あなたは ”e-Education Project”を知っているだろうか?途上国の教育を良くしようと奮起した若者によって始まり、東進ハイスクールがやっているようなDVD授業を途上国に届けているプロジェクトである。それを、ミャンマーで1年間取り組んでいた若者がいた。大学院を休学中の林氏に取材をし、彼がミャンマーで行っていたことや原体験から感じたこと、現地の入院患者に笑顔を届けるクラウドファンディングについて伺った。
〈林直人氏|プロフィール〉
東京大学大学院情報理工学系研究科1年。小さい頃から「教える」ことに興味をもつ。大学3年生のとき、カンボジアに体育を教えに行くというボランティアに参加し、新興国の現状を垣間見たと同時に、教育の可能性を実感。 2014年4月から2015年3月までe-Educationミャンマー担当としてジョンとジョセフというパートナーとミャンマープロジェクトを牽引。
現地を巻き込んでいくことの重要さ
—このプロジェクトに取り組むまでの経緯を教えてください。
大学1, 2年生の頃は、楽しそうなことを色々と手を出していましたが、琴線に触れるような体験はありませんでした。3年生の時にカンボジアへ行き、ボランティアの経験から教育への興味が湧きました。
その後、4年生になって、また日本で研究の日々に戻ったのですが、大学で取り組んでいたITの研究は将来やりたいこととは違うなと思っていました。そんな時、e-Education創業者の税所篤快の本に出逢ったんです。IT×教育に感動したと同時に、「やってみたい、自分にもできるんじゃないか」という思いが湧きました。その想いを抑えきれず、研究生活から離れて、海外で挑戦してみたいとも思い、応募しました。
―なるほど!DVD授業を届けるe-Education Projectは他の国でも展開されていますが、ミャンマーならではの特徴はありましたか?
他の国では、先生に講義の収録を頼むときにお金を支払いますが、ミャンマーの先生は、誰としてお金を要求しなかったんです!仏教徒が多いミャンマーには“徳を積む”考え方が浸透しているからでした。
そのことを、前年度ミャンマープロジェクトを0からはじめた小沼がe-Educationの代表である三輪に伝えたとき、「そんなはずはない」と信じてもらえなかったそうです。それくらい異例のケースでした。
―前年度ミャンマープロジェクトに取り組んでいた小沼さんからの引き継ぎとのことでしたが、やり方に違いなどはありませんでしたか?
たくさんありましたよ!(笑)
正直、最初のころは、「自分だけでもやっていける」と思いこんで、一人でやっていこうとしていました。しかし、小沼は現地に溶け込むのがうまく、現地人を巻き込んでやっていたというところで、スタイルの違いがありましたね。
私は旅が好きだったこともあり、はじめのころはミャンマーでの非日常を楽しんでいました。でも時間が経ち、ミャンマーにいることが旅から日常へ変わっていくにつれて、現地に対応できなくなっていきました。私は、現地人をうまく巻き込めていなかったのです。
徐々に「自分だけでできる」というスタンスから、現地人を巻き込むという方へ軌道修正していきました。小沼のアドバイスを参考にし、現地の方と一緒にお茶を飲んだり、何もしなくても一緒にいる時間を過ごしました。お互いの文化や、プロジェクトに関する思いを共有したりなどして、徐々に距離をつめていきました。それからは、チームを作って、ぼくが帰国するまで協力して活動していましたね。
—小沼さんも林さんも既にご帰国されていますが、今後のミャンマープロジェクトはどのように継続していくのでしょうか?
しばらくは、ジョンとジョセフという2人の現地人の主導でやっていきます。彼らは、元々教育に強い興味がありましたが、プロジェクトの当事者として動かしていくような意識ではなく、「日本人が来て何かをやっている」という認識だったようです。しかし、たくさんコミュニケーションを取り、ある時「君ら2人じゃなきゃだめなんだ。」とお酒を飲みながら話し込み、長時間に渡って説得しました。その結果、正規のスタッフとして取り組んでもらうことになりました。
私の関わり方としては、日本から遠隔でアドバイスをしながら、彼らの活動を支えていきます。
—今後の継続にあたっての課題は何でしょう?
たくさんありますが主に大きく2つありまして、1つは拡大していくにあたって、人材を確保できるかどうかということです。もし、悪いコンテンツが広がってしまったら迷惑をかけるだけですし、使い方を伝えられないまま広がっても、活用されずに終わってしまう。ですので、現地できちんと活動できる人を探して、しっかりと巻き込めるような強いチームが必要になります。
もう1つは資金面です。今は資金提供者の方の協力があります。また、クラウドファンディングにも挑戦していて、それを現地でプロジェクトを回していくために充て、彼らのサポートをしていきたいと思っています。
ジャパンハートと共同でクラウドファンディングに挑戦
ークラウドファンディングをやられているとのことですが、どのような経緯ではじまったのでしょう?
国際医療NGO法人のジャパンハートでインターンをしていた山口諒真君に会ったのがきっかけです。彼はとてもアクティブで、「何か一緒にやろうよ!」という話をしていました。
元々ジャパンハートがやっている、医療費の高いミャンマーでほぼ無償で医療を提供する、ということにも興味があったので、実際に病院を見に行ってみることにしました。
そこで、ミャンマーの医療状況はとても悪いなあと感じたんですね。病室には木のベッドしか置いていなく、患者さんが毛布や着替えを持ってこなくてはいけませんでした。食事が出ないので家族が付き添っていないと大変なのですが、患者も家族も仕事をやめてしまうので、お金もありません。しかも、ただ寝ているだけで、びっくりするほどやることが無かったんです。雑誌やTVもないので、とても退屈そうに見えました。そこで、笑顔が失われた悪い雰囲気を感じて、「何かやれることがないか」と思いました。
元々、山口君はビーズを患者さんが作るプロジェクトを始めていました。ビーズのアクセサリーを患者さんが作ることで、何もすることが無い病室を楽しんでもらえるし、作ったものがお土産として売られて入院費の軽減になります。それを一緒にやったところ、とても喜んでもらえたそうです。
そんな時、e-Educationも何かできないかと思い、患者の方々にアンケートを取った結果、「ITコンテンツに興味がある」という声を多く聞いたんです。そこで、パソコンを使いながらITに関する映像コンテンツを配ろうと考えました。
これは、ITの教育を職業に直接つなげたいわけではなくて、彼らに楽しんでもらいたいという目的があります。ITについて何も知らない状態から、PCを使えるようになるだけで、彼らの今後の生活は少しでも良くなると思うので、ITコンテンツを選びました。具体的には、ワードやパワーポイントの使い方などです。
もう一つ考えたのが、保健コンテンツです。ミャンマーでは、20人にひとりの割合で感染症を持っているという統計が出ていることからわかるように、保健に関する知識があまり普及していないんです。腕をかすって血が出たとしても、手でこするだけで済ましてしまっている人もいました。そこで、正しい対処方法を伝えたいという思いから、保健コンテンツのDVDを配ることにしました。
このプロジェクトが成功したら、入院患者の笑顔を取り戻せるし、現地で活動しているジョンやジョセフのサポートもできます。なんとしても成功させたいですね!
「日本人である前に、林直人でありたい。」
—ミャンマーへ行ったからこそ気づけたことはありましたか?
ここ数年で「今、ミャンマーがアツい!」とよく言われるようになりました。外資がたくさん入って、発展していることは確かです。その一方で、発展の影に取り残されている人たちも大勢います。物価が高くなるけど給料は変わらなかったり、医療・教育状態はそこまで改善されていません。そういうところに気付き、もっと多くの人に知ってほしいと感じました。
私は、ミャンマーの農村の雰囲気が好きなんです。鶏の鳴き声で起き、牛がそこら辺を歩いている、のどかな日常。インターネットも無ければ電話もあまりつながらない。そういうところに住んでいる人に限って、笑顔も素敵だったし、幸せそうだったんですよ。そういう部分を失わないで、ミャンマーは発展してほしいということを伝えたいと思うようになりましたね。
また、「人は、皆同じ」だということに気づけましたね。最初行ってみて、「なんて違うんだろう」ということを強く感じました。衛生状況は悪いし、食事・生活も日本とは全く違いました。
でも、行ってから2ヶ月ほど経って、少しずつその違和感は無くなってきて「なんて同じなんだろう」と思うようになりました。誰もがお腹は減るし、人を好きになったり嫌いになったりします。それまで一人でやろうとしていましたが、現地の人も同じ人間なんだから一緒にやっていける、一緒にやってかなければならないということに気づくことができました。
—帰国して2週間ほど経過しましたが、今思うことはなんでしょう?
ミャンマーでは、日本の中古車がたくさん走っているし、日本人は優しいという印象があるようで、日本人であることがもてはやされる国でした。一方で、上からの目線で現地人に接している日本人もいて、同じ人間だから優劣は無い、ということに気づいた私は、そこに違和感を感じていました。そんな時、「わたしは、日本人が嫌いだ。」と言うミャンマー人に出会いました。おそらくその原因は、日本人が戦争で現地の人を傷つけたという歴史があるからでしょう。
そういった出会いの後に、自分だったらどういう感情を抱くんだろうと考えてみました。私は、日本人である前に林直人でありたいと思ったんですね。だから、日本人を嫌いだと言っていたミャンマー人のことを、国籍とか肩書とか関係なく一人の人間として捉えますし、ぼくは、日本人であることを関係なく、林直人として向き合いたい。もちろん、e-Educationとして活動する際には、やはり日本という国を背負うべき場合がありますが、個と個で話すときは関係ありません。それは強く感じたことでした。
大学院を休学することに多少のためらいがありましたが、ミャンマーでの挑戦を選択したことに後悔はありません。この選択がより良くなるように、努力していきます!
***(追記)e-Educationさんは、ミャンマーの入院患者の笑顔を取り戻すため、また継続的な教育支援を行っていくためにクラウドファンディングを行っておりましたが、見事達成しました!おめでとうございます!!