マレーシアの若手 IT 起業家が語る「とりあえず出てみること」 の重要性 - funnel Malaysia 代表取締役 澤田将司氏

 

funnel Malaysia 代表取締役、澤田将司氏。大学卒業後マレーシアで起業し、様々な変遷を経て、現在世界205カ国に合計100 万人近くのユーザーを持つオンラインゲームプラットフォーム『funnel.asia』 を運営する。「とりあえずやってみることが大事」そう語る彼のマインドを深く語ってもらった。

 

どうしても若いうちに会社やりたかった。たまたま来たマレーシア

ー早速ですが、起業に至った経緯をお聞かせください。

学生時代の時に好きだったものって、「車」とか「海外」だったんですね。それを掛け合わせると、「車の輸出」になるのかなと思って、インターネットで車の輸出をしてました。そのメインマーケットがたまたまマレーシアでした。

何年かそのビジネスをやってたんですけど、IT の仕事をしたくて、当時人件費が安かったプログラマーとかデザイナーとかを採用しましたね。彼らにプログラム書いてもらい、日本に納品したらそれなりに動いたので、「これいいな」と思ってプログラマーをさらに増やしていって今に至ります。

 
ー学生時代から普通の学生がやらないようなことされてましたが、元々起業家思考がありましたか?

なんかで起業したいとは思ってましたね。でも、僕も実は就活したんですよ。何社か内定頂いたんですけど、しっくりくるものがなかったですね。会社に入ると4,50 年働かないといけないじゃないですか。 そう考えると、本当にこの会社にそんなポテンシャルがあるのかと疑問に思いましたね。どちらかというと「漠然と海外に行きたい」というのがあったので内向きな会社では働きたくなかった。

包み隠さず言うと、たしか最終面接のときに、「君、採用」ってなって、「良かったなぁ」って思って、その会社の喫煙室でタバコ吸ってたら面接官が来て、 色々喋ってたんですよ。その人は3年目で、25歳ぐらいの人でしたね。その会社すごく初任給が良くて、30 万ぐらい。「3年後にどれくらいもらってるんだろう」と思って、アンオフィシャルな場だから「ぶっちゃけいくらぐらいもらってるんですか?」って聞いたら、「30万」と言っていて。

「3年働いてもこのペースか...」って思ったら、かなり時間がかかるなって思って。どうしても若いうちに会社やりたかったんですよ。だったら、そこで苦労して時間使うなら、「もうやっちゃえ」って感じでしたね。

 

ーその「若い時にどうしてもやりたい」って思ったのはどうしてですか?よく社会人は「一度若いときに大企業経験してからやりな」って言いますね。

僕もそれがベストだと思いますよ。まず大企業に入って、1,2年コネクション作りまくって、独立というのは一番良いパターンですよ。自分でいきなり独立しても、通常会うこと許されないようなレベルの人とは会えませんからね。

 

マレーシアをコストカットの場としてではなく、市場として捉えた

ー最初はシステムのオフショア開発事業をされていたとのことですが、 それから今の形になるまでの道のりをお聞かせください。

マレーシアはオフショアの開発拠点として位置づけていて、こっちで開発して、日本に納品するというモデルでした。最初はうまくいっていましたが、人件費がすごく上がってきました。当時僕が始めたときは 4〜5 万円で雇えたんですけど、 今じゃとても考えられない。今は 15万円ぐらいですね。

ここ2〜3年ぐらいで言えるのは、オフショア開発拠点としてコストカットの強みはない。同時に社員の仕事の質も上がっていますけどね。 こっちではエンタメ業界でお金を使うケースが増えてきて、単なる開発拠点じゃなくて、市場として見ようと思ってたんですね。「何が一番アツイかな」って 考えたらゲームがあったんで、ゲームをフックにビジネスしようかなと考えました。

その決断自体が2010年ぐらいですかね。ゲームのプラットフォームをリリース したのが 2011年。それから会員数は 100万人近くいきましたね。205カ国にユーザーがいるんですよ。その3/4ぐらいは東南アジアです。

 

ー僕の印象だと、東南アジア市場はそれなりに大きいと思うんですけど、 1ユーザー当たり課金額が相当低いっていうのが僕の認識なんですが、 実際のところどうですか?

たしかに、日本とか韓国とかアメリカに比べたら低いですけど、シンガポール•マレーシアに限って言うならば、そんなに低くないですよ。特にオンラインゲームは。


ーいま、IT 系の企業がどんどん東南アジアの方に進出を試みてると思うんですけど、そういう会社にアドバイスしたいこととか、「ここは気をつけろ」っていうところがもしあればお聞きしたいです。

アドバイスできるような立場でもないんですけど...日本人ってどうしても海外に出たことがない企業は、東南アジアってコストカットの拠点として位置づけちゃうんだけど、そんなに期待するようなコストカットが出来るかって微妙ですし、それだけじゃないんだよって伝えたいですね。

ー色んな言語が使えるとか、マレーシアの色の多さみたいなのが205カ国のユーザーまで広がったゆえんなのかなと感じました。

日本でやってる限り、あり得ないですよ。うちだと中国人ともアメリカ人ともインド人ともやりとりできる。東南アジアって言いますけど、めちゃデカいじゃないですか。日本人的発想だと、東南アジアを一括りにしてしまうんですけど、東南アジアの中でも色があるし、その辺はしっかし勉強して出てくるべきかなって思いますね。安いからとりあえず出てこようというのは間違ってないんですけど、もう一歩深く考えてほしいですね。


ーもう立派な市場なんですね。ちなみに色んなゲームがある中でゲームによってターゲットは変わると思うんですけど、マーケティングの方は現地人に任せられてるんですか?

そうですね。

例えば、三国志系のゲームをヨーロッパ人に見せてもしょうがないので、中国系ターゲットしますね。クリエイティブもちょっと変えたりします。日本の萌え系のデザインはこっちでは別にウケないんで。その辺のローカライズはマレーシアでするのが一番良いと思います。

ーマレーシアで仕事することの魅力ってなんですか?

やっぱり、仕事の面では、伸びてる国なので「今日より明日どんな国になってるんだろうな」という期待感は当然感じます。日本だったら今日より明日は沈んでいくだけなので、あんまり景気の良い話ないじゃないですか。

住環境は来ればわかると思うんですけど、都会でもないし田舎でもないし中間。物価もめちゃくちゃ安くはないけど、高くはない。だからバランスがすごく取れてる国だと思いますね。バランスを考えてマレーシアより良い国はまだ見つからないですね。』


ー東南アジアで他の国にたくさん行かれてると思うんですが、住む環境としても働く環境としても、次に「ここはアツイ!」と思う国はありますか?

ちょっとギャンブル的なところはあるんですけど、ミャンマーはウォッチしていますね。捉えようによってはポテンシャルしかないので。やっぱ国の変革期は活気ありますし、あそこから落ちていくって不可能じゃないですか。 日本でなんかやろうとうすると、「既にあのサービスあるよな」って考えちゃうけど、ミャンマーなら何をやってもパイオニアかもしれない。今から昇るしかない国なんで、そこに身を置きたいって気持ちがあって、ちょくちょくいこうかなと思ってます。


ー発展途上の国で働くってことは、敵も多いですよね。マレーシアだと、中国韓国企業も多いと思うんですけど、「競争が激しい環境」にいるというのモチベーションになりますか?

そうですね。確かに競争激しいですけど、日本でやる方がより激しいと思ってますね。僕がここで仕事すると、「日本のもの」というだけでも差別化しやすいですし、それが武器になったりしますしね。

 いつか海外でやってきたノウハウを日本に還元したい 

ーブログの一番最新のエントリーで、「若者の海外離れ」の話をしていたと思いますが、そこでは「逆に“若者の日本離れ”を危惧している」とおっしゃってたんですが、詳しくお聞かせください。

僕の感覚では、むしろ海外志向になってきている気がするんですよね。日本でビジネスしてた方も「海外で稼ぐ」っていうケースがすごい多いんですよ。 国内市場がシュリンクしているので、海外志向の若者が増えるのは自然な流れじゃないですか。これからは間違いなく出ざるを得なくなる。

若者が海外離れしてるって言われているけど、それって単に「若者の数が減ってるからじゃないの?」って思うんですよね。

若者が海外に流出すると、国力がどんどん低下していくので、僕はそっちの方を危惧しています。結局日本の市場とか税制もそうなんですけど、取り巻く環境に魅力がないから流出しちゃうんですよね。社会保障の問題とか色々出てますけど、そもそも若者に支えてもらおうと思ってた構図なのに若者がいなくなったら国自体崩壊するじゃないですか。

海外で働いていながらなんなんですけど、僕はむしろそっちの方が危惧しているポイントですね。

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ーでも、日本から若者がいなくなったとしても、海外で日本のバリューを発揮できる人が増えれば日本のプレゼンス自体は低下しないと思うんですけど、そういう点から見て海外で活躍する日本人が増えればいいなと個人的に思ってます。

やっぱ海外で働く日本人っていうのは必ず必要なんですよ。 ただ、いつそのノウハウを日本に還元するかっていうステップ2があるんで、 そこのスキームが構築されてないとただ流出するだけになる。

マレーシアの政策なんですけど、一回アメリカとかに行って、学んでもらってきて、帰ったら手厚い待遇で国に還元してもらうっていうスキームがありますね。僕は、いつか海外でやってきたノウハウを還元したいと思いますね。「マレーシアで死にたい」みたいには思ってないし、日本というところがないと僕の強みもないですから。

 

「まさかKLがこんな都会だなんて」実際に走ってみないと見えない景色だらけ 

ー先ほど、海外で成功する人が増えてるっていうお話があったんですけど、そういう人達に共通している点はありますか?

中国韓国企業って海外で成功するパターンって相対的に多いじゃないですか。 日本は頭でっかちなところがあって、全てパーフェクトじゃないと海外に行かない。事前に調べて、「ここどうなの」って何度もやってるうちに先越されて市場とられてる。来た時には蚊帳の外っていうのがあると思います。

ざっくり言うと、「とりあえず来てみる」っていうのもすごい大切なのかなとは思いますけどね。こっち来て、実際に走ってみないと見えない景色だらけですから。日本でいくら議論してもわかんないですよ。まさか KL がこんな に大都会だと思わないと思うし。

ちゃんとここに来て物理的に身を置いて、とりあえずやってみるっていうのは スゴイ重要なことなんでね。その、ベンチャー魂というか、あまり固くならずにとりあえずチャレンジするっていう姿勢なんじゃないですかね。

 

ー最後の質問です。今海外に一歩出ようとしている若者に対してメッセージをお願いします。

あんまりあれこれ考えずに、仮説を立ててやってみるってことですね。

考えても実際こっちに来るまでわかんないですよ。スクラッチアンドビルドじゃないですけど、「こういう仮説があったな」、「こういう結果だったな」、「じゃあこうしたらいいんじゃないか」っていう思考って日本にいたらできないじゃない ですか。これがすごい重要なことだと思うんですよね。

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Interviewed in Apr 2013


《編集後記》

その気さくな話し方とは裏腹に、内側から熱い情熱を感じさせられた。その熱さが「とりあえずやってみる」行動力を生み出していると思った。「海外でいきなり起業」と聞くと、ハードルが高くスーパーマンにしかできないイメージが どうしてもある。しかし、“試行錯誤するマインド”があればそんなに高いハードルではないと感じた。海外でなんかしたいと思っている方、実際に自分の目で見て、走ってみてください。 

*一部写真の差し替えを行いました。




ABOUTこの記事をかいた人

アセナビファウンダー。慶應SFC卒。高校時代にはアメリカ、大学2年の時には中国、それぞれ1年間の交換留学を経て、いまの視点はASEANへ。2013年4月から180日間かけてASEAN10カ国を周りながら現地で働く日本人130名に取材。口癖は、「日本と世界を近づける」