必死に考え、もがき苦しんだからこそタイ新卒就職という選択に至った。様々な選択肢を客観視しながら、自分自身の気持ちも大切にした藤岡諒氏が「悩んでるあなた」へメッセージ。「自分がいいと思えるキャリアならそれでいい。」
<自己紹介/藤岡諒氏>
1995年生まれ。兵庫県神戸市出身。大阪大学外国語学部タイ語専攻在学中にチュラロンコン大学文学部へ1年間交換留学。タイを拠点に人事組織コンサルティングを手がけるAsian Identityにて半年間のインターンを経験し、大学卒業とともに、2017年4月よりAsian Identityに新卒入社。
初海外がタイ。当時の衝撃がタイで働くきっかけに。
ー 現在の仕事について簡単に教えてください。
2017年4月からAsian Identityというアジアにおける人事組織コンサルティングを手がける企業でコンサルタントとして働いています。2015年にタイで設立され、東南アジアの人事領域・組織開発領域の課題に対し、現在はタイ人と日本人コンサルタントの混成チームによるサポートを行なっています。
Asian Identity Founder&CEO 中村勝裕氏のインタビュー記事
― タイとのそもそもの出会いのきっかけはどういうものだったんでしょうか?
高校1年生の夏休みに兵庫県下の高校とタイ教育省の間で行われた文化交流プログラムに参加したことが初めてタイを訪れた機会でした。当時は特にタイという国へのこだわりがあったわけではなく、ただただどこか海外に行ってみたいという思いでプログラムへ申し込みました。
そのプログラムでは現地の高校を訪問する機会があり、日本語を勉強しているタイ人の高校生たちと交流しました。そこで懸命に日本語を学んでいるタイ人高校生の姿に感銘を受け、自分もその想いや努力に応えたい、彼らのためにタイ語を学びたいという気持ちになりました。
また、日本語を学び始めて間もない彼らと決して上手ではない日本語や時には英語も交えつつ様々な会話をする中で、「コミュニケーション」の難しさを実感しました。というのも、それまでは日本語を使い、日本人としか話をしたことがなかったので「意思疎通ができない」と感じたことはなかったですが、その時初めて今まで当たり前にできていた会話による意思疎通ができないという状況に直面したからです。
ただ、スムーズにコミュニケーションが取れないからこそ、逆に意思疎通ができたときの喜びは強く印象に残りました。
これがきっかけでタイという国や人とコミュニケーションを取ることの魅力にはまってしまい、もともと理系の特別コースへ進むことが決まっていたのですが、タイを訪れた後無理矢理それを覆し、文系に変更してしまいました(笑)。
― 思い切った決断ですね。高校時代カナダにも短期留学されたそうですが、どうしてタイに魅力をより感じたのでしょうか?
タイ人のほうが人懐っこく感じたというのはありますが、タイは初めての海外で特に印象に残ったというのが大きかったのではないかなと思います。もし訪れる順番が逆だったらカナダに魅了されていたかもしれませんし、インドへのプログラムだったらヒンディー語専攻だったかもしれませんね(笑)。
たまたま縁があってタイを好きになったという表現が正しいかもしれません。
― そこはもう言葉では言い表せない部分ですね。その後、大阪大学外国語学部のタイ語専攻を入学されたんですよね。
タイが好きだったので ”タイ語の授業がある” というレベルではなく “専攻としてタイ語専攻がある大学” に入学したいと思い調べてみると、日本では大阪大学、東京外国語大学、神田外語大学の3つしかなく、まずはそこから志望を絞っていきました。また同時に様々な人とのコミュニケーションの楽しさにも興味があったことから、グローバルに様々な人と関われる国際関係学部がある国際基督教大学(ICU)や早稲田大学に進学することも選択肢としてはありました。
当時は高校生なりにとても真剣に悩んだことを覚えています。先を見据えてどれだけ将来に活かすことができるかを冷静に考えてみると、国際関係学部に進学することが正解に見えましたし、周囲の大人からもそのように勧められました。というのも、タイ語を学んだところでどう活かせるのか全く見通すことができず、自分の将来の可能性が狭まってしまうのではないかと心配したからです。
とはいえタイでの経験は忘れられなかったですし、他の視点を入れずに純粋にどちらに心惹かれるかと問われると、やはりタイ語を学ぶこと、タイを知ることに心が惹かれる自分がいました。そして、最終的には将来を見越して打算的に決断するよりは、自分の素直な好奇心や好きなものを大切にしました。文理選択のときもそうでしたが、振り返ってみると論理だけでなく自分の素直な気持ちも大切にしながら決断をしてきたように思います。
― 入学してからどういった活動をされていたんでしょうか?
タイを訪れるまではウィンドサーフィンや議員インターンシップなど自分が好奇心を持ったことをしていました。そして大学2年生の夏のタイミングに、アジアで活躍する日本人の話を聞くという趣旨のイベントに参加し、現在勤務しているAsian Identity CEO&Founderの中村さんの講演を聞いて魅了されました。
― そのときの中村さんの講演でどういったところに魅力を感じたのでしょうか?
そのイベントでは様々な起業家の方のお話をお聞きしたのですが、中村さんは他の方と違い、ある程度アジアの成長性を客観視しながら、より学生目線で、アジアで働くことを押し付けない講演をされていて、そこに魅力を感じました。社名にも現れているように、一人ひとりのアイデンティティを大切にし、それに沿ったキャリアがあると伝えようとされている誠実な姿勢に感動し、講演直後にはFacebookですぐにメッセージを送っていました。
今思えば自分らしくない思い切った行動をしたなと思います(笑)。ただ、中村さんも優しく、その後バンコクでお話する機会をいただきました。
大好きなタイ人が「HAPPY」になれるように。
― そしてその後はAsian Identityでのインターンシップを始められたんですよね。
最初は週に1日の頻度で出社し、翻訳などのサポートをさせてもらいっていました。その後、3ヶ月ほどフルタイムでのインターンもさせていただいていました。
― 留学中やインターン中にキャリアへの葛藤や悩みはありましたか?
ありましたね。留学からの帰国後は就活をしなければならないとは分かっていたことに加え、比較的自由な時間も多かったので留学中はよくキャリアについて考えていました。特に3年生の10月~12月は進路について悩みに悩みました。毎日カフェに行き、自分自身のキャリアはどうしていくべきだろうと真剣に考えていました。
中村さんにも相談して、駐在員の方などを紹介してもらい、お話を聞きに行っていました。目上の方とお話をすることは決して得意ではないのですが、当時は必要に迫られ、ひたすらお話を聞きに行き、頂いた情報をもとに考えて、、、の繰り返しでした。
― 結果Asian Identityに入社されましたが、決断できたきっかけは何になりますか?
考え抜いて感じたことが2つあります。
1つ目の理由としては、様々な駐在員の方とお話をする中で、日本で3~5年程度の下積みをしてから駐在という形で海外赴任することが多いと分かったということがあります。私としてはこれは遅すぎると思い、直接タイでキャリアをスタートしたいと思いました。ですが、それだけの理由では決心に至りませんでした。
最終的に決断できた最たる理由はAsian Identityで人事組織コンサルティングの側面からタイにある「人や組織」の課題を解決していきたいと強く感じたことです。
タイ語専攻を選びさらにタイと深く関わっていくようになると、一生懸命日本語を学ぶタイ人の友達も増えていきました。ただ同時に、念願叶って日本語を活かすことができる日系企業に入った友達から「働いていてHappyじゃない」という不満を聞く機会も増えていっていました。
理由を尋ねてみると、日本人の上司との間にすれ違いがあったり、日本式の働き方が強制されすぎていて職場の雰囲気が悪くなっていたりという問題があることが分かりました。高校からずっと一生懸命日本語を勉強し、希望を抱いて日系企業に入ったタイ人が、こういった問題のせいで「Happyじゃない」と言っている状態は、日本人としてすごく申し訳ないし、悲しいことだと感じました。
そこで、もし自分が人と組織の課題解決を専業としているAsian Identityで働けば、タイの人たちが「働いていて Happy!」と思えるようなお手伝いができるのではないかと思いAsian Identityで働くことを決断しました。
決してアジアに行くことだけが正解ではない。あなたにとって良い選択を。
― 現在のことをお伺いしたいのですが、タイで働くことの醍醐味や面白さは何ですか?
タイで働くということに関していえば、基本的に英語やタイ語を使わなければならないのでコミュニケーションコストがかかり大変ですが、その分鍛えられていますね。また私にとってはパッションの源であるタイで働くことが出来ているということはとても良いです。
Asian Identityという枠で捉えると、組織規模が大きいわけではないので、一人一人に降りかかる課題が多く、日々チャレンジさせてもらえる環境が楽しいですね。例えば突然、タイ人のマネージャー研修の通訳やってみようか!といったことが来たりするのは今のこの組織規模と風土ならではだと思います。
チャレンジ機会がたくさんあることで、かつてできなかったことができるようになったという成長実感を短いスパンで得やすく、自分にとっては面白い環境です。他方で、たくさん機会がありすぎるが故に、受動的になってしまわないようにも意識しています。
―逆にタイで働くことへの困難とは何でしょうか?
困難は大きく2つあります。
1つ目は、タイの階層意識の強さです。タイ人と友人同士で付き合っている時は感じたことはなかったですが、組織の一員としてタイ人と働くようになってタイは日本と同等かそれ以上に上下関係が厳しいと感じるようになりました。例えば上司や先輩とミーティングをしている際、アイデアをよくするためにフィードバックを率直に口にすると、それが生意気な先輩への反発と捉えられてしまいタイ人スタッフとの関係性が悪化したこともありました。
最近は意見を伝えるとき、相手の主張にまだ改善点があったとしてもまず肯定してから自分の意見を伝えようと努めています。
仕事は一人では成り立たないことばかりなので、こういった細かなコミュニケーションの工夫などを通して人に気持ちよく動いてもらうということは日々意識しています。今このようなことを異なる文化や言語の中でできるようにしておけば、将来どのような場所でも働けるのではないかと考えています。
2つ目は、タイという文脈ではないのですが、社内に同期がおらず、同年代で新卒で働いている人も少ないということが辛いです。同期がいれば仕事ぶりを比較しながら、自分の成長具合や自分自身のパフォーマンスを測れますが、それができないため、自分の仕事ぶりが良いのか悪いのかがわかりにくいですね。
上司からのフィードバックももちろんありますが、一人しかいない新入社員に対してきつく言えないところもあると思います。本当の評価を言ってくれているのかと疑問に思ってしまうときもありますし、自分を客観視し続けることが難しいのが現状です。ただ、嘆いていても仕方ないので、社外の同年代の社会人を作り積極的に交流して高め合うようにしたりしています。
また、なかなか比較対象がいないという状況はポジティブに捉えれば、周囲との比較ではなく自分自身でパフォーマンスの基準を設定できるので、うまくいけば突き抜けた存在になれるということも言えると思います。
― 確かに日本では起こりにくい困難ですね。これからどうなっていきたいですか?
まずはAsian Identityでできること、与えられた仕事をしっかりとこなしたいです。それらを着実にこなした上で自分から価値貢献できる機会を作って成果を生み出し、会社の成長を担うような人材になっていきたいです。クライアントに藤岡諒だから決めたと言われるようにしていきたいですね。
― 最後に学生に向けてのメッセージをお願いします。
自分がそれでいいと思えるキャリアを選べたらいいのでは、と思います。アジアに行くことだけが正解だとは全く思わないですし、その人にとって良いと思えることが見つかればそれが正解だと思っています。そして、自分で納得感のある選択をするためにはとりあえずいっぱい考えて悩むしかないと思います。ただ、悩む過程でずっと一人で考えていても視点の幅は広がらないので、いろんな方の話を聞いて自分自身でもう一度考えて、を繰り返して自分なりに納得感のある答えを創っていってもらえれば、と思います。
編集後記
藤岡氏はとても謙虚な人物に思えました。今までの人生で考え悩み続けてきた中で、常に物事の良い面、悪い面を冷静に見ることへの意識の強さも感じられ、そこが謙虚さに繋がっているのではないでしょうか。また「藤岡諒」としての気持ちも大切にされ、葛藤しながらも自分らしく歩まれている姿はタイ人、日本人を魅了するでしょう。