「世界の貧困問題を解決するビジネスを作る」 YOYOホールディングス 代表深田洋輔氏


「新興国・総オンライン化を目指す。」そう語るのは、マニラで事業を展開する、深田洋輔氏である。ソーシャルビジネスに関心を持ち、プリペイド式のモバイルに着目。何が深田氏を突き動かしてきたのか、そして彼は今どんなビジネスに注力しているのか、お話を伺った。

《深田洋輔氏|プロフィール》
大阪大学卒業後、大学院にて経営学と工学を2つの修士号を取得。2009年株式会社ディー・エヌ・エー入社。3年3ヶ月で退職し、単身フィリピンへ。その後、2012年10月にYOYOホールディングスをシンガポールで創業し、フィリピン、インドネシア、タイの3ヶ国でリワードプラットフォーム「Candy」、Androidロックスクリーンアプリ「PopSlide」を開発、運営。2013年、AERA「アジアで勝つ日本人100人」に選出。Echelon 2014フィリピン優勝、アジアTOP10スタートアップに選出。その後、Infinity Ventures Summit 2014 Launch Pad準優勝と、国内外のスタートアップピッチ大会で注目を集める。

 

ビジネスの最前線に立ち世の中を変えていきたい


―かなり変わった道を歩まれてますよね。学部生の時はバイオの研究して、そのまま院では工学修士とMBAもとられて、その後ITベンチャーに就職。そんな方なかなかいないと思うのですが。

学生時代は分子細胞生物学を専攻しており、乳酸菌のDNAを解析したり、ヒト由来の癌細胞を扱った研究などを行っておりました。ただ、気がついたらその道に乗っていた、という状態で、それまでは友達と酒を飲んだりバイトに精を出すようないわゆる普通の大学生。生物工学も、単に「面白そうかな」といった理由で選んだだけで、その時点では自分のキャリアなど考えたこともありませんでした。

当時の飲み友達には経済学部の友人が多かったのですが、みんな3年生の冬から就職活動で忙しくなってきていました。一方、自分が所属している理系のメンバーはどうかというと、60人中就活しているのは1人だけということを知ったんです。みんな大学院に行くのが当たり前だと思っていて、なんとなく院試の準備をしているんですよね。自分も将来についてなにも考えておらず、思考停止状態だって気が付き、「真剣に将来を考えないとヤバイ」と、本気で焦りました。

 

ーそこで、ゼロから考えて、何をしようと思ったんですか?

もっと社会のこと、ビジネスのことを学び、自分の将来について向きあおうと考えていたところ、自分が所属していた工学研究科に「ビジネスエンジニアリング専攻」というコースが創設されたことを知りました。自分の専門領域であるバイオテクノロジーは面白かったのでもっと勉強したい。でもビジネスのことも勉強したいと思っていた中途半端な気持ちの私にとって、とても魅力ある選択肢でした(笑)。大学院ではしっかりと専門領域の研究を行いながら経営学を学べ、その3年間で2つの修士号が取得できるといった当時では斬新なものだったので、迷わず進学を決めました。

また、その頃キャンパスを歩いていたら「理系キャリアセミナー」というイベントが開催されていたんです。ふらっと足を運んだら、大学のOBが講演をしていたんですね。そのOBは私の4歳年上なのですが、その時点で大学発ベンチャーを数社立ち上げており、多くの方を巻き込みながら自分で事業を立ち上げている起業家でした。「自分とそう年齢が変わらない人たちが大きなビジネスを仕掛けている」ということにショックを感じ、「もっとお話を聞かせてください!」と個別で連絡を取りました。ちょうどその頃、ライブドアの堀江さんなどがニュースを賑やかしている時期でもありましたので、起業家といったものに興味があったのも事実です。それから、私と同じように彼に連絡を取った学生仲間や、学内にいるベンチャー関係者たちと頻繁に意見交換したり、様々な活動を行うようになりました。

 

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ソーシャルビジネスへの関心


大企業の前線で活躍するビジネスマン、最先端の技術を社会に還元する挑戦をする研究者、ベンチャー経営者として大きな挑戦を続けているアントレプレナーなど本当に多くの方々とお会いしてきましたが、その中でも特に「社会起業家」と言われる方から大きな影響を受けました。

 

―なぜ社会起業家に惹かれたのでしょうか?

その方は本当に「この社会問題を解決したい」と心から感じていて、そのために行動を起こした姿に感動したからです。その方は非常に物腰が柔らかく、これまで会ってきたベンチャー起業家とはちょっと違った印象だったんですね。ただ、話していくと「社会を変えたい、困っている人たちを救いたい、より豊かで健全な社会を作りたい」と本気で思っていて、一寸のブレもないような方でした。

彼女が解決しようとしている問題は、ビジネスとして成立させるにはかなり難易度が高いんです。だから民間企業はその領域に着手してきておらず、いまなお問題として解決されていない。でも、だからこそ私がやらないとだめなんだって。その静かだけれども強い信念と情熱に触れたとき、「あ、ビジネスって社会の問題を解決するために存在しないといけないんだ」って感じて、心を動かされて。大学を卒業して社会に出たら、残りの人生の多くの時間をきっと、「仕事」に費やすことになる。そうであれば、心から自分が正しいと誇りに感じる、全部の熱量を捧げられるような事業に真正面から向かい合って挑戦したい。そんなふうに感じたんです。

 

ー具体的にロールモデルはいますか?

その方以外だと、私が一番大きな影響を受けたのは、バングラディッシュで貧困層向けの小口融資(マイクロファイナンス)を提供する「グラミン銀行」創設者のムハマド・ユヌス博士です。いまではマイクロファイナンスの仕組みは多くの方に知られていると思いますが、どうしてグラミン銀行ってここまで大きなインパクトを残すことができたんだと思いますか?

 

―うーん、あの価値あるモデルを世界に広げたことでしょうか?

そうですね、ではなぜマイクロファイナンスのビジネスモデルはあんなに短期間で世界中に広まったのでしょうか。その理由は非常にシンプルで、「高い収益性があるから」だと私は考えています。グラミン銀行って実はバングラディッシュでしか事業を行っておらず、他の国で展開されているマイクロファイナンス・プログラムは全てグラミン銀行の事業を参考に作られたプログラムなんです。事業として売上や利益が出ないのであれば、ここまで多くの方が挑戦なんてしなかったでしょうし、多くの方がそのサービスの恩恵を受けることはできなかったでしょう。社会問題を解決できるような大きなインパクトを作るためには、大きく利益が生み出せる仕組みが伴っている必要があります。しかし「大きな利益を生み出す」ことは、必ずしも社会を直接的に変える事業と関連しないので、非常に高い壁になります。頑張っているのにそんな利益は出ない。スタッフにも十分な給与が支払えない。そこに優秀な人達が集まるかと言えば、少し難しいですよね。

私たちも、世界の問題を構造的に変えていけるような大きなインパクトを残すためにも、事業として大きな収益を生み出す必要があると考えています。

 

 

新興国・総オンライン化


—フィリピンのモバイルマーケットの状況を教えてください。

フィリピンに限った話ではありませんが、2014年は「Android元年」と言えるほど、東南アジアのモバイル市場は劇的に変化しました。日本ではスマートフォンというとiPhoneを想像する人が多いと思いますが、新興国の多くの人々にとっては手が届かないほど高価です。一方でAndroidは、最新のOSが入っているものでも3000円台から購入ができます。フィリピンの平均世帯収入が月4万円程度なので、すでに十分に手が届く金額まで下がってきました。弊社では「Candy」というWebサービスをフィリピン、インドネシア、タイで展開しているのですが、各国のアクセス解析をしてもスマートフォンからの流入比率が1年間で2倍以上に伸びてきています。とにかく、変化の速度がとんでもなくて、私のフィリピン人の友人たちも2年前は誰もスマートフォンを持っていなかったのに、現在ではほとんど全員がAndroidを所有しています。

また、支払い方法についても大きな特徴があります。日本では通信キャリアと契約をして電話番号を取得し、利用した分だけ毎月口座から引き落としされるような「ポストペイド式」が主流ですが、フィリピンのような多くの新興国では「プリペイド式」、つまり前払いが90%以上になっています。具体的には、携帯を使う前にお店に行って、その日使う分だけ数十円単位で通信料金を購入して、通話やメールで使い切って、また通信料金を買い直して。このサイクルを毎日のように繰り返しています。でもこれだとすぐに「通信料金切れ」になってしまうので、せっかくスマートフォンを持っているのにインターネットに繋がっていないんです。日本ではなかなか考えられませんが、未だにモバイル端末は「基本的にオフライン」という人々が非常に多いため、どんなに魅力的なインターネットサービスを作ったとしても、彼らの手元に届けることはできません。自分がオンラインになってEメールやLINEを友達に送ったとしても、相手がオフラインである限りリアルタイムに届かないのです。その結果、多くの人が無料wi-fiや通信料金に強いニーズを持っており、1時間ほどの通信料金だとしても彼らにとってはとても貴重なものになります。

 

マズローの欲求5段階説 wifi

マズローの欲求5段階説で、Wi-Fiへの欲求が、何よりも大きいということを表した図。 Photo by blog.dlink.com


—現在行っている事業についてお教えください。

新興国向けにモバイルインターネットを無料化するサービス「PopSlide」の開発・運営を行っています。
スマートフォンを立ち上げて表示される「ロックスクリーン」を解除する度にちょっとずつポイントが貯まるアプリで、ロックスクリーン上には新着商品やセール情報、人気アプリや求人情報、ニュースや占いまで、雑誌のように楽しむことができます。それらの情報を閲覧したり、利用することでポイントが貯まります。溜まったポイントはプリペイド携帯の通信料金に変えることができる仕組みです。

つまり、構造としてはテレビやラジオと同じです。テレビ番組の制作予算は決して安価ではありませんが、スポンサーはその費用を負担する代わりに、視聴者に広告を届けることができます。その結果、視聴者はみんな無料で番組を楽しめるのですが、一方でインターネットに接続するとき、テレビと異なり、みんなお金を支払っていますよね。どうしてインターネット接続はテレビのように無料じゃないんでしょうか?今、Androidが新興国で広まり始めるこのタイミングで、スマホを使うときは「CMを見るのが当たり前」、という文化を定着させることができる絶好の機会だと思っています。スマホを使っているときに、自然とCMを見てポイントが貯まっていく。ぼくらは、インターネット人口を増やしながら多くの人に「いつでも情報にアクセスすることができる」という機会を提供していきます。

当然、しっかり利益も出さなければインパクトとスピード感のあるビジネスにはならないので、広告主から収益をいただいています。現在はフィリピンのみで実験的に展開しているのですが、ユーザー様から大きな反響をいただくことができました。ノン・プロモーションで国内のGoogle Playランキングでも30日間連続No.1になり、多くの大手スポンサー様からも広告出稿いただくことに成功しました。本事業を通じて、フィリピンから他国にも展開していき、新興国全てを総オンライン化していくことを目指しています。

2枚のSIMカードが差し込めるデュアルSIMスマートフォン。海外では主流のようだ。


—どうしてインターネットを無料で提供したいと思うのでしょうか?

私たちは「世界の貧困問題を解決するビジネスを作る」という思いから起業しました。貧困はお金の問題ではなく、「機会の欠如」です。例えば、お金を十分に持っていたとしても、物流が十分ではないので食べるものが選べない、服や仕事を選べない、学校に行くかどうか選べない。そんなOpportunity(機会)の欠如こそが貧困の姿だと思っています。インターネットで提供できる「情報」は、全て「機会」に直結します。

例えば、もし教育問題を改善したいとき、学校を建てるとします。それだけだと限られた人にしか教育を届けることはできません。しかし、もしインターネットを無料で提供することができるなら、アメリカで無料公開されている優れたオンラインの授業を受けることができるんです。どんな島国にいても、どんなにお金がなくても、誰もが自宅から勉強することができるようになります。オンラインでプログラミングの勉強をすることができるようになり、エンジニアとしての素養を身に付けることができたなら、クラウドソーシングを通じて収入を得ることもできるようになりますし、収入も劇的に変わります。

他にも、日常の暮らしの中では買うことができないものもオンラインで注文することができたり、新しい出会いを通じて素敵な人生を歩むきっかけになったり。このようにオンライン人口が増えることで「インターネット市場」が大きくなるため、それに伴って参入するインターネット事業者も増えてきます。その結果、より多くのサービスが生まれ、競争の中でより価値のあるサービスだけが残っていき、人々の暮らしがより豊かで便利になっていく。その「最初の一歩」を踏み出すためには無料モバイル・インターネットが必要なんだと信じ、日々サービスの普及と改善を行っています。

 

—深田さんの今後の展望について教えてください。

プロダクトを短期間で大きく成長させるために、2014年は外部の投資家から資金調達を行いました。今後は私たちと一緒に世界を変えていきたいと思える仲間たちを増やし、フィリピンに限らずその他東南アジア、南アジア全域の約18億人をターゲットにして、インターネットにつながらないAndroid端末を全てオンラインに変えていきます。GoogleやFacebookも「全ての人にインターネットを」という考え方を持っているのですが、私たちは本ビジネスモデルでアプローチすることで、彼らよりも早く世界を変えていきたいと思っています。

 

「問題解決先進国・日本」のために


―最後の質問です。日本の未来に不安を持っている若者に対して、ご自分の経験からメッセージをください。

先輩たちの話を聞くことで学びを得られることも多いと思いますが、もっとヨコにいる同世代を見て、その中にいるモンスターのような存在を見つけたほうがいいと思います。私は、日本の未来は明るいと思ってるんですね。たしかに、日本経済を長期的に考えると、先行き不安で心配になる方も多いでしょう。しかし、今の若者の中には、情熱と行動力に溢れた素晴らしい方が本当に多く、「こんな若者がいるのであれば、日本の未来は大丈夫だ」と思うことが少なくありません。心から尊敬できる20代の方がたくさんいます。歴史を遡ってみると、大きな時代の節目や革命が起きたとき、行動力のある若いリーダーたちが社会を変革していくのです。いまの日本には、素晴らしい若者がたくさんいる。そんな同世代の仲間を見つけ、互いに切磋琢磨することが最も学びがあると思います。

 

現在、日本は「課題先進国」と表現されることがあります。少子高齢化や環境問題、エネルギー不足など、誰も解決策を知らないような社会問題を他の地域よりも先取りしている国、という意味ですが、日本の若者はその直面している問題を解決していかなければいけないんです。なぜなら、今後は他国でも同じ問題が起きていくから。日本が抱えている社会問題を解決していくことは世界が今後必要とする解決策を先に提示できることを意味しており、リーダーシップを発揮していくことができるようになります。

特に近年の東南アジアは、問題解決を学び、実践する環境として最適だと思います。実際に、ここ数年の間に若くて優秀な日本人が多く東南アジアに集まってきており、早くから大きくて困難な問題に対峙し、たくさんの挑戦を重ねています。東南アジアは目の前に課題だらけで、日々一刻と変化しています。こんなに毎日が刺激的で予測不可能であり、変化していく環境は他にはありません。我々も現在、挑戦心の強い若者を積極的に受け入れています。ぜひ興味がある方は、弊社にご連絡ください。一緒に世界を変えていきましょう!

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