田村耕太郎氏が世界で活躍しようと考える方へ贈るメッセージ -イベントレポート「地図のない世界 〜海外現地採用という選択肢」(後編)

 

これを聴きに来た、という方も多いかもしれない。
講演のラストを締めくくったのは、日本を代表する国際人である田村耕太郎氏。

「本日は優しくて冷たい話はしません。厳しいけど温かい話をします。」

facebookのイベントページに事前に田村氏のそう書き込みがあった。
実際に話された内容は、決して明るい状況を示しているわけではない。しかし、前を向いて走り出したくなるような内容である。

前編に引き続き、海外就職を考えている人のためだけではなく、これからの世界を生きていく方々に向けたメッセージを紹介したい。

〈田村耕太郎氏プロフィール〉
前参議院議員。元内閣府大臣政務官。元参議院国土交通省委員長。エール大およびハーバード大の研究員を経て、アメリカの国家戦略を起案する超有名シンクタンク「ランド研究所」に所属。(著書『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?』より引用

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無国籍人化するな!


「海外に行くというならまずこれだと思うんですね。日本人として生まれた強みを活かしてほしい。今度本田はイタリア行くし、マー君だってメジャー行く。もちろん彼らは能力があるけど、やはり日本人だから高いお金を払ってくれます。能力だけを評価してほしいというドヤ顔の方もいるけど、もしあなたがアフリカ人だったら目立つことは難しいはずです。

日本人という最強のパスポートを持っているだけで相当優位な場に立ってると思うんです。世界に好かれていて、これだけ大きなマーケットを持っている。そして、これだけ尊敬されている。この利点を断ち切って外に出るというのはあまり賢明じゃないと思います。

世界は動的に動いてます。最近、日中関係でもめていますけど、今後このようなことは頻繁に起こります。内政に引っ張られて、外交や経済に影響が出る。現地でビジネスしてる日本人の状況を危うくしてしまうことだってある。

新興国のリスクはどんどん高まっていきます。なぜかというとアメリカの緩和縮小で、世界からアメリカにお金が戻っていく。すると、新興国バブルは一時的にはじけます。同時に、政治が不安定化しつつあるんです。タイを見てみてください。国民の政治意識が高まっています。多くの国民がネットにアクセスできるようになり、教育も行き届いている。しかし、ふたを開けてみると勝ち組はほんの少し。多くの人は勝ち組ではないけど、一票は持っている。そうなるとポピュリズムに走るんですね。今までの法律が一気に逆に動くこともある。経済も治安も政治も圧倒的に不安定化していきます。

新興国に出るのは素晴らしいと思います。日本との繋がりを持つならアジアが良い。しかし、アジアは最もぐらぐらしているという認識を持って、準備しなくてはならないことを忘れないでください。

 

小さく、貧しく、老いていくニッポン


「世の中には色んな信じ方をしてる人がいると思うんですけど、おそらく人生って一回きりだと思うんですよね。(会場笑)であれば、世界を見た方がいい。もちろん“日本だけで生きていく”という考えも納得した上であれば素晴らしい。でも死ぬ時に『あの時アジア行っておけば良かった』と後悔するかもしれません。

今の日本は奇跡みたいな時代なんですよ。この日本がずっと続くと思っちゃいけません。もちろん色んなリスクを勘案したらそんなに悪い国じゃないと思います。でも、今の日本が続くとは保証できませんね。政治家だったら保証するって言いますけど。(会場笑)

政治の師匠でもあるシンガポールの初代首相、リークアンユーが新しい著書の中で衝撃的なことを言っていました。
「もし私が若い日本人で、英語が話せたら、私は日本を出ていくだろう」と。

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彼は日本が好きだからここまで言ったと思います。日本をコピーしてアジアNo1の一人当たりGDPを叩き出す国になったんですから。それぐらい実績のあるリークアンユーなぜここまで言っているのでしょうか。日本は小さく、貧しく、老いていく。人口が減ると、一人当たりのGDPも減っていきます。自分が高齢になったらわかると思うんですけど、必要なモノは大体持ってるんですね。どんどん経済消費活動が起きなくなってきます。

安全保障においてもリスクがあります。朝鮮半島が今後10年20年なにもないとは限らない。安倍首相がブエノスアイレスで「世界で日本が最も安全です」と宣言しました。それでオリンピックのホストを勝ち取った。しかし、本当にそうですか?こういった意味でも今の日本がこれからも続くというのはわからない。

だからこそ世界も見た方が良い。世界に出て、どこでも戦えるオプションを持ちましょう。この動的な世界で、今の日本がいつまでも続くと思ってはいけません。

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厳しい環境で徹底的に差別化を


「これは国内であろうが海外であろうがやっておいた方がいいと思うことです。
とにかくレベルの高いところに飛び込んでいって、自分を鍛える。シリコンバレーではよく「25%成長しろ!」と言うんです。例えば、22歳で卒業して10%ずつ成長していくと7年間で生産性が倍になる。でもそれじゃ遅いという話ですね。では、どういう組織に入るのが良いのか。とにかく自分の目でしっかり人を見て、時間をかけて決めていくしかない。一番レベルの高い環境に入ると「コイツには勝てない」と認識する時がくる。そこで、自分の基準を少しずつズラして差別化していって、自分の武器ができる。

あと、これもシリコンバレーでよく言われています。「30%〜60%失敗するぐらいのプロジェクトをやれ」と。失敗してもいいわけですよ。僕の選挙自体がそうでした。三回落選して、4回目で受かったんですよね。僕は失敗しながら成功してきました。

プロジェクトベースの教育というのはいま世界でメジャーです。ただ、無責任なプロジェクトをやってもそんなに伸びないんですよね。失敗したらクビになるぐらいのプレッシャー、冷や汗かきながらも大きな責任と権限を与えられる。そういうプロジェクトでないと伸びませんね。」

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日本と海外の違い「自立・責任・決断」


「“空気を読む”のが重視される社会ですから、あまり自立して意見を言うとけむたがられる。なぜこういう社会かというと、最後は国や企業が助けてくれたからです。でも、これからは助けてくれません。海外でも水戸黄門のように助けてくれるものはない。日本にいても海外にいても自立的な決断力が必要とされる時代です。

この前ハーバードビジネススクールに呼ばれて、学生とディスカッションしてわかったのが、あそこは「君ならどうする?」というのしか問われない学校です。決断の基準を作る学校なんです。色んな選択肢の中から、自分で優先順位を決めていく訓練です。お金なのか、プライドなのか、信念なのか、家族なのか。

では、どうやってその力を身につけるのか?一番大事なことは困ってる人になりきることです。ハーバードでは二年間に500のケースをやります。困った社長に500回なるんですね。日本にいてもできます。困ってる人の立場に自分を置いてみて、自分の判断基準で思考する訓練をしてみてください。

これからは日本にいても世界に出ても、自分で責任を持って決断しなければならない。そのためには、「自立•責任•決断」を軸に成長の機会を作っていくのがいいと思います。」

 




ABOUTこの記事をかいた人

アセナビファウンダー。慶應SFC卒。高校時代にはアメリカ、大学2年の時には中国、それぞれ1年間の交換留学を経て、いまの視点はASEANへ。2013年4月から180日間かけてASEAN10カ国を周りながら現地で働く日本人130名に取材。口癖は、「日本と世界を近づける」