学生時代はヨーロッパに関心があったものの、マレーシア赴任をきっかけにASEANの魅力も感じ始める。ASEAN言語全ての翻訳を通してビジネスでの言語障壁をなくし、「こころ」と「ことば」を繋ぎたいと語る長田氏にインタビューした。最初のインタビューは2015年2月ヤンゴンにて行われましたが、2017年10月にアップデート内容を末部に追記しました。
《プロフィール|長田 潤氏》
1978年長野県生まれ。立命館大学文学部史学科卒業後、出版社での営業職を務める。西洋史に昔から興味があり、特にイタリアへの想いをこらえきれずにイタリアへ語学留学。帰国後は大手翻訳会社に勤務。2011年からマレーシアのペナンでの合弁会社設立立ち上げに責任者として赴任したのをきっかけに、ASEANの魅力を実感。翻訳を通してビジネスにおける言語障壁をなくし、ASEANと日本の活性化に貢献したいと思いミャンマーで起業。
目次
ASEAN言語全ての翻訳を手掛ける
―事業内容を教えてください。
主な事業はASEAN言語の翻訳と、ドキュメント制作です。単に翻訳するだけでなく、ウェブサイトやパンフレットの作成時におけるデータの入れ替えまで行い、最終的に印刷できるデータ制作までする、ということを行っています。例えば、日本語のパンフレットをミャンマー語に翻訳し、翻訳後にミャンマー語デザインを編集する、という流れです。また、翻訳支援ソフトを使った、大量翻訳も得意としています。さらには、言語に関わる新規事業も現在準備中です。
―ASEANの言語全てをこのオフィス内で翻訳しているのですか?
このオフィスではミャンマー語だけです。受注内容はほとんどがミャンマー語と日本語/英語の翻訳ですので基本的には全てここでミャンマー人社員と一緒に翻訳をしています。ミャンマー語以外のASEAN言語に関しては各国の登録フリーランス翻訳者にアウトソースしています。
(オフィスの様子。ミャンマー人社員とは普段日本語か英語で会話をしている。)
ヨーロッパ好きから、いつの間にかASEAN好きに
―ミャンマーに来る前はどんなことをされていたのですか?
実は私、もともとはヨーロッパ、その中でも特にイタリアが好きで大学でもイタリア語や西洋史について勉強していたのです。卒業後は出版社に入って営業をしていました。楽しかったのですが、語学とは無縁のことをしていたのでイタリアに関わる仕事をしたいなという気持ちはずっとありましたね。最終的にはその想いを諦めきれず、会社を休ませてもらってイタリアに語学留学をしてきました。
帰国後はホワイトカラー向けの職業訓練所で国際ビジネスマネジメントを学びました。その後もイタリアに関する仕事を探していたのですがなかなか見つからなくて・・・イタリア語を活かせるのはファッションやアパレル業界だけで、それらに門外漢だった私には無理だと思い諦めました。
イタリア語に特化しているわけではないけれども、翻訳にはずっと興味があったので、翻訳者になるためのステップとして、翻訳会社に入りました。その会社では7年間働いていたのですが、最後の2年半は合弁会社立ち上げの責任者としてマレーシアのペナンに赴任していました。現在のようになったのはこのマレーシアでの経験が大きいですね。
マレーシアに赴任する前までは今のように自分で会社を立ち上げようとはあまり考えていなかったのですが、そこでは立ち上げからスタッフ採用など、自分が判断しなければならない状況が多くありました。自らが起業しているわけではなかったのですが、起業に近い経験をさせてもらえました。この経験は大変ではあったものの、やりがいがあって楽しかったので起業することに興味を持ち始めました。
それと純粋にASEANがおもしろいなと!日本にいる時の閉塞感とは真逆で活気に満ちている・・・その2つの想いが重なって、ASEANで起業することを決意しました。最初はカンボジアやベトナムへ視察に行き、カンボジアでほぼ固まっていました。でも「最近ミャンマーもブームらしいからちょっと覗きに行ってみよう」という軽い気持ちで訪れてみると、考えが変わってしまったのです。
それには理由が2つあります。1つはミャンマーの翻訳業界は完全にブルーオーシャンで、競合がいないという点。今からミャンマーに根を張っておくと先行者優位を確立できるということに魅力を感じました。
2つ目はミャンマー人パートナーとの出会いです。実はこのオフィスもパートナー会社とシェアしています。このパートナー会社も日系でDTP*に関する事業をミャンマーで行っています。偶然その会社の社長と日本で出会った際にミャンマー支社を紹介していただいたのがきっかけです。私がやりたいと思っていたことに彼が共感してくれたので、ミャンマーで一緒にやらせていただくことになりました。
このパートナーとの出会いがなかったら、きっとカンボジアに決めていたでしょうね。ヨーロッパが大好きだったのに、いつの間にかASEANも大好きになってしまいました。(笑)
※DTP・・・Desktop Publishingの略で、出版物の原稿作成や編集、デザイン、レイアウトなどの作業をコンピュータで行い、印刷できるデータを作成すること。
外から日本を見てみることで見えるものがある
―日本の「こころ」と「ことば」を通じて東南アジアと日本をつなぎ双方の発展に貢献する、という企業理念、すごくいいですね。どうしてそのように思われたのですか?
日本人として、外国であるミャンマーやマレーシアそして、ヨーロッパも好きなのですが、なによりも私は日本のことが好きになりました。
それはマレーシアにいる時にすごく感じ始めましたね。やはり母国の良さは、外から見てみないと分からないものです。日本では当たり前だと思っていたことが、実は外国ではすごかったりします。
例えばちょっとした気配り。日本ならわざわざ自分が言わなくても相手がそっと配慮してくれますが、マレーシアではそういったことはありませんでした。同じことを何回も伝えたのにできないといったこともありましたね。そういうのを経験すると日本のビジネス慣習ってすごいなと。ミャンマーに比べるとマレーシアはもう先進国ですが、当時は日本とマレーシアを比べていたので正直イライラする時もありました。
そういった状況では日本の良さが際立つ一方、残念ながら悪い面も見えてしまいました。集団になった時の人に迷惑をかけるなという無言の圧力、ちゃんとしなきゃいけないというプレッシャーなど・・・典型例は、電車内で対面なら普通に話してもいいのに、電話で話すとなると白い目でみられることですね。何が違うのか未だに疑問です。(笑) そういった日本の良さと悪さを客観的に見ることができるようになって、両方含めて日本のことが大好きになりました。
しかし日本は今あまり元気がないように感じます。だから日本をもう一度元気にしたいなと思っています。今ミャンマーで私がしていることは別に特別なことでもなく、日本で同じことをしても全然影響力もなくすぐ失敗してしまう。でもミャンマーですることに意義があると信じています。このミャンマーでの事業を通してミャンマーと日本に少しでも還元できたらいいなと思いながら日々を過ごしています。
地元長野県とミャンマーの発展に貢献したい。
―なるほど。ASEANでビジネスをしておられる方々はその国と日本に貢献したいという共通の想いを持っておられるように感じます。長田さんはどういった形でその夢を実現させようとお考えですか?
まだ見えていない部分がほとんどですが、まずは地元長野県の活性化です。というのも近年人口減少が進んできていて将来が心配だからです。日本の本社はもともと東京にあったのですが長野に移動し、妻と子供も長野にいます。自分が地元長野のために何ができるのかと考えると、せっかくミャンマーにいるのだからミャンマー人観光客を長野に誘致したり、ミャンマー人を技能実習生として長野に送ったりすることかなと。まず今は本業の基盤を固めることで精一杯ですが、今後はそういったことにも取り組んでいきたいです。
何もないのがミャンマーの最大の魅力
―近年ASEANの中でも急に注目され始めたミャンマーの魅力は何でしょう?
まずは人ですね。よく言われることですが、勤勉で日本人の気質に似ているように感じます。ミャンマー人は優しい人が多いのでその人柄を感じにくるだけでもミャンマーを訪れる価値があると思います。
次は何もないということ。ほとんどの市場がまだまだ未開拓なので若い人が海外で何かやろうかなと思われたなら良い選択肢の一つだと思います。小資本でも参入できる、ということです。アイディアと行動力と少しのお金さえあれば十分ですよ。ただ、お腹が弱い人はやめた方がいいかもしれません(笑)。
2017年10月での内容アップデート
・翻訳事業については、インタビュー当時はASEAN言語専門、とうたっていたが、その後よりミャンマー語やミャンマーの少数民族語といったニッチな領域に特化することで、ミャンマー言語サービス企業No.1を目指している。
・2015年より若手起業家の少人数制の濃厚な集まり「ミャントレ塾」をスタート。5名のメンバーで定期的に集まり、お互いの進捗報告、課題シェア等を通して切磋琢磨している。
・2015年8月からはミャンマー語検定をヤンゴンで運営し始め、2016年からは東京でも開催している。まだ民間資格ではあるが、2017年から東京外国語大学ビルマ語専門の岡野准教授に監修者として就任してもらった。
・2016年4月からはミャンマーローカルメディアのニュースを日本語に翻訳して配信する会員制サービス「ミャンマーエクスプレス」をスタート。
・今後の展開としては、スマホのアプリを使用した新しいスポット通訳サービスを2017年内にローンチ予定!ミャンマー進出を検討する人が急増しているだけに、通訳のニーズが強まっているとのこと。
以上のように、2年半の時を経て、ミャンマーの成長と同じくらい、いやそれ以上に長田氏の事業も拡大しているようです!
株式会社ココライズ・ジャパン/KOKORIZE JAPAN LTD.