シンガポールでグローバルリーダーを体現するリーゼントマネージャー、岡田兵吾氏

 

「就職しても自分は自分であり続ける」そんな想いで就職活動を機にあえてリーゼントにして以来、19年間自分らしさを貫き通す岡田兵吾氏。人呼んで「リーゼントマネージャー」。マイクロソフトシンガポールにて、シニアマネージャーとしてアジア域内の事業開発、業務改善、組織改革を担当する傍ら、「ソーシャルチェンジ(社会変革)」を目指し、個人のCSR活動として、東南アジアにて貧困層向けボランティア支援、またシンガポール和僑会理事として起業家・起業家志望者を支援。日本にて、大学生や若手ビジネスマン向けの自律支援、グローバル人材育成に従事する。ダイヤモンド社のオンラインでは連載記事「STAY GOLD! リーゼントマネージャー岡田兵吾の「シンガポール浪花節日記」」を寄稿しており、Yahoo!ニュースBUSINESSランキングでも常に上位5位入りを果たし話題となっている。海外であくなき挑戦を続ける26人のビジネスパーソンの1人として選出され、ダイヤモンド社新刊『世界を動かすアブローダーズ』にも取り上げられる。また二宮和也(嵐)、吉高由里子、広瀬すず、指原莉乃などの撮影を手がけて来られた著名写真家、青山裕企先生の2016年発売企画『むすめと!ソラリーマン』のシンガポール版に世界の伝説の投資家であるジム・ロジャース氏、シンガポールの有名起業家である森幹雄氏と出演を予定している。

《プロフィール|岡田兵吾(オカダヒョウゴ)》
学生時代バックパッカーとして各国を放浪し世界への知見を深める。アメリカ交換留学中に公民権運動の母「ローザ・パークス女史」の草の根集会に参加し、社会の「改革者」を志す。卒業後、アクセンチュア(日本、アメリカ)、デロイトコンサルティング(シンガポール)、マイクロソフト(シンガポール)の世界トップグローバル企業で19年間、シンガポール・日本・アメリカをベースに活躍。現在はマイクロソフトシンガポールでシニアマネージャーを務める。現職マイクロソフトにおいては、CSR(社会事業)委員、組織・文化改革リードも兼任。
スペイン IE Business School エグゼクティブMBA取得(同シンガポールアルムナイクラブ初代会長)。シンガポール和僑会理事。ドラッカー学会シンガポール理事。開国アドバイザー。ダイヤモンド社のオンラインサイトにて「STAY GOLD! リーゼントマネージャー岡田兵吾の「シンガポール浪花節日記」」を連載中。

世界では、ビジョンを描き夢を語れるリーダーが求められている

―数々の大手外資系企業で活躍されてきた岡田さんですが、日本で働くことと海外で働くこと、どんな違いがありましたか。

組織の中の個人のあり方は日本と海外で全然違いますね。僕がアクセンチュアで某米国企業の日本展開プロジェクトのエンゲージメントマネージャーとして、9か国11名のグローバルチームをまとめ、日本人そして欧米、アジア人のクライアントとプロジェクト企画のミーティングに参加していた時、今もアジア域内のリーダーシップを担当しているパートナーである米国人上司に「俺のミーティングどうだった?」って聞いたら「It was ok, but not so perfect.」と言われた。お前のやり方はリーダーではない、と。

単に話を聞いて対等に話すのでは足りない。会話をつくる、更にそこから次のステージに持っていく。必ずしも解を出さなくてもいい、議論のレベルをより高いレベルに進める。それこそが海外で求められるリーダーのあり方だったんですね。世界に出たらみんなバックグラウンドはバラバラでしょ。グローバルリーダーとして多様な人たちを惹きつけるには、「この人について行こう、この人と仕事がしたい」と相手に思わせるほどのパッションやビジョン、人間としてのスケール感が必要なんですよね。

ここで大切なのは、言語ではない。外国人が完璧でない日本語を話していたら、そういうものだと思って聞くでしょ? 日本人の英語が流暢である必要はなくて、それより、その人がどんな信念を持っているか、何を変えようとしているか、そういう部分にリスペクトを感じさせられるかどうかなんです。
日本企業が海外企業を買収したのに、うまく統合されずに終わるケースがよくある。それは、日本企業側がリーダーとして信念、理念を提示できていないところに問題があるんだと思う。

チームを盛り上げて異文化の人たちを巻き込む能力という意味では、大航海時代から7つの海を渡り世界をリードしてきたためか、イギリス人が長けていると思います。若干の無礼さも含めて、異なる国籍、異なる宗教、異なる言語、異なるバックグラウンドの多国籍チームを引っ張っていくには、パーティーでダンスしたり歌ったりすることで仲間を楽しませる遊び心も重要になってくる。日本人は誠実なんだけど、オフの時の盛り上げ能力が弱いかな、と。

―海外のリーダーはビジョンで惹きつける、ということですが、日常的にどんな風にリーダーシップをとっているんですか?

日本では暗黙のうちに理解することが良しとされていて、質問するのはネガティブに捉えられますよね。「あ・うん」の文化が根付いている。一方、外国の社会って当たり前のことを聞いたりするし、どんどん聞くことによって会話を作っていく。留学するとわかるかもしれないけど、たとえば“I have a question.”と言って積極的にどしどしと質問する。

もうひとつ、全然日本と違う点なのは、海外に“ホウレンソウ”という概念はない。(ホウレンソウとは:報告・連絡・相談を表すビジネス用語。特に、部下から上司へのこまめなコミュニケーションを推奨する言葉。) なぜなら、リーダーとは、道を築くのが仕事だから。僕は3Cって呼んでいるんだけど、海外のリーダーは仕事を洗い出し(Clarify)、周りに指示をだし(Command)、進捗をチェックする(Check)。だからまず、リーダーやマネージャーといった上の立場の人間が先導しなければいけない。

―コマンド、って僕にはなんだか上から目線に聞こえます。コクリエーション(Co-creation)やコラボレーション(Collaboration)のほうが近いと思うのですが・・・?

あ、その表現もいいね。でもやっぱり、タフで強いリーダーががんがん作らなきゃいけない時があるからまずはコマンド。その先にあるのがコラボレーションですね。

okada_01(ランチタイムに積極的に同僚とコミニュケーションを取る岡田氏)

世界とのコラボレーションによって、日本はアジアのリーダー、そして世界のリーダーへ

―これまでのお話に出てきたグローバルリーダーに求められる資質は、日本のリーダーシップ像と大きく異なる気がします。日本人が外国式のリーダーに適応していく必要性はあるのでしょうか?

確かに、これまでの日本社会では、今言ったようなリーダーは少なかった。だけど日本は世界に出て行かないといけない。今はまだ日本の中間所得層は強くて、購買力で見ると世界の約10%を占めているけど、2050年にはこれが2~3%に落ちる(出典:OECD)。それを考えたらどんどん世界に出て世界で売っていかないといけないんですよ。2020~2030年、数字で見ると、世界の人口の半分はASEANやインドといった、日本を除いたアジアから来る。もはや、良いとか悪いとかという話ではなく、日本人は世界と共生して、コラボレーションしていかないと成り立たない。そうなると、やはり自分自身を変革していく必要が絶対にある。

アジアの醍醐味は経済成長という数字だけではない。例えば、アメリカは多様な州の集合体だけどひとつのアメリカ、ヨーロッパも結局EUに統合される均質性の強い経済圏となってるでしょ。それに対して、アジアは違う。国ごとに文化も言語も通貨も違えば市況も違う。市況なんかは国ごとに毎年変わる。そういう意味で、各国が日本にとって過去に経験したことのない新しい市場であって、複雑な地域だ。だからこそ、ここでのマネジメントはとてもユニークで、面白みがある。

これまで、日本企業はずっと北米志向、数年前までは中国志向で来ていた。でもね、経済産業省の白書でも出ているように、2005年以降、日系企業の対中国・ASEAN売上は対北米売上を上回っている。今後ますますASEANは日本にとって重要なビジネスパートナーになるよ。

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―ちなみに、そのリーゼントは岡田さんのご活躍に一役買っているとか…?

この髪型はね、就職活動の時に始めたの。それまではロン毛(長髪)だったんだけど、さすがに就職活動するのにロン毛はダメだろうと思ってね。ただ、「就職活動=社会に染まる」だと思ったのと同時に、もともと突っ張っているタイプだった僕は「自分を持ち続けたい、エッジを失いたくない」と考えた。そこで、当時好きだった海外の映画俳優を真似してリーゼントにした。

当然、社会に出たらいろんな人から文句言われたよ、「よいと思ってるの?」とか。でも、「これが好きなんで」と言って18年間やり通した。長年、柳屋ポマード使ってたんだけど、シンガポールに来てからのここ10年は、ギャッツビーのジェルにお世話になってる。シンガポールの湿気にも負けずにがんばってるよ(笑)。

―なるほど。20年間、人と違うことをやり通す岡田さんの意志の強さの表れなんですね。
では次に、日本人が、岡田さんのおっしゃるようなグローバルで通用するリーダーになるためにどんなことを意識すべきでしょうか。

まず、「日本人がアジアでどうみられているか」は、とても重要な点だから理解しておく必要があるよね。日本ってやっぱりアジアでは尊敬されているんだよ。先人たちが築いてくれた日本人というブランドがある。日本人というだけで信用できる人、手先が器用、きちんと仕事をする人、品質が高い、と思ってもらえる。これは大いに感謝すべきことだと思う。

確かに、外交上でのイデオロギーは別かもしれない。だけど個々人で見ると、日本食や日本文化が好きな人はたくさんいて、日本ブランドがあって、日本への憧れは確実に存在する。アジアでのリーダーシップが期待されている。
そんな、日本にとって活躍のチャンスが多いのがアジアなんだよね。さっき言及したように、その内実は国ごとに市況も文化も言語も異なる、多様性に富んだ場所なんだ。その意味では、チームを盛り上げて人を惹きつけることを苦手とする日本人には、今のままでは失敗しやすい場所だともいえる。
実際、最新のシンガポールの大学生に向けて実施された「就職したい企業ランキング」に、トップ100社に日本企業は入っていなかった。

(出典:Singapore's 100 leading graduate employers 2013)

今、アジアの新興国ではイギリスや日本が何十年もかけて達成した成長を一気に経験している。世界で起きている技術進歩、たとえば3Dプリンターなんかの出現も相まって、いいものはすぐに真似される。つまり、「日本だけが良いものを作れる」という時代ではなくなった。そういう時代だからこそ、日本人は世界とのコラボレーションを意識しないといけないんです。日本はアジアのリーダーとなり、そして世界のグランドデザインを作るレベルにならなければいけない。“Step up out of your comfort zone!”、リーダーになるためには、自分の居心地の良い場所から飛び出して、ステップアップする必要がある。

自分を変えられるのは小さな一歩の積み重ねだけ

―岡田さんとお話しをしていて、他の日本人との圧倒的なコミュニケーションの取り方の違いを感じるんですが、それがグローバルリーダーの秘訣でしょうか。

そうだね、コミュニケーションは必要に駆られて意識してきた部分だと思います。まず、大きな声と笑顔で挨拶すること。仕事が上手くいってないと、どんどん気まずくなってくるでしょ。でも、常に“Good Morning!”って大きな声で言っていると、言われた方は親しみを感じて笑顔になる。それを続けていると相手もオープンになってきて、結果的にいろんな人に助けてもらえるし、いろんな人を巻き込める。

もうひとつは、自分の実績をどんどん周囲に知らせること。海外でやっていく時には、個人として認められることが非常に重要になる。だから僕は自分のやってきたことをきっちり他の人から見えるようにしている。日本にいるときはそういう意識はしなかったけれど、やっぱり成果は見えるようにしなきゃ駄目で、オープンであることが大切なの。
目標とする上司と自分の能力のギャップは何だろうって考えてみる。メンターにも相談して聞いてみる。僕はそうやってコミュニケーションを磨いてきた。

もう一つ、大切なのは、相手のいいところを見つけて褒めること。人のことを褒めると、自分も真似しようという意識が生まれて、良いサイクルが生まれるようになるよ。
こういうスキルは、才能ではなく慣れと練習の問題だから、自分で意識して実践していくことが大切。

―日本では、自分の実績をアピールすることも、他人のことを褒めることも少ないですよね。謙虚さが尊重されるというか・・・。

うん、僕は謙虚にもする。日本人が相手のときは堅い言葉づかいでメールしたり、謙虚にしたり。というのも、大切なのは、相手に良い気分になってもらう。それが自分にもプラスに働くサイクルを生むことだから。

―最後に、これから社会に、そして世界に出ようという日本人学生にメッセージをいただけますか。

いま一歩踏み出せない人、いるじゃない。通用するんだ、と嘘でもいいから思って1年以内に海外に行くことにする。あるいは、行かないにしても、留学生に会ってみる、でもいいよ。会う前に、2時間でもいいから、その国のことが分かる本とか読もうよ。それだけやって、入ってみたらいいんじゃないかなと思う。とにかく、考えるよりも経験を積んだ方が、結局その人のためとなると思うから、どんどん色々なところに飛び込んでほしい。そのすべてのことがきっと、あなたの人生を輝かしてくれるから。

STAY GOLD!

 




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アセナビファウンダー。慶應SFC卒。高校時代にはアメリカ、大学2年の時には中国、それぞれ1年間の交換留学を経て、いまの視点はASEANへ。2013年4月から180日間かけてASEAN10カ国を周りながら現地で働く日本人130名に取材。口癖は、「日本と世界を近づける」