大学在学中の頃から海外で起業することを考えており、現在はベトナムで6つもの多角化経営を行う。ベトナムで働くには現地での生活にどっぷり浸かり、ベトナムでの処世術を習得することが鍵だと語る野原氏に今までの道のりと今後の壮大な展望を伺った。
《プロフィール|野原 弘平氏》
1986年生まれ。2009年早稲田大学商学部を卒業後、設立後間もないスタートアップベンチャー企業を経てベトナムへ渡航。誰も知り合いがいないところから少しずつ事業を拡大し、現在従業員25名(ラボ含)、アジア発で世界的に利用されるITサービスを生み出すべくベトナム向けメディア事業を展開中。
目次
6つの事業を気の向くままに全力で
―事業内容を教えてください。
まず1つ目はラボ型開発事業で、これが現在のメイン収益事業です。ベトナムは「オフショア開発」で近年有名ですが、それは「受託型」と「ラボ型」の2種類に分類されます。前者は日本の発注者が受託者に仕様を伝えて、開発を委託する開発形態です。後者は発注者が開発会社のチームを丸ごと一定期間借り受けて開発を進める形態を指します。その中でも弊社ではご要望に合わせて採用から発注者に関わって頂き、開発の管理も全て発注者側にやって頂くスタイルのラボ型開発サービスを提供しています。発注者にとっては自社でベトナム支店を開設して自社の社員として共同で開発をしているという感覚で開発ができるため、オフショア開発としても、ベトナム進出前の準備段階としても有用な開発スタイルになっています。
2つ目はベトナム向けメディア事業で、こちらがベトナムに来た当初から本業としてやりたいと思っていた事業になります。ただ、いきなりウェブメディア単体で十分な収益を上げるのは難しいので、受託開発やラボ型開発サービスをやりながらこつこつ色々なサイトを作ってきました。ベトナム美人時計や美容院、スパ等の店舗情報サイト、おもしろ画像投稿共有サイトやその他たくさんのサイトを作っては失敗してきました。(笑)現在まで続いているベトナム美人時計は美人の写真が1分ごとに切り替わるという機能だけではなく、自撮りが好きなベトナム人向けに会員登録すれば自撮り写真をアップロードできるようにしたり、モデルやプロモーションガール(PG)の求人検索、スカウト機能や女性向けのキュレーションメディア機能も追加するなど、ベトナム向けにローカライズを進めています。
3つ目はベトナムでの会社設立支援事業です。特にIT企業の設立に関するトータルサポートをしています。
他にも油絵のネットショップやベトナム30人31脚の運営、最近はカフェの経営も始めました。もともとカフェを巡るのが趣味だったのでいつかやりたいなとは思っていました。飲食業はITと違って掛取引でなくすぐに現金収入が得られるというのも新鮮ですね。合計で6つになります。(笑)
ベトナム美人時計のウェブサイト。ベトナム語・日本語・英語に対応している。
新たに始めたカフェの様子。おにぎり、抹茶、お好み焼きといった日本食で他の差別化を図る。
理想は軸のぶれない多角化経営
―ちょっと待ってください、多すぎじゃないですか?(笑) なぜそんなにも多角化しているのですか?
それは大学生の頃にまで遡ります。当時はOVAL JAPANという学生向けのビジネスコンテストを企画する団体に所属していました。その中でもビジネスプランの企画・審査に関する部署にいたのでその頃からビジネスプランとは何かをずっと考えていましたね。OVAL JAPANの先輩や同期には若いうちから起業する人が多かったのでその人達の影響は大きかったです。さらに掛け持ちで留学生とキャンプをするという国際交流セミナーにも所属していたので、大学1、2年生の頃から海外で起業することには関心がありましたね。
3年生からはゼミで経営戦略について勉強していました。卒業論文のテーマは「多角化戦略と専業戦略」で、ある会社が一つの事業に専念するのか、多角化するかどちらがいいのかという事について研究していました。結局、私は現状を見ていただければ分かるように多角化経営をしています。どちらがいいかは別にして、私は純粋に色々なことに興味があるタイプなのです。それと、仮に1つの事業が傾いても他の事業が支えられるという、体力のある会社にしたいと信念をもっています。
起業を視野に、ベンチャー企業への就職を選択
―なるほど。では大学卒業後すぐベトナムで起業されたのですか?
いいえ、3年生の後半には周りが就職活動を意識し始めたので、私も準備を始めました。でも自分で何かをしたいという想いが強くてどこかの会社に就職するということのイメージができませんでした。とはいってもまずは実際に企業で働いてみて企業とは何かを学ぼうと思い、アイタンクジャパンというITベンチャー企業に就職しました。そこでは、営業、マーケティング、経理、採用まで全ての仕事を任せてもらえました。というよりは、社員は社長と私だけで、あとは数人のインターン生だけの小さな、でも急成長中のベンチャー企業でしたので全てをせざるを得なかったですね。でもこれがすごく良い経験になりました。
そうこうしている内に1年半ほどして独立しようと決心しました。学生の頃はITに興味はなかったのですが、この会社にいる間にITに関する知識を深めることができたのと、小さな資本でも多くの人にリーチできるという点に魅力を感じてIT事業を始めようと決めました。しかし具体的に何をするかまでは決まっておらず、漠然としていました。
特に良いアイディアもなく、ITの経験も浅く、お金もない。そんな状況で独立をしましたが、物価が安く成長しているASEANならお金もかからないし、日本で流行っているけれどまだASEANでは流行っていない事をやればいけるだろうという皮算用でベトナムに来ました。今から5年前ですね。
門外不出のベトナム処世術を習得
―なぜベトナムを選ばれたのですか?
正直なところ、これといった理由はありません。ただ海外に住んだことはなかったので文化的に近い所がいいなと思ったので宗教が全然違うインドネシアとフィリピンはなしに。カンボジアやラオスは人口が少ない。タイはもう成熟している・・・ミャンマーには興味はあったのですがまだ当時軍事政権の時代だったので断念。なんとなくベトナムだと決めて視察に来ました。ホーチミンからハノイまで3週間かけて各都市を見て回ったのですが、ベトナムの活気を感じ、ベトナム人の人懐っこい人柄とアジアンな街並みがすぐに気に入り、「ここしかない」と確信しました。
その後準備と整えていざ渡航してきたものの、最初の半年は食いつないでいくのに精一杯でした。まずはお金を稼がないといけないのでネットショップで油絵を売り、ベトナム語学校に通うという生活。月3万円くらいの最低限度の生活しかできませんでしたね。今から考えるとよくそんな辛い生活をしていたなと思うのですが、不思議なことに当時は辛いとも何とも感じませんでした。理由は単純で、覚悟を持って、好きで来ているので楽しかったからです。こういったローカルな生活にどっぷり浸かることでベトナム処世術を編み出しましたし、この経験があったからこそ今があると思っています。
オフィスの面談室にてインタビュー。バックにはやはり油絵が飾られている。
昨日より今日、今日より明日
―ベトナムに来た当時は完全に一人でやっておられたそうですね。なぜそんなにも信念を貫き通せたのですか?
まあ私は孤独耐性が強く、もともと一人でも辛いとは感じないタイプの人間なのです。(笑)
それと夢と希望に満ち溢れていましたから。たとえ今日が辛くても、今日より悪くなることはないだろうと・・・(笑)実際ベトナムという国自体が毎年5%以上成長し続けているので、私が何もしていなくても成長の軌道に一緒に乗ればいけるだろうという確かな希望が支えでした。もちろんそこまで簡単ではなかったですけどね・・・
我が道を突き進め。
―周りに反対はされなかったのですか?
もちろん皆さん私のためを思って本気で止めにかかってきました。ベトナムでIT事業をすることしか決めておらず、ほぼノープランでしたから。「まずはベトナムで就職して現地に馴れてから起業した方が良い。」という意見がほとんどでしたが、そういった意見には耳を貸さず、丁重にお断りしていました。(笑) 「自分でやりたい。」という想いが大きかったのと、就職すると会社にお世話になるのに、経験を積んだらすぐ辞めるというのも申し訳ないと思ったからです。
事前に計画を立てることはもちろん大切ですが、10年後の計画をどれだけ綿密に立てても、現実はそうはそううまくいきませんよね。だから海外でどうしてもやりたいことがあるなら、漠然としたままでも海外に行ってみてから考えながらやってみれば良いと思います。ただ、ここで重要なのは続けることです。諦めたらそこで失敗になってしまいますので。
当初は一人だけだったが、事業拡大に伴い社員も増加。
世界中にインキュベーションセンターをつくる!
―今後の展望を教えてください。
まず今後は支店を増やしていきたなと考えています。まずはお隣のカンボジアでメディア事業を横展開しようかなと。カンボジアというと、ポルポト政権時に知識人が虐殺されて教育制度が崩壊してしまったという背景があるのでベトナムほどIT人材が豊富ではありません。しかし物価が安く近いので、IT人材の育成に貢献するという意味も込めてカンボジアを狙っています。
さらにはASEANを中心に、世界中で若い起業家が交流できるインキュベーションセンターを創り上げたいなと。年をとると体力もなくなってしまうので、革新的なアイディアをもつバイタリティーのある若い起業家を支援できるようなプラットフォームを作って世界的なウェブサービスを生み出していきたいと考えています。
とはいってもまずはベトナム向けメディア事業でひとつ成功モデルを作り、それを多国展開するのが先決ですね。
インターン生募集中
期間はできるだけ長い方が良いですが、2ヵ月くらいでも大丈夫です。経験や能力は一切不問。ベトナム語は不要ですし、英語もちょっとできればOK。インターンを通して何かを教えてもらおうというのではなく、主体的にやっていきたいたいという方にはどんどん新規事業を任せていきます。やりたいと思ったことはなんでもできる環境であることは約束しますよ。
給料はベトナムで生活するための最低限度+成果報酬。最初はネットショップの売上を伸ばしてもらいます。その後カフェや新規事業の拡大もお願いします。
野原氏の挑戦はまだまだ続く・・・
Wacontre HP:http://wacontre.com/index.php/ja/
ベトナム美女時計HP:http://nguoidep24h.com/
担当者:野原
info@wacontre.com / 050-5534-5505
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