タイ最北端の村からコーヒーを届ける日本人 「お金より精神的な豊かさを求めてここに辿り着いた」

タイ、ミャンマー、ラオスの国境に接する町チェンライでコーヒー農園を運営している日本人がいる。僕たちはその噂を聞きつけ、タイ最北部へ向かった。バンコクからタイ第二の都市チェンマイまで10時間かけて北上する。さらに北へバスで3時間。「こんな山奥に日本人が本当にいるのだろうか」と、疑問を抱きながら到着すると、今中健太郎氏はいた。脱サラしてこの地を選んだ彼はどんな想いでこの山奥に降り立ち、何をして暮らしているのだろうか。

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《プロフィール》
今中健太郎氏。1976年生まれ。ORIENTAL FA’S代表。1999年に某商社に入社し、2003年に同社現地法人立ち上げを一任される。2009年にORIENTAL FA’Sを設立。山岳民族が住む自然の中で育まれた食べ物や諸々のアイテムを届ける。今中氏が手がけるチェンライコーヒーは、2012年ロイヤルフローラ国際品評会で最優秀賞を受賞。タイNo1コーヒーの評価を得る。

 

 タイ北部の雰囲気が僕を動かした

 

―どうしてまたこんなタイの山奥で事業してるのかなと思って、バンコクから1日かけてやってきました。早速ですが、タイのチェンライに降り着くまでのお話をお聞かせください。

元々は、バンコクで駐在員として働いてたんですよ。若い頃から立ち上げに抜擢された。一人でバンコクに来て、業績もあげてそれなりに稼いでいた。だけど、自分の背丈以上に頑張って、多少無理していたところがあったんですね。当然、ものすごいプレッシャーも感じてました。稼げば稼ぐほど忙しくなって、プレッシャーも増していっていた。

 

―不思議ですね。ある意味資本主義のジレンマに陥るというか。それは働いてみないとわからない感覚ですよね。タイで働いてる日本人は他の国に比べて忙しい人が多いように見えます。「海外なのに日本以上に日本っぽい社会」という話もよく聞きますね。

そうかもしれませんね。プレッシャーも大変なものがあるけど、辞めるとなったらそれも大変。家賃払えなくなるんじゃないか、食べていけるのか、と色々不安になる。当時は結構稼いでいたけど、精神的には非常に辛い状況にあったんですね。

ある時、タイ北部に旅行に行く機会があったんですけど、その時にタイ北部の雰囲気に惚れ込んでしまいました。言葉には表しづらいんですけど、なんとなくわかるでしょ?僕が育った兵庫県の尼崎市というところは環境問題で有名なところなんです。幼い頃から、光化学スモッグ、地盤沈下、アスベストとか、そういうニュースを身近に聞いてきた。だからかもしれないけど、ずっと田舎に対する憧れがあってね。

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自分というフィルタを通じて生産者と消費者との距離感を縮めたい

 

―でしたら、このチェンライという町は最高でしょうね。

あとは、食品に関しても問題意識を持っていたんですよね。2000年の中頃に、食品偽装問題があったじゃないですか。それから、食べ物はどうやってできてるのか気になるようになりました。

例えば、お米。景色としての田園は見たことあるけど、どうやって田園が作られているのかイメージが湧かないですよね。実は、稲ってよく見ると花が咲いてるんですよ。普通見たことないですよね。肉だってそう。スーパーでは肉の切り身だけが並べられてるから、動物が屠殺されるというイメージは持てない。食べ物を作る側と買う側の距離感が自分の中で納得できませんでした。

 

―そんなこと考えたことありませんでした。

何かを食べる行為には、その食べ物の背景も食べるという意味合いも含んでることを考えたことありますか?例えば、その土地の水、肥料、空気など色々な背景を取り込んでいるんですよね。でも、ほとんどの人はそんなこと気にしないし、知るチャンスがない。

僕の場合、田舎で暮らすことに対する憧れが先に来て、「ここでやっていくためには」と考えたときに、コーヒーがあったんです。実際にコーヒー大好きですけどね。コーヒー農園がある地域は、ゴールデントライアングルという地域で、昔はアヘンを採るためのケシを栽培していた場所でした。今では、それが全てコーヒー農園に変わり、村人のほぼ全てがコーヒーの生産に関わっています。

 

―それでコーヒーだったのですね。他にも、釜揚げ塩や日本米まで扱ってらっしゃる。事業において何かポリシーにしてることはありますか?

例えば、サザエさんだと三河屋が「ちわ〜三河屋で〜す」って魚を届けにくるでしょ。あれは三河屋が魚の善し悪しを見て届けているので、一度フィルターが入っているんです。今でもスーパーというフィルタは入ってるかもしれないけど、三河屋だったら活きの良いのを集めて届ける。僕も自分というフィルタを通して、物を届けつつ、その背景を知ってもらいたいと思ってます。

できればコーヒーを飲んでもらいながら、現場をイメージしてもらいたいです。自分自身が癒しを求めてチェンライに来たのもあって、チェンライにある精神的な豊かさを商品を通じて届けられれば最高ですね。

 

―サラリーマンとしてガッツリ稼いでたときと、今を比べると今の方が幸せですか?

自分の好きなことをしてるという意味での成功で言えば、僕は成功しています。人それぞれ成功に対する価値観が違いますもんね。田舎に来ると、金銭的にはそりゃ豊かじゃないかもしれないけど、精神的な豊かさがある。僕の場合、精神的な豊かさと金銭的豊かさをトレードした形でチェンライに来たと言えますからね。

とにかく、その精神的な豊かさというのは、実際肌で感じてみないとね。時間ある?ここから一時間ぐらいで行けるから、実際にコーヒー作ってる現場に行きましょう!

 

仕事現場に密着!写真で見るタイ北部の“精神的な豊かさ”


さて、ということで、ここから先は「コーヒー農園」と「栽培に携わる山岳民族が住む村」を写真と共に紹介していきます。忙しい日本社会で過ごしていて、「精神的な豊かさって何なの?」と疑問に持つ方も多いと思います。なかなか遠い世界に触れる機会が少ないからこそ、自分がチェンライに行った気持ちになって、妄想を膨らませてみてはいかがでしょうか。


チェンライの町中心部から車で約1時間。山道を走り、標高もどんどん上がっていく。

ここはミャンマーとの国境地帯。至るところにバリケードが張りめぐらされている。imanaka_10


これがコーヒー農園。

一見単なる森の一部に見えるが、急な坂の地表を覆っている背の低い木がコーヒーの木である。一般的には農薬を使用して栽培するが、チェンライコーヒーでは無農薬で栽培される。森という生態系の中で、自然と共存する形で育てられているため虫に喰われることはないという。imanaka_3


村の商店の風景。

ネコもイヌもいる。物価はバンコクに比べて安い。imanaka_9


村からの景色はまさに絶景。

標高1500メートル。雲の動きも早い。imanaka_4


今中さんの仕事風景を覗かせてもらった。

一つ一つ手摘みされたコーヒーの赤い実は、精製後じっくり天日干しで乾燥され、このように手作業で焙煎されている。imanaka_8


やっと見たことある姿になったコーヒー豆。

さらに、不良品を手作業で取り除いていく。imanaka6


その後、パッキングされてタイ国内や日本に届けられる。

豆だけのものもあれば、ドリップバッグ、おしゃれなオリジナルシルクで作られた巾着袋に包まれたものまで用意している。imanaka_11


今回はコーヒーについて紹介しましたが、ORIENTAL FA’Sでは他にも「釜揚げ古代塩」「日本米ランナノヒカリ」「オリジナルメジャースプーン」「ヘンプフィルター」等も販売しています。興味のある方は、以下HPを覗いてみてください。

 

(インタビュアー•編集:鈴木 佑豪 撮影:早川 遼)

 

《今中氏関連情報》

■ORIENTAL FA’Sホームページ
http://orifas.com/

■ORIENTAL FA’S facebookページ
https://www.facebook.com/ORIENTALFAS


《編集後記》

ASEAN10カ国周る中で、「印象に残っている自然が美しい所は?」と聞かれたら、真っ先に「チェンライ」と答える。ASEANのアツさと聞くと、都会の喧噪や密集する人々をイメージする方も多いかもいしれない。実際に私達が周って取材してきたのもエネルギー溢れる都市に住む日本人達だった。しかし、都会と距離を置き、大自然の中で伸び伸びと暮らしている日本人もいた。「海外で働くと言ってもまた奥が深いなぁ」と、今中さんから頂いたチェンライコーヒーを飲みながら考えていた。




ABOUTこの記事をかいた人

アセナビファウンダー。慶應SFC卒。高校時代にはアメリカ、大学2年の時には中国、それぞれ1年間の交換留学を経て、いまの視点はASEANへ。2013年4月から180日間かけてASEAN10カ国を周りながら現地で働く日本人130名に取材。口癖は、「日本と世界を近づける」