給与遅延事件とインドネシア人のやさしさ

 

アセナビ新企画「現場ボイス」第1弾
ASEANで働く方が各々の国、分野、テーマで現場から綴る。

《プロフィール:高野勇斗(タカノ ハヤト)》
1982年北海道生まれ。早稲田大学卒業。2007年インターネット広告代理店のアドウェイズに入社。入社1ヶ月目にして大阪支社を責任者として立ち上げ、その後も同様に責任者として名古屋支社、福岡支社の設立を手掛ける。2011年2月にはインドネシアを訪れ、翌年7月に(株)アドウェイズ インドネシア を立ち上げ、何もないゼロの状態から新規事業を次々に創出していく。将来の夢は市政、道政、国政に参画し、日本ひいては世界の持続発展に寄与すること。
《インタビュー記事》
http://asenavi.com/archives/1683

大事件!海外ビジネスで起こりうる決して人ごとではない話


アドウェイズインドネシアの高野です。

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

インドネシアの現地法人を立ち上げて3年目となる2013年を振り返って、最も印象的な話をしたいと思います。

その事件は今も忘れぬ5月10日(金)、ジャカルタオフィスで起きました。

その前月の4月、私とともにインドネシア現地法人の立ち上げをし、総務や経理、本社対応などを担当していた日本人駐在員がタイ現地法人へ異動。現地スタッフに引き継ぎをして間もない頃でした。

昼過ぎから社内には慌ただしい雰囲気が漂っていました。スタッフがなにやら真剣にパソコンに向かって作業をしています。なにかメッセンジャーで社員同士が会話しているようです。
それからまもなく、経理担当者から「高野さん、給与振込の承認ができてません。すぐに承認してもえらますか?」と言われました。


「まだ承認してませんでしたか?すぐに承認しますが、今日は給与支払日ですよ。間に合いますか?」と返した私に、「間に合いません。今日は金曜日ですから来週月曜日になります」との返事。


その瞬間、私は事態の深刻さを認識しました。
完全に私の責任ですが、給与の支払い部分の担当者との引き継ぎがうまくできていなかったのです。


発展途上のインドネシアでは、多くの人が給料日に合わせてローンの支払いや公共料金の支払いを設定しています。また、貯金をしている人間も少なく、給料日前に文字通り一文なしの人もいます。給与支払いの遅延は、社員にとって死活問題。会社として絶対に避けなければならないことと強く認識しているつもりでした。


場合によっては、暴動が起きたり、訴えられたりするケースもあります。私は現地法人設立時のまだ会社規則も作成してなかった時に、提携銀行間以外の送金は2営業日かかることを知らず、当時、3名の社員に対し給与遅延を起こしてしまったことがあります。一時的に立て替えましたが、そのような対応をもってしても、人材紹介会社経由で相当なクレームを受けました。


今、現地の社員数は25名に上ります。支払い額も相当な額です。私は、一瞬パニックに陥りましたが、社員にこの事がわかれば必ず動揺が広がります。会議室に移動し、解決方法を考えることにしました。


最悪のタイミングでした。この日は金曜日で、金土日と3日も遅延が起きることに加え、もう一人の駐在員である日本人がめったに取らない有給でオーストラリア旅行に出かけていました。給与額分の工面の困難さに拍車がかかりました。


少しずつ社員の中には給与が振り込まれる時間になってもATMに入っていないことに気づく人が増えはじめ、もはや仕事どころではない状況に追い込まれてしまいました。

私は、まず急いで両替所に行き、「ありったけの自分が持っている日本円をルピアに換える」ことを優先しました。ただ、アベノミクスの影響で日本円が最も安い1円=90ルピア(現在は1円=約115ルピア)ということもあり、私の所持金全額を持ってしても総支給額の20%にも達しませんでした。

焦る私は、クレジットカードで限度額まで海外キャッシングを繰り返しました。それでも総支給額の35%程度にしか達しません。もはや万策尽きたと思った私は、少しでも早く彼らの不安を取り除こうと、かき集めた大量のルピア(ルピアは日本円でいう千円札までしかないため、非常に膨大な札の量になります)をオフィスに持って行き、社員を集めました。

 

覚悟を決めて、社員に率直に伝える


「今回、私の重大なミスで絶対してはいけない給料の遅延が起きてしまいました。

大変申し訳ございません。ここにあるのは、私の持ち金すべてを両替して、持ってきたルピアです。皆さんの給与額に満たないですが、これをお渡します。金土日曜日でかかる費用に充てて下さい。返済はいつでもかまいません。大変申し訳ございませんでした」と、深く頭を下げました。


そしてそのお金が必要か不必要かにかかわらず、経理担当の人間から、社員に等分に配ってもらいました。焦燥していた私は、罵声を浴びせられることを覚悟していました。


しかし、驚くことに、誰一人、そのような人間はいなかったのです。寄せられたのは罵声ではなく、みんなが私に「テリマカシー。センキュー。タカノサン」という感謝の言葉でした。私は涙を堪えるのに必死でした。

そして週明けの月曜日、さらに驚くことが起きました。出社した私に、経理担当者から「高野さん、これは皆さんから返ってきたお金です。どうぞ。」と大量のルピアを手渡しされました。火曜日、水曜日になり、すべてのルピアが戻ってきました。

大量のルピアを前に、嬉しさがこみ上げました。私は積まれた大量のルピアを数えることをしませんでした。いや、正確に言うと数える必要がなかったのです。

経理担当者は、社員にお金を配る際、10枚を一束にして、輪ゴムではなくそれをホッチキスで留めて配りました。

私が見たルピアのすべての同じ箇所にホッチキスが留められていました。

つまり、誰もお金に手をつけなかったのです。


それはインドネシアに来てインドネシア人の誠実さと優しさを感じた瞬間でした。そして、同時に全力でインドネシア発展に寄与する人間になろうと改めて感じた瞬間でもありました。

 

《高野氏関連情報》
■ブログ「主体性こそ集大成-Beyond the Borders-」
 http://ameblo.jp/king-of-diary/ 

■高野氏facebook
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ABOUTこの記事をかいた人

アセナビ編集部

「ASEANで働くを近くする」を理念に掲げ、ASEANで働いている日本人のインタビュー記事を発信しています!他にも、ASEANのカルチャーやトラベル情報も発信し、ASEANに行ってみたいと思ってもらえるように日々奮闘中です。ほぼ学生で運営しています。