「じゃらん」のノウハウを生かし、インドネシアで国内旅行予約サイトを展開 pegipegi.com COO中嶋孝平氏


リクルートが出資する、インドネシア人向け国内旅行予約サービス「pegipegi.com」。COOである中嶋氏は、リクルートでインターネットビジネスのノウハウを身につけ、インドネシアの関連会社に出向した。日本で培ったノウハウは、経済成長の真っただ中にあるインドネシアでどのように活かされているのだろうか。従業員の仕事に対する意識改革に成功し、業績を向上させた同氏を取材した。

《プロフィール|中嶋孝平氏》
1980年生まれ。東京大学工学部卒業後、M&Aアドバイリーを行うコンサルティングファームに入社。その後、自ら事業を作って拡大する経験をしたい思い、リクルートに転職。人材サービス領域において、新規事業開発、商品企画を担当し、多数のプロジェクトに従事。その後、経営企画室に異動し、リクルート全体のホールディングス体制化プロジェクトを担当。2012年からインドネシアのpegipegi.com(PT. Go Online Desinations)にCOOとして出向。現在100名のメンバーを率いて、サービスの拡大に務める。

 

国内旅行に特化した、インドネシア人向け旅行予約サービスを展開

 

―サービスの内容を教えてください。

ホテルと航空券の予約ができるサイト「pegipegi.com」を運営しています。同サービスを運営しているPT. Go Online Destinations社は、リクルートの投資子会社から出資を受け、2012年5月に「pegipegi.com」を開始しました。リクルートが日本で展開する宿・ホテル予約サイト「じゃらん」で培った運営ノウハウを生かし、インドネシアの中間所得者層を対象にサービスを運営しています。

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国内旅行市場に特化したサービスとなっており、ホテルや国内航空券の予約が可能です。国内市場に特化している理由は二つあります。一つ目は、インドネシアでは国内旅行のマーケットの方が圧倒的に大きいこと。まだ海外旅行に行ける人は限られており、比較的安価な国内旅行が選ばれやすい状況です。二つ目は、競争環境の違いです。海外旅行市場にはAgodaやBooking.comのような強力なグローバル競合が存在します。それらと同じマーケットで同じように戦うのではなく、グローバル大手が注力出来ていない国内市場にフォーカスしています。

サイトに掲載するホテルのラインナップは、二つ星、三ツ星ホテルで一泊4000円くらいのホテルに絞っています。それらの価格帯のホテルの中で、掲載するホテルの数と、料金の安さというところに競合優位性を持っています。一番人気の旅行先はバリで、その次は温泉や山があるバンドンですね。現在社員は100名ほどおり、日本人は私の他に、もう一人日本から赴任している小嶋がいます。

また、インドネシアには複数のLCCが乱立しており、ユーザーは、一番安い航空券を比較して見つけたいというニーズを持っているので、航空券の比較サービスが向いている市場であると言えます。逆にたとえばマレーシアには安くて圧倒的に信頼性のあるAir Asiaという航空会社があり、他の航空会社と比較をするユーザーが少なく、ニーズがあまりありません。

―サービスの競合優位性はどのようなところにありますか?

大きくわけて二つあります。一つは直接ホテルに訪問して営業を行い、幅広いホテルの参画と強い関係性を構築してきたことです。他のネット企業は、営業チャネルの拡大をあまりせず、サイトの仕掛けやそのほかの技術で勝負することが多い。それに対して、私達は実際に足を運んでリアルな人間関係を作り、営業チャネルをしっかり確保しています。現在ジャカルタに加えて、バリ、バンドゥン、ジョグジャカルタ、スラバヤに営業拠点を持ち、直接ホテル側と交渉することにより、価格的な面における競合優位性を保っています。

二つ目は、SEO対策(検索エンジンで上位に表示させる施策)を始めとしたウェブマーケティングを、細かく徹底してやっていることです。それらの施策は短期的に成果が上がるものではないので、しっかりと分析し、地道にやっていくことを心がけています。リクルートでは、他社と差別化するために、細かくウェブマーケティング施策を打っており、そこで得たノウハウをインドネシアでも展開していることが強みとなっていますね。

―それだけウェブマーケティングに力を入れているということは、専門的なノウハウを持ったローカルの従業員を採用できたということですか?

そもそもインドネシアには、ウェブマーケティングを専門としている人がほとんどいません。弊社も最初から専門技術や知識を持った従業員を採用したわけではなく、従業員の教育にかなり力を入れて、求めるレベルにまで成長してもらいました。

 

新興国でのビジネスで大きな強みとなった日本での経験

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―中嶋さんのキャリアを教えてください。

大学を卒業後、金融機関で一年半ほど働き、その後リクルートに入りました。求人広告の営業からスタートし、人材採用サービス系の部署で新規事業開発を一年ほど担当した後、新卒学生・既卒学生のための就職情報サイト「リクナビ」を運営している部署に配属となりました。そこでは、学生が使うウェブサイトの改善や、営業が求人広告を掲載した企業と、応募状況における課題や打ち手を相談できるツールの開発を行っていました。この時期に現在の業務にも通じる、商品の企画や開発、営業への落とし込み、ウェブサイトの運営などといった一連のプロセスを学びました。その後、経営企画室という、経営戦略会議や取締役会の運営をする部署におり、リクルートが2012年に持株会社に移行する際の、プロジェクトマネージメントを行っていました。人事、財務、経理、広報などすべての機能と共同しながら分社を推進していました。

経営企画室にいるときに、海外に出たいという思いが強くなり、機会を探していました。ちょうどその時に、東南アジアで旅行事業を展開するリクルートの関連会社に出向できるという話をいただき、現地に行くことを決めました。

―「海外で働く」という志向はもともと持っていました?

海外で働くことが、これからの時代において当たり前だと思っていました。これから一生日本国内のみを意識して働くことはできないし、海外と関わらずに働くという選択肢が自分の中でありませんでした。どうしても海外でやりたいという理由があったというよりは、「当然のように、しなきゃいけないこと」として、自然と日本を出ることを選びました。

―事業を行う上で、苦労したことはありましたか?

赴任した当時は組織運営の点で問題がありました。組織風土に問題があり、従業員のモチベーションがあまり高くなく、失敗の責任を他人に押し付けるような「他責」の文化がありました。その風土が実際の成果にも反映されていたので、それを一つ一つ改善するところから始めました。

改善方法として、従業員の「失敗の捉え方」に関する意識を変えていくことから始め、「事業を成長させるために、みんなの協力を求めている」とメンバーに伝え続けました。失敗の責任追及をするのではなく、失敗が起きた原因や、その改善策を議論することが、事業の成功につながると口うるさく言っていましたね。失敗を批判したり、詰めたりしたいのではなく、目標達成のために失敗を振り返る必要があることを従業員に理解してもらいました。それを地道に続けていると、数か月後に成果も上がっていったし、従業員も肌でその変化を感じてくれて、社内の雰囲気も大きく変わりましたね。

 

誰もが気軽に旅行を楽しめるカルチャーをインドネシアに創出したい

 

―今後のビジョンを教えてください。

会社としてはやはり、国内旅行マーケットの中で一番になることです。最近はスタートアップ系の航空券比較サイト等も質が高いサービス提供しているので油断はできません。

個人としては、インドネシアの人たちに国内旅行をもっと普及させたいですね。今はまだ収入や情報量の差があって、旅行は誰にでもできるものではありません。しかし、将来的に誰もが自分の意志で泊まるホテルを決め、航空券を手配して、気軽に旅行にいけるというカルチャーをつくっていきたいと思います。

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―日本の若者にメッセージをお願いします。

新興国で働くということは面白いです。市場や事業が大きく成長して、それが目に見えるというのがいかに面白いか知ってほしい。大変なこともたくさんありますが、全てがポジティブで、伸びしろがたくさんあるダイナミックな環境は病み付きになりますね。一方で、日本での就労経験も大切だと思います。日本でできる仕事は基本的に東南アジアよりレベルが高いし、いろんなノウハウが日本には揃っています。だから日本で働いていろんなことを吸収して足腰を鍛え、ある程度の土台を作ったうえで新興国にチャレンジしてみてほしいと思います。日本で鍛えてきたことを新興国で磨く。そうすることで自分の能力もワンランク上のものになると思います。

また、自律性を鍛えることは大切です。誰も管理していなくても自分で意欲をマネジメントしたり、教えてもらえる機会がなくても、自分でノウハウを吸収したりする能力がベースにあった方がいいですね。

 
Interviewed in Sep 2014
(インタビュアー:長屋智揮 文:長谷川奈生  校正:鈴木佑豪)