決済をより良いものに!Ripple CTO Stefan Thomas氏が世紀の発明を目指すワケ【独占インタビュー】

《Stefan Thomas氏|プロフィール》

Ripple CTO。決済の不便さを解決するポテンシャルを秘めたビットコインに2010年ごろに出会う。初期のビットコインのコアディベロッパーとして、仮想通貨やブロックチェーン技術の紹介サイトであるweusecoins.comを設立。さらにビットコインの紹介動画 “What is Bitcoin?”を制作し、800万回以上の再生回数を記録。2012年に創業期のRippleに誘われて以来、当プロジェクトに従事。

 

2017年の1年間で値段が360倍になり噂になったデジタル資産XRPを開発するRipple社。当社の技術面を牽引するCTO(最高技術責任者)のStefan Thomas氏にインタビューを行いました。Ripple社の概要や仮想通貨/ブロックチェーン業界の現状に加えて、彼を突き動かす原動力を伺いました。

銀行にソフトウェアを提供するRipple社

ーRipple社について教えてください

Ripple社はブロックチェーン技術を使い、銀行や決済業者に対して国際送金や国際決済をより安くスムーズに行うことができるソリューションを提供しているFintech企業です。XRPは我々のサービスで使われるデジタル資産になります。

BTC(ビットコイン)やETH(イーサリアム)のような他の仮想通貨はそれを開発する特定の会社はありませんが、XRPはRipple社が開発した技術を基に動いています。

社員は世界中に200人以上抱えており、Googleなどから投資を受けています。

 

ーFintech企業というと銀行も恐れているのではないかと思いますが、どのようにして関係を構築していったのですか?

銀行も我々Ripple社も、「スムーズな決済を提供したい」と思っているという点では同じ方向を向いています

Transferwise(イギリスのFintechスタートアップ)やXoom(PayPalの送金サービス)などは、よりシンプルで手数料の安い送金サービスを提供し、銀行をディスラプト(破壊)しようと鼻息荒くやっています。

銀行は彼らのようなプレイヤーを恐れると同時に、彼らに顧客を奪われないようになんとかしなければと思っているんです。

しかし既存のSWIFTの仕組みでは彼らのような速さや安さは提供できないので、私たちが銀行に対してソフトウェアを提供する、というのが受け入れられたのです。正しいタイミングで、銀行の課題感に正しくアプローチしたと思っています。

以来、Fintechのブームが続いており、様々な企業がブロックチェーンを使って何かしなければ、と思い始めました。個人的にはようやく第一歩が踏み出せた、という感じです。

今のFintechの領域は世界的にも勢いがあるので、この勢いを止めずに推進していきたいです。

 

ーCoincheckのハッキング事件によって規制当局も動きが多くなっていますが、その辺りはどう考えていますか?

ビットコインは通貨を支える技術を開発する特定の団体がいないのに対して、XRP(Ripple社の通貨)の技術の背後にはRipple社という特定の開発会社がいるので、Ripple社としてできることは、我々が全力を挙げて取引所をサポートすることだと思っています。

Coincheckの流出事件のような出来事は市場の未熟さや若さを表しています。しかし大事なのは上記の通り、勢いを止めないことです。

この事件から教訓を学び、いかに健全な規制を敷けるかが鍵になると思います。日本政府はガイドラインを作成するのに長けていますし、Ripple社ができることは全力でサポートします。

 

10歳で請けた仕事がきっかけで、起業家の道へ

ーStefanさんのLinkedInをみたら、経歴がCTOかCEOだらけで驚きました。なぜ起業家の道を選んだのですか?

ウェブ制作の経験で起業に目覚め、世界にインパクトを残せる手段としての起業家に憧れたからです。

父がIBMに勤めていたこともあり、幼い頃からパソコンに馴染みがありました。10歳の頃に、ある会社からパソコンを使った仕事をいただいたんです。

「マジック:ザ・ギャザリング」というカードゲームがあるのですが、そのカードを購入する通販サイトのようなものを作る仕事です。10歳の頃だったので報酬は現金ではなく、そのカードをもらうことになったのですが(笑)。ちなみにまだサイトは運営されていて、アクセスできるので是非見てみてください。

この時に、「パソコンに文字を打ち込むだけでお金がもらえるなんて最高じゃないか!」と感動したことを覚えています。それ以来ウェブ制作に打ち込み、複数サイトを運営していたのですが、今度は広告収入なるものが得られるということに気づきました。

「一度サイトを作ったら、広告収入で継続的にお金が入ってくるのか!」とまた感動しました。この体験が私の起業家としての原点だと思います。

また、12歳の頃に「どうやったら世界に大きな影響を与えられるだろう」とよく考えていました。そのためには政治家になるか、大きな慈善活動をするか、起業家になるか、いろんな選択肢がある中で起業家が一番大きな影響を与えられると思ったんです。

私にとって起業家とは発明家です。歴史を見返したときに、一番人々の生活に影響を与えてきたのは政治家でもなく慈善活動でもなく、素晴らしい発明の数々です。「水道」や「屋内トイレ」などを発明した人、凄くないですか?

こういった、人々の生活を圧倒的に良くする発明をするような人になることで、世界に一番大きな影響を与えられると思ったんです。一度それが世の中に生まれたらそれ無しでは生きていけないような、不可逆的な発明をしたいという思いで、起業家として生きています。

 

「決済をなんとかしたい」という強い思いから仮想通貨領域へ

ーそんな早くから起業家を目指していたんですね。それではいつから仮想通貨領域に興味を持ったんですか?

2010年あたりですね。以来仮想通貨/ブロックチェーン領域で仕事をしています。

そもそもなぜ仮想通貨領域に興味を持ったかというと、私自身が「決済」に関して大きな不経済を感じていたからです。以前イギリス・ロンドンのウェブデザインの代理店で働いていた時がありました。その会社は世界中のいたるところにフリーランスを抱えており、フリーランスに仕事を外注してプロジェクトを進めていました。

ある時、ある外国人フリーランサーに支払いをしようと思ったら、国際送金の手数料が大幅に上がっていていることに気がつきました。あまりにも手数料を取られすぎるので、泣く泣くそのフリーランスとの契約を解消するに至りました。そのフリーランサーの仕事のクオリティではなく、国際送金の手数料が原因で彼と一緒に働けなくなったのです。

このような経験だけでなく、送ったお金が行方不明になったことや、着金に長いこと待たされたことなど、国際送金に関しての多くの問題に直面したことが原体験となり、「決済」をなんとかしたいと思うようになりました。

また、マクロ的にも決済の未発達具合がわかる面白いデータがあります。なんと12%もの国際送金が失敗(fail)するそうです。考えてみてください、もしメッセンジャーアプリがその頻度でメッセージ送信に失敗するのなら、絶対にそんなアプリ使いませんよね。なのに決済ではそれが普通に起きていて改善されていないんです。

このような課題を感じてからはずっと、決済をなんとかしたいと思ってきました。そんな中で2010年にビットコインと出会い、これは自分がなんとかしたいと思っている課題にドンピシャかもしれない、と思い仮想通貨領域に真剣に取り組み始めました。

(Stefan氏がプロデュースしたビットコインの説明動画)

ただ、実際に色々やってみると、ビットコインはいくつかの根本的な課題を内包していました。どうしようかと思っていた2012年に創業期のRipple社から誘っていただき、参画することに決めました。

それ以来、決済をより良いものにするために様々なソリューションを試しては失敗するというのを繰り返しながら、最近はようやく安定的に価値を提供できるものを見つけることができ、市場感も掴んできました。

 

ーかなりの成功者に分類されると思いますが、引退などは考えないのですか?

たまに考えたりもしますよ。「もう引退してもいいんじゃないか?」というところまで考えたこともありました。そういう時は「自分はなんのために生きているのか」と自身に問います。その答えは昔から変わらず「世界に大きなインパクトを残すため」であり、今は「決済をより良いものにするため」なんです。

考えてみてください。AR・VR・AI・ロボットなど様々な技術が誕生して世界がますます便利になっていくなか、生活における本当に基礎の基礎である決済インフラが整っていないっておかしいと思いませんか?今の自分のパッションの全ては他の何でもなく「決済」にあります。これを成し遂げていないのに引退なんて絶対にできませんよ。

 

人生に一度くらいはリスキーな選択を!

ー若い世代に向けてアドバイスをお願いします!

自分が勝負する分野の選び方と、リスクを取ること、という2つのアドバイスをしたいと思います。

人々が勝負する分野について、最近は「情熱をひたすら追求すればいい」という風潮がありますが、私はそれに加えて、その分野を俯瞰視することも大事だと思っています。俯瞰視とはどういうことかというと、その分野で「自分がユニークになれるのか」や「後々多くの人に影響を与える分野なのか」、そして「他の分野における専門性とコンビネーションが活きる分野なのか」を考えることです。人々が必要だと思うところに仕事が生まれ、その仕事の需要が多く供給が少ないという傾向が強ければ強いほど、その仕事をする人材の価値が上がります。私自身の場合も、仮想通貨/ブロックチェーン領域にとても興味があったのはもちろんですが、「この領域は決済における問題を解決し、多くの人に影響を与えるに違いない」と信じてやってきました。実際、幸いにもそれが正しいことが証明され、光栄なことにその領域の専門家としてSlushにも呼んでいただけています。

情熱を追い求めるのはもちろん、その分野が人々にどのような影響を与えるかなど、一歩離れた視点からその分野を考察してみることも大事だと思います。

また、人生を歩んでいると何度か重大な選択や決断を迫られることがあります。その時に、積極的にリスクを取ることも大事だと思っています。今の時代「何も考えることもなくリスクを取らずにオートパイロットで生きる」ことが簡単にできてしまいますよね。でも私は、もしそのように20年間過ごしたとして、年老いてから振り返った時に絶対に後悔すると思うんです。過ぎ去った時間は取り戻せないので、今自分の目の前の時間を全力で生きることを心がけています。

私がRipple社から誘われた2012年、私は同時にスイスの小さな会社からも誘われていました。当時スイスに住んでいた私はとても悩みました。「このままスイスに残り、同じアパートに住んで同じ車で同じ道を走って職場に通う生活を選ぶ」か、「一念発起して住んだことのないアメリカに渡り、当時海のものとも山のものともつかない”ブロックチェーン”なるものに賭けてみる」か。

明らかにリスキーである後者を選択し、今も毎日エキサイティングな日々を過ごしています。この選択をして本当に良かったと心から思います。

皆さんも是非、人生に一度くらいはクレイジーでリスキーだと思われる選択をしてみてください。

編集後記

50分ほどお話させていただいたのですが、初めから最後まで一貫して「決済への思い」が根底にあるというのを語ってくれたのが印象的で、本当に決済の問題を解決したいというパッションがある方でした。Rippleといえば投資・投機という目線になりがちですが、開発者が描いている未来や想いを知るのも大事だと思います。決済をはじめ金融領域はかなり長い間破壊的イノベーションが怒っていない保守的なセクターですが、ぜひStefan氏の想いと技術でイノベーションを起こし、私たちの暮らしをより便利にして欲しいですね!

リスクを取る話も、とてもためになりました。複数の選択肢の間で迷った時は、積極的にリスキーな方を選んでいきたいと思います!




ABOUTこの記事をかいた人

飯田 諒

筑波大学で休学2年目に突入 ベトナムをDJしながらバイクで2,500km縦断したり、バンコクで8ヶ月間インターンしたり 最近はスタートアップにどっぷりです。 英語が得意なので外国人インタビューなど積極的にしています! 英語翻訳の仕事もやっているので、何かあれば連絡ください。 ryoiida9507@gmail.com