「女性向けメディアECプラットフォームで東南アジアNo.1を目指す」BuzzCommerce CEO 若井伸介氏


いま東南アジアで最も勢いのある日本人IT起業家の一人、タイの女性向けメディアEC
プラットフォームを運営するBuzzCommerce若井氏。今年5月にリリースした「Saroop.Net」は、たった2ヶ月で 100万ページビュー、FacebookページのLike数も 25万を突破し、タイ国内No.1を確立しようとしている。アメリカの大学を卒業後、13年に渡りタイでビジネスを展開する同氏を取材した。

《プロフィール|若井伸介氏》
BuzzCommerce Co.,Ltd.代表。アメリカ・コロラド州の大学でシステムエンジニアリング専攻後、2001年フランス人起業家に誘われタイへ渡航。ITを活用した英会話学校のフランチャイズ事業立ち上げを行う。タイの文化・商習慣の違いに苦労しながらも生徒数を1校舎で5,000名まで拡大、それを4校舎へ拡大させ東南アジア最大規模の英語スクールに。2007年彼らの事業EXITに伴い独立。タイ初の化粧品クチコミメディアを立ち上げ2009年タイ法人化。ソーシャルブームに乗り会員数・クチコミ数も順調に増加。2014年4月には女性向けメディア&化粧品Eコマース分野へ事業拡大しシンガポールに法人設立。タイに進出する化粧品メーカーへのプロモーション支援の他、ネット販売、ライセンス取得、市場リサーチなどタイの他にも東南アジア各国へ事業展開中。

 

今年中にタイでNo.1、来年中に東南アジアでNo.1を目指す

 

―サービスの内容を教えてください。 

タイの女性をターゲットにしたメディア型ECサイト「Saroop.Netの開発・運営を行っています。Saroopとはタイ語で「まとめ」という意味で、サイト上には美容やファッション、ダイエット、旅行など女性のライフスタイルに関する記事が毎日投稿されており、トレンドに敏感な女性なら空き時間があればいつでも見たくなるようなメディアです。

若井さん①

                                                                          Saroop.Net

また、提携しているメーカーや現地販売店の協力でユーザーはサイトからコンテンツ内の気に入った化粧品や健康食品などをスマートフォンおよびPC経由で購入することができます。弊社の名前はBuzzCommerceと言いまして「Buzz=クチコミ」と、「Commerce=Eコマース」を合体させ、ネットメディアで現地にクチコミを作り出し、 同じく弊社運営のEコマースプラットフォームでメーカーや販売店と現地ユーザーをマッチングさせることを目指します。あるリサーチ会社の予測では、東南アジアのEコマース市場は2018年に245億米ドルに達すると言われるなど、確実に成長する分野で事業を行っています。

 弊社メディアのユーザーは急激に拡大中の中間所得者層。定期的に収入があり自由に物が買えるようになった自立している女性です。これからどんどん所得が増えて購買力を持つ女性達ですね。今年の5月に「Saroop.Net」をリリースしたのですが、そのタイミングでメルカリ、BASE、グノシーなどへの投資でも有名なベンチャーキャピタルであるEastVentures他、東南アジアでビジネス経験豊富な個人投資家さんからご支援いただき、現在成長スピードを加速させています。

 私は2007年よりCosmenetというタイ語化粧品クチコミサイトを開発・運営しており、「新しい化粧品を探す際にとても参考になる」と言ってもらえるサイトにまで成長させることができました。一方で、以前から「この化粧品が欲しいのに私の自宅周辺では売っていない」という現地ユーザーの声も多く寄せられており、今後の東南アジアネット販売の需要増に向け新たにEコマース分野へ進出しました。

東南アジアには総合型のLazadaやZalora、化粧品特化のLuxolaなど欧米勢をはじめ多くのEコマース企業が数年前から参入しており、すでに総額数百億円の投資を行っています。弊社では今まで培ってきたユーザーデータやクチコミを活用した現地プロモーションノウハウと、今回構築した化粧品の現地輸入、FDAライセンス取得、集客、配送、集金業務をワンストップで行えるプラットフォームの活用で、東南アジアに住む多くの女性達へ魅力的な化粧品や健康食品を届けられるよう、買い手と売り手の意見をしっかり取り入れながら現地で運営を進めてゆきます。

 目標は女性向けに特化したメディア型ECサイトとして認知され今年中にタイでNo.1、来年中に他東南アジア各国でNo.1となることです。リリース後 2ヶ月で100万ページビュー、FacebookページのLike数も 25万を突破し今勢いがついてきています。メディアとECプラットフォームを同時運営するに当たり、実験的に日本のメーカーさんの協力を得て複数の化粧品をメディア上で販売してみました。その結果開始1週間を待たずに準備していた在庫が完売となり、弊社のメディアユーザーはネット通販利用ユーザーでもあることが証明出来ました。現在はメーカーから弊社へご提案いただいた数多くの化粧品を、ユーザーインタビューを通じて選定し、プロモーションの仕掛けを作って随時販売を始めているところです。

若井さん② 

―タイにおける化粧品のトレンドを教えてください。

弊社メディアでは日系の化粧品メーカーに加え、欧米系や韓国系、地場系など多くのブランドのプロモーションのお手伝いをさせていただいていますが、タイでここ数年最も流行しているのは 韓国コスメです。韓流ドラマの女優さん達やK-Pop歌手の影響が大きいと言われています。日系の化粧品会社さんからタイに進出したいという相談を受ける際には、以上のような状況をご説明した上でまだブランド認知されていない化粧品をいきなり販売してもなかなか手にとってもらえないことをご理解いただき、東南アジア進出は慎重に検討されるようお勧めしています。一方で、弊社では長期戦の覚悟があるクライアントさんとは、次のトレンドを作り出すべく現地消費者との座談会やPR広告などいろいろな施策を密に連絡を取り合いながら一緒に考え、東南アジアの市場シェア獲得へ向けて仕込んでいます。

 

大学を卒業後、タイで展開した「英語学校フランチャイズビジネス」が成功

 

―若井さんのキャリアを教えて下さい。

 日本の高校を卒業後、アメリカのコロラド州の大学に入り、プログラミングを専攻していました。もともとエンジニアの父親の影響もあり13歳ごろから自宅PCでBacisなどを使った簡単なプログラミングをして遊んでいたのですが、高校では物理と化学が苦手な典型的な文系学生だった為理数系科目が必須となる日本の理系大学は当時私の選択肢にありませんでした。ひょんなことから出願したコロラド州の奨学金留学選考で合格し英語とプログラミングの両方が学べるアメリカの大学へ留学を決意。留学後はそのまま アメリカのIT企業に就職しキャリアを積もうかと思っていたのですが、その年ニューヨークで同時多発テロ(9.11)があり、アメリカ経済の先行きは怪しいと言われていました。

そんな時タイミングよくインド人の友人から紹介された米系銀行マンのフランス人から「タイでITを活用したフランチャイズ型英語学校ビジネスを立ち上げないか?」と誘われました。2001年当時これから東南アジアがアツくなりそうだなとはぼんやり思っていたので 、彼と事業をスタートすることを決意。その英語学校事業を立ち上げから5年間運営し校舎を5つ開校、合計2万人の英語学習をサポートできました。現在その英語学校はイギリスの巨大メディア企業PEARSON社の傘下となりインドネシア、マレーシア、シンガポールへも進出。いまも東南アジアで成長を続けています。この経験を基に次は自分の力で事業を作りたいと思うようになりました。

 その後私が新しく立ち上げたのは化粧品クチコミのネットサービスでした。当時このサービスを立ち上げた理由を2つあげるとすれば、自分がエンジニアなので一人でシステム開発ができたこと、東南アジアの女性の美に対する熱意に可能性を感じたことです。東南アジアの女性は強くて自立心があるし、結婚よりも自分のキャリアを最優先させる人が都市部を中心に増えていました。そうすると自己成長にお金を使う女性が多くなり、それが英語学習もそうですがファッションや美容への投資と繋がるのだと思います。そのような女性にターゲットを絞ったメディアをやるとうまくいくんじゃないかと漠然とした自信があり、次は化粧品という私にとって未知のドメインで事業をやろうと思いそれを実行に移しました。

 若井さん③

―今後の展望を教えてください。

「東南アジアの女性に、一段上の美しさを伝えるECプラットフォームになる」ということをミッションに掲げ、事業を展開していきたいと思います。その国の伝統的なものは守りつつ、もっとキレイになる為の商品や情報をスマートフォン経由で伝えていきたいです。

今年中にタイで、来年中に東南アジアの複数国でNo.1となった後、更に大きなチャレンジに向け資本力のあるグローバル企業と組んでそれを実現させるつもりです。0から1を作り出す事を強みとする弊社は、ある程度のタイミングに来たら1を100にできる企業と組む方がよりスピードと規模感を持ってビジネスを成長させられると思っています。欧米や中国からも東南アジア市場を狙ってどんどん投資が入ってきていますので、この盛り上がりを引っ張っていけるよう私達もがんばらなくてはなりません。

 

ユニークな強みを持ち、誰も入っていないところに先陣を切って乗り込んでいくべき

 

―これから東南アジアに進出しようとされている方にメッセージをお願いします。

東南アジアで個人で起業したいと思ったら、すぐ行動したほうがいいと思います。例えば私は2001年の時からタイで仕事をしていますが当時は「どうしてアメリカからタイなの?」などと言われることも多かったように記憶しています。ところがそれがユニークであるがゆえ、タイで事業を始めると日本で生活していたら絶対会ってもらえないような大企業の経営層の方々と、日本で言う新卒の年齢の頃から仕事をする機会に恵まれました。それは東南アジアの現地におけるネット分野や化粧品分野においてある程度早い段階から入っており、簡単には真似できないポジションを確立していたことが大きいと自分では思っています。

現在の東南アジアではどこの国でもすでに多くの日本人が起業し、欧米や現地企業、また日系企業同士でも激しい競争が起きているように感じます。その状況では何かしら他人・他社と違うものがないと生き残れないでしょう。これから進出する人たちにとって大切なことは、現地に年単位で住み、その国の文化や言語を理解するのは大前提で、さらにお客さんから自分の能力を評価してもらい自分へ指名で仕事の依頼が来たり、ビジネスの提案を受けるような状態までいかに早くもってゆくかということだと思います。他人が真似の難しいユニークなスキルを身につけ、それを磨き続ける努力をできる人だけが今後東南アジアでは活躍できるような気がします。

タイは分野によってはもう飽和状態であと1~2年したら生き残れなくなった多くの企業が撤退もしくは東南アジアの別の国への移動を開始すると思います。逆を言えば、何かしらユニークな強みを持ったプレイヤーなら、成長中の東南アジアでまだ誰も入っていないところに先陣を切って乗り込んでいくことで成功する確率を高められると思います。その市場の隙間を見つけるにはやはりまずは現地での生活を通じて文化や市場を観察し続けることでしょう。私も偉そうなことを言える立場にはなく、これから事業の他国展開に向けて東南アジアの多種多様な文化や言語などを学んでゆくつもりです。

 

Interviewed in Aug 2014

  (文・インタビュアー:長屋智揮 校正:鈴木佑豪)




ABOUTこの記事をかいた人

長屋智揮

同志社大学政策学部卒。在学中に休学し、インド・バンガロールで会社の立ち上げ、事業拡大に関わる。それをきっかけに、今後急成長が見込まれるアジア各国の市場に興味を持ち、現在ASEANを周遊しながらインタビューを行う。現在は渋谷のIT系企業に就職。