【社会起業家特集】Lupus患者と視覚障害者に希望の光を。Syamsi Dhuha Foundation Eko, Dian氏

2016.01.01

社会起業家 from Indonesia 特集、第1弾です!この特集は学生に社会問題への気づきを与える機会を提供しているAlternative ProjectGakuvoと提携して発信していきます。発展途上国の社会問題に対して先進国のNGOが取り組むことはよく耳にしますが、社会起業家 from Indonesia特集では、現地の問題を現地の方が事業を通して解決していくことに焦点を当てていきます!

 

あなたは、Lupus (日本語:全身性エリテマトーデス) という病気を知っていますか?

Lupusは主に女性がかかる病気で、精神病や風邪、癌などの症状を引き起こします。そのため経験豊富な医師でさえ診断するのが難しいとされており、今もなお的確な治療方法が確立されていません。インドネシアでは約20万人のlupus患者がいるとされていますが、政府からの支援もなく、社会的理解もないため、学業や仕事の面で差別の対象となってきました。

ちなみに難病情報センターによると、日本全国に約6~10万人ほどのLupus患者 (日本語:全身性エリテマトーデス) がいるそうです。医療機関に受診していない方などを含めるとこの2倍になるとも言われています。

今回はそのような困難な病気に苦しんでいる患者に対して支援を行っているインドネシアの社会的企業、Syamsi Dhuha Foundation (以下SDF) を設立したEko氏とDian氏にお話しを伺いました。

<プロフィール|Eko氏>
ビジネスコンサルタントとしてのキャリアを持つEko氏。妻Dian氏がLupusを患ったことがきっかけで、Lupus患者を支援する社会的企業Syamsi Dhuha Foudationを設立。

Dian氏に与えられた試練

-SDFを設立した経緯について教えてください。

 

 

 

私自身、1999年にLupusを患いました。その9年後には、視覚障害も抱えました。私はなぜ神からこのような試練を当たられたのか理解できずに悲しみに暮れていましたが、夫の支えもあり、人生に希望を持てるようになったのです。

そして、夫とともにLupus患者と視覚障害を持つ人々のために何ができるか考え、2003年にSDFを設立しました。Syamsi Dhuhaは朝の光を意味しています。私たちはSDFの活動を通じてLupus患者と視覚障害者に希望を与えたいのです。

 

-どのようにLupus患者の方に希望を与えているのでしょうか?

 

 

 

主に3つあります。①啓発活動、②財政的支援、③教育研修です。

①啓発活動に関しては、Lupusという病気に対する社会的理解を得るために、Lupus患者に関する知識を持つ経験豊富な医師から若い医師へのワークショップ、メディアに向けたワークショップ、学校でのLupusに関する講義などが挙げられます。

②財政的支援に関しては、Lupus患者に対する教育支援や起業支援を行っています。

③教育研修は視覚障害者に向けパソコンに関するワークショップを開き、学業や仕事に役立てる支援などを行っています。このような取り組みをすることで、患者の自立を助けるだけでなく、多くの人々がLupus患者や視覚障害者に対する理解を深めることができるのです。

こうした取り組みが認められ、多くの賞をいただくことができました。WHO (世界保健機関) を通じた笹川財団の健康に関する賞を2012年に受賞したのはその一例です。

参照:Sasakawa Health Prize 2012* | Syamsi Dhuha Foundation

 

ビジネスコンサルタントとしての手腕を社会のために

-Ekoさんはビジネスコンサルタントとしてのキャリアをお持ちだと伺いましたが、SDFとしてはどのような事業をしているのでしょうか?

 

 

 

基本的にTシャツやお菓子、人形、本の販売により事業収入を得ています。本の出版に関しては啓発運動と密接に関わっているので特に力を入れています。

また、私の知識と経験を元に社会人向けにファイナンス講座を開き、事業収入を得ています。

 

-SDFが社会的企業と呼ばれる所以ってどんなところにあるのでしょうか?

 

 

 

2つあると思います。1つ目は、ボランタリズムを推進しているところ。そして2つ目は社会起業家支援を兼ねたビジネスコンテストを開催していること。

まず、1つ目のボランタリズムに関しては、大学卒業後の若者に3ヶ月間ボランティアとして働いてもらうことで「働くとは何か」、「どのように自分が仕事をする中で社会に貢献していくのか」を考える機会にしてもらいたいと思っています。

次に2つ目のビジネスコンテストについては、ビジネスコンサルタントとしての経験を活かし、投資家から資金を集め、ビジネスコンテストの運営をしています。2015年度は293の起業家が参加しました。最終的に12の起業家に絞り、彼らには資金面だけでなく、事業のコンサルティングを行ったり、メンターを提供したりしています。

我々も運営資金の5%を自らの事業に使用することができますし、投資家も起業家の業績により見返りを得ることができる、そして起業家はインドネシアの社会問題の解決のために事業を行っている、というような好循環を生み出しています。

 

持続的な経営を目指して

-私には何一つ問題がないように思うのですが、現在立ちはだかっている問題はありますか?

 

 

 

人材不足と事業収入の割合です。現在我々は5人の社員と約100人のボランティアで構成されていますが、やはりこの人数だと限られた事業しか行えないのが現状です。そのため、先ほど言ったようなボランタリズムの普及を推進しています。

事業収入に関して言うと、100%事業収入から得ることを目標としていますが、現在はわずか15%しか賄えていません。今後もビジネスコンテストのようなイベントを開催し事業収入を増やしていこうと思います。

 

-今後のビジョンについて教えてください。

 

 

 

将来、視覚障害者のための施設を建て、彼らに対する支援を拡大しようとしています。

加えて、支援者からの財政的独立を目指しています。そのためにもビジネスコンテストの収益やファイナンストレーニングから得られる収益を伸ばし、さらに新事業を開発していきたいと思います。

 

-最後に社会問題に関心がある若者にメッセージをお願いします。

 

 

 

先ほど夫 (Eko氏) が言ったように今の若い方々には、「働くとは何か」「生きるとは何か」ということについて考えてほしいと思います。

自分が与えられた環境というのは、自分だけで作りあげているわけではありません。人は皆、社会に支えられて生きているのです。

だからこそ、あらゆることに感謝して、不利な状況にある方を見かけたら、助けることが必要なのです。

そうすれば、もしあなたが困ったときにも誰かが手を差し伸べてくれるでしょう。そういったことを踏まえたうえで、人生を送ってほしいですし、働くときに考慮するべきことが見えてくるのではないでしょうか。

 

取材後記

私は現在、大学で社会的企業をテーマにしたゼミに所属していて、日本や欧米の社会的企業の事例を学ぶことがあります。SDFは、その中でもユニークなビジネスモデルでした。というのも、SDFは、ただ患者に対して金銭的な支援をするだけではなく、自立支援に向けた教育支援を行い、包括的な支援を行っているからです。

さらには、社会的企業であるSDFが社会的企業を育成するビジネスコンテストを開いていることからも非常にユニークなビジネスモデルだと感じました。日本でもlupusで苦しむ患者の方々が沢山いるため、この記事をきっかけにlupusという病気への理解が広まれば幸いです。

取材メンバー:井上良太、坂本 眞一郎、Nurwantini Wiyono

執筆・編集:井上良太

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ABOUTこの記事をかいた人

井上良太

中央大学商学部経営学科卒業。大学2年の夏にカンボジアに訪れたことがきっかけでASEANや教育、国際協力に興味を抱くようになる。 3、4年次のゼミでは社会問題を事業で解決している社会的企業を専攻し、インドネシアの社会的企業とのネットワークを広げていた。 現在は株式会社パソナの社員として雇用を通じた社会貢献の方法を勉強中。 将来は国内外で社会的企業のプラットフォーム作りに関わりたいと考えている。