タイの村でお世話になった人々との出会いをきっかけに、村落開発支援に奮闘する。日本国際ボランティアセンター(JVC)ラオス事業担当・木村茂氏

特集「“ひとのため”になる国際協力ってなんだろう?」では、東南アジアの教育・医療・文化保全・森林保全・平和構築の現場で奮闘する4名と一緒に、アセナビメンバーが“実際にひとのためになる国際協力活動”を考えていきます!

本特集ラストとなる第4弾では、長年NGO職員として村落開発に携わってきた木村氏に、リアルな現場体験を伺った。タイ北部でNGO職員として働くことになるきっかけは何だったのか?そして現地の人々との関係を築くために必要なことは何なのだろうか?

プロフィール|木村茂氏

大学・大学院で地理学を学び、卒業後は研究職を経て日本国際ボランティアセンター(JVC)に就職し、タイ事業を担当。その後、チェンマイでLinkという団体を設立し、農村生活の基盤となる自然資源の住民による保全の支援活動を行う。10年を過ぎたのを期に帰国し、JVCに再就職。タイでの経験を生かして、現在はラオス事業担当として働く。

 

農村の魅力・問題に気づいた学生時代

ー 長年タイで村落開発に関わることになる、その原体験は何だったのでしょうか?

家族全員出身が東京周辺だったこともあり、テレビ越しではなく、自分の目で世界が見てみたいという思いがありました。

大学1年生の終わりにサークルの先輩に誘われて行ったタイが、初めての海外でした。タイに40日間ほど滞在する中で農村に行く機会もあり、それがタイの農村と関わり始めるきっかけになりましたね。

 

ー その後も何度かタイの農村には行かれたのですか?

大学生のうちに何回もタイの農村に足を運びました。こちらは何一つあげるものがないにもかかわらず、必ず誰かが食べるものをくれたり、家に泊めてくれたりと、現地の人々には散々お世話になりました。東京育ちの自分にとって、電気を使わず、朝はニワトリの声で起きるような生活がものすごく新鮮で面白く感じましたね。

同時に、農村に住む人々の土地が奪われているという話を聞いたり、交通事故や病気であっけなく人の命が失われてしまう事実を知ったりしました。何度も足を運び、お世話になった人たちの暮らす農村部が、そのような状況であることが「あまりにおかしい」と思いました。

その後、物の知り方をもう少し勉強したい、役に立てる人間になるためにもっと学びを深めたいと思い、大学院に進学しました。就職して大学の教員をしていましたが、もっと現場に近い仕事がしたいと思い、NGO職員に転身しました。

ラオス南部・サワンナケート県の稲作農村

東南アジアの農村が抱える問題

ー 木村さんは今まで、村の人々が主体的に森を守り、活用する支援を行ってきたと伺いました。タイとラオスはどのような問題を特に抱えているのでしょうか?

土地問題は大きな問題として挙げられますね。日本の場合、昔から土地の権利関係はかなりはっきりしていました。一方、東南アジアでは、人が少なく土地が余っている状態で、誰が所有する土地であるのかということに、あまりこだわりがありませんでした。ところが工業化に伴って天然資源の需要が高まり、土地が価値を持ち始めました。それにより、今までその地で生活を営んできた人たちが、開発事業によって土地を追われるという事態が発生するようになったのです。

 

ー 誰の土地なのか曖昧であったことを利用して、国が搾取しているのですね。

日本ではダムの建設計画が持ち上がるたびに、納得のいかない人々が声をあげますよね。しかし、世界にはその声すらあげられない人々がたくさんいます。一方的な形で資源が奪われているのです。

JVCでは、そのような土地問題に対処するべく農民のサポートを行っています。農村の人々の生活を安定させることを第一の目標に活動しているので、必ずしも土地問題に限定して動いているわけではなく、農業生産性を上げるような技術の指導も行っています。

スタッフ研修の様子

現地で活動をする難しさ

ー 活動をする上で難しいことは何でしょうか?

まず、タイとラオスを比べると、ラオスには言論の自由がないということを強く感じます。現在、タイは軍事政権下にありますが、隙あらば命をかけても権利を求めて戦おうとする人々がいます。しかしラオスで活動していると、不満の声を聞くことはほとんどありません。勝算がないために戦わないという感じでしょうか。そういう状況下でのサポートは非常に難しい面があります。

 

ータイでは 農村の人たちが殺されてしまうこともあるのですか?

企業や国と農村の間に軋轢が生まれたとき、村の人々をまとめているリーダーに手を引かせることが、一番活動に打撃を与えることになります。そうした中で、最悪の場合は殺されてしまうのです。

私はタイ北部で土地問題を扱ってきましたが、村によっては何年も近づくことを避けていた村もあります。「あいつらはNGOに協力している」と目をつけられると、その村人の立場が危うくなることがあるためです。

信頼関係を築くために必要なこと

ー NGOが最初に活動を始めるとき、農村の人たちは好意的に受け入れてくれるのですか?

必ずしもそうではありません。「よそ者が関わってもいいことはない」というのが田舎の人々が培ってきた知恵です。そのため、活動を始めるにあたっては、私たちが関わることのメリットについて、具体的に説明する必要があります。

 

ー 信頼を得るには時間がかかりますね。

緊急支援の場合では、今すぐにでも命を救う力が必要とされていますよね。一方で村落開発の現場で私たちが関わる人々からしたら、「あなたたちの村は問題を抱えています」と外部の人間に言ってこられても、大きなお世話じゃないですか。そういう意味では信頼関係を築くことはより難しいと言えるかもしれませんね。

一つの農村には、NGOの活動に参加してくれる人たちがいる一方、常に反対の立場にいる人たちも存在しています。NGOの活動は、たとえ良いプロジェクトでも、現地の人々が求めていることとかけ離れていてはいけません。かといって、現状を肯定したままでは何も変わらないですよね。そのために私たちは勉強をして、あらゆる選択肢の中から地域の人々が面している問題に対して提言をしなければならないのです。

 

ー 今後の活動でやりたいと思っていることは何かありますか?

もうすぐラオスで3年間のプロジェクトを始められそうなので、まずはそれに集中したいですね。その事業では、10の村を事例に、地域に住む人々の生活を安定させることにフォーカスします。そこでは自然資源を住民が主体的に管理・利用できる環境を整えることを目標にしています。

また、村の人々の生活支援自体が、二次的に環境保全にもつながると期待しています。このプロジェクトで良い例を打ち立てることができれば、他の地域にも広げていきたいと思っています。

私はタイのやり方や法律のほうが詳しいので、それをラオス事業のスタッフに紹介し共有することで、何か新しい発見があるのではないかとも考えています。

活動村の選定調査を行うスタッフたち

足で稼ぎ、人と接する大切さ

ー 木村さんが大切にされている姿勢や考え方は何でしょうか?

どうにもならない力の中で弱い立場に立たされている人々と関わるには、強い判断力を持っていなければならないという自覚を持つことです。そういう判断力は、たくさんの人と接して人間力を高め、失敗を重ねないと身につかないと思います。

それと、「国際」という言葉を気にしたことはありませんね。多くの国は陸続きであり、また一つの国の中に異なる民族、言葉、宗教があるのがふつうであり、同じ国でも一括りにはできません。日本は島国であるせいか、「国際」という言葉を気にしすぎだと思います。

私は学生時代にタイの村の人たちにお世話になったことをきっかけに、より良い社会につながればと今の仕事を続けていますが、「それが国際協力だから」というわけではありません。活動をする動機や魅力は人それぞれでしょうけど。

 

ー 最後に学生へメッセージをお願いします。

「足で稼ぐ」ことでしょうか。海外に行くのにバイト三昧の生活を送っている人もいると思うのですが、私は先輩に、「お金は借りるでも拾うでもいいから、まずはどっかに行きなさい」と言われました。海外に出たから偉いというものではありません。しかし、もしあなたが広い世界を見てみたいと思うならば、時間のある今のうちに、実際に足を運んだほうが良いでしょう。

NGOの活動をしている身としては、こうした中で、私たちの活動を引き継いでくれるような次世代の人材が育ってもいいなと思っています。

森から食べ物や燃料を採って暮らす人々

編集後記

「広い世界を見てみたい。」そう思って偶然訪れたタイでの出会いをきっかけに、東南アジアの村落開発に奮闘する木村さん。現地の人々が抱える問題を冷静に、そして農村での生活の魅力を熱く語っていただきました。今回の取材を通し、現地での信頼関係を築く難しさや土地問題について、学びを深めることができました。

私たちが日々の生活で使っている電化製品を製造する過程で、土地を追われている人々がいることを忘れてはいけません。