16億人のムスリムのために日本食をおもてなす。芸人志望だった佐野氏がなぜムスリム向けの日本食レストランを始めたのか。−日本食レストラン祭 佐野氏−

イスラームビジネス特集、第1弾」。大阪に拠点をおく「ハラール」対応日本食レストラン「祭」のオーナー佐野氏にインタビューしました。「ムスリムは日本で自国のカップ麺を食べるしかない」という現状の話、また佐野氏の今後のビジョンも伺いました。

《プロフィール|佐野 嘉紀氏》

1981年、大阪生まれ。九州保健福祉大学在学中に芸人を目指す。
しかし卒業後は父親と共に商社を立ち上げる。その3年後、大手外食企業「株式会社フジオフードシステム」に入社し、ここで売上高数億円のエリアマネージャーを務めた。

その後退社し、2016年5月 日本食レストラン「祭」をオープン。ムスリム対応を行った初年度の2016年に、ムスリムが1万5000人訪れた。そして3年目の今年は2万5000人のペースで推移している。

芸人志望から一転、ムスリム向けの日本食レストランをオープン?

佐野さんは、福祉系の大学に通われていたとお聞きしましたが、卒業後はどのようなお仕事をされていたのですか。

福祉系の大学で勉強していましたが、卒業後は福祉系の仕事には就かずに父親と商社を立ち上げました。

また在学中には「人を喜ばせ、人の笑顔を見たい」と思い芸人になろうと考え、コンビを組む予定の4人を集めていました。当時、わたしたちは芸人を目指すために2つのルールを決めていました。

まず1つ目は、単位をきちんと取り、卒業すること。2つ目は、100万円を貯金すること。しかし、これを実現できていたのは、私だけでした(笑)

 

なぜ当時、芸人になろうと考えていたのですか。

福祉系の勉強をしていたときも、芸人を目指したときもおなじく、他人のために役に立つようなことをしたいという「奉仕の心」が、自分のなかで存在が大きかったです。

そして福祉系の仕事よりも、芸人の方が自分を活かせると思い、その道に進もうと考え始めました。

そして現在、なぜ飲食業界に就いているのですか。

ある日、父親の知り合いに、「よしもと」の役員がいてその旨を相談しに行ったことがありました。

そこで言われたのは「君は中途半端やで。芸能界ってめちゃめちゃアホか、めちゃめちゃ賢い人しか生き残られへん。ひな壇に座ってMCに回されるのか、MCとして芸人を回すのかどっちかやで。でも君はどっちもできるけど、そういう人材は1番いらないねん」と言われました。
その言葉は、非常にまとを射ていて自分でも納得したので芸人をめざすこと諦めました。

そして、私はその人に「一番むずかしい仕事は何ですか」と聞くと、「飲食業界や。唯一リハーサルがなくて、いつ来るか分からないお客さんにベストな対応をしないといけなくて、それが実現できれば、リピートしてもらえるんだ」という回答が返ってきました。

この言葉を聞いてから、いつか飲食業界に挑戦してみたいと思っていました。そんな思いを抱きながらもその後、父親と商社を立ち上げました。それから3、4年経った時に父親から「他のところで、勉強してきなさい」と言われ退社し、「株式会社フジオフードシステム」に入社しました。

 

その会社の中ではどのような仕事をしていたのですか。

入社後5、6年でエリアマネージャーを務めていました。ただ仕事のスケールが大きすぎるという理由と誰のために働いてるのかも分からなかったという理由で、退社しました。

他の事で役に立てるはずだと思い、それが何かを探すためにフリーター生活をしながら、日本国内を放浪していました。

 

どのようなタイミングで、「ハラール」や「ムスリム」などの言葉に接点を持ったのでしょうか。

国内を放浪し始めたのですが、その時にいろんな人や本でハラールやムスリムという言葉に出会いました。そこで問題を抱えている人がいると知りました。どんな問題かと言うと宗教的な問題で食べることが許されている食べ物が決まっていて、旅先の食事を楽しむことができないという問題です。

実際に来店したムスリムの方々

 

例えば、ムスリムの方が日本へ旅行する時に、自国のインスタントラーメンをホテルで食べたりしているということを聞きました。

そのような状況を自分でも確かめてみて、「ムスリムの方が日本に来て良かった」と言ってもらえるような動きの一助として働くことが自分の使命なのかなと感じるようになりました。

ハラル認証よりも大切な信頼

現在、国内にハラール対応をした飲食店は約800店舗あるとお聞きしましたが、その中でどのくらいの飲食店がハラール認証を受けているのですか。

約20%くらいですね。

実際、自店もハラール認証を取得していません。

なぜなら、「HMJ《ハラールメディアジャパン」が実施したアンケートによると、日本で飲食店に行く時ハラール認証を必要としているムスリムの方は22%であるという結果がでていたので、莫大な資金をそこに投資するよりも、他の部分に投資するべきだと思いました。

 

では「祭」はどうやってムスリムから絶大な支持を受けているのですか。

それは、しっかり情報開示をすることを大事にしています。

facebookやインスタグラムで積極的に情報開示をしています。

経営していくうちに、信頼が生まれ安心感が生まれるということが分かってきました。

 

Facebookで最寄り駅から店までの行き方なども投稿しています

 

インスタグラムでも新メニューやイベントなどの情報開示を積極的に行っています

 

ある日、マレーシアの大手旅行代理店会社の方が実際に来店し、食事をしていってくれたことがありました。コンセプトや取り組みを話していた時に、「あなたの店は認証を取る必要がないですよ。これだけデータがあって沢山の笑顔の写真があって、認証を取得するよりも効力がある」と言っていただいたことがありました。この言葉は、やはり認証よりも信頼を得ることが大事であると、自分の中で腑に落ちたことを今でも覚えています。

今後のビジョン、マレーシアに◯◯◯を

インバウンド業界はこれからどうなっていくとお考えですか。

インバウンド業界は、まだ成長段階で常に変わり続けていくと思っています。

成功事例がないので、「祭」はさまざまな取り組みをし、手探りで色々なことに挑戦しながら、成功や失敗を繰り返しています。

例えば、たこ焼き作りを体験できるメニューであったり、来店していただいたムスリムに日記を書いてもらったりしています。あとはお土産コーナーの品揃えも意識しています。

 

たこ焼き作り体験で子供も楽しんでいます

ムスリムダイアリー。沢山の感想と絵が残されています

 

幅広いおみやげコーナー。これを目的に来店されるお客さんも

 

これからの佐野さん個人もしくは、お店としてのビジョンはありますか。

ファーストステップとしては、年間3万人来店が目標で来年には達成される見込みです。セカンドステップとしては、東南アジアへの逆輸入として、出店していきたいです。

ムスリムの方が日本で消費してくれた分、東南アジアに還元したいと思っていて、

気軽に日本料理を楽しんでもらいたいと考えています。

最終的には、マレーシアに孤児院を作りたいです。

 

なぜ孤児院をつくりたいと思っているのですか。

2つ理由があります。

1つ目は先程述べたことと同じように、ムスリムが消費してくれた分は、ムスリムに還元したいという思いからです。

2つ目は、子供の時から困っているひとを助けなければならないという思いが自分の中で大重要視されているからです。教育が受けられないムスリムの子供がいるなら、わたしたちはムスリムの方々に支えられているので、そのような子どもたちに機会を提供したいと思っています。

 

これからの若い世代に大切にしてほしい事とは何ですか。

まず興味を持ったことに対して、行動することが大事だと思います。

本当にシンプルですが、実践できている人はまだまだ少ないと思います。ここでアクションを起こせるか起こせないかで本当に変わります。

そして、私が大切にしてほしいと思っている点を伝えておきたいと思います。

1つ目は、人生で一番ハマったことは何かという点です。

2つ目は、笑顔で素直な性格の持ち主かどうかという点です。

1つ目に関しては、ギャンブルでも良いし、女遊びでも、英語学習でもなんでも良いのですが、どれだけハマれるかっていう尺度が一番重要だと思っています。例えば、誰かが自分の会社に入社してくれた時に、そのハマった尺度を自分の会社に置き換えて、うまく引き出せるかが私の使命だと思っています。しかしこの尺度がもともと短いなら、伸びしろがないので、いくら私でも伸ばしてあげれないと思います。

2つ目は、笑顔で楽しんで仕事ができるかという点も大事であるという事です。いつも私は面接で、笑かそうとしていますが、その時に笑った顔が似合っているか判断しています。そして素直に相手の意見を受け入れることができるかという点も非常に大事だと思っています。

 

取材後記

佐野さんは、常に笑いを取ろうとしてくる姿勢で、さすが関西人だなぁという印象を受けました。その一方で夢や目標を持っていてかっこいい大人という感じでした。

また、佐野さんの他者に対する奉仕を人生の軸に置いて様々なことにチャレンジする姿を通して若者に勇気を与えれるのではないかと思いました。

そして、日本食レストラン祭は、11月1日 横浜に新規出店致します。
また10月29日レセプションイベントも開催予定です。
関東在住のムスリムの方々、ぜひ行ってみてください!

レセプションイベント Facebookページ↓

https://www.facebook.com/events/284017568990089/

イスラームビジネス特集の概要はコチラ↓

「イスラムビジネス特集」はじめます!ームスリムが最も多い地域ASEANー

 

取材後に一緒に記念撮影させてもらいました。右からアセナビ・ライターの和田、佐野さん、アセナビ・ライターの高池。