数々のベンチャー企業の上場を支えたエンジェル投資家が語る!起業家に必要な資質と覚悟とは?

イノベーションはどうしたら起こせるのでしょうか?

株式会社メタップス代表の佐藤航陽さんの著書『未来に先回りする思考法』では、“日本でイノベーションが起きない本当の理由”として「差し迫った必要性が日本社会には存在していない」からと紹介されています。(同書76ページ)

外界からの強烈な圧力がなく、相対的に平和に安心して暮らせる国である日本には、生命の危機を常に感じるような脅威がないのかもしれません。しかし、いち早く超高齢社会を迎え人口減少が既に起きている我が国では、まさに差し迫った必要性が生まれているのではないでしょうか?そんな中、イノベーションの必要性が叫ばれる昨今です。

先日虎ノ門ヒルズで行われたイノベーションリーダーズサミットには、そうした危機感を感じ、イノベーションを起こそうと願い、行動している大企業のイノベーション担当の方々やスタートアップ・ベンチャー企業の経営者、そしてVCやエンジェル投資家といった方々が一同に介しました。このイベントでは、大手、ベンチャー双方の飛躍的な新事業創出機会を生み出すべく、2014年より開催されています。

参考:Innovation Leaders Summit

本記事では、「ベンチャーを急成長させるために経営者がやるべき事」というテーマで行われた、エンジェル投資家特別対談の内容をお送りします。

登壇者はアセナビでもおなじみ、エンジェル事業家の加藤順彦ポール氏、そして投資家である松本浩介氏のお二方でした!モデレーターには弊メディア副編集長の長田壮哉が務めさせていただいております。

加藤順彦ポール氏

LENSMODE PTE LTD / エンジェル事業家

永住権を取得したシンガポールを軸に東南アジア各都市&東京大阪を反復横跳び。日本人が起業した東南アジアのスタートアップの資本と経営に参画しています。コンタクトレンズ越境EC LENSMODEを運営。

 

松本浩介氏

KLab株式会社 社外取締役・投資家

大学生時に株式会社リョーマ入社。株式会社ザッパラス及び株式会社enishの管理担当取締役(CFO)として2社の東証マザーズ及び東証一部への上場を果たす。現在は、上場企業の社外取締役を務め、スタートアップへの投資、育成を続けている。

 

長田壮哉

アセナビ副編集長

関西学院大学商学部5年生。ASEAN発足日である8月8日に生まれたということに運命を感じ、ASEANと日本を繋ぐ“Mr. ASEAN”になるべく、ASEAN10カ国を完全制覇。トビタテ!留学JAPAN4期生としてシンガポール国立大学での留学を経験。卒業後はシンガポールで就職予定。

 

数々のベンチャー企業の上場に関わった加藤さん・松本さん


本日のモデレーターを務めます、アセナビ副編集長の長田壮哉と申します。今回は、「ベンチャーを急成長させるために経営者がやるべき事」です。

今回登壇される加藤さん・松本さんは、これまで数々の企業に投資をし上場に関わられてきたお二方です。成長するベンチャー企業との関わり方、どうしたら再現性を持った成長ができるのかなど、これまでのお二方の成功・失敗を含めたご経験を通して、伺っていきたいと考えています。

それでは、加藤さん、松本さん、よろしくお願いします。


加藤です。元々表参道で広告会社を経営していましたが譲渡して、家族でシンガポールに移住しました。コンタクトレンズの通信販売の事業をライフワークとし、主に東南アジアでビジネスをしている日本人に会社複数に参画しています。役員となり、経営者と一緒にやっているところも半分くらいあります。

東京にいたときから、「この会社、社会に必要だな。伸びるな」と思っていたところと関わりを持ったり株を買ったりしたのがベンチャー投資を始めたきっかけです。そのうち8社が上場した経験もあって、シンガポールに行ってからも続けています。

参考:「アジアで大成功した日本人起業家のロールモデルを生み出す」シンガポールのハンズオン投資家、加藤順彦氏


松本です、よろしくお願いします。私の経歴としては、30年ほど前に大阪にあった学生が創業した企業に加藤さんと一緒に参加していたんです。その会社は途中で使命を終えたのですが、自分で創業したいという気持ちがあり1998年に起業しました。その後、JR東日本グループの傘下に入り、子会社の代表をつとめました。

2004年にはザッパラスに参画し、上場準備を進め2005年にマザーズ、2009に東証一部へと上場しました。退任して少し休んだ後、管理担当としてenishのCFOに就任し、2012年に東証マザーズ、2013年に東証一部上場。5年やって退任したのち、スタートアップ企業の支援をしています。

加藤さん・松本さんが関わった上場の成功例


それでは、これまでのエグジット成功例についてお伺いたいしたいと思います。


シンガポールに移住する前の9年間と移住後の9年後という2つのフェーズがあるのですが、まずは日本に住んでいたときの例をご紹介します。

(年代は上場年月)

インターネット広告を取り扱う広告代理店を経営する中で、当時の成長分野、今でいうIT企業と取引を広げていました。そこで、上場や資金調達をしたいといった話を聞くようになり、私自身も勉強しながら2社ほど投資をしたのがベンチャー投資のきっかけでした。

特徴としては、上場した時期が集中していることです。投資した時期はまちまちなのですが、2000年後半と2005年前半に上場した時期が集中しています。私が思うのは、波に乗れた企業が結果的に上場を果たせているということです。


私は加藤さんと違ったスタイルで、ザッパラス・enishの2社はハンズオンで会社に携わり上場をしました。

Wantedlyは投資家として入りつつ、上場に対してのアドバイスなどをさせていただきました。上場すると言っても、どのタイミングで何をやるのかってわからないことが多いんですよね。不明点を分かるように可視化して、いつまでになにをやるかといったところを共有していました。

上場できるタイミングでうまくバットの先を合わせることが大切で、早すぎても遅すぎてもうまくいかない場合が多いです。資金調達や事業撤収など、ポジティブ・ネガティブ含めた意思決定を続けて経営者が成熟した企業は、結果的に上場できていますね。

私が見ているポイントとして大きく三つあって、一つが市場が急成長していること。ただでさえ戦闘力が充実していないスタートアップやベンチャー企業であっても、市場が急成長していれば、生き残る・成長するチャンスが生まれやすいです。ザッパラスはiモードの成長・拡大期に、enishはソーシャルゲームの興隆期に、そしてWantedlyはこれから、ビジネスSNSやHRTechの領域が伸びていくというところを見ています。

次に、夢と現実を見極める社長がいること。ベンチャーなので、夢を見てもらいたいんですが、とはいえ今日・明日やるべきことをきちんと把握していないと成長することは難しいと思っています。

そして、自社の成長の方向性と、いつ上場するのがタイミングとして有用なのかを把握できている経営者がいるところです。

そういった観点で、上場に携わってきました。

 

こんなベンチャー企業には気をつけろ!


一口にエンジェル投資家といっても、加藤さんはシード期のスタートアップ・ベンチャー企業に、松本さんはある程度成長をしている企業に対して投資をするといった違いがありますね。

いくらお二方とはいえ、これまでに苦い経験もされていると思います。過去の失敗体験を踏まえ、成功しにくいであろうベンチャー企業の特徴についてお聞かせいただけますか?


きちんと伸びている事業領域で一旗上げるのは大事なのですが、ITの業界ってすぐに風向きが変わるんですよね。2ヶ月とかで逆風です、といったこともあります。そういった状況に直面したときに、パッと方向性を変える意思決定、スタートアップ用語でピボットと言うのですが、それをできない企業はうまくいかないことが多いです。

半分は変えて半分は残す、といった中途半端なことをするとだいたいダメ。変えると決めたならスパッと変えられる、腹のすわり・覚悟を持っている企業が結果として上場できているんじゃないかと思います。

現に私が投資した会社は、投資段階と上場段階で事業が変わっているところがほとんどですね。DeNAは元々オークションの会社ですからね。それが上場時にはスマホゲームが主軸の会社に変わっていました。


経営チームの機能分化は大事ですね。従業員や取引会社、売上も増えてきて新規事業始めようとなったときに、責任を持った人たちが複数いてマネジメントできているところがうまくいっています。

加藤さんが仰っていたように上場前と後で事業が変わっている企業、いっぱいあります。それらはピボットし違う事業でもいいから、会社を永続的に成長させようとしている会社なんですよ。でもそうするために、社長が2つも3つも事業を見ていたら、成功の確率がが上がるはずありません。つまり、きちんと経営をできる体制をチームで取っているところが、結果を出せるんだと考えています。

どんぶり勘定で勢いだけのところはだいたいダメです。最初は数値管理能力が高くなくとも、学ぼうとしている意欲があればよいと思っているのですが、そこを疎かにしている経営者はうまくいかないことがほとんどです。成功確率をどれだけ上げるかが事業にとって大事で、事業KPIをしっかり管理できないところは勢いで上り調子になることもあっても、失速したときにうまく対応できないんですよね。

また、おれについてこい系のワンマン社長タイプはほぼダメです。いいところもありますが、社長も人間なので誠心誠意ずっとコミットできるかというとそうじゃないですよね。社長のステータスが変わることで社員への言葉の響き方も変わっていくと思います。そうなると良くないです。

あとはテクノロジーに長けていないと厳しいと思います。スタートアップ・ベンチャー企業は競争が激しいので、その中で競争優位性を持つために大事なのがテクノロジー。それに強みを持っていないと、ゆっくり成長はできてもドライブをかけていけないからです。

 

金脈の掘り当て方と起業家の覚悟


続いてはお二方の投資ポリシーをお伺いしたいです。投資するフェーズによって見るべき観点は違うのかもしれないですが、VC・エンジェルセッションということでエンジェル投資家としての投資する際の基準・観点を教えてください。


実は、社長だけで判断しています!メンバーが2人だとか創業者だけとか、事業も始まっていないところ、いわゆるシード段階がほとんど。なので、私の場合は社長以外は見ておらず、社長を重要視しています。

具体的には、社長がどういう世界を見ているかという目線、そして何のためにやっているかという問題意識起業した意味・会社の目的・正しい動機・誰に幸せになってもらいたいかといったことを、真面目な顔でストレートに話せるかという観点をとても重要視しています。

また、根拠のない自信を持っているかどうかもよく見ていますね。

事業の立ち上げ時なんて吹いたら飛ぶような会社しかないですし、明日無くても誰も気付かないようなところがほとんど。そんな状態でも、粘り強く信念を持ってしつこくなれるかどうか。そういうものが無いと諦めてしまうんですよ。まだ実体がなくても、さもあるかのように自信を持って説明できるかどうかは大事です。

それから、大事だと思っているのは善悪の感覚です。こういうことはおかしい、世のためにならない、と言える人間性。良い話だとしても、事業を進めていくと価値観が合わなくて辛くなってくるんですよね。

あとは、矛盾してしまうかもしれないけど、世の中の流れにあっているかどうか。少子高齢化ですとかアジアは成長します、といった類のビッグトレンドに逆行するパターンはかなり難しいですね。また、東南アジアの日本人起業家はまだまだ少ないので、えこひいきして投資しているのもありますね。


加藤さんが仰っていたとおり、経営者の目線は重視しています。というのも、会社のトップの人間って、会社のステージが上がってもかなり忙しいんですよ。数値管理もするし、上場後は投資家の対応もするし。そんな中で、役員にもできない経営者のみができることがあって、それはビジョンや方向性を示すことなんです。

不純な動機や思いつきではなく、しっかりとビジョンを考え続けている経営者の下には人が集まります。会社で一番忙しいけれど、その上で未来のことを考え続けてられているかを見ています。

あとは、最初に述べた通り、成長市場で事業を展開していることですね。とはいえ日本では全く新しい成長市場も少なくなってきている背景があります。ここで重要になってくるのは、既存の市場の仕組みを否定することです。そうしないと差別化も優位性も出ない。小さい会社ならなおさらです。だから、否定力を持つことが大事だと考えています。

加藤さんの仰っていた人間性、というのはあんまりわからないんですよ。最初言っていたことと変わる経営者もいたりするので、社長だけでは判断しないようにして、事業や市場、数字の管理能力といった観点で見るようにしています。


ありがとうございます。お二方は小学校の頃からお知り合いで、大学時代のベンチャーも一緒に経験されていますが、投資に対するポリシーの共通点・相違点がはっきりと出ていますね。もちろん、人によって観点が変わるのは当然のことですが。

先程から「成長する市場」といったお話が何回か出ていますが、お二方が思う成長市場や実際に投資しているところを教えていただけますか?


私はシンガポールの永住者で、外国人が起業しやすくASEANを面で捉えてビジネスをできる環境に軸足を置いています。ご存知の通り、ASEANはどの国もGDPが急成長しており、どの分野も成長領域です。そういった背景もあり、ASEANでビジネスを行い、ITに関わっている事業がを中心に見ていますね。

例えば、KAMARQという家具のIoTの会社に投資しています。大阪にある家具会社の社長の息子が、OEMで家具を作る現地法人の代表をジャカルタの郊外でやっていたんですよ。彼はそこで学んだ家具作りのノウハウとIoTを組み合わせて、音が鳴るテーブルや開いた数を数えるドアなどを製造する家具メーカーを立ち上げており、シリーズAが終わった段階です。

あとは、マレーシアでイスカンダル計画に投資している日本人の不動産を管理しているIKI LINKSという会社だったり、ミャンマーで美容情報を提供しているYUYU Holdingsだったり。

(参照)

KAMARQがインドネシアとジョホールバルから起こす家具のIoT革命!Airbnbでその実力を体験してみよう!

【JB特集1】イスカンダル計画とは? ジョホールバルで日中投資合戦勃発!?

 


最近見ていてホットだなと思うのが、AIやシェアリング・マッチングといった領域です。これまではなんらかの流通システムがあって、そこを介さないといけなかったものを否定するタイプのビジネスモデルにはすごく興味があります。

例えば、Emotion Intelligenceという会社はAIに関する企業です。ここはサイト閲覧をしているユーザーの行動特性から、ユーザーを分類するAIを開発しています。例えばECサイトを見ているユーザーがいるとして、絶対に買う人、買わない人、そして買おうか迷っている人を分類できるんです。何に便利かというと、迷っている人絞ってアプローチできるんです。今まで人力で対応していましたが、絶対買う人・買わない人に対して何もする必要はなく。迷っている人にだけプッシュ通知を送れます。今では、色んなECサイトの裏でこのエンジンが動いています。

 

ASEANって本当にチャンスなの?


加藤さんは過去9年間、シンガポールに軸足を置いてエンジェル投資家としてご活躍をされています。「アジアが成長している」ということを頭ではわかってはいても、実際はどうなのかという点をお聞かせください。


日本の市場の多くは成熟している一方で、アジアであれば軌道を乗せればビジネス化しやすいといつもお伝えしております。

広告のビジネスをしてきた中で、日本ではブランディングにものすごくお金がかかるんです。広告の発信量が多いブランドが日本やアメリカなどの先進国では刷り込まれている。

一方で、これから市場が広がるASEAN地域には、今まで買えなかったものが買えるようになる、という新たなステージが到来します。

ASEANでは中間富裕層が増え、EC・ダイレクトマーケティングが流通含めて整備されていたり情報発信もさかんにされていたりします。車、高級衣服、電子家電など、これまでは買えないから眼中に入っていなかったものが、豊かになるにつれて意識するようになってくるんです。まだまだ競合が少ないので、今から宣伝してもブランディングが間に合います。これが、今のASEANの面白さだと思います。

とはいえ、ASEAN地域の多くは一国・一言語・一人種の国で、外国人が自由に商売できていません。でもシンガポールは違います。ASEANでビジネスをしたい企業のヘッドクォーターを置くことを官民挙げて支援している国です。多くの日本人がシンガポールを使ってASEANでやっていけるということを知って、それをお伝えしているのが昨今であります。


ありがとうございます。最後に私の方から総括させていただきたいと思います。今回のイノベーションリーダーズサミットに参加された方々には、大企業の方、ベンチャー企業の経営者、VCやエンジェル投資家など、様々な立場の方々いらっしゃると思います。立場は違えど皆様に共通しているのが、日本のベンチャー業界からコラボレーションを生んで日本経済全体を盛り上げていきたいという想いを持たれていることではないでしょうか。

しかし、いざやるとなるとベンチャー側大企業側の希望・要望がマッチせずイノベーションが起きないというのが現実かもしれません。ぜひ今回のセッションを機に、スタートアップ・ベンチャー企業の経営者が直面する困難やエンジェル投資家が困っていることを共有することで、それぞれの立場にいらっしゃる方々が連携できる機会を模索することがそのきっかけになればと思っています。

加藤さん、松本さん、そして皆様ありがとうございました!

 

さいごに

いかがでしたでしょうか?

長年、ベンチャー投資に関われているお二方からは、経験に基づいたリアルな情報がたくさん飛び出しました。

昨今は、情報と機会が圧倒的に増え、10年前よりも起業しやすい環境が作られているような気がしています。スタートアップ・ベンチャー企業の経営者が増えることで、新たな市場を創っていく企業も現れ、エコシステムが活性化するでしょう。

一方で、大企業とベンチャー企業がコラボレーションするにあたって、多くのベンチャー企業の中からシナジーを生めそうな経営者を見つけるのも骨の折れる仕事なのかもしれません。加藤さん・松本さんが仰っていた「経営者の資質」や「成功パターン・失敗パターン」は、イノベーションを起こす経営者を探すにあたって参考になるのではないでしょうか?

一方でベンチャー経営者の方々も、お二方のご意見を参考にして、我が身を振り返る機会になったのかもしれません。

アセナビとしては、日本に留まらずASEANで活躍するベンチャー企業がもっと増えたらと願っていると同時に、我々自身も早くアジアで活躍できるよう、力を尽くしていきたいと思っています!

ABOUTこの記事をかいた人

磯部俊哉

2代目、アセナビ編集長。アセナビ加入のきっかけは、高校3年の最後にタイやカンボジア、ベトナムを1人で旅してから、ASEANの魅力に取り付かれたからです!旅が大好きで、国内のヒッチハイクやインド旅など経験。現在大学3年次休学中。 先代が作ってきたこのアセナビを、よりもっと多くの人に読んでもらい、多くの人に「ASEANで働いてもいいかも」と思ってもらえるようなメディア運営をします。