2016.04.02
旅やインターンを経て自分の価値観を整理した結果、進むべき方向ではないことが分かり、修士2年の夏に大学院を中退、その後シェムリアップへと渡られた瓜生原さん。その後独学で身につけたデザインの技術を生かしフリーランスとして活動、現在は海外でインターンをしたい人に向けたサポートサービス「CONPATH」を立ち上げられている。強い思いを持つきっかけとなった、原体験とは?
《プロフィール|瓜生原琢実さん》
東京工業大学大学院を中退。お金も社会人経験もない中、"すべての人が在りたい姿を目指すことができる社会"を作るためカンボジアに移住。自身の経験から海外でインターンをしたい人向けのサービス、実践×対話型海外インターン「CONPATH(コンパス)」を立ち上げ運営中。
モットーは「人生は、自分の手で切り拓く。」ブログも運営中。世界ウリリン滞在記
目次
まず自分が海外に行って、道を切り拓いて行きたい
—なぜ海外で働こうと思ったのですか?そのきっかけを教えてください。
休学する前から「海外面白いな」と思っていました。大学3年生の時に旅してみて面白かったので、一年休んじゃえと思って、休学をしたんです。
1年の休学のうち3ヶ月旅をして、間の半年にインターン、また3ヶ月旅をするという計画でした。インターン前後で旅の感想も違ってきて、面白いんじゃないかと思って。東南アジアだけじゃなくて、22カ国ほどを周りましたね。
インターンは認定非営利活動法人かものはしプロジェクトでさせていただきました。現役の学生の受け入れは初めてでしたね。カンボジアに行ってから業務の方向が決まっていき、自由にやらせてもらって、自分が提案して実行する機会も与えてもらいました。
帰国後復学をし、日本での就職活動もしました。
ですが、何か違うと思ったんです。
大学院ではバッテリー系の研究をしていたので、インフラ関係の会社に入り、日本で就職して海外赴任しようと思っていました。ただ、学んでいることありきになってしまって「せっかく修士まで来たんだから」というマインドになっていたんです。
でも、それを一回すべてをとっぱらって考えたら、バッテリーに関わることが進みたい方向じゃないなと気づきました。また、なぜ海外で働きたいのに日本で就職というワンクッションを挟む必要があるのか、違和感を覚えたんです。
そして修士2年の夏、大学院を中退しました。
—別にやりたいことが見つかったのでしょうか?
やりたいことっていうよりも、どういう風に生きたいかっていうことを考えていたんですけど、いくつか自分の中で大事にしたいことがありました。
その中に、「自分の手で道を切り拓いていきたい」「喜怒哀楽に溢れる、ジェットコースターのような人生を送りたい」ということがありました。
そうして突き詰めていった結果、いくつかある選択肢の中で「自分が今海外に行って道を切り拓いて行く」のがベストだと思ったんです。それを考えた途端にワクワクしてきて。
また、海外の中でもカンボジアに行こうと思ったのは、長く住んだこともあるし、知り合いもいたからです。
具体的に行ってどういうことができるのかっていうのは日本でうじうじ言っていてもわからないと思ったので、すぐ中退を決めました。
あと半年ちょっとで卒業できたかもしれないタイミングではあったので、周りの人に反対はされたんですけど。自分の価値観を整理した結果、研究室にいることが自分の方向と違うのが分かったので、そこにエネルギーを消耗するよりも行ってしまった方がいいのかなあと。
—カンボジアに渡航後、どのように働かれていたのですか?
インターンしていた時のつながりから仕事はもらえたので、フリーランスのデザイナーとして、まずは仕事を始めました。デザインをやりたかったわけではなくて、お金もらえる手段としてやっていましたね。もともと独学で勉強をしていて、大学2年くらいからPhotoshopやIllustratorをいじっていたんです。
おそらく、周りの人が「こいつこのままじゃ死ぬな」と思って発注してくれたんだと思います。(笑)
移住したのが2014年の夏。そして半年経ってから、今の事業、「CONPATH」を始めました。
いかに個人個人が納得度の高い人生を歩めるかということがテーマ
—今やられている「CONPATH」の事業内容を教えてください。
海外でインターンしたい人向けのサポートのサービスをしています。
インターン中に、月に一回現地に住んでいる人がメンターとなって対話をすることで、実践を内省によって経験に落とし込んで、次の実践に向けて応用できるようにするということを「経験学習」という理論に基づいて行っています。対話のパートナーとなるメンターと一緒にがんがん回していって、インターンの経験を最大化させましょう、という取り組みです。
なぜこれをやっているかというと、「自分の手で道を切り拓ける人を増やしたい」と思っているからです。
CONPATHを使ってインターンをした人が、自分の手で道を切り拓ける人になるというのが、運営側のゴール設定です。2015年の7月にリリースしたので、まだ送り出せた数は少ないですが、まずはカンボジアで固めていこうと思っています。
日本人を海外バンバン出していきたいのではなくて、いかに個人個人が納得度の高い人生を歩めるかということが、個人的なテーマとしてあります。そのために、自分で道を切り拓ける力があれば良いだろうと思っているのです。
インターン先はNPO、営利企業というくくりは設けてはいなくて、経営者の方が面白いなと思ったところにしています。後はインターンをしたいって思った人の価値観とか方向性に合うかどうかカウンセリングを行い、インターン先を決めていきます。今のところインターンをする方側から料金をとっている仕組みで、家庭教師をつける感じに似ていますね。
—なぜこの事業を始められたのでしょう?
カンボジアで知り合ったインターン生って、日本に帰ってから立ち止まる人が多いなと思っているからです。
色々なことを任せてもらって、忙しく充実はするけれども、そのインターンの経験を日本に帰ってから次にどう繋がっているのかというのを落とし込めずに帰っている人が多いなと思います。インターン中に対面でメンタリングをし、帰国前に、インターンの経験を落とし込み価値観を整理していれば、日本に帰ってからの動きもテンポよくいくんじゃないかなと。
自分の意思次第で、道を切り拓ける社会を
—「自分の手で道を切り拓ける人を増やしたい」と思うようになった原体験はありますか?
カンボジアでインターンをしたというのは大きいですね。今は日本人向けにサービスをやってますけど、いつかはカンボジア人向けにもやりたいと思っています。
インターン生の時、あるカンボジア人に「あなたは日本で生まれ育ち、教育を受けているからインターンができているけれど、私はカンボジアで生まれているからそんなことはできない」と言われたことがあって。今までの生まれ育ちで将来の可能性が決まるのって、いやだなと思いました。
生きてきた道は様々なので、その差はあると思いますが、「そこから先どういう風に生きたいか」というのは自分の意思次第で切り拓ける社会があればいいなと思いました。
いつかそのカンボジア人に、「そうじゃない」って言いたいんです。
そこでどういう要素があれば、自分の手で道が切り拓けるようになるかという仮説を、今CONPATHで検証しているような感じです。
—仮説とはどのようなものなのでしょう?
確信と自信という二つの要素が、自分の手で道を切り拓くために重要だと考えています。
1つ目の確信について、納得度の高い人生を実現するには、納得度の尺度がいるじゃないですか。こういう方向に進みたいという確信があるかどうかというのが一つ。
二つ目の自信については、やりたいことがあっても一歩踏み出せない人が多いと思うんですけど、そこから一歩踏み出すための自信が必要だと思います。そこには、根拠はなくていいとも思ってます。
その二つがあれば、勝手に道を切り開いていくんじゃないのかなと。
自分がカンボジアに移住した時がまさにそういう状態で、自分の中で価値観が整理されて、こういう方向にいきたいというのが確信レベルであったし、行けばなんとかなるという自信もあった。そうすると、ものすごい覚悟があったわけではなくても、すうっと進んでいった感覚があるんです。
—「海外で何がやりたいの?」と聞かれることも多いのですが、どういう方向に進みたいか、確信を得るにはどうすれば良いと思いますか?
シンプルに、好奇心に従うだけだと思うんです。何したいの?的な話を聞いていつも思いますが、みんなハードル高いなと。(笑)
単純に「うまいコーヒーを飲みたい」とか、そういうレベルのこともやりたいことなわけじゃないですか。そういうレイヤーではみんななにかしらあると思うので、その好奇心に従ってやっていく。
色々手を出していく中で、めちゃくちゃ揺さぶられる体験がいつかあるはずです。社会問題に出会うとか、めちゃくちゃ面白い人に会うとか、360度いろんな感情を持ち、プラスでもマイナスでも振り幅の大きい色々な体験が積み重なっていったら、それがもとで価値観が形成されていくと思います。その先に、「こういう風になりたい」というのが形成されていくんだろうなと。
フリーランスでもいい暮らしができる!?生活事情から、苦労したことまで
ーシェムリアップでの生活について教えてください。
お金がないから最初苦労はしているんですが、フリーランスでも生活していけるだけは稼げています。むしろ制作に全部リソースを注げば、わりといい暮らしできると思います。住まいについては、一軒家をシェアしています。
生活と仕事の境目はあまりないですが、好きでやっているので、苦ではないですね。ASEANの中ではカンボジアはwifi環境が良い方なので、いつもカフェや自宅で作業しています。ネット環境が広まっていったタイミングがWifiができてからなので、デフォルトでwifiがあるという状況になっているんだと思います。
—瓜生原さんの場合、自分のやりたい方向に進んできた結果、カンボジアに行き着いたのだと思いますが、こちらで働かれてよかったなと思うこと、日本では経験できないと思うことはありますか?
今は自分で好き勝手やっていて意思決定できる立場にあるので、「こんなはずではなかった」というような誤差はかなり少ない方なのかなと思います。
「日本と海外」っていう対比よりも、組織の文化や、どれだけ裁量権のあるポジションなのかということの方が、影響があるのかなと思います。
—逆に日本に戻りたいと思ったり、苦労したりしたことはありますか?
日本に戻りたいという気持ちは全然ないですね。わりとマイナスな出来事も楽しめる方です。
カンボジアという場所は関係ないですが、一人でやっている分、建設的な議論をする相手がいないということがあります。ブレストをしたところで自分のアイディアしかでてこない分自分の想像を超えられないというのは悩みです。
人に聞くだけとはリアルさが違う。海外インターンに挑戦してみては?
—描いている今後のキャリアについて教えてください。
今やっているサービスをカンボジア人向けにアレンジしてやってみたいです。また、中南米、アフリカなど他の国でもやってみたいです。
旅の短期だけではなく長期、その場にいることの面白さを感じたので、自分が出したい価値を出しつつ、いろいろな場所でできれば、それはめちゃくちゃ理想の生き方だなと思います。
—海外就職・フリーランスに興味があるけれど、迷っている人に向けてメッセージをお願いします。
自分の経験も踏まえて言うと、インターンをしたのはすごくよかったですね。情報をネットで仕入れたり、人に聞くだけだったりしたら体感してないので、リアルさが違います。実際に働いてみればいいんじゃないですかね?
また僕の場合はその時のつながりが結果的に今に繋がっています。全く縁がない中海外就職すると、その土地で暮らせるかどうかということがわかりません。
今、休学のハードルも低くなっていると思いますし、海外で働くことに合う・合わないがはっきり分かるのであれば悪くない投資の仕方だと思います。
時間的に制約があって難しいのであれば、信頼できる人と話をして自分の価値観を整理するといいと思います。
【編集後記】
「大学院を中退し、ほぼ無計画でカンボジアに飛びこんだ」ということだけ聞くと、決断には相当な勇気がいったのではないかと思いがちだが、瓜生原さんの場合、それは自分の「ありたい姿」に近づくためのごく自然な選択だった。お話を伺っていても、瓜生原さんは自然体で、今の人生を心から楽しんでいることが伝わってきた。大人になるにつれ、瓜生原さんが言うように自分の好奇心に従って行動することは難しくなっていくように感じる。でも、素直に好奇心に従っている方々は、困難も含めて間違いなく人生を楽しんでいて、さらに先を見据えている。ここまでインタビューをしてきて、改めてそう思った。