インドネシアで経験した新規事業立ち上げとコーチング。そこから見えた人材の可能性とは? 下釜創氏

2017.04.24

ASEANで働く、その先へ」いよいよ第7弾です!

特集の最後として、駐在員としてインドネシアに赴任、新規事業を立ち上げ後、日本でFintech×地方創生に取り組む下釜創氏にお話しを伺いました!

《プロフィール|下釜 創(しもがま そう) 氏 》
LIFULL HOME'Sを運営する株式会社LIFULL(旧ネクスト)に勤務。不動産会社のネット広告のコンサルティング営業を行い、東京、大阪、名古屋と各拠点を経験。入社2年目に年間トップセールスを受賞。その後、全国47都道府県を開拓エリアとし、事業提携を担当。次にインドネシアに赴任し、新規事業の立ち上げを行う。2016年4月よりLIFULLの出資先である株式会社JGマーケティングに出向し、新規事業を立ち上げ中。人生のビジョンは、「人の人生のターニングポイントとなる機会や場を創出すること」。

インドネシアで経験した暗闇

インドネシアの現地で働くメンバー

ーさっそくですが、インドネシアで働くまでの、キャリアについて教えてください。

LIFULL HOME’Sという不動産広告サイトを運営している会社に新卒で入り、最初の半年間は不動産会社へ新規営業。LIFULL HOME'Sのコンサルティング営業を行いました。

社員が500名ほどの東京で働いていましたが、もっと裁量を持って働きたかった。毎回のキャリア面談の際、上司や人事に伝え、半年後、社員が30名ほどの大阪に行けたんです。大阪では実際にHOME’Sを利用している方向けにネット広告のコンサルティングをしていました。

そして半年後、名古屋に行き、東海マーケットの責任者として、新規事業も既存事業もやっていました。

 

ー国内でされているお仕事が充実しているように思いますが、なぜインドネシアで働こうと思ったんですか?

学生時代からアジアや欧米に旅や留学で行く機会があったので、海外で働くことは興味がありました。でも一番の理由は、海外で新しくゼロから立ち上げていく環境に飛び込みたかったからです。

当時LIFULLは海外の拠点があっても、発展途上国での事業はこれから立ち上げる段階でした。入社初日に海外の準備室に行って、責任者の方に、「私はとにかく海外に行きたいです」という話をさせて頂きました。

その際に言われたのが、「二つ大事なことがある。一つ目は、圧倒的な成果を出す。あとは現地で新規事業を立ち上げるためにマネジメント能力を身につけてほしい。そのためには最短で結果を出してくれ。」ということ。

最短で営業の結果を出そうということを決意して、実際2年目で年間トップセールスを達成しました。結果的に4年目でマネージャーになることができたので、海外に行くチャンスを得られたんです。

当時の海外拠点はインドネシア、タイ、台湾。場所へのこだわりはありませんが、海外拠点の中で一番チャレンジングだと言われていたのがインドネシアだったので、インドネシアに行きたいと思いました。

 

ー実際にインドネシアでの業務内容を教えてもらえますか?

業務内容は新規事業に関する全てです。面白いことに「不動産とか関係なくていいからインドネシアの不を解消する事業を一つ創ってこい」と言われていたんです。

新規事業を創るときに大事なことは、どこの業界に解決すべき課題があるかを特定していくこと。どこに稼ぐ領域があるかという観点ではなくて、人々が抱える不満、不安、不便を見つけていきます。

なので、データやインタビューから得られたデータ情報を基に、その課題が環境、医療、教育、不動産、金融など、どこの領域にあるか探しました。その結果、教育や採用の領域で採用サイトを作ることができそうだという結論になったんです。

その後は具体的にターゲットの選定やプロモーションの仕方を盛り込んだ事業計画と収支計画を作って、日本の経営会議に出しました。経営会議で通ったので、もともといた社員と2人で採用からインドネシア語で電話のテレアポ、営業など、全部やっていました。

 

ーその業務をたった2人でやっていたんですね。そのサービスは今でも続いていますか?

そのサービスに関しては、実は外部・内部的事情により継続は難しいという判断になって、事業撤退しました。

そこからは、長い間悩んでいましたね。私は1年間という長くはない駐在で新規事業を立ち上げる必要があったんです。しかも4月に赴任してすでに9月を過ぎていました。駐在員というのは家賃もハードシップ手当も出る。要は普通よりもお金を貰うわけです。だから、ものすごいプレッシャーがあったんです。

ただ新規事業って答えがない。洞窟の光が何もない暗闇の中、どこに進んでいいかわからない状況でした。暗闇だから、どっちに行けばいいか誰も教えてくれないし、ライトもない。どこに進んでいくかっていうヒントもない。

どうするかっていうと、立ち止まるか、適当に歩くしかない。私は仮説・検証をして、「こっちなんじゃないか」って思って適当に進むわけです。「今までこっちに進んでだめだから、こっちしかない」と思い別の方向に進むと、壁に当たる。

暗闇の中、「あ、こっちじゃなかった」と思って別の方向へ行っても、結局壁に当たるわけです。日本より圧倒的に情報量も少ないし、答えを知っている人も少ないし、事例もない。何をしたらいいのかわからず、最終的に立ち止まってしまいました。

何やってるんだって責め続けて、責めて責めて朝から晩まで時間が過ぎる。ノイローゼになっていた時期でしたし、もうやめようかとも思っていました。

ブレイクスルーをおこしたコーチング

インタビュー中にPCを使って説明していただいた様子

ーどうやって乗り越えたんですか?

コーチングがブレイクスルーを起こしてくれたんです。

人は感情に支配されている割合が多く、自分のメンタルトレーニングとかイメージトレーニングによって、最高のパフォーマンスを発揮できるようになります。それがコーチングというものなんです。

パフォーマンスを出すために重要なのが目標設定の仕方です。私は10月末、ノイローゼの時に自分自身が今どういう状況で目標が何であるのかを明確にしました。次にその目標を2月1日にローンチすると決意しました。

その際に重要なのが、対自分だけじゃなくて、対社会・対他者を考えること。例えば、私は出世の為にこの事業をやっていますと言っている人と、インドネシアでこんなことに困ってるから、この事業によって解決したいんですって言っている人、どっちがインドネシア人とか周りの人から応援されるかというと、後者ですよね。

より多くの人を救うとか、多くの人の役に立てるとか、そういったものに対しての方が共感を得やすいわけですよ。なので、実際ここを描けば描くほど、まわりからの協力も仰ぎやすいです。

 

ー目標設定する時に気づいた自分の失敗要因は何だったのでしょうか?

周りに頼らず、自分で全て解決しようとしたことです。

私の前から駐在していたインドネシア支部の代表は長く事業をやってきたわけですし、実際に能力も高いので、代表をもっと頼ってもよかったわけですよね。でも私はその時は自分でやらなきゃいけないという思い込みが強く、自分でやろうとしていました。でも、今までを振り返ってみると、実際上手く行っていっていた時って、弱みをまわりに見せて、周りを巻き込んでいた時なんです。

 

ーコーチングを受け、目標設定をしたあと、パフォーマンスを高めるにはどうすればいいのでしょうか?

発揮率を上げること、これはメンタルで解決できます。

パフォーマンスの定義は「能力(スキル)×発揮率」。だけど、めちゃくちゃ能力がある人であっても体調が悪い時、圧迫の中だと発揮できないことが多いです。

つまり、悪い状態だとパフォーマンスは発揮されないってことです。当時の私も、ストレスがありすぎてノイローゼになっていて、発揮率は、限りなくゼロに近い0.1とかでした。スキルが仮に100あっても発揮されてるのは10。

大事なのは、自分が上手くパフォーマンスを出す時のパターンで細かく書きだし、行動計画に落とすことです。基本的に人は行動を取ることによって結果が出るわけですよね。

ということは、いい結果が出ている時の行動を見れば、基本的には上手くいくわけです。それを具体的に日々ルーチンにする。

 

ーそもそも能力(スキル)ってメンタルで解決できるのでしょうか?

できます。実は僕も最初はコーチングでは解決出来ないのでは?という懐疑心はありました。

やり方としては、まず目標達成する為に、欲しい支援者と具体的な支援内容を明記します。自分の中で、これを達成する為に足りていない技術がいくつかあります。海外でのWebマーケティングやファイナンス、色々あるわけなので、それを持っている人の力をどう借りるか?という発想をします。協力を頂くためにはどうするか。「私はこんな決意をもって、とにかくこんなことをやりたいんです。だからこそ、あなたにこれをお願いしたいです」という話をすると、人は貢献したいという想いが基本的にあるので、喜んでくれる場合が多いです。つまり能力はご協力して頂くこと補完は可能です。

しかし、根本の想いや情熱は変えられません。自分の中にしかないのです。

このような形で私もコーチングを受けて日々の行動に移していったら、光が見えてきたんですよね。そして1月に初めてインドネシアに、新しいサービスを生み出すことができたんです。

※新しいサービス:インターネット上でリフォーム業者とユーザーをマッチングさせるプラットフォーム (参照:レアジョブHP)

つまりマインドが目標を立てるきっかけとなり、やりきる原動力になるということ。実際私の場合、事業の計画よりも早くローンチして、さらに事業計画で見込んでいた成果よりも250%達成が出来たんです。今ではサービスがインドネシアにどんどん拡大している状況です。

インドネシアの首都、ジャカルタ。高層ビルが目立つ

ー1年以上インドネシアに駐在して、サービスの拡大をしたいとは考えなかったのですか?

もちろん、残ってそこから拡大するイメージもありました。マーケットとして出来上がっていない海外で、未来に対する事業を創るということ、困っている人が大勢いる中で課題を解決するということは凄く楽しかったです。

でも、海外で1年間やった中で思ったのが、「誰のために何をやりたいのか」ということでした。

なぜそう思うかというと、私は大学3年生まで全く自信なくて、自分の人生に絶望しかない自己否定が激しい人間でした。「夢」なんて言葉を発することできない人間だったんです。

それが機会や出会いによって変わったんです。営業でトップを取れたりとか。そういう風な場とか機会を作るのは教育。私はそれを本気でやりたいと思えたんです。

人生って有限ですよね。私たちはその時間を、命を削りながら生きている。

その時間を誰に対して、どんなものを届けたいかって話をしたときに、学生時代に出会った人やコーチングによって変わったということがあったので、同じような境遇、自分と同じように思っている人に伝えたいんです。

インドネシアに1年間駐在したことで、日本で、日本のためにしたいことを改めて考えることができました。

 

ー現地のマネジメントとして駐在する中で、気を付けていたことはありますか?

横の目線です。これは日本でも同じですが、どれだけ自己開示して相手を尊重してできるか、その人たちの文化や人生に対して、まっすぐ向き合えるかが大切だと思っています。

私が伝えていたのは、能力とか経験はもしかしたら私の方があるかもしれないけれども、インドネシアに関しては君の方が経験豊富だと伝えていました。

日本だと、プロジェクトの進め方等の手法レベルで相手とぶつかることが多い。でも、インドネシアだと、手法の前に宗教観とか仕事に対する価値観レベルで相手とぶつかってしまうんです。

なので、価値観と手法で共有できる部分を探す。このために横の目線を大切にして自己開示と相手を尊重することを大切にしていました。

次世代の可能性を広げる

下釜さんとインドネシアの子どもたち

ー実際に帰ってきて今、どんなことをやっていらっしゃるのですか?

大きく2つやっています。1つは、LIFULLが出資しているベンチャー企業で地方創生とフィンテックを掛け合わせた新規事業の立ち上げです。

インドネシアでゼロから事業を創るという経験は非常に活きています。立ち上げ、プロモーション、失敗、改善。事業の創り方は一通り見えていると思います。

もう1つが、インドネシアでやってもらったコーチングを、今度は誰かのためにやるということ。コーチングを受けて、人の可能性がすごく広がると思ったんです。そのために私自身も社内でコーチングを活用したり、勉強をしています。

社外では、就活生向けや社会人向けにコーチングを用いたイベントを行ったりしております。

人の人生のターニングポイントを作るときにアプローチは大きく二軸あると思っており、それは「深さ」と「広さ」です。一人一人に向き合って対面でコーチング・カウンセリングをやると深いレベルで関わる事が出来、人の人生は大きく変わります。

さらに多くの人に広めるためには、仕組みやサービスが必要です。また、対面で会えてかつ広がりが大きく人が大きく変わるのはコミュニティだと考えています。だからこそ、今は人の可能性を広げるコミュニティづくりに挑戦をしています。

 

ー人材に関わるイベントをするようになったきっかけは何なんですか?

自信がない自分を変えたかったんです。私自身、学生時代に色んなイベント行っていたんですね。あるとき、アクティブラーニングの理論を日本に入れている方が監修している学生団体のイベントに参加しました。

そこにいる学生のプレゼンテーション能力とファシリテーション能力が超高い。その時、「この学生団体で変われるかもしれない」と思ったんです。それでその学生団体に入って自分が変われた。だからこそ、「変わりたいと思っている人に対して変われる場とか機会を作りたい」というのが、私の人生ビジョンになりました。

 

ー海外でも今後事業をしたいというのは人材育成ですか?

そうですね。オンラインとリアルの場の両輪で変わりたいと思っている人の心とか考え方を広げていきたい。そうすることで関わった人のパフォーマンスや人間関係を改善していきたいです。

インドネシアでの経験は貴重でした。最初立案した事業は、海外で働きたいという憧れから自分のために事業をした、つまり、本質的な顧客のニーズを捉えきれていなかった。

でも、インドネシアで新規事業をやる中で、コーチングに出会って変われた。コーチングは事業開発やビジネスにおいて凄く大切だと気づいたから、それを今度は伝える立場になりたい。より多くの人に伝えて、よりよい日本、世界のために発信していきたいですね。

 

ー最後に下釜さんにとってASEANとは何ですか?

可能性の塊。

ASEANは、まだ未開拓な分野も多くあり、これからますます広がっていくマーケット。ビジネスチャンスは凄くあります。私自身、それが面白かった。

今もインドに行く人のサポートをしていますが、今後はアジアでビジネスしたいっていう人を後ろからサポートをしていきたいです。

人生、途中で諦めるか、突き進むかどっちか。1回の人生なので、突き進んでいきたいですね。

 

取材後記

今回、取材させていただいたことで、ASEANでのキャリアがその先にどう生きるのか考える大きなきっけとなりました。

私もインドネシアに駐在し、対社会のために事業をおこなうことを目標にしています。4月からメンタルを鍛え、周りを巻き込んで事業をおこなうことができる人間に成長していきます。

取材 井上良太 小尾篤史




ABOUTこの記事をかいた人

井上良太

中央大学商学部経営学科卒業。大学2年の夏にカンボジアに訪れたことがきっかけでASEANや教育、国際協力に興味を抱くようになる。 3、4年次のゼミでは社会問題を事業で解決している社会的企業を専攻し、インドネシアの社会的企業とのネットワークを広げていた。 現在は株式会社パソナの社員として雇用を通じた社会貢献の方法を勉強中。 将来は国内外で社会的企業のプラットフォーム作りに関わりたいと考えている。