人のための無料情報カフェ「GOWELL TOWN」をオープン。
大手企業の「安定」よりも現地での「経験」
-本日はよろしくお願いいたします。まずは松田さんと東南アジアとのこれまでの関わりについて教えてください。
東南アジアと密接に関わるようになったのは就職してからになります。私は大学卒業後、JTBという大手旅行会社に入社しました。もともと「20代のうちに世界のどこかで起業したい!」と考えていたので、起業する場所をどこにするか決めるためにも、世界をみて周るという意味でもJTBに入社させていただきました。
当時はまだ世界どころか、大学で初めて九州を出たような海外とは殆ど縁のない学生でしたが、20代前半の4年間で、プライベートも含め約50ヵ国ほど周りました。そんな中で東南アジアの熱量に魅了されて、26歳の時に同じ会社のタイの現地法人に転職することになります。タイの現地法人ではプーケット支店長として50人ほどの部下を持ちながら市場開拓や観光地開発をしていました。
ー 現地法人に転職されたということですが、駐在とは違うのでしょうか?
駐在という形ではなく、一度日本での仕事を辞めて、あえて同じ会社の現地法人の社員として再就職した形になります。当時は就職氷河期で何千倍という倍率を乗り越えて新卒として就職をしましたし、現地法人では給料が3分の1にもなるので、周りからはどうしてそんなリスクを取るのかと何度も止められました(笑)
普通ならありえないとは思うのですが、夢であった「20代のうちに起業する」ということを胸に秘めていたの
で、そのためにも早く経験を積みたいという気持ちがあり、迷わず決断しました。
20数年前といえば駐在員は40代以上の人が携わる時代でした。人生が二度あるならいいですが、一度きりの人生で海外で働く経験をするのに40代まで待っているわけにもいかないと思っていたので、安定を捨てて、直接現地採用として再就職しました。
当時はお金よりも“経験”を一番大切にしていました。
(JTBタイランド時代には支店長として50人ほどの部下を束ねる)
ー 経験を第一に、挑戦する環境にいち早く身を置かれていたわけですね。
「20代で起業する」というタイムリミットも迫っていたので、29歳で現地法人での仕事も辞めさせていただき、バンコクのど真ん中で邦人向けの書店を開きました。今とは違い日本人向けのインフラがあまり全く整ってなかったので、日本人が日本の本を読むためには、タイの紀伊國屋で何倍もする値段で売られている本を2週間も待って購入するしかありませんでした。タイは年間100万人もの日本人旅行客が訪れる国でしたので、観光客が機内移動中に読んだでいる雑誌や本を全て買取り、キレイにして現地在住の日本人に格安で販売するというビジネスモデルを実行にうつしたのです。いわば日本のブックオフのようなサービスですね。
タイでは事業を展開した立地がよかったことと、グローバルな本の流通網とリーズナブルな価格を武器に、非常に順調にサービス展開をしていました。日本人社会に大きく入り込めたこともても大きなポイントだったと思います。その後は東南アジア中でサービスを提供したいと思い、近隣諸国でも事業を展開しました。他国ではタイと同じサービスを横展開するのは難しかったので、飲食事業を展開したり、畳などの日本製品の販売したり様々なビジネスをしていました。
東南アジア諸国での事業展開で私が常々意識していたのは、「社会の3つの不(不安・不満・不便)を解消する」ことです。日本人としてのバックグラウンドを活かしながら、現地に訪れるインバウンドの方々・現地駐在の人々の持つ不を満たして、日本と東南アジアの間の関係を築いていきました。
これは今のゴーウェル株式会社の創業でも同じことが言えます。
アジア人のためのインフラが不足する日本社会
ー 東南アジア諸国で事業展開されてから日本に戻ってこられてきたということですが、現在はどういったことをされているのでしょうか?
10年間の東南アジアでの起業経験を活かして、日本でも同じように世の中の不満を解消するため、“今、世の中に無いサービスを作る仕事”をしたいと考えていました。2010年当時の日本では大きな言語的ハードルが東南アジアと日本の間でありました。たくさんの日系企業が東南アジアに進出する中、東南アジア語の言語サービスを提供する会社は殆どなかったので、東南アジアと日本をつなげる会社、特に言語インフラを作っていける会社にしようと強く思い描き、ゴーウェル株式会社を設立しました。
ゴーウェル株式会社では現在大きく分けて3つの事業をしています。
まず1つ目がアジア語通訳翻訳事業です。
2012年からタイ語、ベトナム語、インドネシア語、ミャンマー語などの東南アジア語に特化した翻訳・通訳サービスを始めました。当時外国語の翻訳・通訳に携わる会社は2500社程日本にありましたが、ほとんどが英語・中国語中心でした。日系企業と東南アジアとのやりとりにおいてお互い母国語では無い英語を使っている企業が多かったのです。
「日本語-東南アジア語のやり取りに変えてみませんか?」
と一社一社説明をし、英語ではなく日本語-東南アジア語でやり取りができるサービスがあることを広めていきました。弊社では専門性と言語レベルを細かくセグメントに分けてサービスを提供しています。各業界についてレベル別にSABCと分けて、それぞれのレベルにあった翻訳・通訳サービスを企業様にご提供しています。東南アジアと日本の企業の間でのやりとりが行われる業界というのは非常に限定的なので、細かく分けることによってしっかりとニーズを満たしてきました。
また、この事業から派生して、海外進出のコンサルティングも行っています。翻訳通訳者を使っていただくだけでなく、専門性をもった翻訳通訳者を活かしたチームを結成してプロジェクト毎請負うことで、ワンストップで、海外進出を支援しています。
(国家間、首相間の通訳、テレビのテロップの翻訳等幅広い分野の翻訳をサポート)
2つ目はグローバル人材事業です。
通訳・翻訳事業を通してたくさんの在日外国人の方と関わっていく中で、日本社会の深い闇の部分があることがわかりました。日本で働いてくれる外国人人材に対して法制度や日本国内の様々なインフラがまだまだ未整備で、トラブルになるケースが多くあるということです。
日本企業は採用を望んでいるものの、対応の仕方がわからない文化的・言語的壁があるため、“単なる労働力”としての雇用が増えてしまっていました。それとは逆に日本で働きたいという優秀な外国人は、日本固有の就活ルールの理解不足や在留資格などの知識不足が原因で、就職という目的を達成できずに本国に帰ってしまう人も多いという大きなギャップもありました。
日本の労働人口減少に伴い、登用されるアジア人材の採用ニーズが増えていく中で、そういった企業と外国人をしっかりとマッチングすることで根本的問題の解決に取り組みました。
外国人を採用するタイミングは大きく分けて「今ある事業で活用するパターン」と「新しく事業を展開する際に採用するパターン」の2つがあると思っています。今ある事業のために採用をする時はもちろんですが、特に新しく事業をスタートする時に弊社のノウハウが活かされます。
例えば、地方には世界で戦えるプロダクトがたくさん眠っています。そんな企業様に向けて、優秀な外国人の採用を支援することで新しいグローバル市場へ挑戦できる環境を整えるお手伝いをしています。翻訳・通訳事業のノウハウも活かして、海外事業展開のお手伝いもしているので、成功率も高いのが特徴です。
地方からグローバル企業ができ、留学生外国人も企業も価値が高まっていくことはこの事業の醍醐味でもありますね。
また採用を決めた企業様に対する教育と、留学生への研修支援も行っています。実は大体の企業が外国人スタッフの扱いについてあまりよくわかっていないことが多いです。日本独特の企業文化、就業規則の指導を入念に行う必要があるのですが、コミュニケーションの問題もあり、対応できていない場合もしばしば。採用支援をする前に地方で外国人採用に向けた講演等を行うことで、企業に対して外国人採用についての注意点やノウハウの共有をする機会を数多く設けています。また外国人労働者のためにもビジネスマナー講座を行うことで、仕事を始めてからのミスマッチをさらに減らしています。採用した後のアフターフォローも好評いただいているポイントです。
(毎年300〜400名が内定をいただいてる。)
そして最後はアジア語スクール事業です。
これから駐在する方、海外進出したいというビジネスマンを中心にアジア語レッスンを提供しています。弊社のレッスンは個別のニーズに合わせたマンツーマンのレッスンになっているのが特徴です。殆どのアジア語スクールは先生の人数が少なく、グループレッスン指導が主流でした。しかしながらアジア語を勉強をされている方のモチベーションは均一的ではなく、それぞれ大きく違います。
「全くゼロから学習して3か月後に現地スタッフと日常会話をしたい!」
「ある程度すでに話せるが、ビジネスで使うので極めたい!」
というようにスタートレベル、習得したいレベルが違うので、顧客目線に合わせてマンツーマンレッスンにすることに決めました。とはいえマンツーマンになると先生方の収入を確保するのが難しいです。手間もかかってしまうので、持続的な事業にするためにも生徒様を圧倒的に集める必要があり、当初は集めることはとても苦労しました。
今では2,000名以上の生徒様が入学し、レッスンを受講していた生徒様が現地駐在を経て、企業のアジア担当者として帰国し、弊社の通訳翻訳や人材採用の窓口になることも多く、日本と東南アジアの繋がりが広がってきているのを実感でき、とても嬉しく思っています。
コロナ禍で困っている外国人に寄り添う場『GOWELLTOWN』
ー 外国人が働く環境について今コロナの影響はどのように出ていますか?
観光業界などを中心に外国人の労働環境はかなりの打撃を受けています。特に派遣社員は影響が大きく、契約期間終了後に真っ先に派遣止めになることも少なくありません。コンビニ等では外国人アルバイトが休業させられ、従業員がほぼ日本人になっているところもよく目にしているのではないでしょうか。派遣だけでなくこれから就職する外国人の内定切りや解雇も増えています。
これは働くことで在留資格を得ている方々にとっては生死に関わる問題です。
ー 確かに少し外国人労働者を目にする機会が減った気がします。在留資格、行政の対応の変化はどうでしょうか?
行政もそういった状況を鑑み、在留資格の規制緩和にも乗り出しています。学生ビザから就労ビザに切り替えが出来ない人に対して半年間の特例措置を出したり、就業禁止だった分野での就労も一部解禁されています。
行政が給付金や在留資格などの即効性のある具体策を次々に出している一方で、そういった情報が外国人にまでたどり着いていないという課題もあります。外国人がまず頼る在日大使館ですが、は日本政府の対応について詳細まで把握できていないことも多いのです。
そこで外国人のために何とか役に立ちたいいう願いから無料情報カフェ『GOWELLTOWN』を5月初めに開設しました。
GOWELLTOWNでは、オフラインの場として外国人の方々が無料で気軽に利用できる環境を作っています。翻訳通訳や人材事業の知見を活かして、ほぼ全ての情報をアジアの現地語や、やさしい日本語で提供しています。例えば、給付金・助成金の申請もここにきて一緒に書き、残りは市役所で手続きが進められるように寄り添ってお手伝いしています。就職先の紹介もしています。
(就職を目指す外国人の方々向けのビジネスマナー講座も開催中)
ー オープン当時、まだ緊急事態宣言下だったと思うのですが、オフラインにこだわった理由などはありますか?
逆に同時期に対応している他企業や団体のほとんどがオンラインで情報発信を試みていたからです。
在日外国人の方々は圧倒的に情報弱者で、かつ日本での友人・知人も少ないため、日本人以上に不安に感じている部分も多い。緊急事態宣言下で自粛期間ではありましたが、行政に代わるオフラインの場の提供に向けて準備をしていました。自粛期間であったので、利用者も想定よりも少なかったですが、実際にお越しいただいた外国人の方々の不安解消や問題解決につながったのはとても良かったと思っています。緊急事態宣言も解除された今は、東京に住んでいる外国人に快く使ってもらうだけでなくて、外国人採用を見据えている日本の企業担当者様にもお越しいただくことで、互いによりフラットな形で交流してもらえるようになって欲しいと考えています。
外国人とちゃんとお話したことがなければ、採用してもそれは失敗するじゃないですか。優秀な人材に出会う経験をもっと提供していきたいですね。
同じ地球人として共生できる社会
ー新型肺炎が収まった後、どのように社会は変化していくと思いますか?
観光業などは今打撃を受けていますが、おそらく最初に戻ってくる外国人の方々は具体的な目的がある人、つまり“仕事のために日本に来る人”だと思います。外国人労働者への対応が後手に回ることはある意味自然な流れかとは思いますが、現状の日本社会で外国人が必要不可欠な存在であることは間違いありません。中長期的に日本に滞在する外国人は確実に増えますので、今日本に残っている外国人をしっかりサポートして大切にして共生できる社会を作ることが必要だと思います。
ー最後に松田さんの思うアジアと日本を繋ぐ意義について教えてください。
日本はアジアの人からすると憧れの存在でした。そう思われていることは有り難いことで、
それによってたくさんの方が日本に来てくれています。数ある国の中から日本を選んで来て
もらっている方々に真摯に対応しなければ、日本のイメージダウンに繋がり、グローバル人
材競争の中で日本が選ばれなくなることになるでしょう。アジアの人々から憧れてもらえる
存在であり続けるために、外国人が日本に来て良かったと思ってくれるように、今後もその
流れを受け継いで行かなければなりません。
同じ地球人としてフラットな関係を築いていくことが必要ですね。
\ GOWELLTOWNを応援する!! /
今も情報を必要としている外国人の方々がたくさんいらっしゃいます。
もし読者の皆様の周りで困っている方がいらっしゃいましたらぜひこちらのサイト情報を教えていただければと思います。→GOWELLTOWN
<編集後記>
私自身コロナ禍を留学先で体験したこともあり、松田さんのお話を伺いながら、外国人の方に対する支援への強い課題感を感じることが出来ました。今もなお、たくさんの外国人の方が日本に滞在されています。
アセナビとしても異国の地で不安を感じられている方々への支援の一助となれるよう活動していきたいと思いました。