コア事業の枠にとらわれないサービスを シンガポールで会計事務所+αを展開する 【CPA CONCIERGE PTE LTD 萱場玄氏】

第二次世界大戦以降急速的な発展を遂げたシンガポール。過去にアセナビでも紹介したように貿易や金融、ビジネス環境などで多くの世界1位、アジア1位の座に輝いています。そんなシンガポールにおいて、会計事務所の域を超え、日系進出企業へ便利なサービスを提供し続けるCPAコンシェルジュ社。今回のインタビューでは、同社代表/公認会計士・税理士(日本)萱場玄氏に、現在の事業内容からシンガポール進出に関する状況、成功の要因など重要なポイントについてもお話を伺いました。

《プロフィール|萱場玄氏》
シンガポールで独立開業した日本の公認会計士。
あずさ監査法人、東京共同会計事務所、米国留学、TMFシンガポールを経て2014年にCPA CONCIERGE PTE LTD創業

コア事業に留まらない多角的なコンシェルジュサービスの提供

―現在の事業内容について教えてください。

ライセンスに引っかかるもの以外はすべての法人向けお手伝いをやっているといっていいかもしれません。現状は、特にバックオフィスと呼ばれる会社の内部的・管理的な作業のアウトソースをお受けするのが主要事業です。

具体的には、設立支援、設立時の関連準備、例えばシンガポール法人設立やビザ申請など。また、カンパニーセクレタリ―と呼ばれる役職が会社には必要なんですが、お客様の会社に正式な役職として就任しながら、実際にそのセクレタリー業務を行ったりしています。セクレタリー業務とは、一般的に思い浮かべるような「秘書」業務というよりは、社内の行政書士というイメージです。会社とシンガポール政府との橋渡し的な役割で、具体的には登記簿の変更時の手続きなどがあります。その他、もちろん会計・税務に関する業務もお受けしていますし、給与計算や所得税といった人事系の業務も請け負っています。

これらに加えて、ご依頼内容を問わずなんでもお手伝いしますというコンセプトのコンシェルジュサービスも提供しています。

最近では子会社も設立して、別ブランド、別コンセプト、別メソッドによる同領域のサービス及びカンパニースタンプの製造販売を行っています。別ブランド、別コンセプト、別メソッドというのは、従来のサービスを全く別の方法で別価格帯で提供するというもので、弊社にとっても、会計事務所業界にとってもチャレンジングな試みだと思います。また、カンパニースタンプとは社印の製造販売のことで、自社生産(組み立て)していますが、ローカル業者に出向いてスタンプを購入してクライアントに実費請求するくらいなら、自前で製造販売した方がコスト(時間)抑えられるよね、という趣旨から始めたものです。

 

―現在の親会社事業でも軌道に乗っているようにお見受けしますが、この状況で別ブランドで同領域のサービスを提供する子会社を設立された背景について教えてください。

私はシンガポールにきて7年目になるのですが、これまでの経験の中で、弊社をご利用いただいたものの解約された方や、見積もりをご依頼いただいたものの成約に至らなかった方など様々な方がいらっしゃいました。色々な原因があると思うのですが、その一つに価格水準が合わなかったという側面があります。ただ、そこに関してはこの国の物価が高過ぎて、どうしても弊社としても価格を下げられない、また、価格を下げると忙し過ぎて一社一社のお客様にかけられる時間が無くなり、特に繁忙期になるとクライアントとのコミュニケーションに亀裂が走ることもあり、簡単に解決できることではありませんでした。

一方で、私が独立を決意したときは、競合他社よりもより安くより良いサービスを提供するという思いがあり、それを実現できるとも思っていました。しかし、いざ事業を始めてみると意外と難しいなと感じ、悔しい思いをしたこともあります。

このようなことがきっかけで、別ブランド別メソッド別価格帯でのサービスを提供することにしました。親会社であるCPAコンシェルジュ社と同一のサービスを提供するわけではないので、従来のお客様とは全く違った層、例えば初めての脱サラ、しかもシンガポールでの起業ということで会計税務も含めて手続き的なことが右も左もわからない個人事業主、といった層に向けてのサービスラインになります。

 

一萱場家存続のためにシンガポールに移住

―発想を転換することで、より多くの顧客にサービスを提供するということですね。萱場さんはいま日本の公認会計士登録をされていますが、公認会計士になるまでの経緯と、その後について教えてください。

もう20年以上前の話なので時効だと認識しています(笑)が、中学校2年生の時から(稼ぐ手段として)パチンコにハマりまして。中学校1年生くらいまでは成績が良かったんですが、中学校2年以降は全く何もやらなくなってしまって、だらだらっとずっと成績が落ちていきました。高校受験に失敗し、大学受験も10校受けて一つも受からず浪人し、翌年にもう一度10校受けて一校しか受からず…。大学でも相変わらずパチンコ屋に通い続けていました。しかし、このままでは自分はダメだと思い立ち、逆転ホームランを打つべく、キャリア上、学歴がほぼ考慮されないという公認会計士になりました。

その後、大手の監査法人に就職しましたが、当時アメリカに行きたかったので、退職してアメリカに半年間留学しました。そこで本当は職を見つけたかったのですが、ビザの発給が一年に一度しかなく、ちょうどそれが終わった時期で、あと一年待たなければ変えられない状況で…やむなく日本へ帰国しました。完全な調査不足でした(笑)。

 

―公認会計士になった後、どのような形でシンガポールと巡り合ったのでしょうか。

帰国後は、海外案件をがっつりやらせてもらえるような会計事務所を探していました。そこで希望通りの業務内容を提示してくれた事務所に入り、海外案件をこなしていた中で注目したのがシンガポール案件だったんです。たまたまかもしれませんが、当時、海外案件の多くがシンガポール案件で、「世の中って、特にアジアはシンガポール中心に回ってるんじゃないか」と思うようになりました。それが2010年くらいのことでしたね。

 

―日本ではなく、シンガポールで独立された理由について教えてください。

これからの世界経済を見ると、我々の世代のなかではアジアがどんどん経済成長し、その中心にあるシンガポールは国の規模こそ極少ではありますがアジア経済の中心にいるといえます。

ただ、それよりむしろうちの「萱場家」の存続のために移住したというのが大きいかもしれません。日本はこれからの世界全体の成長性で見ると、相対的に伸びないと思っています。そう考えると、我々の世代、子供の世代まではセーフだと思うんですが、さすがに孫の世代になってくると日本でしか生きていけないような環境にあると、経済的にかなり危なくなってくると思うんです。だから自分の代で出ておかないと後世が相当苦労するのかもしれないというのが究極的な理由かもしれませんね。

 

リアルジャパンへのこだわりも成功の要素になりえる

―「萱場家」の存続ですか。なかなか新鮮な理由ですね!萱場さんはお仕事柄、日本からの進出企業を数多く見てらっしゃっていると思います。今現状の日系企業の進出状況について教えてください。

 Photo from Mike Cartmell flickr

飲食などを筆頭に多くの日系企業が進出をしていると思います。しかし一方で、進出ばかりに光が当たりがちで、撤退も相当数あるという点も見逃せません。撤退という形といっても色々な姿があります。例えば、会社は残しておいて従業員は皆引き上げるケースなど、「日系企業の数」といった数字に反映されない撤退も多いです。ですので、会社の数では純増かもしれませんが、実際の進出&生き残り数は減っているという可能性もあると思います。

 

―かなり大変な事情があることが分かりました。そんな難易度の高いシンガポールでどうすれば、うまく軌道に乗せられるのでしょうか。

すでにその傾向はありますが、シンガポールもこれからはデフレの時代に突入していくと考えています。いかに安くていいものを出せるかが勝負ですね。おいしいランチを$20で出す時代はもう終わっていると思います。例えば100円ショップのダイソーは$2(シンガポールドル)均一でわかりやすく商品を提供していますし、ランチもいかにして$10を切る値段でいいものを出すかとか、ディナーも$50紙幣一枚で終わらせられるようにするかが重要になってくると思います。

 

―ありがとうございます。一方で、今まではシンガポールに限らずいかにローカライズしていくかが重要視されていました。この点についてはどのようにお考えでしょうか。

確かにいかにローカライズしていくかという考えは、これまでの成功事例の定番だったと思います。例えば、日本のラーメンでも寿司でも、日本の味を捨ててシンガポール人の好みに合うようにしていくことで、一定の成功を挙げてきたという事例はあります。

しかし、これからはリアルジャパンのこだわりが成功するという流れになる可能性も無くはないのかなとも思うんです。日本でも欧米文化がそのまま浸透してますし、シンガポールでもスタバやマクドナルドが業態を変えずにほぼそのまま入ってきている。それなのに日本の飲食店だけ大きく変えないと成功しないという点は、ひょっとしたら発想の「転換の転換」が成功の秘訣なのかもしれません。いずれにしても「勝てば官軍」なので、創意工夫をして、勝てばなんでも言えるんでしょうけれど(笑)。

 

会計事務所の枠を超える

―なるほど。一般的なローカライズ戦略が必ずしも唯一無二の解というわけではなさそうですね。それでは、萱場さんのこれからの事業展開に関して教えてください。

私としては、正直なところ、従来型の会計事務所業務、もっというと士業サービスは時代に合わせて変革しなければならないと感じています。

そういう意味で最近は、サービスのコミュニティ化が一番面白いんじゃないかと思っています。日本でも今、流行ってきていますが、コミュニティマネジメントを支える各種インフラが進み、オンライン疲れやSNS映えにも飽きてきた今日この頃、人と人とのコミュニケーションを活発化させるコミュニティを時代が求めているように感じます。弊社でも、顧客数をドーンと増やして、その顧客同士で交流できるような仕組みを作りたいなと思っています。顧客がいっぱいいるからこそできるサービスを目指していきたいですね。車や家などの物理的なモノだけでなく、知識やノウハウも所有から共有にシフトしていく流れなのかもしれません。

今運営している オンラインサロンもその一環です。会費が激安なので全く売上貢献はない赤字事業ですが、サロン会員とのオフラインの交流や、状況に応じて弊社のお客様とのコラボを実現させたり、そういうことを会社単位でもやりたいなと思っています。なので、コミュニティ化は一つの弊社の方向性といえます。

 

―そのようにお考えになったきっかけはどういうものでしょうか。

私はシンガポールにもある日本人のネットワークに所属しているのですが、その団体は最初経営者のみが会員だったのを駐在の方などいわゆるサラリーマンの方々にも裾野を広げています。というのも、所属する会員の数が多ければ多いほど、例えばシンガポール政府などともより対等に交渉できるといった効果も生まれてきますから。このような動きに共感して、それがきっかけになったというのは言えるかなと思います。

 

我々の世代はまだ間に合う。でも…。

―ありがとうございます。それでは最後に若い方へのメッセージをシンガポールで働くことの魅力とともにお願いします。

繰り返しになりますが、我々の世代や20台前後の世代の方々は日本国内に居続けてもセーフだと思います。ただ先ほども話したように、我々の世代でいえば孫にあたる世代からは、日本から出た経験がほとんどなく日本語しか話せない人たちの状況は結構危険だと思います。今国外に出れば、場所にもよると思いますが、日本人ブランドを持って戦える場所もあるので、そのためにも今のうちに我々の世代が海外に出ることは大事かなと思います。

その上で、シンガポールで働く魅力についてですが、多国籍な環境というのがやはり一番魅力的だと思います。様々な人種が混在する中で、そこに揉まれる経験というのは日本はじめ単一民族国家では経験できないんじゃないかと思います。

 

―インターン募集

弊社では、学生インターンの方を募集しています。期間と給与に関しては、ワーホリビザが前提になるので、2か月から最長で6か月。お給料は基本的に最低限の生活費程度ですが、ご本人の成果次第で成果報酬をお出ししますし、できればそういう意気込みで乗り込んできていただけるような方がウェルカムです。業務内容は来てくれた人に合わせてこちらで考えるということもよくあります。ウェブサイトの作成でも、営業でもなんでも構いませんし、ご本人の意向にあわせて働いてもらいたいと思っています。ご連絡お待ちしております!