【社会起業家特集】若者に希望と機会を。教育×マイクロファイナンスで自立支援をおこなう社会的企業、YCAB Foundationに迫る。

2017.03.16

社会起業家 from Indonesia 特集第9弾です!

特集も終盤。最後まで、現地の社会起業家の熱い想いを届けていきます!

インドネシア滞在時、ランドリーに預けて洗ってもらっていたのですが、その際に受付をしてくれたのが、10歳くらいの少年でした。インドネシアでは、学校までの交通費が払えないことや子どもが家族の生活を支えるために働かなければならないなどの理由から、学校に通えていない子どもが250万人います。

今回は若者に教育の機会を与え、さらには経済的自立を支援するYCAB Foundationを設立した社会起業家、Veronica Colondam氏の取り組みを紹介します。

《プロフィール | Veronica Colondam氏》
イギリスのImperial College と London School of Hygiene and Tropical Medicine で社会科学の修士号を取得。INSEADにて社会起業家の研修を受け、Harvard’s Kennedy Schoolにて教育とグローバルリーダーシップコースを修了。

1999年にYCAB ( Yayasan Cipta Anak Bangsa ) Foundationを立ち上げ、CEOを務める。2001年にUN-Vienna Civil Society、2009年に、 Asian of the Year, 2012年にはSchwab Social Entrepreneurを受賞するなど社会に大きなインパクトを残している。

(参照:Indonesia Tatler)

非営利組織から社会的企業へ

取材メンバー

Veronicaさんは10代の若者が薬物濫用をしたりHIV/AIDSなどに感染したりする割合が増えていたこと、また、数百万人もの子どもたちが学校をドロップアウトしてしまっていたことに問題意識を持ち、1999年にYCAB Foudation (以下YCAB)を設立しました。

現在、健康、教育、経済の面から若者やその家庭を支援しているYCABですが、設立当初は健康事業からスタ-トしました。啓発活動を通して若者が薬物乱用をしたり、HIV/AIDSに感染したりすることを防ごうとしたのです。

今でこそ、世界中に名を轟かせているYCABですが、事業を拡大していく過程には、大きな困難がありました。

財団を設立した1999年という年は、インドネシアが大きな打撃を受けたアジア通貨危機後まもない頃です。非営利組織であったYCAB Foundationは多くのNGONPO、その他のボランティア団体と同じように資金調達に苦しんでいました。

特にYCAB Foundationが取り組む教育という分野は継続的に社会的インパクトを与えつつ、経済的、財政的に組織を存続させていくことが困難であることが多いのです。

教育に投資することは、子どもや国全体、そして世界の未来へ投資することですが、効果が目に見えるのは数十年後と長い期間を必要とするだけに企業、政府ともに投資するのをためらうこともあります。

そこで、YCAB Foundationは教育の事業を拡大するにあたり、完全に外部からの寄付に頼る方法では難しいと判断し、収益を出す仕組みを整え非営利組織ではなく、より持続的な経営を行うことができる社会的企業に組織変革しました。

収益が出たことで、インドネシアの多くの若者に届けることができました。2007年には YCAB International 株式会社をジョージア州アトランタに設立し、パイロットプロジェクトをアフガニスタン、モンゴル、ミャンマー、パキスタン、ウガンダでも展開しています。

教育の場を提供する

参照:YCAB Foundation HP

Veronica Colondam氏 

ここでは、どのように持続可能な組織に変革したのかを具体的に見ていきます。

啓発活動に止まらず、2003年からドロップアウトをしてしまった若者向けに英語やデジタル教育を含む基本的な教育を受ける場を提供しています。しかし、今まで以上に経費がかかってしまうため、自ら資金を調達しなければなりません。そこで、考え出したのが、以下の図のようなビジネスモデルでした。

現地調査を基に作成

現在YCAB Foundationは大きく分けて、内部収入と外部収入によって組織運営されています。内部収入はBusiness UnitsYCAB Cooperativeによって成り立ち、 外部収入は企業からのCSRや個人の寄付や投資によって成り立っているのです。

YCAB  Foundationの内部収入を支える1つ目の事業であるBusiness Unitではショッピングモール内で商業的ゲームセンターや美容クリニックを経営しています。これらの商業的活動は必ずしも社会的である必要はなく、あくまでYCAB Foundationの活動を支えるために利益を生み出す事業です。

Business  Unitによって得られた利益はYCAB Foundationと共有されます。またBusiness  Unitには地益を生み出すことに加え、教育支援を行った学生を積極的に雇うことにより卒業後の就職先としての働きをしているのです。

 

家庭環境を変える

YCABが運営する教育施設にて

自ら収益を出す構造により、多くの若者に教育を届けることが徐々にできるようになりました。しかし、交通費が高いこと、自らが稼ぎ手であることで学校に通えない子どもたちがいます。そういった子どもたちが学校に通うようになるには、家庭環境を変えなければならないのです。

そこで、YCABは、経済事業としてYCAB Cooperativeという母親に対するマイクロファイナンスを始めました。母親はマイクロファイナンスを受け、織物や屋台などの小さなビジネスを始めます。結果、家庭の生活の質を高めることでき、子どもは学校に通うことができるのです。

マイクロファイナンスは寄付として行っているのではなく、あくまでもローンであるため母親は借りた金額に加え、少額の利子をつけてYCAB Cooperativeに返済しなければなりませんが、返済率は98%を超えています。また、YCAB Cooperativeによって得られた利益はBusiness  Unitと同様にYCAB Foundationと共有されています。

マイクロファイナンス:貧しい人々に対し無担保で小額の融資を行う貧困層向け金融サービス。(参照:日本貿易振興機構 アジア経済研究所)

1999年設立当初、約10名で事業を始めたYCAB Foundation。現在は650名以上の有給スタッフを抱える社会的企業となり、毎年3,000人以上のボランティアがサポートをし続けています。

今までに、280万人の子どもたちに教育の機会を提供し、30万人に経済的支援をしてきたYCAB Foundation。今後も事業を拡大し、2020年にはプログラムを10ヵ国の500万人に届けることを目標としています。今後もYCAB Foundationの動向に注目です!

参照:YCAB Foundation HP

 

取材後記

私も教育分野に興味があるので、今回の取材で多くのことを学ぶことができました。教育分野に取り組むNPOの多くは寄付金等に頼ることが多いですが、YCAB Foundationは、運営資金を寄付金だけに頼らず、自ら生み出した収益で賄っています。そこが私にとって大きな発見となりました。

また、子どもたちを学校に通わせる環境を創る際に家庭に注目した点も大きな発見でした。4月から雇用に関わる仕事をするので、雇用という面から教育に取り組むアプローチについても考えていきたいです。

 

取材メンバー:佐藤 雄紀、松本大樹、Yolanda Marta Kartika

執筆・編集:井上良太、松本大樹

 

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【社会起業家特集】社会問題を解決することは自分自身の問題を解決すること eFishery, Gibran Huzaifah氏

 




ABOUTこの記事をかいた人

井上良太

中央大学商学部経営学科卒業。大学2年の夏にカンボジアに訪れたことがきっかけでASEANや教育、国際協力に興味を抱くようになる。 3、4年次のゼミでは社会問題を事業で解決している社会的企業を専攻し、インドネシアの社会的企業とのネットワークを広げていた。 現在は株式会社パソナの社員として雇用を通じた社会貢献の方法を勉強中。 将来は国内外で社会的企業のプラットフォーム作りに関わりたいと考えている。