IT広告からIT×飲食業界への挑戦!サイバーエージェント出身、グルメイノベーション代表取締役 井上琢磨氏

2017.11.6

サイバーエージェント出身、その後子会社であるトラフィックゲート取締役を務めた後独立し、グルメイノベーション株式会社を立ち上げた井上氏。井上氏が2010年に始めた画期的なビジネスが宅麺.comだ。有名ラーメンをわざわざ店に食べに行かなくても、自宅でも味わえるという宅配サービスである。

次のフィールドをシンガポールに定め、2014年からは飲食店の海外展開も進めている。インターネット広告からなぜ海外で飲食店を営むようになったのか、また海外のラーメン業界での展望について、井上氏にお話を伺った。

《プロフィール|井上琢磨氏》

大学4年の1998年8月からネットベンチャーの株式会社サイバーエージェント にてインターンを開始、1999年1月入社。その後は子会社である株式会社トラフィックゲート(現 リンクシェアジャパン株式会社)を起ち上げ、役員に就任。2010年に退任し、グルメイノベーション株式会社を起ち上げる。2014年からシンガポールにて飲食店Ramen Gallary を運営、現在に至る。

 

有名ラーメン店の宅配サービスとは?

— 宅麺.comの事業、そしてシンガポールでの飲食店Ramen Galleryについてお聞かせください。

宅麺.comは、全国の行列店のラーメン・つけ麺の中から厳選した商品をお取り寄せして頂ける通販サイトです店舗で出されているスープと麺・具材をそのままを冷凍してお届けしていますので、簡単に調理頂くだけで、これまで店舗でしか味わえなかった味をご自宅や 職場等で楽しんで頂けます。現在では年間で20万食以上販売を達成しています。

またシンガポールでは、日本のラーメン屋さんからレシピを預かり、一店舗で複数のラーメン店の味を楽しんで頂ける「セレクトショップ型」コンセプトの飲食店の経営を行っています。

(Ramen Gallaryでは1店舗で8ブランドのラーメンを選ぶことができる *2017年10月現在)

立ち上げ期のサイバーエージェントへ新卒入社

— どのような学生時代を過ごされ、サイバーエージェントへ入社することになったのですか?

あまり真面目ではなく授業には最小限しか出席していませんでした(笑)。大学一年からカラオケボックスのバイトを始めて、数ヶ月で店長として働くことになりました。赤字の店舗を黒字化させるなどのミッションをクリアしていき、最終的には複数の店舗の運営を任されていました。

単位取得に追われながら就職活動をし、名前を知っているような会社から内定を頂きましたが、このまま就職活動終えていいのかと思っていました。

そんなある時、就活サイトを通してサイバーエージェントという全く名前を知らない会社からメールが届きました。当時できたばかりの会社でしたが、面接へ行ったら藤田社長が一生懸命会社のプレゼンをしていて興味を持ちました。会社には20代前半の人しかいなくて、社長はインターネットの将来性とサイバーエージェントの優位性について熱く語ってくれました。

夏休みからインターンを始め内定をいただきましたが、5人ほどの小さい会社だったので、すぐに就職を決めることは出来ませんでした。しかし実際に働いてみてとても充実していましたし、またその環境が楽しかったと感じたので、年明けには卒業を待たずにそのままサイバーエージェントへ入社してしまいした。

 

子会社の設立、楽天からの買収を経て独立へ

― サイバーエージェントの草創期に携わっていたのですね。そこからどのような経緯で独立されたのですか?

サイバーエージェントは2000年の4月に上場しました。上場直後から大きな会社から中途で管理職の方が入社してきたりと会社が大きく変化しました。まだ若かったこともあり当時の変化をポジティブに捉えることが出来ませんでした。

外にでようかと考えていた時に子会社の立ち上げの話しがあり、成果報酬型の広告を扱うトラフィックゲートの立ち上げに2001年1月から参加しました。その後トラフィックゲートは楽天とサイバーエージェントの合弁会社になり、2009年には売上60億強、従業員も100人を超えて一時期は上場の準備もしていましたが、最終的には楽天に買収されることになりました。

会社に残ることもできたのですが、もう一度立場を変えて自分で新しい事業を立ち上げてみたいと思ったのが今の会社を起業したきっかけです。

 

— ネット広告とラーメンでは全く業界が違いますよね。どうしてラーメンの宅配サービスをやろうと考えられたのですか?

実は前々から事業アイディアをいくつも考えて、人にぶつけていました。ラーメンの宅配サービスはその中の一つでした。成田空港と羽田空港で飲食店を経営してる中学・高校の同級生の野間口(グルメイノベーションの共同創業者)と数年ぶりに会った時に、そのラーメンの通販のアイデアを話しました。実際に飲食店を経営している立場として彼は興味を持ち、是非一緒にやりたいと言ってくれました。

宅麺でやっているラーメン通販は、飲食店の遊休資産を有効活用したモデルです。多くのラーメン屋さんは14時~17時頃お店を締めて、休憩や仕込みをしています。ただ、その時間にいつもより多めに作ったスープを袋詰すれば、原材料費以外コストは掛かりません。また、ラーメン屋では1日に作るスープの量は決まっていますが、雨が降ったりしたら売れ残ってしまいます。

それを宅麺が買い取って、通販で販売すればロスが少なくなります。投資をすること無く飲食店の収益機会を拡大する事が出来るビジネスモデルに賛同をしてくれたのです。

そんな経緯で、彼と共に2010年の4月にグルメイノベーション株式会社を登記し、7月の中旬くらいから宅麺.comのサービスを始めました。

ネット広告業界出身ならではの視点をマーケティングに

― 宅麺.comでは「サイボーグ007」や「ご注文はうさぎですか?」などの有名アニメとのコラボレーションラーメンを作る新しい取り組みをされていますね。なぜそういったことを始めたのですか?

僕がもともと広告業界でマーケティングの仕事を10年以上やっていたからです。

プロモーションをやっている知人から、リリース前に露出を増やすためにラーメンとコラボしてなにか面白いことができないか投げかけられたことがありました。その時に考えたことが、ラーメン屋の店舗が「メディア」になりうるのではないかということです。

宅麺と提携している店舗は200店舗くらいあって、それぞれのお店で平均して一日300人〜500人の来客があります。200店舗が30日稼働すると、全体では200万人以上との接触機会を生み出せるのです。

またサービスを始めた2010年頃は様々なSNSが流行りはじめていたので、ラーメンを使ったプロモーションはバズるのでははないかと考えました。うまくメディアに取り上げられればプロモーション露出拡大に繋がりますし、宅麺の知名度もあがります。

一番最初にやったのは映画「サイボーグ009」のコラボレーションラーメンでした。有名ラーメン店にキャラクターをイメージした創作ラーメンを作ってもらいました。また食の写真投稿アプリのミイルさんとも提携して、アプリでチェックインして投稿してもらうと、写真にキャラクターをオーバーレイして投稿できる仕組みを作りました。

結果、ユニークな取り組みとして様々なメディアに取り上げて頂くことが出来ました。将来的にはシンガポールでも同様な取り組みをしていきたいと考えています。

 

日本の通販事業「宅麺.com」で得た信頼をもとに、海外進出へ

— 日本での宅配サービスのモデルを変え、なぜ海外進出をしたのでしょうか?

ラーメンは世界に通用するコンテンツだと考えていましたので、創業して2年目には、事業計画に海外の事業展開について書いていました。また、事業をする中で、国内のラーメン通販事業のマーケットが予想していたより小さいことが実感としてわかってきたので、日本の事業の黒字化が見えたタイミングで海外進出を本格的に検討し始めました。

ラーメン店にとってはほとんどリスクが無い形で「宅麺.com」というサービスを提供し、赤字に耐えながらも数年間継続してきたことで、ラーメン店の店主からの信頼を得ていた事も海外展開のきっかけとなりました。実際に、提携しているラーメン店にこの構想を話したところ、レシピを提供して協力しても良いという店主がヒアリングしたお店の9割を超えていました。

日本では、小規模でも職人の店主が作るラーメンが主流です。しかし海外での出店は、コストがかかりますし事業を任せられる人材も必要なため、資本力のある会社以外は難しいと思います。

宅麺で中心的に取り扱っているようなラーメンも海外にどんどん出していき、マーケットを多様化させていきたいと考えました。

初めての飲食店、海外事業での困難

— シンガポールで飲食店を始めて、困難だったことはなんでしたか?

英語も話せず、今までIT業界でマーケティングを中心に仕事をしてきたので、いろいろなことの勝手が違い最初は戸惑いました。飲食店を経営した経験すらないのに、セントラルキッチンを立ち上げて、日本と同じ味のスープを作ろうとしたので、難易度は非常に高かったです。

シンガポールで作ったスープと麺を日本のラーメン店に持って行き、店主と一緒に本店の味と食べ比べをして、フィードバックを頂き、それを活かしてシンガポールでまた試作するということを何度も繰り返しました。飲食業界の方からは、「よくそんな手間のかかることがこと出来るね!」と言われましたが、その時はどのくらいの手間がかかるかすら分かってなかったのですよね。

また、ビジネスモデルの部分でも苦労はしました。シンガポールでは、ラーメンをちゃんとした食事という感覚で食べる方が多いので、平均滞在時間も1時間近くなります。その為、日本のように回転数を上げて利益を上げることが難しいので、ある程度の利益率を確保しなければいけませんでした。そこを見誤ったため、初年度は大きな赤字を出しました。

— 逆に、海外のシンガポールだからこそできたことは何でしょうか?

1つの店舗でいろいろなブランドのラーメンが楽しめるというコンセプトのお店は、日本ではできなかったと思います。海外だからこそ、お店の協力を得てレシピを開示していただけました。各ラーメン店の看板をお借りしておりますので、その看板を傷つけることのないように常に注意をしています。

海外にラーメン文化を広げ、インバウンドへ

— 今後はどのように事業を展開していこうと考えていますか?

日本のラーメン文化そのものを根付かせるべく、アプリを通してラーメンの歴史やご当地ラーメンの紹介、味の系列など様々なコンテンツの情報を発信しています。 今は海外でラーメンといえば豚骨らーめんが主流ですが、日本のように多様性とクリエイティビティのあるラーメンを広げていきたいと考えています。

今はシンガポールだけで展開をしておりますが、軌道に乗ればアジア諸国や、欧米等にも進出をしていきたいです。文化とともに様々なラーメンを広げていく活動を通して、最終的には海外のラーメン市場におけるマーケットリーダー的なポジションになることを目指しています。

先々こんな状態になったら楽しいなということは、海外のRamen Galleryで食べたラーメンを本店で食べるために外国人が日本に旅行に来るような流れを作ることです。

今の事業は日本のラーメンを海外に進出させるというアウトバンドの事業なのですが、結果として本店でラーメンを食べるために日本に来て頂く様なインバウンドに繋げたいと考えています。ラーメンの文化を広げていくことによって、わざわざ地方のラーメン屋を求めて食べに行くような外国人を生み出したいと考えています。

「やりたいと思ったら飛び込むこと」

— 最後に、ASEANに行こうか迷っている読者に向けてメッセージをお願いします!

失うものがないうちは、「ノリと勢いでどんどん飛び込むべきだ」と思います。行ってみないと分からないことがほとんどだからです。

やるかやらないかで冷静に考えたら、多くの場合やらない理由の方が簡単に沢山浮かんできます。僕自信、海外に引っ越す理由は得になかったですが、事業始める前に海外に引っ越しました。海外に体を出さないと分からないことがあると思ったからです。何故と聞かれたらそれっぽいことを答えることは出来ますが、ほとんど後付で考えたことです。

なので、やりたいと思ったら深く考え過ぎずに飛び込んで、後から辻褄を合わせる。その方が圧倒的に早いスピードで成長が出来ると思います。

インターン情報

今回取材をさせていただいた、グルメイノベーション井上氏のもとで働くことのできる海外インターンシップが募集されています。興味のある方はこちらのGlobal Wingサイトから詳細を確認してください。

(Global Wing ホームページ