写真の売買で貧困をなくす!越境売買プラットフォームを運営するカウ株式会社代表取締役社長大木大地氏

世界にはBOP(Base of the Economic Pyramid)層と呼ばれる年間所得が3,000USドル以下の低所得層が約40億人いる。そういった方々がスマートフォンを使って、写真を売買することで収入機会を得られるプラットフォームを提供しているカウ株式会社。同社を創業した大木氏はどうしてそのような事業を行おうと思ったのか。事業を通じて何を成し遂げたいのか。現在に至るまでのお話を聞くべくインタビューをした。

≪プロフィール|大木大地さん≫

日本大学法学部を中退後、モバイルコンテンツ企業やゲームソフト関連企業での勤務を経験。主に営業、渉外、広報業務に従事する。その後、ITスタートアップ企業で取締役を務め、2016年に越境写真売買プラットフォームを運営するカウ株式会社を創業。代表取締役社長として、現在はサービスの開発に努めている。

スマートフォンを使った新たな収益機会を提供

ー カウ株式会社はどんなことをしている会社なのか教えてください。

 

 

売り手と買い手間で写真の売買ができるアプリを運営している会社です。BOP層*と呼ばれている方々が世界には40億人以上いると言われていて、彼らが住む地域では急速にスマートフォンが普及しているんです。私たちはそこに目をつけました。

スマートフォンを使って何気ないひとコマや原風景を撮影してもらい、アプリで売っていただく。それを先進国を中心としたユーザーがその写真を購入することで収入機会を得てもらう。撮影された写真は2ドルから販売可能で、そのお金がBOP層に回ることで彼らの貧困をなくしていきたいと思っています。

*BOP層・・・年間所得が3000USドル以下の低所得層はBOP(Base of the Economic Pyramid)層と呼ばれ、開発途上国を中心に世界人口の約7割を占めると言われている。

 

(ビジネスモデル図)

 

― どうしてそういったビジネスモデルに至ったのですか?

開発途上国に住んでいる方々が持っている身近なものとしてはスマートフォンが挙げられます。そういった身近なものを使ってお金を稼いでもらいたかったんです。

もっとお金を稼ぐことのハードルを下げて、誰でもお金を稼げる可能性のある世界を目指していて、思いついたのがスマートフォンを使った収入機会が得られるサービスでした。

でも何もしないで一方的にお金が回ってきますというような寄付だけで成り立つプラットフォームは作りたくはなかったんです。きちんと先進国のユーザーに写真の良さやストーリーを伝えないと写真を売って収入を得ることができない。そういった売り手の努力も必要なプラットフォームを作り出したくて、現在のビジネスモデルに至りました。

 

ー 持続的に途上国の方が収入を得るために、ただ受け身で寄付を待つだけのプラットフォームではなく、彼らが努力しないと収益が得られないようなモデルにしたんですね。

 

BOPビジネスをしようと思った理由とは

ー 大木さんはどんな学生時代を過ごしてたんですか?

私が10代だった時は90年代半ばでインターネットの黎明期でした。そのため当時出ていたパソコンを使って、WEBサイトを開設したり、WEBメディアでライターをしていましたね。大学は新聞学科でメディアを専攻していました。でも途中で事情があり、大学を中退することになってしまって。それからは社会人として働いていました。

 

― 現在の会社を起業するまでにどういったキャリアを歩んできたのですか?

大学を辞めた後は、モバイルコンテンツを配信しているベンチャー企業に入社しました。学生時代にパソコンをいじった経験を生かしたい、そして伸びている産業で働きたかったからです。ちょうど私が入社したころはITバブルの真っ只中で。ライブドアや楽天などの企業が注目を集めていた時代でした。

そんな時代に私は大手通信キャリアとの交渉担当をしていたんです。当時はガラケーが全盛期で今のようにスマホがありません。会社として大手通信キャリアが運営する公式メニュー、今でいうApple StoreやGoogle Play Storeなどに自社のコンテンツが採用され、それを使ってくれるユーザーからお金を徴収します。だからこそコンテンツが採用されるかどうかの交渉役は大変重要な仕事でした。

その後、ゲームソフト関連企業に転職をします。そこでは一日中、外でモノを売るなどの泥臭い営業の現場も経験しました。そしてその後、ITスタートアップの会社の立ち上げ期から参画して、営業やプロジェクトマネジメント、経理などのバックオフィス業務全般を行っていましたね。

 

― 起業をしようと思ったのははどうしてですか?

なんで起業したかというと、起業する一個前に勤めていたスタートアップはあまり業績が芳しくなく、事業を縮小することになったんです。せっかくスタートアップで事業を大きくしようと意気込んで入社したのに、結局は事業が縮小する状態になってしまって。不完全燃焼で終わってしまったんです。

その時に前職で知り合った仲間から何か一緒にやろうよと誘っていただいたり、前職のスポンサーから新しいことを始めるなら出資すると言われて。ある程度今までのキャリアの中で会社がどうやって回っているのかを見てきたので、「起業するなら今しかない」と思い、起業しました。

 

 ー 今までバリバリのITビジネスの領域で仕事をしてきた大木さんがどうしてBOPビジネスをしようと思ったんでしょうか。

仕事をする中でいろいろと情報を見る機会があったんです。その時に目に留まったのが世界の所得格差でした。いろんな社会問題がある中で、世界の所得格差がこんなにあるんだと衝撃を受けました。

最初のうちはBOP層は衣食にすら困っているんじゃないかと思っていました。ただ実際に調べてみるとその域から脱出しているところが多くあるじゃないか。やっぱり途上国と一言で言っても貧富の差が国によって違ったり、ましてや国内でさえ違う。さらに調べてみると、彼らが住む地域は移動通信が発達し、スマートフォンの普及率が高いことに気が付いたんです。

私はIT系で長年仕事をしてきたのでインターネットを使って世界の所得格差をなくすために何かできるのではないかと思いました。それで今のような形のBOPビジネスを始めたんです。

 

(テックカンファレンスのブースでサービス説明をしている大木氏)

 

大木氏の活動のモチベーションとなっているもの

― BOPビジネスをしていて思う途上国に対する問題意識はありますか?

途上国というより、先進国側の途上国に対する情報の見え方が問題だと思っています。途上国といっても、国によって所得格差の状況は異なるし、国内でさえ異なります。実際に現地に訪れてみると、みんなスマートフォンを持っていたり、高級車も普通に走っていたり。

一方、物乞いをしている子供や、家がなく地面に寝そべっている人もいます。私たちはたまにニュースで途上国がどんな問題を抱えているかを知る機会がありますが、それは加工された情報です。

行ったことがないので本当の現地はどうなっているか分かりません。だからこそ先進国と途上国に住む双方がインターネットを介して、もっとコミュニケーションを取るべきなんです。コミュニケーションを深めることで、途上国に住む一人一人の顔が見え、現地のリアルな情報を得ることができます。そうすることで先進国に住む私たちはもっと途上国に意識を向けられるはずです。

結果として、途上国に対する支援などのアクションを起こさせる動機づけになるんじゃないでしょうか。

 

― サービスを提供しているカンボジアに行き来はしているのですか?

行き来はしています。私たちは日本にオフィスが一つとカンボジアにパートナー企業が一つあります。カンボジア現地には日本人社長が常駐していて、日本語を話せるカンボジア人スタッフもいます。

現在リリースされている「COW」アプリのクメール語版は現地にいるスタッフに翻訳されたものなんですよ。

基本は彼らとは日々Skypeやメッセンジャーでやりとりしていますね。でも私は定期的に現地に足を運びます。やっぱり、現地のリアルな情報は日本にいるだけじゃ分からないし、自社のサービスを広げていくためにも、定期的に足を運んで現地がどうなっているかの情報をアップデートしていくことが大切です。

実は、つい先月(2017年12月)、プノンペンで現地に住む学生向けに「COW」のイベントを2件開催してきたばかりなのです。1件は、王立プノンペン大学のビジネスプランコンテストに協賛し、もう1件は、LSIという現地のスクールとイベントを共催してきました。学生達は盛り上がりましたし、現地の有力なパートナーを得ることができたと思っています。今後の展開につながりますね。

(イベントの様子)

 

(イベント集合写真)

 

― 起業をされてからどういったモチベーションで活動をされているのですか?

モチベーションになっているものは2つあります。

1つ目は誰かのサービスのまねではない。自分たちで何もないところから事業を始めて、何か新しい価値を生み出せるということ。それが未だないサービスを立ち上げるときのモチベーションの原点なのではないでしょうか。2つ目は途上国の人のためになりたいという思いがあって、それをサービスを通じてできつつあること。

カンボジアは経済発展していますが、金銭的に困窮している若者がたくさんいます。田舎の家庭では勉強ができる子に対して親が頑張って、お金を工面し、都会の学校に通わせようとします。でも、都会でかかる生活コストは田舎で生活するのとは違って、とんでもないお金がかかるので結局、工面でできないわけですよ。そうすると勉強ができなくて田舎に帰ることになってしまいます。それって悲劇じゃないですか。

お金がないせいで勉強できる子が持っている可能性を開花させることができない。少しでもそういった悲劇をなくすことがモチベーションとなって私は活動しています。

 

ー そういった熱い思いがモチベーションとなり活動しているんですね

 

BOP層の年間所得を10%押し上げられるプラットフォームを創る

―今後の展望について教えてください

2015年に国連総会で「持続可能な開発目標(SDGs)」*が採択されました。私たちもSDGsに賛同していて、この世界的な流れの中でサービスを展開していきます。

私たちのサービスはまだまだ認知度も低く、機能にも制限があります。まずは機能拡充を図っていくことが優先課題で、具体的には写真の売り手と買い手の距離が近づくように売り手のプロフィールが分かるような機能をつけたい。写真を売っている人がどういう人柄でどんな生活をしているのか。どうして「COW」を使って収入を得ようとしているのか。それが分からないと人はお金を払いたいとは思いません。

こういった機能を拡充していくことで、世界の人々に使ってもらえるようなプラットフォームを提供し、BOP層の年間所得を10%押し上げていきたいと思っています。

*SDGs・・・2015年の国連総会で採択された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さないことを誓っている。(出典:外務省HP)

 

―最後にBOPビジネスに関心のある学生に一言をお願いします。

社会貢献に関心のある学生は昔と比べて多いなと実感しています。私のように社会人になってBOPビジネスを始めるのもいいですけど、学生のうちに時間があるのであれば、BOPビジネスに触れてもいいんじゃないかなと思っています。今後、仕事としてやるかどうかは置いといて、関心があるならやってみてはどうでしょうか。そのための機会はうちの会社を含めてあるのでぜひ挑戦してみてください。