全てのムスリムに神戸牛を!アットホームな完全予約制レストラン Nagomi

イスラムビジネス特集」第2弾。今回は大阪の日本橋に拠点をおく Halal Kobe Beef Nagomi のオーナー中谷吉弘氏にインタビューさせていただきました。中谷氏のハラルに対する熱い想いや今後のビジョンについても伺いました。

《プロフィール|中谷 吉弘氏》

関西学院大学を卒業後に外資系商社に就職し、クウェートで2年間駐在を経験する。その後、日系商社勤務を経て和歌山大学大学院観光学研究科に入学し、イスラム教徒の訪日観光意識をテーマに研究する。大学院で学んだ知識を生かして神戸でハラルカフェをオープン。現在は大阪に移転し、メニューも一変させてハラルの神戸牛を提供している。

会社を辞めて大学院でハラルを研究

中谷さんがハラルに興味を持ったきっかけを教えてください。

もともと私は大学時代に中東のイスラム諸国に旅行をしていたのでイスラム教と馴染みがありました。深くは考えていなかったけれど、当時から何か惹かれるものがあったんでしょうね(笑)。旅行で中東を訪れた時、初めてムスリムと出会いました。

それから社会人生活が始まり2年程クウェートで働いた経験があるのですが、日本に帰国してから現地でできた友達のムスリムたちが観光で日本に来ていた際に非常に困っている姿を何度も目の当たりにしました。観光地に礼拝スペースがなかったり、日本のレストランのハラル対応が遅れていたからです。

なぜ仕事を辞めて大学院に入ったんですか?

原動力はやはりクウェートでたくさんムスリムの友達ができて、彼らが日本で困っている姿を見たからですね。その解決方法を自分で探すために研究しようと思って大学院に入りました。気になったことがあったら普通は本やインターネットで調べれば済むと思います。ただ私の場合は修士までいって追究するという決断をしたので本気だったんでしょうね(笑)。

和歌山大学院観光学研究科でハラルとイスラミックツーリズムについて研究をして主にドバイとカタール、クウェートをフィールドワークしました。簡単に言うと、どの程度のハラルが中東3カ国に求められているかというのを調査してデータ化したんです。

カフェから神戸牛専門店へ

元々はカフェをやっていたんですよね。

そうですね。大学院卒業の半年くらい前からカフェの構想を練っていました。元々のコンセプトは「和食でも洋食でもないその中間どころ」でした。すき焼き風のパスタや国産のハンバーガーなどを提供していました。神戸ではうち以外はオリエンタルな(パキスタン、トルコ、インド)ハラルレストランしかなかったので有名になりました。

しかし、お客さんの声に耳を傾けると、そんな中途半端なものよりも神戸牛の需要の方が高いということが段々分かってきたんです。なのでハラルの神戸牛を提供しはじめました。

神戸牛のように値段が高くてもお客さんから需要はあるのですか?

中東に限らずASEANからのお客さんも多く来店します。うちは1人あたり最低2万円以上は掛かりますので、はじめはインドネシア人の家族が10万円をポンと払っていったのを見て手が震えましたけど(笑)。

結局のところ高いか安いかはお客さんが決めることであって、人それぞれ収入や観光に行った時の財布の緩み方なども違いますし。普段は日本で節約している日本人もイタリアやフランスに行ったらブランド物を買いあさるのと同じことです。やっぱり楽しみに日本に来ているので最後の晩餐に美味しいものを食べようと来てくださる方は多いですね。

せっかく伊勢に行ったのなら牛丼ではなくて伊勢えび食べてみようか!って話になりますよね。観光している人からすると食べたいものを食べるという感覚で、むしろ食べたいものを食べなかったら来る意味がないですしね。

メニューは1品のみで神戸牛の部位とグラム数によって値段が変わる(¥22,000円から¥58,000)

ムスリムよりもこだわる中谷氏!絶対にミスが許されないハラル

ハラル認証の取得は難しく費用も掛かると聞きますが。

うちは日本の中でもかなり厳しい方でアルコールドリンクの提供もしていません。ムスリムの中にはハラル認証がなかったら保証されていないから嫌だと言って、せっかく日本に来たのにホテルでカップラーメンを食べている人もいます。なので、うちはどの客層にも満足して来店してもらえるようにしています。

これって120%絶対に間違っちゃいけない事柄で、うっかりお酒が入っていたり、豚の油が入っていたら許されないんですよ。それを自分の知識と経験だけでイスラム教徒でもない私が判断できるはずがないと思っています。修士までハラルについて勉強したので知れば知るほどその怖さを知っているという訳です。

私はハラル認証マークがついていても京都の宗教団体が運営していて信頼できる第三者機関にチェックを通してハラルであるということを証明してもらっています。私はイスラム教徒にも厳しいって言われますが(笑)、それくらい徹底してうちはやっていますね。

店内の食事がハラルであるということが京都ハラール評議会によって証明されている

ハラル格付けの世界的権威Crescent Ratingから最高評価のAAAを獲得している

アットホームな家族経営

ムスリムにとって信頼度の高い神戸牛を扱っていることが Nagomi の強みだと感じました。それ以外でお店の特徴について教えてください。

うちのお店の一番の売りは「アットホームな経営」です。家族経営なので会社でもなければチェーン店でもないので決まりきったマニュアルというものがありません。なのでお客さんに対して「いらっしゃいませ」とかも言ったりしません。

お店のSNSには家族も普通に露出しています。あと、うちは完全予約制で一日4組が上限になっていますのでお客さんは個室を貸切ることができますね。このような全てを独占できるサービスはうちしかないと思います。

instagramの投稿には料理の写真よりも家族の温かい雰囲気の写真が多い

食事部屋は畳の完全個室で和を感じながらくつろげる空間になっている

若者へのメッセージ

中谷さんの今後のビジョンを教えてください。

まだ移転したばかりなので、まずはここで一通りの成果を上げたいですね。そして日本を代表する神戸ブランドを世界に対して発信していきたいと思います。今後も自分にしかできない価値というものを提供し続けていきたいですね。そうじゃなかったら自分じゃなくていいじゃんっていう話なので。

今後の展開は様子を見ながら考えていきたいと思います。2号店や3号店を出していくとなれば従業員の管理などやらなければいけないことが増えていきますので大変ですがね。お客さんのご要望に合わせてまた色んなサービスを考えていきたいと思います。

最後に特定の分野に進む若者に向けてメッセージをお願いします。

例えば、ハラルレストランをやりたいと言ったら大人は全員やめとけというと思います(笑)。計画書に毎月100人お客さんが来ると書いても絵に描いた餅でどこのデータからそう言えるの?っていう話です。特にハラルの市場は前例がないので専門家でも良く分からないんですよ。

私も修士まで行ってハラルについて研究したので半分専門家みたいなものですがそれでも不透明なことが多いです。あなたが幸せになるか不幸せになるかは分かりませんが、ニッチな産業を良く見てリスクを負って果敢に挑めば必ず人と違った結果は出ると思います。

編集後記 

終始笑顔で和やかに話してくださり、インタビューを通して中谷さんの温かい人柄が伝わってきた。ムスリム全員が来店できるようにハラルに懸けている想いが人一倍熱かったのが印象的だった。大胆なメニューの変更や移転など常にお客様の意見を大切にしている Nagomi の今後の展開が楽しみだ。