2016.01.21
途上国のマイクロファイナンス機関が抱える問題のひとつ。それは「業務が煩雑であるが、システムが高すぎて導入できないこと」である。若い頃から海外を周り、ふと出会ったその課題を解決しようとミャンマーに移住して尽力している男性がいる。今回取材させていただいたリンクルージョン代表 黒柳氏だ。ソーシャルビジネスという形態で、「貧困層が排除されない世界を創りたい」と語る同氏に、その想いを伺った。
《プロフィール|黒柳英哲氏》
リンクルージョン株式会社 代表取締役
1980年生まれ。フリーランスとしてアジアでのビジネス支援、NPOのファンドレイジングや企業連携、国内の地域活性化支援などに関わる。40億人のためのビジネスアイデアコンテストファイナリスト選出。2015年4月にマイクロファイナンスとBOPビジネスを支援するリンクルージョン株式会社を設立しミャンマーを拠点に活動中。
初海外は17歳でインド1人旅! 世界を見て周って見えた課題
―現在はミャンマーでマイクロファイナンス支援に関わっていらっしゃる黒柳さんですが、まずは海外と関わられたきっかけから伺っていきたいと思います。
はじめての海外は、17歳の時のインド一人旅です。インドの建築に興味があったこと、そして*『深夜特急』に影響されたことがあり、2ヶ月半インドをぐるっとまわりました。
深夜のデリーに到着して2時間でインド人から平手打ちを喰らうという洗礼を受けましたが(笑)、それ以外は特にトラブルもなく密度の濃い旅をしましたね。
それからアルバイトをしては学校の長期休みに海外に出て、10代の時点で10カ国以上、20歳のときには1年間ほど休学してシルクロード経由のユーラシア大陸横断の旅にも出ました。
*参照:旅は人生の教科書!?バックパッカーのバイブル『深夜特急』に学ぶ旅人的世界の感じ方!
—とても早い時期から海外を旅して周っていたんですね!海外のどんなところが魅力だったのでしょう?
高専で建築を勉強していたので、最初は建物をスケッチして周ったりすることに魅力を覚えていました。
でもそれ以上に、生きてきた環境が違ったり、価値観が異なる現地の人たちと仲良くなっていろいろな話をしたりすることに面白さを感じていましたね。
—なるほど。
海外を旅しながら途上国の現状を体験したり、現地で支援活動をしている同年代の日本人を見たりしていたので、国際開発に関わりたいと考えていました。
例えば、タイのチェンマイでエイズ患者のために働いている男性に出会ったり、ベトナムの孤児施設で働いている女性に出会ったり。そういった方々が、使命感・やりがいを持って働いている姿を見て、憧れを抱いていたのです。
2011年、東日本大震災がきっかけとなり、元々関わりのあったNGOが東北支援を行うということで事業の立ち上げを経験。半年ほど働いた後、地域活性化に関わる会社に転職し、そこでも東北支援を行ったり地域活性化に携わるような仕事をしていました。
2年ほど働いた後、やはり海外に根ざして働くことをしたいと思い、仕事をやめてプロジェクトベースで知り合いの仕事をいくつか手伝っていました。海外関係のものもあり、その中の一つがミャンマーの*マイクロファイナンスに関わる仕事だったのです。
*マイクロファイナンス(小規模金融)・・・貧しい人々に小口の融資や貯蓄などのサービスを提供し、彼らが零細事業の運営に役立て、自立し、貧困から脱出することを目指す金融サービスです。(引用:PlaNet Finance Japan)
そのなかで今の事業パートナーであるマイクロファイナンスを行っている現地NGOの代表から、まだ新興市場であるミャンマーのマイクロファイナンスが抱える課題について相談される機会がありました。その話を日本ブレーンというシステム会社の役員をしている友人に話してみたところ「うちの会社で取り組んでみたい!」という展開になって、共同事業として現在の活動につながったのです。
マイクロファイナンスを通して、貧困層が排除されない世界を創りたい。
—ここまで、現在に至るまでの黒柳さんの経歴をお聞きしてきました。続いて、現在行われている事業についてうかがっていきたいと思います。
2つあります。
1つはミャンマーのマイクロファイナンス機関向けの事業、もう1つはデータを活用した事業です。
1つ目に関して「マイクロファイナンス機関の業務は煩雑なのでシステムを導入したいが、高すぎて買えないケースが多い」という課題があります。この課題を解決するために、現地の機関にとって安くて使いやすいシステムを開発し、マイクロファイナンス機関に導入してもらうことをしています。
ミャンマー語対応の経営管理システムとネット環境がなくても使えるタブレット用の業務アプリを開発して、既存システムの10分の1ほどの値段で提供し、煩雑だった業務の効率化と貧困削減の見える化を目指します。
今まで煩雑だったのは、業務と顧客管理のほとんどを紙の帳簿と電卓で行っていたこと。それだと、リアルタイムでの業務やお金の流れが把握しにくく正確な経営管理ができません。
また、もともと貧困層を助けるために存在しているマイクロファイナンスなのに、お客さんの管理や分析もできないので、貧困削減にどれだけ成果を上げているのかも分からない。
そんな状況の中、システムを導入することによってツールが紙からPCやタブレットになり、業務の流れもお金の流れもリアルタイムで見られて効率化できるのです。さらに顧客情報をデータベース化することで、貧困削減を見える化できて、より有効な戦略を立てられるようになります。
—マイクロファイナンス機関が、業務を紙の帳簿と電卓で行っていたことに驚きです…。つまり、黒柳さんはマイクロファイナンス機関を後方からサポートするようなシステムを提供されるのですね。では、もう1つのデータを活用した事業というのは、どのような事業でしょうか?
マイクロファイナンス機関向けの事業の次のステップとして、企業の途上国ビジネス支援を考えています。
実際にシステムの開発費のすべてを機関から回収しようと思うと、やっぱり高くなってしまうんです。月額利用料はいただくけれど、それだけだと赤字事業。
マイクロファイナンス機関は貸付を行うときに、家庭訪問をしてお客さんの経済状況、家族のこと、仕事、住居、消費、教育、生活スタイルなど、事細かに聞き取り調査を行っています。今までそのデータは紙で支店に積み上がっていて、全く利用されていませんでした。
私たちはシステムを安く提供する代わりに、その積み上がっていたデータを共有してもらうことを計画しています。
もちろん個人情報なので匿名化したうえでデータベースに集約し、そのデータを企業の途上国向けビジネスに活用してもらうのです。ここで、「*BOPビジネス」というキーワードが出てきます。
*BOPビジネスとは・・・年間所得が購買力平価(PPP)ベースで、3,000ドル以下の低所得層はBOP(Base of the Economic Pyramid)層と呼ばれ、開発途上国を中心に、世界人口の約7割を占めるとも言われています。
BOPビジネスとは、途上国のBOP層にとって有益な製品・サービスを提供することで、当該国の生活水準の向上に貢献しつつ、企業の発展も達する持続的なビジネスです。(引用:JETRO)
この低所得者(BOP)層は、マイクロファイナンスを利用する層と重なっています。
しかし現在この層を対象にビジネスを開発しようとしても、マーケティングに使えるデータがあまりにも少ない現状があります。世界銀行などが統計を出していますが調査から公開までにタイムラグがあって情報が古かったり、国単位のざっくりとしたデータしか無かったりします。
一方で、私たちがマイクロファイナンス機関と協力してつくりあげるデータベースは、途上国の生きた消費者情報をさまざまな属性別や地域別に比較できる、今までに存在しなかったBOPビジネスにとって大変有益なマーケティングデータになると考えています。BOPビジネスの実現を支援することで、マイクロファイナンスという金融サービスだけでなく、貧困層の課題を解決するような商品やサービスも同時に届けていきたいと考えています。
他にも様々な可能性が見えていますが、今はマイクロファイナンス機関にとってより使いやすいシステムを開発して提供することに注力しています。
—なるほど。ミャンマーのマイクロファイナンスが抱える課題を、ビジネスの仕組みで解決しようとなさっているんですね。ちなみに、会社名である“リンクルージョン(Linklusion)”の由来は何でしょうか?
世界の低所得者層40億人のうち20億人は、公的な金融サービスを利用できていません。そういった貧しい人ほど金融が必要なはずなのに届いておらず、高利貸しや知り合いから借りているのが現状です。
その20億人が金融サービスを利用できるようにする取り組みは「ファイナンシャル・インクルージョン」と言われています。金融的に包括する、という意味での「インクルージョン」です。
私たちのアプローチは、直接手を加えていくのではなく、途上国の低所得者層・それを支援するファイナンス機関と、リソースを持っている先進国の企業や開発機関を繋げる役目を果たしたい。それによって、貧困に苦しむ人たちが排除されることのない、インクルーシブな世界を創っていきたいんです。つなぎ役としての「リンク」、包括する「インクルージョン」を合わせたのが、社名の由来ですね。
社会的なインパクトを拡大させ、いつかは内戦後のシリアへ。
—これからは、事業をどのようなスケジュール感で動いていくんでしょう?
今はミャンマーのマイクロファイナンスの現場でパイロットテストを行っており、2016年春には一機関目に導入が完了します。
その後順次ほかのマイクロファイナンス機関にも導入を進めていき、初年度にはミャンマーで15機関に導入したいと思っています。
また来年のうちに2カ国目へ展開したいと思っています。具体的な国は検討中ですが、アジアの国になると思います。データを活用した事業は2017年以降を検討しています。
—長期的なビジョンはありますか?
まずは展開する国で確実なインパクト(社会的成果)を出して、そのインパクトをどんどん広げていきたいですね。貧困という理由で世界から排除されている人たちにどれだけ多くの変化を起こせるか、しっかり成果にコミットしてビジョンの実現に向かっていきたいです。
展開予定国はアジアを中心に考えていますが、いつかは内戦後のシリアにも展開することが個人的な夢ですね。内戦が終わって復興していく時期が必ずあるはずで、その時には間違いなくマイクロファイナンスが必要とされると思います。なぜシリアかというと、現地の友だちがたくさんいてとても思い入れのある国だから。今まで30カ国以上行ってきたけれど、シリアは現地の人が本当に優しくて大好きな国です。
—今後の展開が楽しみです。先ほどの「インパクトを大きくしたい。」というお話を聞いて思ったのは、大学生が行う“国際協力ボランティア”のことについてです。ボランティアは寄付ベースなので、継続性が問題視されがちです。一方で、いわゆるソーシャルビジネスであれば利益を生み出しながら社会問題の解決にアプローチできるので、一見後者のほうが理想的に見えるのですが、そこに関してどう思われますか?
NGOなど主に寄付で成り立つ活動と、利益を生み出す仕組みを継続的に回していくソーシャルビジネスには、本質的な違いはないと思っています。なぜなら、どちらも社会課題の解決という最終目標は同じだから。
例えばマイクロファイナンスだと貧困層にはアプローチできても、最貧困層には届きにくいのが現状です。採算を取るのが難しいですから。そういうところには寄付で成り立つ事業が必要です。
つまり、寄付型の事業とソーシャルビジネスの違いは単なる手法の違いで、社会課題の性質や対象者のレイヤーとの相性で選択するものだと思っています。
個人的に思うのは、日本だと寄付市場がまだまだ成熟していないので、事業の性質によっては株式会社という形態で取り組んだほうが、資金の調達にも有利になる可能性があるということ。
そんな環境の中で、NGOに関わっている方々を本当に尊敬しています。
—なるほど、とても腑に落ちました!それでは、さいごに一言お願いします。
ソーシャルビジネスとは言うけれど、根底にあるのは自己実現のためなのです。現地の人たちが可哀想だと思ってやっているわけでも、悲壮感や同情によって突き動かされているわけでもない。社会課題を解決するという仕事にやりがいがあって、それを仕組みから変えていくことに面白みを感じています。
ですから成果の指標は利益ではなく、あくまで社会的なインパクトです。プロフェッショナルとしてやる以上、自己満足で終わらせず、どれだけ現地の人たちの課題解決に役立っているかという結果で勝負していきたいですね。
また、ミャンマーではあくまでもよそ者であるという感覚を忘れないようにしています。
現地の人たちと仕事をするときは民族衣装を着るし食事も同じものを口にするし、相手の文化を尊重して順応することを大切にしています。目指したいのは「日本で一番、BOP層の気持ちがわかる企業」ですね。
意識しないとついつい日本の常識や基準で物事を考えてしまうのですが、当然のことですが現地の事情は現地の人たちが一番よく分かっています。海外で仕事をする以上、「教えていただく、助けていただく」という謙虚な姿勢を忘れないように心がけています。
【編集後記】
若い頃から世界を見て周り、現在ではミャンマーでソーシャルビジネスに取り組む黒柳氏。今後、どれだけ多くのひとたちにインパクトを与えていくのか、聞きながらワクワクが止まらなかった。彼の場合は「貧困という面において排除されている人たち」が抱える課題を解決するという立ち位置であるが、金融以外にも同じような状況にある人たちはいるのではないだろうか。少数民族の人たち、障害を持つ人たち。この世に生まれたすべての人たちにとってインクルーシブな社会になることが、これからの未来を創っていくのだと思う。あなたは、どの社会課題に立ち向かいますか?
企業名 | リンクルージョン株式会社 |
業種 | ソーシャルビジネス |
募集職種 | 新規事業担当 |
雇用形態 | インターンシップ |
仕事内容 | 事業担当として、企画から事業立上げまでの全てをお任せします。 |
勤務地 | ミャンマー・ヤンゴン |
給与 | -無給インターンです。住居提供します。ビザ取得にかかる経費は支給します。 -渡航費、生活費は自己負担です。(1年間で60~70万円程度が必要になります) |
求める人材像 | -TOEIC700、もしくは同等レベル以上。 -1年間勤務できる方(最低6ヶ月から応相談、スタート時期応相談) -リンクルージョンのビジョンに共感できる方。 -誰とでもコミュニケーションできる方。 -好奇心旺盛な方。 |
働く魅力! | 私たちの事業現場はミャンマーの貧困地域です。 ソーシャルビジネスの新規事業として、地域に暮らす人々の生活を調査し、発信するWEBメディアを立上げます。 事業担当として、企画から事業立上げまでの全てをお任せします。 【お任せしたい業務】 -WEBメディアの企画 -WEBメディアの構築 -取材、撮影、記事執筆、画像編集など 【お手伝い頂きたい業務】 -マイクロファイナンス支援事業 -企業向け調査事業 |
問い合わせ | 話を聞いてみる |