【新卒海外】「20代は取れるチャンスを取り切りたい」 バンコクのコミュニケーション会社で働く 上田周作さん

2016.03.22

アメリカへの留学、カンボジアでのNPOのプログラムへの参加を経て、海外就職を決意された上田さん。就職活動や現在の仕事、タイ生活の模様は、自身のブログ「タイで新卒現地採用! | タイで就職、その後を綴ります」でも綴られている。タイ就活の情報から就職後の苦悩まで、リアルな新卒タイ就職に迫った。

《プロフィール|上田周作さん》
愛知県出身。南山大学経営学部卒。2014年4月より翻訳・印刷・広告・イベントなどのコミュニケーション会社に勤める。趣味はお酒・料理・スノボ(タイだからできない)・麻雀(打てる人回りにいないからタイだとできない)・映画・Youtube(最近はクレイジージャーニーとプロフェッショナルが好き)・バイク。

企業に頼って人生を決めてもらうより、自分で人生を決めたい。

上田さん

—なぜ海外就職をしようと思ったのですか?そのきっかけを教えてください。

一つではありませんが、特に強いきっかけになったのは、カンボジアでのNPO活動です。日本で就活をしていたのですがあまり気持ちがはっきりしなくて、4年生の6月ごろ、Very50というNPOのプログラムに参加しました。

そのプログラムは、カンボジアシェムリアップでのスパクメールにて、どうすればもっとスパクメールの今後を盛り上げられるか、学んで実行するというもの。

参照|【新卒海外】「海外では自発的に動くのがデフォルトになる」 大学卒業後渡英 カンボジアで起業! kru khmer botanical 社長 篠田ちひろさん

 

その経験を経て、盛り上がっている東南アジアで動いていくということは絶対自分の力になると思いました。これから働いてお金を動かしていく人間として、東南アジアをこの段階で知っておくのはすごく良いのではないかと思ったんです。

また、大学3年の時のアメリカ留学の経験も海外就職のきっかけになっています。最初は英語もできず劣等感が強かったのですが、最終的に現地の学生から「お前は日本人で言葉も全然違うのに、ほんとに上手になったね」と褒められて。

そのとき、自分は日本人であることが強みだし、そのアイデンティティを生かした海外との繋がりが、自分のこれからの人生だなと思いました。そうなったら、自分の次の選択肢は、海外へ行くことだなと。

 

—なぜ、タイを選んだのでしょう?

カンボジアでの活動を通し、低い発展度や人材の状況から、社会人1年目の自分がやっていくことに不安を感じました。

タイはASEANの中で比較的軌道に乗っていて、それでいてものづくりの工場もすごく多くて面白い。立地も良くて将来の可能性を感じる。タイなら学びながらASEANでの社会人生活が上手く送れるのではと思い、飛んでみました。

 

—ちなみにアメリカなどの英語圏を選ばなかったのはなぜでしょうか?

アメリカは、現実問題自分の専門性のなさで難しいと思いました。 今すぐアメリカで何かをやろうと考えても、能力が足りないと感じていました。

あと、正直憧れが勝り、ビビっていたということも大きいです。結果、まだ挑戦できていません。

 

—日本でも就活されていますが、日本で就職することについてどう思われましたか?

日本での就活では、ピンときませんでした。海外枠で面接してもらっていても、面接が進めば進むほど、まず最初は3年間くらい国内で…と言われがち。自分の考えと企業の考えに相違があると感じました。

それにどうしても駐在だとその会社に囲ってもらっている形になってしまうので、突然何かしたいってなったとき、すごく迷惑かけるだろうし。お金はいいかもしれないけれど、キャリアのリスクがあるなと思いました。

企業に頼って人生を決めてもらうっていうより、自分で自分の道を決めたかったんです。

 

情報の探し方、面接の仕方は?リアルなタイ就職活動!

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—海外就職を決め、まずどんなアクションを取りましたか?

まずインターネットですね。「タイ 就職」とか。で、調べていると、海外就職研究家の森山たつをさんが毎回出てくる(笑)。

参照|自分を活かす選択肢として海外就職を! 海外就職研究家 森山たつを氏

 

そこで森山たつをさんのイベントに出席し、「新卒でタイ就職ってどうでしょう?」と直接聞いてみることに。

話してみると「日本で就職すれば、専門性がないところを手厚い教育で徐々につけてくれ、経験もお金も付いてくる」ということをおっしゃっていて、僕も納得しました。でも、森山さんは最後の方に、「新卒でも自信があって行きたくて行きたくてしょうがないのなら、止めはしない」ということをおっしゃって。僕はそっちで勝負しようと思いました。

マンガで、一年間洞窟に篭って強くなるか、それとも五年間じっくり修行して強くなるか、のような2つの選択肢を選ぶ場面がありますよね。みんなは洞窟に行くのを「生きて帰って来れるのは10人に1人だ」と言って止める。

僕は海外へ行く事を洞窟に行くことだと面白く解釈しつつ、「まあ実際死ぬことはないしな」と思ったんです。そして海外就職を選ぶことに決めました。

 

—その後のタイでの就職活動の流れついて教えて下さい。

4年の2月にタイに行きました。人材紹介会社はパーソネルコンサルタント一社だけに登録。一番案件の総数が多かったからです。

2月の後半から2週間滞在して、1日目に人材会社に本登録。面接は全部で4社受けました。案件があるからということで、登録していきなりその日に電子商社の会社で面接、後に内定も出ました。そのとき、この2週間で決まるなとなんとなく思いました。

少し間が空いて不安でしたが、次は5日後、メーカーの面接を受けました。結果、その場で採用を頂けたうえ、給与や待遇もとても良くて、タイ語学校に無料で通えるとも言われました。タイの現地採用って、いい意味で聞いていたのと違うなと思いました。

そして、その3日後くらいにまた案件を紹介されました。内定が2つ出ていたので、リラックスした状態で行きました。そこが今働いている会社です。

質問の内容が「今まで勉強したこと」など、自分にとって嬉しい質問が多かったです。事業内容が多岐に渡るため、会社説明も100パーセント理解はできませんでしたが、すごく面白そうな仕事だと思いました。社長からも、英語やカンボジアでの経験が生かせるし、間違いないと思うよと言われて。 ここなら絶対に楽しくなると始めて思い、その場で入社希望を伝えました。

面接が終わった後、社長から「僕と同じ高校だよ」と明かされご縁を感じましたね。

こういうご縁を活用することは、非常に良いことでした。仕事が辛くて壊れかけてしまう時もありますが、そんな時でも「あの人に入れてもらっている」というような、憧れや裏切れない気持ちが働き、踏ん張れる。バンコクまできて奇跡に出会いましたね。

あともう1社は、中古工作機械の商社でした。できて間もない会社で、現地の代表を探しているということでした。経歴を面白いと言ってくれて、サポートするから一緒に立ち上げて欲しいと言われました。でも、僕はまだ何もわからずそこまでの自信はなかったので、お断りさせていただきました。

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—タイでどのような仕事をしたいと思っていましたか?

仕事内容へのこだわりはなかったですし、面接でもそう答えました。

でも、将来やりたいことははっきりと伝えました。日本と海外の架け橋になれるような人になりたいし、そういう仕事を続けていきたいと。面接ってお互いを面接することだと思うので、僕からも「この会社では僕がどんな架け橋になれるか」を聞きました。

今の会社は、色々な業界や職種のお客様を知ることができて、それでいて自分でしっかり考える仕事で、常に架け橋になることができます。それってすごく楽しいことだと思いました。

 

仕事の詳しい内容から、ビザ、ワークパーミットの情報まで

 

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—具体的な仕事内容を教えてください。

セールスアンドマーケティングという部署で働いており、業務内容を簡単に言えば他の企業の広報部になる仕事をしています。外向きのコミュニケーション活動のお手伝いだけでなく、教育資料翻訳など社内向けのコミュニケーション活動のお手伝いもやっています。

海外に来ている会社には、やりたいけどやりきれないことがたくさんあるんです。多くの場合海外支社に派遣されてくる方は、エンジニアやセールス、工場長などで、その場合会社を運営したり広告を考えたり、社内資料を作ったりできないのです。広報や総務などの役割を担う人は本社にいて、現地にいることが少ないんですね。そこを全部やるのが弊社です。

具体的な業務としては、印刷と翻訳が一番強いです。企業案内資料を作ってそれをタイ語、英語、日本語にしたり、社内の教育資料を日本語で持っていたらそれをタイ語にしたり。そうするとその会社のことがわかるので、もっと潜在的な部分でこれからタイでどんなことをやっていきたいのか、どんなことができるのかを提案させていただくこともあり、広告の仕事に近づきます。カンパニービデオやチラシ、展示会のサポートなどのイベント業、パブリックリレーションズの部分も行います。

お客さまのことを知って、どうしたらパフォーマンスが上がるかというのを自由に提案させてもらえる仕事です。仕事のとり方は様々で、印刷など受託型の仕事から提案型の仕事に繋げたり、提案型の仕事をやってから受託の仕事が増えてきたりします。

95パーセントが日系の会社との取引です。社内は英語で、社外は企業によります。メールなど情報のシェアを考えると、英語の方がいいですよね。社内は、1:9くらいで日本人以外が多く、日本人7名の、日本人以外が100名ほどいます。タイ人以外にはベトナムのITエンジニアがいますね。前はミャンマー人もいましたし、僕の最初の先輩はベルギー人でした。

 

—生活について教えてください。お金、家、暮らし方、食、休日、ビザ

収入

お金の心配はなかったです。日本人がタイにおいて最低限保証されている給料が5万バーツ(約16万円)なのですが、これは大手企業の30代タイ人マネージャークラスの給料と同じくらい。

僕が考えたところ、中流の生活でも月6万円くらいで生きられるので、10万円くらいは余りますよね。実際もっと使っていますが、一応貯金は毎月できています。

 

家はコンドミニアムで、一人暮らしをしています。15畳くらいで、家賃1万バーツ(約3万5000円)です。

場所は郊外ですが、駅まで歩いて1分ですし、隣に24時間空いているマックスバリューもありますし、快適です。

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休日

休日は外に出ています。タイの国立大学のバスケットコートで遊ぶことも。日本人会の食事に行くこともあります。

あとは、ブログを書いたり、ブログ以外にも書き物を半日くらいしたりすることが多いですね。

ブログは、最初は自分の日記ベースでやろうと思っていましたが、人に見られていないとさぼってしまうと思ってウェブ上で始めました。それに、新卒の海外就職について、身近な情報が少なすぎると思っていたので、若い人の立場からリアルな声を届けたいと思ったんです。

 

ビザ

就職して何ヶ月がたった後、新卒だったから取得に手間がかかったということをちらっと聞きました。当時は民政だったんですが、今軍政が中心なので、さらに厳しくなっているかもしれません。

新卒だからだめ、ということではなく、専門性がないってところだと思います。外国人労働者の一番大きな意味合いというのは、タイの成長・発展に貢献すること貢献するためには何ができるかということを見られるわけですよね。新卒だと専門性がないから、どう貢献できるか理由がつけづらいんです。アルバイトなどの経験を出して、無理やり理由をつけ、足がかりを得るしかないんだと思います。

また現地採用では、ワークパーミットが出ていない場合は最低5万バーツという基準がないので、苦しいと思います。給与よりも先に、「ワークパーミットは出ますか」ということを面接できちんと聞くべきですね。

 

背水の陣で戦って、ガンガン成長できる。

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—新卒海外就職のメリット、日本では経験できないと思うことを教えてください。

ずっと背水の陣で戦える感覚がいいですね。

家族からは辛かったら帰ってきていいよと言われるのですが、自分のやりたいことをしっかり持って戦いにきているという意識があります。実際に辛いと感じることは非常に多いですが、踏ん張れます。

また、どんな人でも仕事の量は半端ないと思いますね。僕はしっかりと教育は受けさせていただいたのですが、ある時期から仕事がどんどん入ってきて、常にキャパオーバー。

でも、そこをしっかり戦える理由が多いから、覚悟をもって毎日仕事できるんです。だからガンガン成長できる。それがメリットだと思います。

あと、気を失いそうになるぐらい失敗を重ねますので、PDCAサイクルは回し放題です。

現地採用では、そのポジションに人が必要だから、人を採用しているわけですよね。だから既にタスクが溜まりきっている状態で、それを新しく入ってきた僕たちがやらなければならない。どんなに能力が高い人でも、現地採用においては「やることがなくてつまんない」ということがないと思います。

 

—逆にデメリットや苦労したことはありますか?

覚悟が中途半端だと、折れてしまうと思います。現に1年目の11月後半、僕は日本に帰ろうと本気で思っていました…。

自分の仕事の能力のなさが影響して、処理が追いついていなくて。自分の能力のなさにあきれ、劣等感に苛まれたんです。今は相談できる友達も増え、逃げ道が掴めましたね。

 

—描いている今後のキャリアを教えてください。

具体的には決まっていないですが、日本人であることやその他自分の背景なども含め、自分の長所を活かしたことを、世界規模でやりたいと思っています。

そういった希望を常に持ちながら、今現在の会社で仕事をすることに集中しています。

20代でやることとして決めたのは、「取れるチャンスは取り切る」ということです。結構よくわからない方向からもチャンスはどんどん転がってくるので、その時は何に役立つかわからなくても残さず掴んで、あとから繋げれば良いと思っています。

 

—海外就職に興味があるけれど迷っている人に向けて、メッセージをお願いします。

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まず、絶対にその国に行って、働いている人と話しましょう!ネットで検索は、アセナビで最後にしたほうがいいです。(笑)

森山さんの仰っていたことは本当に正しいはずだし、その上で最悪のケースを想像してみて、それでも行きたいのなら行ったら良いんじゃないでしょうか。

僕も就職活動当時、ファンシーな脳みそをしていたんですね。仕事が18:00くらいで終わって、南国生活を楽しみ、素敵な出会いがたくさんあって…とか。

まもなく僕は仕事に恵まれて修正が効いたため運が良かったのですが、一歩間違えば僕もタイでは有名な「沈没組」になっていた可能性はあります。女性のことを四六時中考えている人とか、同じ日本人を騙して生計を立てている人とか。なんとかなるだろうと思って来てみたら、ワークパーミット無しで働く不安な生活や、実質5万バーツもらえずに苦しい生活を余儀なくされる人などもいます。

最悪のケースを考えて、「自分なら打ち勝てる!」と思える人は来て欲しいし、一緒にご飯食べて飲みたいですね。(笑)

【編集後記】
新卒のタイ就職について、かなり詳しく伺うことができた。「その国に行って働いている人と話す」ということは、まさに取材当時私がやっていたことで、ネットでは見つけられない生の声を聞くことができて本当に良かったと思う。ただ、なかなか現地に行くことが難しいこともあるだろう。そう思って、今このインタビューを発信している。上田さんはじめ、当事者の方々の経験が迷っている誰かに届くことで、次の一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しい。

 




ABOUTこの記事をかいた人

山村 あおい

法政大学国際文化学部4年。2014年に休学、フィリピンのNPOとマレーシアのwebメディア企業にてインターンシップを経験。2015年12月、1ヶ月間でASEAN6カ国を回り、新卒で海外就職・起業をした日本人26名にインタビューを実行。新卒での海外就職を決意し、現在ASEANで絶賛求職中!