「世界の中で自らの立ち位置を認識する原体験を」ハバタク株式会社小原祥嵩氏インタビュー


「世界にハバタク冒険者を増やしたい」と本気で語り、実際に動きで示している海外起業家、小原祥嵩氏。ベトナムを拠点に、ASEAN地域のソーシャルイノベーションに取り組む。元IBMの彼が起業に至った経緯、熱い想いを元に創られたハバタクのプロジェクトについて語ってもらった。

 

ーベトナムで起業するに至った経緯を教えてください。

それは『ハバタク』という会社を作った経緯と直結します。2010年に前職の同期と3人で創業しました。『ハバタク』という社名には大きく2つの意味が込められています。それは、『世界に羽ばたく』という意味と、『“Have a Tact” 自分の人生の指揮棒を取ろう』という意味。人に何か言われてやるのではなくて、自分らしい人生を描ける人を増やしたい。そういう想いで起業しました。

私は2007年にIBMに入りましたが当時リーマンショックが起きて、コンサル業界はもろにその影響を受けました。そしてそんなビジネス環境下で日本人のプレゼンスが相対的に下がっていく現実に直面しました。

具体的には、従来、日本のコンサルタントの若手が成長のための修行も兼ねておこなっていたリサーチ業務。これが、いまやインドにいるインド人コンサルタントが担当しているんです。プロジェクトに使うバジェットが低くなる中でマネージャーが何を考えるかというと、なるべくコストを下げようとする。すると、おのずと上記のようにインドに社内の仕事を発注するようなことになってくる。

専門知識がなくて、パワポ触ったことある程度の経験が浅い日本人の若手コンサルタントに2,000ドル払うぐらいなら、経験豊富でリサーチから資料作成まで出来て、そのうえ1/7の人件費のインド人に仕事を依頼する方が合理的ですよね。

 

『あれ、日本人の価値ってなんだっけ?』

 

今までは日本だけのマーケットで十分食べていけました。日本の中だけで評価されていれば問題なかった。それが急にグローバルスタンダードにさらされて、泡食っているのが現状だと思います。

実はもっと前から企業レベルでは緩やかにグローバル化は始まっていました。ただ、人材レベルでフラット化してきたのが最近。リーマンショック後、大手メーカーでは新卒採用の8割を外国人採用枠にしたり、ユニクロも“世界同一賃金”を採用しました。コンビニでも牛丼屋でも外国人のアルバイトを多く見ますよね。そういう状況を見ていて、このままじゃ日本ヤバイな、と思いました。

 

—日本人の競争優位性が失われていってるんですね。

社会人に2年目に新人研修のインストラクターをしてたんですね。そこで新人を見ていて思ったのが、彼らはテストのように答えがあるものに対しては非常に優秀。でも、“自分で課題を設定して考える力”が圧倒的に弱いと感じました。

日本の教育の弊害だと思います。小さい頃は『将来何になりたいの?』と聞かれるけど、それが大人になるにつれて『良い学校入りなさい』『良い会社入りなさい』と言われるようになる。あたかも正解の道があるように見えていました。ただ、実はそのレールがとっくに壊れて、過去の遺物になっている。今まで優秀だと思われてきた人材が世界市場で今求められているレベルで見れば通用しなくなってきている。

じゃあ、何を変えないといけないのか?まずは、『(これまでの)メインストリームはもはやメインストリームではない』という事実に気付かなければいけない。この正解のない時代では自分自身の人生を自ら描いていく必要がある。だから、“Have a Tact”、自分の人生の指揮棒を持っていってほしい。こういう想いでハバタクを創業しました。

 

habataku_01(ハバタク創業メンバーの3人。それぞれ異なる拠点で特色ある動きをしている)


—ハバタクではどのようなアプローチで理想に近づこうとしているんですか?


1つは、『圧倒的な原体験を提供する』こと。いわゆるメインストリーム信仰を崩すためには、『こんな世界もあったのか!』という気づく、つまり“原体験”が必要です。やはり視野が狭い人が多いんです。自分のコンフォートエリアから出られず、内にこもってしまう人。いまって情報化が進んで、欲しい情報はネットで簡単に手に入れられる。キーワードを全部打つまでもなく、あなたの欲しい情報はこれですよね?と。自分の欲求でさえも、Googleに提示されたものからしか選べない、自分にとって気持ちいいこと・都合のいいことしか受け入れられない人がどんどん増えていく社会って怖いですよね。

だから、もっと多くの人に自分のコンフォートエリアから遠くに足を伸ばしてほしい。
例えばハバタクでは、学生をベトナムに連れてきて、現地の大学生と恊働しながらビジネスアイデアを考えるツアーを実施したりしています。いつもと違う厳しい環境であがいて、自分がどんなバリュー発揮できるだろう?と、本気で考える機会になる。

 

様々なボーダー間がコラボするXIPプロジェクト


—ハバタクはそういう機会のプロデュースをしているんですね。去年1年間だけで、50回も飛行機乗って、ASEAN中周っていたようですね。具体的に小原さんは何されてたんですか?

具体的には、現地の起業家に会いまくっていました。まさに、君たちみたいに“いいとも方式”でたくさん人を紹介してもらう。目的は、日本人が海外に出て行く時に一緒に価値を創造していくパートナーを探すためです。そのパートナーは日本でも話題になっている社会起業家。現地の社会問題を解決しようとしているソーシャルイノベーター達です。

彼らが日本人に何を求めているかというと、日本が持っているノウハウなんです。もちろん資金も必要ですけど、僕はどう見てもお金持ってなさそうなので求められません(笑)。日本が戦後に様々な社会問題を乗り越えながら、世界でここまでの豊かな国になった。そのウラにあるものを欲しがっています。

そんな想いをカタチにしたのが、Cross-border Incubation Platform(XIP)です。
現在、ホーチミン、ハノイで2つの社会起業家との共創プロジェクトが動いています。現地の社会起業家日本人の若者が最前線で社会問題に立ち向かい、日本からビジネス経験豊富な専門家がサポートしながらプロジェクトを進めています。

例えば、ベトナムの車いす利用者の生活を豊かにすることを目指すプロジェクト。ベトナム独自の事情に合った車いすを開発するベトナム人社会起業家と、日本人の新卒一年目の若者がタッグを組んで問題解決に取り組んでいる。

 

habataku_06(ハノイの練炭製造企業との協業プロジェクトの様子)


ー最前線にビジネス経験のない人を送るって、ある種の賭けだと思うんですけど、どうですか?


確かに現地の社会起業家からしたら「この課題にダイレクトに刺さる専門家を送れ!」となるよね。悠長に「若者の成長など知らん!」となる。でも、日本の最前線のビジネスパーソンを現地に連れて来て、草の根の起業家達1人1人あてがうことって現実的じゃない。彼らの生活もあるし彼らのビジネスもある。来てくれる人もいるとは思うけど、スケールしないですよね。

現地でつぶさに状況を見て日本にレポートするのはプロじゃなくてもできる。若さとエネルギーが何より重要で、情熱に勝るものはない。人は与えられた環境によって成長していくので、スキルは必ずついてきます。

現地の社会起業家に納得してもらうためには、若者のヤル気だけ持ってこられてもありがたいけど足りない。そこを、日本でビジネス経験のある精鋭部隊でサポートする。現地に行って社会問題を解決したいけど出来ない悶々としている日本人がいる。デキる人ほど要職に就いていて、行けなかったりします。

 

—国籍も違う、世代も違う、知識や経験も違う3者がコラボする素晴らしいモデルなんですね。社会起業家というと、table for twoの小暮さん、クロスフィールズ小沼さんなどたくさんの方が注目されてますよね。ある種の社会起業ブームのようなのが起きてますよね。

かつての文脈でいう、いわゆるビジネスエリート。(小暮さん、小沼さんはマッキンゼー。松田さんは大手コンサルファーム)そんな人達がアメリカ型経済成長の延長ではない部分に価値を見いだして、自分らしい生き方をしている。今までのメインストリーム層の優秀層がそういう分野に出て行ってるのは、日本が変わろうとしている証拠だし、今後の一つの活路なんじゃないかなと感じている。

ただ、見た目すごくキャッチーでみんなにスゴイね、と言われるけど、ここからが本当の勝負だと思ってます。社会問題を解決するサステイナブルなシステムを作って、それを続けていく。給料もそう。清貧な生活を送るのではなくて、経済性もとことん追求していく。

habataku_03

ー30代で注目されている社会起業家。個人的には小原さんもその中に入っているのではと思います。次の世代に、そのような動きを繋げていくためには、何が必要なのでしょうか?


いかにモデルとして成功し続けるか、それしかないと思います。お金を稼ぐことだけが成功ではなくて、自分が掲げているビジョンが実際上手く回ってるんだよ、と見せていきたいです。

もうハバタクも四期目に入りました。もっとハバタいていきます。随分早い段階で墜落してたぞ、そもそも離陸してなかったぞ、という風にならないように頑張っていきます。笑


—学生のうちにやっておくべきって何でしょうか? 

世界をもっと見るべきですね。現地人の価値観だったり、どんな社会環境で彼らが過ごしているかを見るためには、実際に行ってみる必要がある。

去年ベトナム人学生80名ぐらい集めて、TEDのようなイベントを開催しました。ミャンマー・ラオス・カンボジア・タイそれぞれから社会起業家や有名なビジネスマンを呼んでプレゼンしてもらいました。そして、「ベトナムを今後どうしていきたいか」というテーマで話し合う。

学生の意識が相当高くて、議論のレベルも高い。普通で英語でプレゼンもディスカッションもします。同じようなことを日本人学生がこのレベルでできるかは疑問です。おそらく、日本でずっと過ごしてきた人はバリューを発揮できる思っているでしょう。

口には出さないけど「ベトナムってまだまだこれからでしょ」と思ってたり、どこかで日本ってまだまだイケてると思ってる人が多いと思います。でも、個人のレベルで比べたらベトナムの方が上かもしれません。内に閉じこもっていたら、そういうことを気付くこともできない。まずは、自分の立ち位置を知るためにも世界に出た方が良いと思います。


ー最近は学生にとって機会が溢れすぎています。僕が1年生の時と4年生の現在で大きく変わったと思うのが、インターンをしている人の数。本気でそれがやりたいのか。将来に焦って周りに流されてる雰囲気もあると思うんですよね。

二極化しているんでしょうね。やりたいことがあって、その力をつけるためにインターンする人。周りがやってるから良さそう、と周りに流されてインターンする人。それって日本人らしいですよね。おそらく、2対8で8割がフォロワーだと思います。

インターンという経験自体が目的になってしまっては意味がありません。自立的に選択していく癖が必要です。一体自分は何をしたいのか、何を学ばなきゃいけないのか、と問うような癖をつける。そうすれば、「今行くべきなのか?インターンは国内なのか海外なのか?」と自分本位で考えられると思います。

 

(インタビュアー・文:鈴木佑豪)




ABOUTこの記事をかいた人

アセナビファウンダー。慶應SFC卒。高校時代にはアメリカ、大学2年の時には中国、それぞれ1年間の交換留学を経て、いまの視点はASEANへ。2013年4月から180日間かけてASEAN10カ国を周りながら現地で働く日本人130名に取材。口癖は、「日本と世界を近づける」