震災のあと、全てをリセットした。「わたしの人生で何を大事にしたいか?」そのこたえがタイであり、この会社でした ₋Dear Life Corporation 岩松由美子氏


タイ・バンコクで日本人の駐在員向けに賃貸物件の仲介を行う株式会社ディアライフ。今年で設立6年目になりバンコクで勢いのある会社の一つだ。営業・人事マネージャーである岩松氏にお話を伺った。東日本大震災後、日本を飛び出したという彼女。タイを選んだのはたまたまだったと語るが、どうやってその選択を正解にしていったのか。価値観の異なるタイ人と働く時に大事にしていることとは。そして人事担当の目から見た、海外で働く日本人の強みとは。

 

プロフィール|岩松由美子氏》

ファーストキャリアは東京のIT系ヘルプデスク運営・管理担当。心気一転タイに渡り、コールセンターのオペレーターを経験したのち、ディアライフに入社。現在は営業兼人事マネージャーを担当している。

「ひと」に惹かれて、思わず決めた転職

ー ディアライフでの担当業務を簡単に教えていただけますか?

営業部のアシスタントディレクター、および人事担当です。現場で日本人のお客様のお部屋探しサポートをしつつ、チームメンバーのサポートや管理、採用活動も行っています。

ー ディアライフで働くようになった経緯を教えてください。

もともとはタイのコールセンターで働いていました。同じころ友人がディアライフに勤務していて、ちょうど人材募集をしていたこともあり、社長を含めて食事に行ったんです。そこで社長に魅力を感じ、そのまま転職を決めました。最初はまったくその気はありませんでしたけどね(笑)

ー とても素敵な転職のしかたですね…!社長のどのようなところが魅力的だったのでしょう?

社長のように海外で会社を起こそう!と夢を抱き、自ら道を切り拓いていくパワーを持った人に出会ったのは初めてでした。話しているうちに「この人となら何かを実現できるかも」とわたしの中で自然と夢が描けてしまって。この人について行こう!と思ったんです。

社長が入社してきた社員に必ず話すのが「うちの会社は今は不動産会社だけど、あなたにやりたいことがあってそれを私が助けられるのであれば、いろんなことをやっていきたいと思う」ということ。

日本にいた時は、大企業のなかで会社の考えのもとに動いていましたが、今はわたし自身も夢を描きながら働いています。これは初めての経験ですね。タイに来て人生が変わったのはもちろん、大げさに思われるかもしれませんが、この会社に入ってこれまた人生が変わりました(笑)

ディアライフ社長・安藤氏(右)と岩松氏(左)

震災が起きて、仕事との付き合い方を考え直したことが人生のターニングポイントに

ー ディアライフにジョインする前からすでにタイで働いていたそうですが、そもそもタイに来たきっかけを聞かせていただいてもいいですか…?最初は日本で働いていたんですよね。

きっかけは、2011年の大震災です。当時は東京にいたので、東北ほどではないにしろ揺れは大きかったし、その日は家に帰ることもできませんでした。ただそれ以上に大変だったのは、震災後の業務です。システム系の会社に勤務していたので、電力が止まったことで節電が必要になり、サーバーを止めたり、会社のシステムを変えたりとすごく大変な思いをしました。

そんな日々が続いて、一ヶ月後くらいに体を壊してしまったんです。そのときに、「こんなに大変な、死ぬ思いまでして頑張っているけど、わたしはこのまま人生を進めていっていいのかな」と、ぽかんと考える時間があって。

その時たまたまタイの求人を見つけ、学生のとき海外で働きたいと思っていたことを思い出し、気づけば全てリセットしてタイに来ていました。

ー 震災が、「自分の人生で何を大切にしたいか」を考えるきっかけになったんですね。それにしても思いきりがいい…!

実は、こっちに来るまではタイがどんな国かも全然知らなくて。世代的には欧米志向の人が多いので、アジアは、香港やシンガポールなど比較的発展した国しか行ったことがなかったんです。

でも、むしろそのおかげで「えいや!」と思い切って来れたのかもしれませんね。空港に着いた瞬間、タイ語の文字を見て「なにこれ?!私これからどうしよう!」とめちゃくちゃ焦りましたけど(笑)

日本にいた頃、体調を壊して会社を休むことになった時、当時の人事担当が「頑張りすぎだったんだよ、体壊す前にSOSを出してくれればよかったのに」と言ってくれたんです。ただ、「そうは言われても」と思いました。当時はSOSを出すことに罪の意識を感じていたような気がします。日本人のついつい我慢して頑張っちゃう、良くないところですね。

でもタイに来て、タイのみんなに触れて、「休んじゃったりしたけど、こういう働き方でもいいんだな」と自分を許せるようになりました。来てしまえば何とかなるものですね(笑)

タイ人の部下に「信頼されている」と感じてもらう

ー こちらに来て大変だったことは何ですか?

やはり、最初はタイ人と仕事をするのに苦労しました。

タイは「微笑みの国」と言われていて、「マイペンライ(なんとかなるさ)」という言葉が有名です。街で困っていたら言葉が通じ合えなくてもすぐに助けてくれるような、優しい国民性も特徴の一つです。

だけど、働き方に対する考え方が日本人とは良くも悪くもすごく違う。例えば、時間を守らないだとか、仕事が残ってても定時になるとすぐに帰る人、メールを適宜チェックするなどの細かいことが苦手な子も多いです。

上司としてそういう子たちを管理していくのは、当初すごく苦労しましたね。

ー その苦労を、今は乗り越えられたのですね。上司や人事担当として、タイ人の部下を管理するのにどのようなことを意識していますか?

「あなたを信頼しているよ」という気持ちを惜しまず伝えることでしょうか。タイ人は日本人と違って、前に出たがる、目立ちたがりな子が多いんです。通常業務以外の臨時の仕事も、「あなたにやってほしいのよ」という風に頼むとすごく嬉しそうにやってくれます。

スムーズにいかなくてイライラしてしまうこともあるのですが、そういう「愛情で動く」みたいなところは、子どものように素直で可愛いですよね。

そういう仕事の振り方を意識することで、私のメールには絶対すぐに返信してくれるんだろうな、と思える仲間は作れていると思います。もちろん期待を裏切られることもあるんですけどね(笑)

ディアライフ社長・安藤氏(中央)、岩松氏(中央右)と社員

「奥さま目線」のサポートが快適な駐在生活をつくる

ー この仕事をしていてよかったなと思うのはどんな瞬間ですか?

女性目線を活かしたお部屋探しのサポートができた瞬間です

ご家族で移住してこられる場合、一番長く家にいるのはたいてい奥さまなんですが、お部屋を実際に見て決めるのは旦那さま、というケースが多いんです。そうなると、住みはじめてから奥さまが「なんでここ?!」と不満を抱いて喧嘩になってしまうことも多々あります。

わたしも働いているのでわかるのですが、家にいる時間が短く、外でタイ人と触れ合いながら生活に慣れていける旦那さまは、家に多くを求めません。しかし、一番長く家にいる奥さまは、やはり細かいところまで気になります。ですから、旦那さまには「奥さまは絶対こういうところを気にすると思うから、きちんと見てください、お話してください」と奥さま目線で伝えるようにしています。特にお子さんがいるご家庭は、奥さまが病んでしまうと全員日本に帰ることになってしまいますから(笑)

奥さまに「ありがとう」と言われた時は、「わたしの考えが当たった!」と一番嬉しくなる瞬間ですね。奥さま目線でサポートできることは強みだと考えています。

ー HPを拝見させていただいたのですが、タイでの生活がイメージできるようなものになっていて、貴社のお客様満足度に対する意識の高さを感じました。他にこだわっていることがあれば、教えてください。

物件の良いところだけを伝えない、ということです。

いくら人気物件でも、悪いところは絶対にあります。タイの物件はお部屋が広かったりプールがあったりと、一見すると日本の物件より魅力的に見えるのですが、お部屋やシャワールームなどの形が日本とは異なるということも多々あり、住みにくいと感じる方もいらっしゃいます。

これは社長の考えでもあるのですが、物件のマイナス面は全て、必ず事前にお伝えするようにしています。「悪いところばっかり言うよね!」とお客さまに笑われることもあるくらいです(笑)けれど、マイナス面があると分かっていて、その対策や改善方法も知った上で入居していただいた方が、トラブルが起こった時も心構えができるはずですからね。

ディアライフHP  「お役立ち生活情報」ページでは、公共料金や学校などタイで実際に暮らすお客様が知りたい、生の情報が満載だ。

 

「日本クオリティ」へのこだわりを捨てないことが海外では強みになる

ー 採用の時に意識していることはなんですか?

「日本でできなかったことを頑張りたい」とか「将来こうなりたい」という夢を描いている人、そして日本クオリティを体現できる人を受け入れることです。

うちはタイにある企業ではありますが、お客様は日本人。その中には自分の希望ではなく、会社の意思でこちらに赴任してくるという方もいらっしゃいます。だからこそ、「日本クオリティのサービスを提供すること」をモットーにしており、ここが他社との差別化ポイントの一つでもあります。

面接に来てくれる人の中には、「微笑みの国」タイで働くことをイメージして「遊び半分・仕事半分」というスタンスで来る方も多いです。そういう方には、「うちの会社はやめた方がいい」とはっきり伝えるようにしています。ビジネスマナーや服装など、ちょっとしたところも日本と同じクオリティにしようと考えているので、そういう点では他社よりも厳しいところはあると思いますね。

ー ASEANで働くことを視野に入れている人にアドバイスをお願いします。

「日本クオリティ・日本人独特の心意気はどんなものだろう」というのをちゃんと考えた上で、それらを捨てずに持って来てください。

海外に飛びだしてくる理由として、「日本では自分のやりたいことができないから」ということを挙げる人が多いです。ただ、わたしがそういった方に伝えたいのは「日本人はこういうもの」と海外の人にイメージされているクオリティのものが提供できない人は、ときに受け入れてもらえないことがあるというのも知っておいた方がいい、ということ。

他の国に比べたとき、やっぱり日本のサービスはすごいんです。「日本人だから」という信頼は至るところで感じます。日本のサービス精神を捨てずに持って来た方が、成功できる道があると思います。

ー タイの人々から学んだことはありますか?

働き方の違いでイライラすることもあるのですが、絶対日本人に取り入れた方がいい考え方だよな、と感心するところもやっぱりたくさんあるんです。例えば、家族と仕事に対する価値観。

日本の友人と話していると「旦那さんは家にお金を入れてくれるだけでいい」なんて話や「家族よりも仕事第一」という価値観も多く聞きます。一方タイ人は、家族や恋人をとても大切にするんですね。同僚が奥さんの誕生日に普段通り仕事していると、タイ人の同僚が「なんで誕生日なのに早く帰らないの?!夫婦で一緒にいないの?!」と怒り出すこともあります(笑)

「家族との私生活を大事にする」というのを大前提に仕事をするので、たとえ仕事の区切りが悪くても、定時や休憩時間はきっちり守ります。彼らの「休憩は休憩!大切にしよう。その方が能力が発揮できるんだから!」という考えはごもっともだと思いますね。

だから日本に帰った時は、日本の価値観も変えていこうよ!と友人を鼓舞するようにしています。本当に小さな活動ですけどね(笑)

日本人駐在員のお部屋探しはディアライフが担っていく

ー ディアライフの今後の展望を教えてください。

ディアライフは今後、いろんな国で支社を増やしていこうと考えています。特に発展途上の国にはまだ日系不動産会社がないところが多くありますので、駐在する日本人のお部屋探しの苦労は大きいと思います。営業のやり方や独立したお客様サービスセンターなどの、うちがタイで成功したやり方を他の国でも確立できるように、パッケージ化・仕組み化をしていきたいですね。

ー 最後に、「タイに行く」という決断をしてよかったですか?

最初の1、2年は帰りたいと思う時もあったし、今でも日本に帰国するとやっぱり楽しいけれど、今では空港に降りてタイ語が聞こえて来た瞬間に「うわぁ。帰って来た!」と嬉しくなりますね。日本にもう一度住めるかな?と心配になるくらいに、タイに来てよかったなと思っています!

 

ー 編集後記

震災をきっかけに仕事に疲れてしまった自分に気がつき、「人生で本当に大切にしたいことは何か」を立ち止まって考えたという岩松さん。タイで働く彼女は、快活に笑う、とても素敵な女性でした。

つい先日、社会人の友人がこんな話をしてくれました。「より良い生活のために働いているけれども、毎日深夜まで上司の嫌味に耐えながら仕事して、休みは週1日。なんのために仕事をしているのかわからなくなってきちゃった。でもやっぱり辞める勇気もないんだ。」彼女の心からの笑顔を、もう何ヶ月も見ていないような気がします。

日々に忙殺されるばかりでは、せっかくの一度きりの人生を謳歌できないんじゃないか。なんだか寂しくもどかしく感じてしまっていたわたしには、岩松さんの人生の歩み方がとても魅力的に映りました。

大切にしたいものを大切にできていないと気づいたら、現状から逃げたって良いし、環境を変えてやり直したって良い。日本でも「働き方改革」が叫ばれていますが、みんながそれぞれの「大切にしたいもの」を忘れずに生きていけるような、幸福度の高い社会にしたいなと、強く思います。

あなたは、何を大切に生きていきたいですか?

株式会社ディアライフのHPはこちらから 




ABOUTこの記事をかいた人

有留 佳乃

#九州大学2年 #期間限定ライター #3ヶ月に1回ベトナムに行きたい発作が出ます #ASEAN入国スタンプ増やしたい