行き着いたのは生まれた地・タイだった。バンコクで新卒海外就職する白根信一が語るキャリアの選び方

2016年2月にオープンしたKokotelという既存のホテル産業に革新をもたらすべく斬新なコンセプトを持って挑戦しているホテルがある。
Kokotelに新卒として就職することを意思を持って決断した白根氏に、決断に至るまでの経緯や今後の展望について伺った。

<自己紹介/白根信一氏>
1994年生まれ。上智大学法学部国際関係法学科在学中。タイ王国、プーケット生まれ。横浜市出身。
海外インターンを運営する世界最大規模の学生団体、アイセック上智大学委員会で送り出し事業局として活動後、アイセックジャパンにて海外事業戦略を担当。

東南アジアの女性/家族向けのホテルチェーン「Kokotel」にて2017年4月からインターンとしてセールス&マーケティングを担当中。来年4月より新卒として正式入社予定。好きなタイ料理は「カオソーイ」。

10年間で1,000件のKokotelホテルをアジアに生み出す。

ー 新卒でバンコクに就職されるんですね!就職されるKokotelについて教えてください。

Kokotelは「家族」「女性グループ」をターゲットにして、リーズナブルな価格でありながら安心かつ快適なホテルのプロデュースを行っています。

もともとドリームインキュベータという日系コンサルティング企業で10年超、戦略コンサルティングを経験してきたCEOの松田が2015年にタイで始めた企業です。アジアにおいて10年で1,000件のKokotelホテル店舗の開業を目指しています。

1店舗目のバンコク スラウォン店ができたのが2016年2月で、現在はタイ国内に3店舗あります。10月にクラビ店、11月にプーケット店を開店しました。


ー Kokotelのコンセプトを教えてください。

Kokotelのコンセプトは「家族」「女性グループ」のお客様にリーズナブルでありながら、安心かつ心地よいホテル作りを目指しています。

Kokotelの名前の由来である「日本語のKokoro(心、heart)」のこもったおもてなしでお迎えするホスピタリティと、親しい人につい語りたくなるような「Wow!」という体験を提供することにこだわっています。
Kokotelのスタッフが、まるで自分の家に家族や友人を招くように、ゲストの皆さまに心のこもったおもてなしをすることによって、一生の思い出に残るような宿泊体験を生み出していきたいという想いがあります。

Kokotelのアメニティグッズも充実している

イメージで言えば、日本の旅館の女将のように、より親密で温かい人間味のあるコミュニケーションを通じて、かけがえのない宿泊体験を生み出したいと思っています。東南アジアでは宿泊目的のホテルは数多くありますが、こういった明確なコンセプトを持ったホテルブランドはほとんどありません。

Kokotelが既存のホテル産業を革新していくパイオニアになることを目指しています。


ー 野心的な目標ですね! では現在のKokotelでの仕事内容を教えてください。

セールス&マーケティングを担当しています。
具体的には、Kokotel全体の売上を上げるためにオンラインチャネルの最適化と現場のオペレーションの仕組み化を担当していています。
例えば、「Kokotelに泊まりたい!」と思ってもらうために、Booking.comなどのオンライン予約サイトにホテル情報を拡充したり、またKokotel自体のHPのコンテンツを充実化させたりしています。

Kokotelには子供が遊べるような滑り台も。

プーケットで生まれ、高校入学までバンコクで育つ。

ー 仕事の話から少しテーマを変えて、白根さんの出自についてなどをお聞きしたいと思います。白根さんはタイ生まれなんですね。

はい、父親の仕事の関係でタイのプーケットで生まれました。生まれてすぐにバンコクに移り、日本人学校に通いながら生活していました。父が日本人で母がタイと中華系のハーフなので私はクォーターです。

ー そして、高1から日本に戻られて、上智大学に入学されたんですね。

はい、入学してからは海外インターンを運営する学生団体のアイセックに所属していました。もともと父がJICAで働いていたこと東南アジアで生活していたことから国際協力や海外という分野に興味を持っていたからです。

4カ国を周り、海外支部との送り出し受け入れのパートナー契約を結んだり、海外インターン生を受け入れてもらうための営業活動などをしていました。また1年次には自分自身がチェコでの短期海外インターンシップを経験しました。


ー 4年間、アイセックを続けてこられた理由を教えてください。

高校で何もしてこなかったことの悔しさと、また大学でも自分の無力感を感じていたからです。ただチェコでの海外インターンを経験したことで、「自分が変わる」経験を積むことができました。
チェコでは、現地の7歳の小学生から19歳の高校生を対象に世界中から集まった11人の多国籍チームと協働し、異文化理解のワークショップを行う活動を6週間経験しました。

全く知らない環境に飛び込んで、自分から発言をして、目的に突き進んでいくという経験をしたことで自分に自信がつきました。そしてこの海外インターンという選択肢をより多くの人に知ってもらって挑戦してもらいたいと思うようになり、気づいたら4年間アイセックの活動にのめり込んでいました(笑)。

チェコでの短期海外インターンシップの時の写真

新卒でタイに就職する道を決断。その目指す先は?

ー Kokotelで今インターンをされていて、来年4月より新卒として正式入社されますが、そこの決断に至った経緯を教えてください。

昨年は日本での就職活動をしていました。ただ結論から言うと、様々な企業の説明会に行きましたが、全くわくわくできなかったんです。どの企業に入っても恐らく普通のサラリーマンになるだろうし、自分のアイデンティティや強みを活かせるキャリアイメージがしませんでした。

そこで自分が何を成したいか、どう生きたいかを問うと、東南アジアのフィールドで「自分の強みを活かせる」働き方をしたいということがわかりました。
また偶然なのですが、去年の夏にアイセックつながりで、Kokotel CEOの松田と出会いました。そこで松田がKokotelという事業を通じて目指そうとしているビジョンや、スタートアップならではのスピード感を持って情熱を燃やして働いている姿に心惹かれました。

加えて、自分にあるタイのアイデンティを活かしながら、自分としての市場価値も高めていける環境はKokotelにあるのではないかと思い、大学4年次を休学してまずインターンを2017年の4月に始めることを決意しました。

ーそれからインターンを始めて、正式入社を決めたのが6月だったんですね。

はい、今年の6月にKokotelに新卒で正式入社することを決断しました。
大学5年目にもう一度就活をしたんですが、正直なところ、去年した時に比べ全く身が入りませんでした。

他方、Kokotelでインターンをしているとスタートアップならではのスピード感や裁量権の広さから成長実感を強く感じていました。具体的には幅広い業務をより速いスピードでこなせるようになってきたので、自分のできる仕事の範囲が徐々に広がってきた実感があります。

またビジネス経験豊富で優秀な経営者と近い距離で働けることタイという日本の常識が通用しない市場でビジネスをスケールさせていく機会に自らを投じてみたいと思いました。
こういった難易度の高い環境で挑戦し続けることは自分のキャリアにも結びつくだろうと感じ、Kokotelに入社するという決断を迷いなくできました。


ー 周囲からの反対はありませんでしたか?

はい、強く反対されました(笑)。両親からは「大企業に行った方がいいんじゃないか」と何度も言われました。

ただ、私が思うに一般的な就活をして日本の企業に勤めて普通のサラリーマンになるより、急成長している企業で、自分の強みを活かしながら裁量権を持って働くことが自分にとって最も納得のいくキャリアの積み方なのではないかと強く思うようになりました。

また父が30代で起業していた影響から、私自身も30代に自分でビジネスを興したいという軸がひそかにありました。その目標に近づくためには、若いうちにKokotelのような急成長企業で経験を歩むことが最適な選択であるとも思っていたんです。

また自分の市場価値の観点からも、「タイ語を話せる」という自分の強みを活かしながら成長できる環境に身をおくことは自分のキャリアにとっても合理的な選択肢だと確信できました。

 

ー自分ならではの強みを活かしながら働けることは素敵ですね。では今後の目標はありますか?

父親の影響もあって、日本人経営でありながらタイで成功する企業を生み出したいと思っています。
実はタイ発で日本人が経営していて、成功している企業の前例は未だありません。ただ自分で起業をしてゼロから作っていくか、Kokotelを成功させていくかという手段はまだ考えている段階です。タイ発で一世紀レベルで続くようなエクセレントカンパニーを生み出したいです。

そのために今はやるべきことを愚直に積み重ねていきたいと思います。
その上で自分にしかできない挑戦を重ね、タイに貢献していきたいと思います。


ー 最後に読者の方々にメッセージをお願いします。
偉そうなことは言えませんが、「Follow your heart」。この言葉に尽きると思っています。
自分がどう生きたいか?を純粋に問うことが重要なのではないでしょうか。

私自身は福利厚生とか企業に依存した安定にはそこまで重きを置いていません。
そこに比重を置きすぎると、自分の内なる情熱や好奇心にフォーカスしづらくなるかと思っています。ではなく、私は「いかに自分がその仕事に情熱を燃やせるか」を自問自答して決断をすることが重要かな、と思います。たとえそこで上手くいかなくても起きた課題について自責で捉えられるし、自分の努力不足とも割り切れるのではないでしょうか。

編集後記

同世代の白根くんに取材をして、普段明かされない熱い想いや決断について深く聞くことができてとても刺激を受けました。特に印象的だったのが、他人のものさしではなく、確固たる自分のものさしで勇気ある意思決定をされているということ。

キャリアの選択の仕方に正解はありませんが、自分の譲れない価値観や強みに重きを置いて決断をしている人からは力強いエネルギーを感じます。
私も他人の物差しで考えるのではなく、自分に内在するエネルギーや強い軸を持って力強く決断してきたい、そう再認識できた取材でした。