2016.12.10
ASEANと日本の歴史上初の、産官学連携でASEANのトップ大学の学生と日本企業をマッチングさせるASEAN CAREER FAIR with JAPAN (ACF)を2013年以降毎年開催しているエナジャイズ代表、尾崎太朗氏 。一見成熟しているかのように見えた外国人財業界に新たな風を吹き込むまでの経緯と、それらに込める想いを伺った。2016年の開催模様はこちら↓↓
日本企業で働きたいASEANの学生全員集合!ASEAN CAREER FAIR with JAPAN IN SINGAPORE 2016に潜入調査!
《プロフィール|尾崎太郎氏》
立教大学社会学部在学中にカナダへの1年間の留学を経験。1999年卒業後、毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)に入社。就職情報誌営業部門にて中小企業と大企業への営業を経験後、役員直下での新事業企画を担当。同社から独立後は株式会社エナジャイズを創業し、ASEAN CAREER FAIR with JAPANのみならず、採用・マーケティング・グローバル対応まで幅広く手がけている。
目次
海外にいる外国人を日本へ
—御社の事業内容を教えてください。
弊社は一言で言うと、日本企業が国境や文化の壁を超えて何かをしようという時にハンズオンで手伝う会社です。
とりわけ日本企業がクロスボーダーに事業展開するうえでの人事領域における活動に軸足を置いています。
具体的には、採用、入社後の教育、組織作りまでの一連の流れをワンストップでサポートしています。人材の対象は主に「海外にいる外国人」で、日本にいる日本人でも、海外にいる日本人でも、日本にいる外国人でもありません。
人材業界の変遷から見えた次のマーケット
—なぜ海外にいる外国人に絞っているのでしょうか?
日本における人材業界を“国際化”や“グローバル”というキーワードで見ると、①日本にいる日本人→②海外にいる日本人→③日本にいる外国人→④海外にいる外国人へとシフトしてきたことがわかります。
①②③のマーケットは多数のプレイヤーが存在していましたが、我々はニーズが急速に高まりながらサービスプロバイダーが少ない④に特化してきました。
しかし海外にいる外国人を日本企業が採用するとなった時に、3つの課題があります。
1つ目はまずサービスプロバイダーがそもそも少ないという点です。2つ目は、ある国に偏っているサービスプロバイダーが存在する点。例えば、中国や韓国にだけというのが典型例ですね。
この2点は、サービスプロバイダー側の視点としてはいいのですが、逆に顧客である日本企業の人事側としては困った話です。
その状態だと人事側に情報の偏りがあるので「中国に中国人を採用しに行く」いう思考回路になってしまいがちです。
それははあくまでも手段の話で、本来の目的は自社のビジネスを成長させるために必要な人材を採用することです。
要は、どんな人材が必要かを先に考えて、その後にそのような人材がどこの国、どの大学、どの学部にいるかを考えるのです。
しかし実際は「中国の学生は優秀ですよ」だとか、「いやいやシンガポールの学生の方が優秀ですよ 」といった国の宣伝営業が流行っていました。しかし実際は人材を国レベルで判断できるわけがないじゃないですか。
だから私たちは、人事の掲げるゴールをどう実現するかという視点に立ってお手伝いさせていただいています。
世界中どこでもその企業が求める人材をどこからでもで採用できるようにと8年かけて体制を築いてきました。
最後に3つ目の課題は、人事が求めるサービスに見合わない採用コストがかかっている点です。
ある国に初めて出張で渡航する人事担当の方々と、現地で活動する人材会社には大きな情報の非対称性があり、どうしても両者が対等になりにくく、不透明かつ納得性の低い価格設定もよく見られました。
人事側が求めるゴールとやり方を知ったうえで、一つの国に偏ることなく、誠実に寄り添いながらサポートしていこうと思っています。
(今回はSkypeでもインタビューです。)
知らないものへの好奇心が原動力
—独立するまでの経緯を教えてください。
昔から知らないものへの好奇心が強かったので、学生時代にはネパールに留学しようと思っていたのですが、出願をすっぽかしてしまい最終的にカナダで起業家育成コースに1年間参加することにしました。(笑)
帰国した1999年、毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)に就職することになりました。「新たな人との出会いがあるところがいい」という希望だけ出すと、就職情報誌の営業部門に配属になりました。
そこで3年間は中小企業向け営業、4年間は大手企業向けサポートをしていたのですが、会社が用意したサービスだけを提供するのはつまらないと思い、「お客様が望むもので会社が用意していないものは自分で作ればいい」というスタンスで楽しんでいました。
そのように新たなサービスを提案し続けていたので、役員の方からそれを専門にやらせていただけることになり、2年は役員直下での新事業企画に携わっていました。
それらの仕事を楽しんでいたのですが、今後既存事業の更なる規模拡大への貢献に軸足がシフトしていくであろうポジションに居続けることに物足りなさも感じ始めていました。
さらに、留学経験も活かして海外に学ぶ優秀な日本人学生を採用するための事業をアメリカで立ち上げたのですが、その頃から先ほどお伝えしたように国単位で物事を捉える時代ではないなと感じ始めていました。
そこだけで世の中の全てを解決はできないなと。
もっと言うと、日本人だけでやっていく時代でもないなとうっすら感じていたときに、世の中の将来と、今までの自分の経験を考えた結果、既存ビジネスで稼いでいくというよりは、今までになかったけれど世の中に必要とされるサービスを提供したいと思い独立しました。
日ASEAN史上初かつ唯一の取り組み
—なるほど、それでは御社の事業の目玉であるASEAN CAREER FAIR with JAPAN IN SINGAPORE (以下ACF)の概要を教えて下さい。
日本政府の外国人留学生誘致活動の一環として、大 阪 大 学 大 学 院 国 際 公 共 政 策 研 究 科がASEANの大学との交流を強化しようとしていたのですが、実際は交換留学をして帰国すればそれで終わりで、卒業後のキャリア、つまり出口戦略に課題があるという相談をいただきした。
その課題を解決する社会的意義があることに加え、今までの人事領域での経験が活かせると思い、協力していくことになったのがきっかけで2013年からスタートしました。
内容はその名の通りで、ASEANの大学に所属する学生と日本企業をマッチングさせるための、選考直結型合同企業説明会です。
2013年がターニングポイント
—中国やインドといった他のアジアもある中でASEANである必要性はあったのでしょうか?
2013年というのは、多くの日本企業の中期経営計画においてASEANでの展開を加速させることがコアとなった年でした。さらに、人材業界としても、中国・韓国の人材を採用するという取り組みは既に多く存在していたものの、ASEANでこのような取り組みに前例はありませんでした。
学生と企業は新たな選択の場を
—ACF参加者にはどのような意義があるのでしょうか?
まずASEANの人財への価値に関して、これまでは日本が好きだという外国人は多かったものの、日本あるいは日本企業に就職するという機会はなかなか提供されてきませんでした。
しかしACFを通して日本で働くというのも選択肢としてあるということを提示できたと思います。
次に日本企業に対しては、日本にいないからこそより優秀な人を見つける可能性の場、それぞれの域内にあった採用ノウハウを蓄積していく場、「◯◯人はこうだ」という情報が本当なのかと確かめにきてもらう場として活用していただけました。
(シンガポール国立大学現役学生の日本企業への率直なイメージを聞くセミナーの様子)
外国人が日本で働くための登竜門にしたい
ーではACFを運営していくうえで、大変だったことや、参加者からの評判はどうでしょうか?
多くの日本企業が外国籍人材の必要性を認識しているものの、海外にまでは人材を採用しにいこうとしない日本企業が肌感覚では9割で、ほとんどの企業が外国人の受け入れに消極的だったので、賛同してくれる企業を集める段階でとても苦労しました。
残りの1割はとても強く意義に共感していただけて、満足していただいています。
学生側からの感想は総じて良さそうですね。基本的にはASEAN各国の大学関係者(教授・キャリアセンター等)が直接広報に協力をしてくれているのですが、最近はACF卒業生から現役生への口コミを聞きつけて参加しれくれる学生が増えているのが嬉しいですね。
それと、これは事前に予想していなかったのですが、ACFに参加した学生同士での交流も起きていいるようです。
出身は違っても「なんで日本企業なの?」から始まり、就職にとどまらず、ACF後も切磋琢磨できるコミュニティができればいいなと思っています。
(アテネオ・デ・マニラ大学での日本就職セミナーの様子)
今後はASEANだけ、人事だけではありません
ー今後の展望を教えてください。
ここまで振り返ってみると、ACFは日本企業とASEANの人財を繋ぐという点では域内で唯一かつ一番長いものになり、今までやってきたことは間違いではなかったと確信しています。
今後はASEANのみならず、外国人財が日本で働くための登竜門的存在になり、認知度を上げていきたいです。 ACFはたまたまASEANでうまくいきましたが、今後は南アジア等の他地域でも応用できないかと模索しているところです。
さらに、人事領域以外にも取り組み始めています。例えば同じASEANを舞台にしても、人事領域の外でも日本とASEANを繋いでいけるような取り組みも形にしていきたいですね。