インドネシアの中間所得層に“Now Everyone Can Buy”な暮らしを。楽天を経て起業 VIP PLAZA CEO Kim Tesong 氏

2016.02.16

“Now Everyone Can Buy”というスローガンを掲げ、インドネシアの中間所得層にもブランド品に手が届くような、ECサイト『VIP PLAZA』を経営するのは、楽天インドネシアの立ち上げを経て起業したキムテソン氏である。 VIP PLAZAとはどのようなサイトなのか、そしてどうしてキム氏は起業したのか?インドネシアより一時帰国だった同氏に取材した。

《プロフィール|Kim Tesong/キムテソン氏》
早稲田大学卒業後、2008年楽天株式会社入社。2010年より同社インドネシア事業の立ち上げに従事。2013年退社後、インドネシア初のフラッシュセールスサイトVIP Plazaを設立。設立2年で社員数200人へ拡大させ、今後東南アジア各国進出を加速中。日本生まれ日本育ちで心はサムライ。

良いブランドが確実に最安値で!フラッシュセールサイト『VIP PLAZA』とは?

—現在行っている事業について教えてください。

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2014年2月ローンチをしたファッションのフラッシュセールサイト『VIP Plaza』を運営しています。

フラッシュセールを簡単に言うと、「VIP Plazaを訪れたら、良いブランドが確実に最安値で手に入る」ということ。

このサイトに載っているすべての商品が10日間限定のセール品で構成されていて、新しい商品は毎朝10時に出品されます。そうすると、毎日買える商品が変わるので、ユーザーがサイトを毎日訪れる理由になるのです。

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「良いモノを最安値で」というのを売りにしています。

今って、インドネシアの人口の多くを占めているのは、まだまだ低所得者層。しかしこれから、その低所得者層が中間所得者層に上がってきて、ある程度ファッションにお金を使うようになってきます。そんな時に、VIP Plazaを通してブランド品を“affordable”(手に入れられる)にしたいのです。

エアアジアのスローガンは ”Now Everyone Can Fly”、我々の場合は “Now Everyone Can Buy”を目指しています。

 

つまりターゲットは中間所得層なんですね。

そうですね。月給2万円〜30万円くらいの人たちです。

細かく話すと、主に18~35歳の男女、都市部に住んでいてホワイトカラーの仕事に就いているか、主婦がターゲットになる。そういう人たちは、インドネシアの人口2億4000万人のうち6000万人、4分の1ほど。それがこれから3分の1、2分の1へと増えていくから、その大きなマーケットを狙っています。

 

—Eコマースの中でも、どうしてフラッシュセールという手法に至ったのでしょうか?

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インドネシアではEコマース市場が混み合っているし、楽天出身なのでそこと競合してはいけないと思って、モデルは変えようと思っていました。

起業する前は楽天インドネシアの立ち上げを行っていたので、インドネシアでどんなものが買われているかということは把握していました。Eコマースって、最初はPCやスマートフォンなどのガジェット商品がよく売れるんですよ。ただ成熟してくると、ファッションが1番大きくなってきます。だいたい3~4割くらいでしょうか。

先進国の場合、ユーザーはポイントを貯めるのが好きな傾向にあります。日本だったら、楽天ポイントとかTポイントとかありますよね。一方で、インドネシア含めASEAN諸国だと、ポイントを貯めるくらいだったらその分値引きをしてほしいという気持ちが強い。つまり、ポイントを貯めることがメリットに成り得ないんです。

ディスカウントをして最安値で売り切っちゃうだけだと、いつまで経っても利益は出ません。だから、毎日新しい商品が上がっているというモデルでユーザーのリピート率をあげることによって、*ライフタイムバリューを高めることができる。これなら、インドネシアに合うモデルなのではないかと思って、フラッシュセールという手法を選んだのです。

*ライフタイムバリュー・・・企業と顧客が継続的に取引をすることによって、顧客が企業にもたらす価値(利益)を指す。

 

創業メンバーを口説くのに8ヶ月!立ち上げエピソード

ー社員の方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?

今(2015年末)、200名ほどですね。インドネシア人がほとんどで、マレーシア人、フランス人などが働いてくれています。日本人は他にいません。

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なるほど。起業してサービスを作ろうと思った時の創業エンバーはどのように集めたのでしょうか?

創業時のマネージャー層はLinkedInを使ってヘッドハンティングをしました。

というのも、ファッションサイトなので商品をメーカーから仕入れる必要があって、そのためにはそれなりのコネクションと営業力が必要で。VIP PLAZAでは在庫の買い取りをしていません。それはどういうことかというと、商品が売り残ったらメーカーに返します、というモデルなのでメーカー側としてもリスクを負うことになるし、よっぽど良いメディアじゃないと商品提供をしてくれないのです。

だから、コネクション・営業時の頭の回転力が持ち合わせていて、かつスタートアップで働ける素地があることを選択基準にして、創業メンバーを選びました。

けれど、一緒に働きたい人を説得するまでに8ヶ月かかったんですよ!その人は日本で言う伊勢丹みたいなデパートで10年間カリスマバイヤーをやっていた女性で、雰囲気は渋谷109の階段にキティちゃんのサンダルを履いて座ってそうな人なんですけど(笑)、僕が求めていた条件に合っていました。

でも、まだサイトのローンチもしていないし、給与も高く払えないですし。だから断られてしまって、それから8ヶ月間、毎月会って説得をしていました。

デパートをやめて、日本で言うBEAMSみたいなイケてるブランドで働き始めたみたいだったんですけど、途中で飽きてしまってアメリカに行ってしまって…(笑)。それでも毎月Skypeをして話をしている内に納得をしてくれて、インドネシアに帰ってそのままジョインしてくれました。それくらい、チーム作りには時間をかけましたね。

IMG_3366(共同創業者の3人)

—8ヶ月も説得し続けるってすごいです。VIP PLAZAを通して、何か成功体験はありましたか?

たまにこういうことが起きるわけですよ。

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主婦がインスタでつぶやいてくれたんです。VIP PLAZAってハッシュタグを付けてくれて。

僕らはインドネシアの中間所得層の人たちに、すべてをAffordableにするために事業を行っていて、そのドンピシャな人に届いているのを見ると、本当に嬉しいですね。

 

それいいですね! 反対に、大変なことはたくさんあると思うのですが、特に印象に残っていることってどんなことですか?

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創業時の営業の時が大変でしたね。

サイトローンチの4ヶ月前から営業を始めて、30店舗のブランドが掲載されている状態でローンチをしようという目標を掲げました。かなりの活動量と、数多くのアプローチはかけていたのに、3ヶ月間1つも取れなくて。

まだサイトのローンチもしていないし、見せかけは余裕ぶっていましたが、内心ではめちゃくちゃ焦っていました。 「オープンする前に潰れてしまうかもしれない!」という風に。

けれどある時、ナイキ・アディダスのディストリビューター(卸売業者、販売代理店)と、インドネシアで有名なレディースブランドが契約してくれたんです。それからというもの一気に成約率が高まって、目標こそ達成できなかったものの20社ほどの契約を勝ち取ることができました。

 

「もっと広い世界を見たい」と思った学生時代

それでは、テソンさんが起業に至るまでの経緯を伺っていきたいと思います。

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祖父母の代が韓国から日本に移住してきてからキムファミリーは150人くらいいるんですけど、全員自営業なんですよ。未だに、サラリーマンが1人もいない。ぼくは三男だったこともあり若干ひねくれていたのか、違うことをしたかったんです。

だから、朝鮮幼稚園、小学校、中学校を卒業した後、高校は日本の高校に進学しました。ずっと朝鮮系のコミュニティで生きてきたから、周囲からの反対も受けました。でも、進学のための早稲田アカデミーに通ったら、周りの同世代の人たちが分け隔てなく接してくれて。それまで受けていた教育から感じていた日本に対する恐怖は、その時に消え失せたんです。

そこで思ったのは、偏った情報だけで何かを決めることはあぶないし、カッコ悪いなあって。

その強烈な体験があったから、「もっと広い世界を見たい!」と思うようになり、大学に入ってからはルーツである韓国に行ったり、アメリカ留学したり、世界中を旅したり。就職するときには、国際的なビジネスの立ち上げをしたいと思っていたので、楽天を選びました。

日本で2年働き、そのあと楽天インドネシアの立ち上げの話を受けてインドネシア渡航を決めました。

 

なるほど。楽天でインドネシアに駐在してから、どうして起業を思い立ったのでしょう?

家族がみんな自営業な影響もあって、3歳くらいの時から自分で稼がなくては、というように漠然と思っていました。

起業に踏み切ったきっかけとしては、まずインドネシアで3年ほど働く中で、マーケットのポテンシャルを感じていたことがあります。それから、インドネシアの財閥の御曹司たちが、めちゃくちゃお金持ちなのにめちゃくちゃ勉強してめちゃくちゃアグレッシブで、どんどん起業しているのを見たのです。

そこで、「自分はなんて小さいんだろう」と感じて。そういった環境に自ら身を放り投げて惨めさを感じないと成長しないと思ったので、「じゃあ自分もやろう」と思い立ちます。楽天インドネシアで得た経験がとても役に立ちました。

 

「とりあえず飛び込む人は、自分に大切なものを定義できていない人」

—2016年は会社にとってどんな年にしたいですか?

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社員数500名ですね。

そして、インドネシアでナンバーワンになって、大きな資金調達をした上で、新たな国に展開したいです。次は、若い人口の多いフィリピンを考えています。

 

これからのビジョンって何かありますか?

1つあるのは、5ヵ年計画の達成。売上・トラフィック・コンバージョン・客単価・コスト目標を毎月細かく決めているので、それらをすべて達成していきたいです。

良いブランド良い商品を、より多くの中間層に届けていくことは言うまでもありません。

よく思うのが、日本出身の起業家で海外で成功した人ってあまり思いつかないですよね?そこはがんばりたいです。

海外にいると、「日本人」というだけでなめられることが往々にしてあります。「どうせビジネス進まないんでしょ?」「仕事は丁寧だけどスピードは遅いよね。」って。悔しいですよね。

 

最後に、ASEANで起業をしたいと思う20代に向けてメッセージをお願いします!

ぼくが言えるのは、むやみにやたらに飛び込まないほうがいいということ。「仕事を全部辞めてとりあえず来ました」って言っても、勇敢じゃなくて無謀なだけな場合がほとんど。

何も考えずに飛び込む、というのは、自分に大切なものを定義できない人なんだと思います。ASEANで起業したいなら、そのためにどこの会社に入るのが適切で、どういうアプローチができるかどうかが逆算できるはず。20代の大切な時間を有効に使って、自分にとって何が大切なのかを見極めてから来ることをおすすめします。

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【編集後記】
インタビューのさいご、キムさんはこのように語ってくれた。「日本人の持つマジメさ、礼儀正しさ、仕事の細かさはダントツに良い。」ただ、一方でスピードが遅かったり現地を巻き込めなかったりして、撤退してしまう日系企業が多いことも事実。良さを活かしながら、スピード感を持って現地の人を巻き込めるビジネスを行うことが、「海外で成功する起業家」を生み出す条件なのかもしれない。
謙虚な姿勢を保ちながらも目線を高く持つ金さんから、大切なことを学ぶことができた。