普通のレストランが食べ放題に!?タイ・バンコクの飲食店予約アプリHungry Hub創業者の起業家人生

Hungry Hubという、ユニークなレストラン予約サービスをタイで提供するスタートアップがバンコクにある。会社を率いる若干28歳のインド系タイ人Surasit氏に創業に至る話やこれまでの起業家人生について伺った。

<<プロフィール|Mr. Surasit Sachdev>>

バンコクの高校を卒業後、オーストラリアの大学へ進学。2年半で卒業し、19歳の時にタイの銀行へ就職。1年間バンコク、2年間シンガポールで勤務し、2回の昇進を経験。3年間の勤務を経て退職、その後はチュラロンコン大学サシン経営大学院でMBAを修得。大学院時代には複数のビジネスコンテストに出場し、複数の賞金を獲得。卒業後に大学院時代の友人とレストラン予約サービスのHungry Hubを創業し、現在に至る。

普通のレストランが食べ放題に!?ユニークな予約サービスHungry Hubについて

ーHungry Hubのアプリについて教えてください。

コンセプトはシンプルで、(日本でいうとサイゼリヤやバーミヤンのような)個別に選んで注文する形式(アラカルト)のレストランが、食べ放題になる飲食店予約アプリです。Hungry Hubに登録されているレストランにアプリを通して予約を行っていただければ、一定料金を支払うことで店が指定した全ての料理が食べ放題になります。2017年初めからサービスを開始しました。

 

ーなるほど、おもしろいですね。その発想にはどうやって至ったのでしょうか。

大勢の集団でご飯に行くときに頻繁に直面する「予算」の問題を解決しようと思い、このシステムを思いつきました。

ご飯に行くとき、割り勘にするにしても、誰か一人が払うとしても、「自分がいくら払うのか」がわからないのは不安ですよね。私自身よく部下をご飯に連れていっていたのですが、結局毎回予算の400THB/人を大幅に上回り700THBくらいになってしまっていたんですよ。食べすぎてる人に「もうこれ以上は食べないでくれ」なんて言えませんし、どうにかして食べ始める前から予算を把握することはできないかと考えていました。

今までの解決策はホテルビュッフェでしたが、大抵の場合ビュッフェ代は非常に高く、かつ数時間前に料理されたものが置いてあるだけで、常に参加者の誰かがご飯を取りに行っているのでまともに全員で話す時間を確保できないという点で最適解ではないと感じていました。

そして、もともと食べ放題ではないレストランのメニューを食べ放題にすることで解決しようと思いついたのです。

 

起業家として働くということ

ーなぜ起業しようと思ったのでしょうか。

銀行での仕事内容が本質的にやりたいビジネスと関係なくなってきてしまったことで、もっとがっつりビジネスをしたいと思ったからというのと、両親のホテルビジネスを見ていて、もっとスピード感があるビジネスをして見たいと思ったことが大きな要因ですね。

大学卒業後に就職した銀行ではいいペースで昇進し、管理職になりました。しかし、そこでの仕事は、上司を喜ばせたり、レポートを書いたりするといったように、実際の銀行ビジネスの肝である「お金が必要な人にお金を貸したり、人からお金を預ったりする」ことができなくなってしまっていました。

会社の中での地位が上がれば上がるほど、銀行のビジネスとは関係ない仕事が多くなり、本当に働いている感覚がしなくなりました。もちろんあのまま続けていたら昇進し続け、給料も順調に上がっていきましたが、私はもっとエキサイティングなビジネスの経験を積みたい、と思い起業の道を選びました。これが1つです。

もう1つは、両親がホテルビジネスをしていたことです。私も一定期間手伝っていたことがあるのですが、自分の努力がそのホテルビジネス全体の収益にあまり大きい影響を与えていないと感じました。というのも、ホテルビジネスというのは部屋数が決まっていて、いくら自分が頑張っても売り上げの天井が見えていますよね。ホテルの数自体を増やせばいいのでは、という意見もありますが、それには大きなお金と時間が必要です。ホテルビジネスは1つ何か大きな決断をする時に、その決断を下すまで、そしてその是非がわかるまでかなりの時間とお金がかかります。しかし今はインターネットを使えば、まとまったお金や時間がなくとも、自分の努力の分だけ成果に反映されるビジネスができるはず、と思い自分でビジネスを作りたいと思いました。

 

起業家人生での失敗経験

ー起業家として活動している中で、何か失敗経験などはありますか。

はい。大きく2つあります。1つはチーム選びを間違ったこと、2つ目はビジネスを大きく始めすぎたことです。

大学院時代、クラスメートとチームを組んでよくビジネスコンテストに参加していました。当時のリーダーは感情がなく機械のようで、私がチームに加入した時から私とはあまり相性が良くないと感じていました。しかし、ビジネスプランを作ったり応募の準備をしたりというので忙しく、恐らく大丈夫だろうとあまり深く考えずにそのチームに飛び込みました。

結果、いざ実際にビジネスをしようという時に、彼との相性の悪さが顕在化し、結局は私がチームから離れることとなりました。

もちろん彼らから学んだことも多く感謝はしていますが、一方でもう少し慎重にチームを選んでいたら、今頃まだ同じメンバーでビジネスをしていたかもしれない、と悔しく思う時があります。

”Ideas are cheap; execution is everything”(アイディア自体に価値はなく、それを実行するということが全てだ)と言われているように、事業を興す中で、アイディアを共に実行していくチームというのは何よりも大事です。この経験からはビジネスにおけるチームの大切さを学びました。

次も大学院時代の話ですが、大学院生時代後半、EscapeHuntというバンコクにある脱出ゲームのようなアトラクションをプーケットに展開しようと試みました。しかし十分なマーケットリサーチをしないままある程度まとまった資金が手に入ったので、熟慮せずに物資にお金を使ってしまいました。必要以上に大きな土地を買い、1940年代がテーマであるにも関わらず全ての物資を新品で購入し、ゆくゆくは2人でも回せたとわかったオペレーションに5人雇うなど、今思い返すと信じられないくらいおかしなお金の使い方をしていました。

結局数ヶ月で資金が尽き、このビジネスは閉じることになりました。ビジネスを始めるときは、たとえまとまったお金があったとしても小さく始めることを忘れてはいけない、という教訓を得ました。

 

日本人へアドバイス

ー日本人へ、海外に出ることについて何かアドバイスはありますか。

海外でこそ日本人のアイデンティティを生かせるということを意識してください。

海外に行くと周りが外国人だらけで不安になりますが、自身がマイノリティであることは強みであるということを認識してほしいです。たとえばHungry Hubがタイにある日系レストランにアプローチを試みても、私みたいなターバンを巻いた外国人が営業に行けば、オーナーが心を開いてくれることはまずないでしょう。

しかし、日本人が行けば心を開いてくれる可能性は何倍にもなります。このように、外国にいる日本人がするからこそ価値が高い仕事はたくさんあります。そして自分がマイノリティであることを活かして価値の高い仕事をできる人は人材としての価値が非常に高いのです。日本にいる日本人だと、大勢の中の1人でしかありませんが、外国にいる日本人だとその母数が格段に減るため、相対的な希少価値が高くなります。より日本人が少ないところに行き、自分の価値を存分に発揮してみてください。

 

ー海外で働くというのはなかなかハードルが高いかもしれませんが、もう少し簡単にできて、やるべきことはありますか?

数日間の旅行でもいいので、海外に行ってみるといいと思います。短期間であっても現地で得られる気づきはインターネットや他の人から聞いた情報よりも価値が何倍も高いですし、より的を得ている場合が多いです。「Hungry Hub」と「日本」の話をすると、Hungry Hubの今のサービスは日本でそれほどウケないと思っています。なぜなら日本人は大勢でご飯を食べに行くことがタイと比べて、飲み会以外ではあまり無いからです。

これは私が日本に一週間旅行で滞在した時に得た気づきです。

私が日本に行って驚いたのは、通常のレストランの席数の少なさで、まとまった人が集まる「ご飯会」のようなものは日本では他の国と比べてそれほど頻繁にはないのだと推測しました。

このように、数日間でも実際に滞在してみると、そこで得た一次情報はインターネットで得る二次情報と全然違うことに気づくでしょう。それはあなたが将来生きていく、特にビジネスをしていく上で大切な糧となるはずです。

 

ータイで働いている日本人がよく口にするのが「タイ人と共に働くことの難しさ」です。私たちがうまくタイ人と働くために何か意識することはありますか。

これは非常によく聞く話ですね。良い悪いの話ではもちろんありませんが、確かに、勤勉な日本人と比べるとタイ人はあまり働かないように見えますよね。そして日本人からしたら彼らのモチベーションを保つのはかなり難しいでしょう。

これは多数の要因が絡み合って起こっている問題で、このインタビューで全て解決するのは難しいですが、1つ要因をあげるとすると、「失業率」が低いということです。失業率が低いということは、たとえ今の仕事をクビになったとしてもすぐ別の仕事が見つかるということです。このため「クビにならないように一生懸命働く」という考えがそもそもタイ人にはなく、「会社」や「仕事」という枠を超えたモチベーション管理が必要です。

私のオススメは、まずは「仕事」や「会社」関係なく「人として」仲良くなり、家族の一人のように扱う/扱われるようになることです。そうすると、あなたという「人」に喜んでもらいたいというモチベーションがわき、仕事を頑張るようになります。おそらく日本で仕事をしていく上ではあまり行わないアプローチだと思いますので、最初は大変かと思いますが、「人」として仲良くなることを意識していれば、時間がたてば必ずうまくいきますので、頑張ってください。

 

編集後記

とても28歳とは思えない見た目と考え方と経験をされている方で、自身の経験された失敗についても赤裸々に話してくれて、とても謙虚な印象でした。

運営しているHungry Hubは、開始からちょうど1年という若いサービスですが、提携レストランのラインナップも順調に増えてきており、私もバンコクで美味しいものをおなかいっぱい食べたい時は愛用しています。

皆さんもバンコクにいらした際はぜひお使いください!




ABOUTこの記事をかいた人

飯田 諒

筑波大学で休学2年目に突入 ベトナムをDJしながらバイクで2,500km縦断したり、バンコクで8ヶ月間インターンしたり 最近はスタートアップにどっぷりです。 英語が得意なので外国人インタビューなど積極的にしています! 英語翻訳の仕事もやっているので、何かあれば連絡ください。 ryoiida9507@gmail.com