2016.01.15
「ホーチミンに来た当初は、レストラン選びに苦労していたんですよ。」そう話すのは、ベトナムのレストラン予約サイトfest を運営する、中山厚郎氏である。元々駐在員としてホーチミンで生活をした後、ベトナム人女性と結婚して現在はfestの代表として働いている。同氏に、ベトナムで働くことについて、またfestのサービスについて伺った。
《プロフィール|中山厚郎氏》
1988年生まれ、神奈川県出身。
2010年大学卒業後、大手SI会社へ入社し大手通信システム開発のエンジニアとして働く。
2012年11月にウエディングメディアへと転職。Web開発エンジニアとして1年間日本で仕事をする。その後、同社ベトナムオフショア開発責任者としてベトナム駐在員として1年半ベトナムで勤務。
2015年6月 ウエディングメディアを退社し、現在ベトナムでのグルメサイトFest.vn立ち上げに参画。
アジアの人々に新しいライフスタイルを提供する使命のもとFest.vnを運営する。
べトナム飲食メディア業界でもまだ少ないweb予約システムを搭載! Festの全貌とは?
—festはどのようなサービスなのでしょうか?
ベトナムでのレストラン検索・予約サイトです。
(fest.vn 写真がとてもきれいなUI)
名前の由来は“Festival”から取っていて、理由は私の体験が基になっています。
ベトナムで結婚式を開くとかなり大勢の人が参加するんです。私が、妻と結婚式を開いた時には、600人もの人たちが来てくれました。また、子どもが生まれて1年経つと、必ず親戚や友人などを集めたパーティを行う文化もあります。
そこで感じたのは、ベトナムはお祝いをすごく大切にする国なんだなあということ。この体験が基になり、サービスのfestという言葉が誕生しました。
プロポーズや記念日などのシーンで使えるレストラン選びに使ってほしいと思っていますし、それだけじゃなく同僚との飲み会や会社の打ち上げなど、大切な人といつもより贅沢な食事をしたい、そんな時に使ってほしいサービスにしていくことを心がけています。
(メニューも見やすい)
日本語・韓国語・英語・ベトナム語の4カ国語に対応していて、旅行者にも使ってもらえるサービスです。自動翻訳は一切使わず、弊社で一つ一つ翻訳を行っています。
また、今後はレストランに対する口コミを、ブログ形式で投稿してもらおうと思っています。写真の枚数も多くなくてはいけないし、書く側も力が入ります。
—4カ国語もあるんですね!口コミって、短文で書きやすいから成り立つ仕組みだと思うのですが、どう思いますか?ブログだと書くハードルが上がる気がします。
その通りです。私は、ユーザー全員が口コミを書く必要はないと思っていて、本当にいいと思ってもらった人にだけ書いてもらうほうが良いと考えています。「おいしかったー!」というような簡単なものではなく、もっと具体的で信頼性のある情報が書かれるようにしたいです。
ですので、ベトナムのブロガーさんと協力しながらテンプレートを作っていこうと考えています。
ー中山さんがfestをやりたいと思った理由は何ですか?
私が初めてベトナムに来た時、サイトのクオリティや情報の信頼性が低いものが多く、レストラン選びに苦労していました。
そこで感じていたのは、ユーザー主導型のグルメサイトはあるけれど、レストラン側から正確な情報を提供してもらってユーザーに届けるレストラン検索サイトは無いなあと。トリップアドバイザーもありますが、口コミが自動翻訳されてしまうので日本人にとっては使いづらいんじゃないかと思っていました。
なぜここに疑問を持っていたかというと、友人との食事や接待の際に「レストランを予約しておいて!」と頼まれることがあったのですが、やり方がわからなくて。
そこで、「ホーチミン レストラン 有名」とか調べてみるのですが、ヒットするのは個人ブログばかりで、体系化されたものがありませんでした。また、日本ではweb予約が主流になってきていますが、ベトナムではそのシステムが無かったのです。
—なるほど、かなりユーザー視点から生み出されたサービスなのですね。「いつもより贅沢」というお話でしたが、どうしてそれがテーマになっているのでしょうか?
メインターゲットとしては、ベトナム人のミドルアッパー層を想定していますが、根底の思いとしてはミドル層くらいの人たちに使ってもらいたい。ベトナムには娯楽が少ないので、贅沢な外食は数少ない楽しみなのです。だから、ミドル層の人にその貴重な機会を存分に楽しんでほしい。彼らにとって、外食って高いし、情報に誤りがあったら悲しいじゃないですか。
それを感じたのも、妻を見ていると友だちと外食に行く時にすごく嬉しそうにするんですよね。家にいてもFacebookを見ていたり、ちょっと買い物に行ったりするくらいで、楽しみが限られていて。だから、その外食のシーンではぜひ楽しんでほしいと思っています。
—レストラン情報を掲載するにあたって、レストランのどんなところをチェックしているのでしょうか?
我々は直接店舗に行って営業をするので、その際に外見や店内の設備、雰囲気、接客をチェックします。それから、料理や価格も見て、店舗を選んでいます。
オーナーと話をしていく中で、彼らが持つ「こだわり」を引き出すことを大切にしています。料理の素材や味付け、家具や建築にこだわっているなどです。
ベトナムに来たきっかけ
—続いて、中山さんご自身のことをお聞きしていきたいと思います。現在ではベトナムで働かれている中山さんですが、現在に至るまでの経歴を教えてください。
新卒では大手のシステム開発会社でシステムエンジニアとして働いていました。しかし、働いている内に自分が携わっているのはシステムのほんの一部で、もっとエンドユーザに近いポジションの開発をしたいなと。そこで、ウェディング関連でメディア・Web制作を行っているベンチャー企業に転職を決めます。
システムやウェディングに関する知識を増やしたり、1年ちょっとでベストエンジニア賞をいただいたりしました。ある時、社内のサービスをオフショア*で開発することになりました。そこで、開発の責任者としてベトナムに駐在します。
*オフショア開発とは・・・オフショア開発とは、情報システムやソフトウェアの開発業務を海外の事業者や海外子会社に委託・発注すること。
1年半の駐在期間は終わったのですが、その間にベトナム人と結婚をして子どももできていたので、ベトナムに住み続けることを決めました。そして、グルメサイト立ち上げのオファーを受けて、Festの立ち上げから携わることになったのです。
—なるほど。元々海外に目を向けていたのでしょうか?
小さい頃からテレビで海外に関する番組を見ることが好きでしたね。あとは、小学校の時に家族旅行でオーストラリアに出かけて現地の人の優しさに触れ、違う文化・環境に魅力を感じていました。
前職に転職した時、社長に「将来、海外に行きたいと思っています」とは言い続けていました。どんな国でもやっていきたいと思っていたし、世界で通用する人材になっていかないといけないと考えていたので。
—ベトナムに来て大変だったことはどのようなことでしょうか?
働く面で言うと、スタッフの意識を合わせることに時間をかけていました。エンジニアは技術力に固執してしまう面がありますが、それだけじゃなくて、自分たちが作っているサービスを通してどんな人を幸せにしたいか、ということを考える必要があります。
ですので、技術に固執しがちなエンジニアに、目的意識をもってもらうことには苦労しましたね。
ベトナムの日本人ネットワークでご縁は繋がっていく。
—代表として働く中で、どんな大変さがありますか?
弊社にはベトナム人だけではなく、韓国人や日本人もいます。そこで難しいのは、各国での営業のスタイルが違っていること。私もまだまだ勉強中なのですが、日本でいう営業はコンサルタントのように、お客さんの課題を見抜いて提案をする。それによってレストランが改善されていきお互いにwin-winの関係になる、といった形が主流だと思っています。
しかし、ベトナムの営業は、どちらかといえばプッシュ型で、「これだけのユーザーがいるから買ってください!」というスタイルだなあと感じています。ですので、これを提案型の方に変えていきたいと考えています。
—ベトナムで働く中での成功体験とか嬉しかったことってありますか?
たくさんありますね!無事にサイトをオープンして初めて予約が入った時、ベトナム人従業員が営業をして掲載店舗を獲得した時、営業していく中でレストランのオーナーがすでにfestのことを知ってくれていた時、などです。
常に新鮮な気持ちで仕事ができていますし、自分がやりたいことの実現に向けて動けるので、面白いですね。
—ありがとうございます。それでは最後に、海外に踏み出したいけれど一歩を踏み出せない若い人に向けてメッセージをお願いします。
私も、2年半前は一歩を踏み出せない人間でした。
でも、来てからわかったことは、ご縁は繋がっていくということです。
というのも、ホーチミンでは日本人のネットワークが強力なので、1人で来たとしてもこのネットワークに溶け込めるからです。そこから、ご縁が繋がって友だちもできるし、ビジネスにも繋がることだってあるはず。
だから、まずは飛び出してみてはどうでしょうか?いろんな人に出会えることによって、最初持っていた恐怖心も好奇心に変わるのでは、と思います。
【編集後記】
ベトナムは、まだまだ発展途上国。日本にはあるけれど、ベトナムには無いサービスがたくさんあると、皆口をそろえて言う。だからといって、日本のものをそのまま横展開するだけでは難しいだろう。現地に住んでいる人たちの意見に耳を傾け、ベトナムに合うようにローカライズをしていく必要があるからだ。中山さんは、ベトナム式の結婚習慣や外食の位置づけなどを肌で感じ、それをサービス名の由来やターゲットに落とし込んでいた。こうやって、本当に現地のためになることを考えながらビジネスを行うことが、何よりも大切なのだと改めて実感したインタビューであった。