「世界中の挑戦者を支えるインフラになる」GVA法律事務所タイオフィス代表 藤江大輔氏

「世界中の挑戦者を支えるインフラになる」という壮大なビジョンを掲げて、2012年に設立されたITベンチャー企業の法務支援に特化したGVA法律事務所。2017年にはタイオフィスを設立し、グローバル展開を積極的に推進しているタイオフィス代表の藤江氏に、GVA法律事務所の事業を通じて成し遂げていきたいビジョンや、藤江氏自身のキャリア、今後の東南アジア展開への展望を伺った。

藤江大輔氏 /GVA法律事務所 タイオフィス代表兼執行役員≫
1985年生まれ。2009年に京都大学法学部卒業後、京都大学法科大学院へ。
2012年にITベンチャー企業を中心としたビジネスの支援を手がけるGVA法律事務所に入所。東京のベンチャー企業の執行役員を兼任し、2016年に同事務所のパートナーに就任。2017年よりタイオフィスを設立し、東南アジアにおけるベンチャー企業支援を担当している。

GVA法律事務所HP:
http://gvalaw.jp/  ※GVA=Global Venture Achievementの略

新たなビジネスに挑戦をする人たちを支援したい。GVA法律事務所が目指す世界とは

ー GVA法律事務所の事業内容について教えてください。

GVAは創業以来、ベンチャー企業を中心として新しいビジネスの支援を行ってきました。
ベンチャー企業の多くはITの技術を使って新しいことを生み出そうとしているので、自然とIT関連の企業の方からご相談を頂くことが多く、事務所全体として大きな強みを持っています。もっとも、我々としては事業領域を限定しているつもりは全くないので、ビジネスに寄り添って法務を支え欲しいというニーズがあれば、どんな分野でも向き合っています。


ー ベンチャー企業支援に特化している弁護士事務所は日本にはなかったのでしょうか。

ありましたが、ごくわずかでした。新たなビジネスが盛んに生まれるアメリカでは当たり前になっていますが、2012年当時、日本ではベンチャー企業にとって法務という領域があまり普及していませんでした。今でこそベンチャー企業の法務リテラシーは非常に高いですが、当時はリスクマネジメントの重要性が今ほど注目されていなかったんです。

ー そういった空白があるからこそ、貴事務所の価値も高くなりますよね。GVA法律事務所自体はどういう経緯で設立されたんでしょうか。

GVAは、2012年1月に新宿の小さなマンションの1室で設立されました。今でも弁護士に対しては「高い」というイメージがあると思うのですが、当時、企業法務弁護士というとどうしても高額になりがちで、小さなベンチャー企業が専門家に依頼できる余地は今よりもっと少なかったんです。

その社会の空白を埋めようとしたのがGVA設立の経緯です。壮大に言葉にするとそうなのですが、代表である弊所の山本が、知り合った起業家達の活き活きとした姿を見て、「こういう新しいことに挑戦する人達を支援していこう」と素朴に思ったというのがすごくシンプルな言い方だと思います。

 

ー GVA法律事務所が設立されて5年強経ちますが、ベンチャー企業の法律へのスタンス・姿勢は変容してきましたか?

法務を重視するベンチャー企業が非常に増えてきたと実感を持っています。
今は毎月のようにスタートアップ企業が数億円規模の資金調達をしたというニュースを見ますよね。GVAが設立された2012年当時は、資金調達のニュースも見かけることは今ほど多くありませんでした。

そういう形で新たなビジネスを生み出す起業家やベンチャー企業が、社会により注目されるようになったからかも知れませんが、実際、弊事務所に相談に来ていただける方も法律への理解・リテラシーが相当高くなっていると感心します。

 

ー なぜGVA法律事務所は、ITベンチャー企業へのビジネスサポートに特化されているのでしょうか。

他の仕事も本質的には同じだと思うのですが、弁護士は、「どういう弁護士になりたいか」と、「どういう人を支えたいか」がほぼイコールになる仕事です。そういう意味で、我々は、まず「新しいことに意欲的にチャレンジしている起業家達」を支援したいと思いました。

それが我々を形作る1つの特徴になっています。そして、繰り返しになりますが、ベンチャー企業の多くは、革新的なアイデアや技術をもとにして、新しいサービスやビジネスを展開しようとしています。そして、その多くはITという技術を用いてこれを達成しようとしていますので、自然とIT企業の方とのお付き合いも増えてきたと。

もっともらしい戦略論に基づいた説明よりも、私としてはこの言い方がしっくり来ます。

 

ー 変化の激しい環境でスピード感を持って成長していく企業を法的な面からサポートすることはやりがいがありそうで、かつ困難なことだと思います。

新たなサービス、ビジネスを創り上げる上で、クライアントのビジネスサイドと法的な認識をすり合わせていくことは非常に難しいと思っています。 ベンチャー企業が新たなサービスを企画する段階では、「誰もが思いつかなかったようなサービス」もあり得ますが、「法律に違反するためやってはいけないサービス」である場合もあります。

その際、ビジネスサイドが実現したいサービスの理想像があるわけですが、その理想イメージを実現するためのクリアすべき法律のロジックを構築し、クライアントとの共通認識を形成していくことは非常に難しい部分であり、もっともやりがいのある部分でもあります。

また、ベンチャー企業は凄い速度で成長していくため、成長フェーズごとでサポートすべき法務体制も目まぐるしく変わっていきます。1年経てばクライアントにとっての組織課題、法的な課題も一気に変わるので、いち早くキャッチアップしていくこと、スピード感を持ってサポートしていくことを意識しています。

ー GVA法律事務所のビジョン、「世界中の挑戦者を支えるインフラになる」とはどういうイメージでしょうか。

創業の経緯にも表れていますが、我々は「新しいことに挑戦している人」を支援し続ける事務所でありたいと思っています。そして、特定の国の資格者であるという特性上、海外展開がなかなか難しいのが弁護士という仕事ですが、我々はサービスを世界中に展開できる事務所になろうという意味を込めて「世界中の挑戦者を支える」という言葉を使っています。そうなれば、クライアントは、常に我々の知見を利用して世界中でビジネスができますからね。

最後の「インフラ」という言葉には、GVAという事務所自体が、あくまで人・企業を支える存在であるという気持ちを込めています。我々はクライアントを支える存在であり、サポーター、下支えとしてのGVAのあり方を謳っています。


ー グローバル化、弁護士業務のテクノロジー化にも力を入れていらっしゃるんですよね。

はい、今後ASEANを中心にグローバル展開に注力していく予定です。私は、未だグローバルな規模で組織化に成功している法律事務所は日本には存在しないと思っていますので、我々がグローバルな組織化に成功していく法律事務所のパイオニアとなっていきたいと思っています。

また、今年は「リーガル×AI」を領域としたテクノロジーに基づく法務サービスの提供を企図しています。リーガルサービスにAIを活用することで、より安価で、付加価値の高いリーガルサービスを生み出すために現在プロダクトを開発しています。

 

「変化」へのエネルギーを感じる東南アジアで仕事がしたい

ー 視点を変えて、藤江さんのキャリアについて伺いたいと思います。もともと弁護士を志した経緯を教えていただけますか

私の弁護士になった経緯は少し変わっています。というのも、私の場合、まず「東南アジアで仕事がしたい」というのが先に存在したんです。学生時代に、タイで事業をやっている知人のところに遊びに行って、海外で働く魅力に少しだけ触れる機会がありました。とてもワクワクしたことを今でもはっきりと覚えています。

それがきっかけとなって、「東南アジアで仕事がしたい」と思ったのが最初です。

 

ー 東南アジアのどういう点にワクワクされたのでしょうか。

日本では感じられない「変化」へのエネルギーを強く感じ、これからの東南アジアの未来、発展性を感じたということですかね。

というのも初めてアジアに行った時、偶然タイの大学生と話すきっかけがありました。彼らと話をしていると、日本のことについて非常に積極的に質問をしてくるんですね。そして質問するだけでなくひたすらメモを取って貪欲に学ぶ姿勢がひしひしと感じられました。

この体験は当時の私にとって、非常に衝撃的でした。日本の大学で学んでいて、そこまで意欲的な学生をほとんど目にしたことがなかったからです。もちろん話をしたタイの大学生のレベルがそもそも高かった、という要因も少なからずあるとは思いますが、彼らの貪欲な学びへの姿勢を見て直感的に「この国は良くなるし、成長していくだろう」と確信しました。

こういう学生が当たり前に存在している国の未来は明るいし、せっかく仕事をするならこういう意欲的な人たちと仕事をしてみたい!と強く思ったんですね。


ー そういった原体験があったんですね。では「東南アジアで仕事をしてみたい!」と思って、弁護士を志された経緯は何でしょうか。

東南アジアに行ってから就職を考える時期になり、「どうやってアジアで仕事をしよう?」というのを考え始めました。商社などに行ってみようかと考えたりもしたのですが、どうも大きな会社では、自分の行きたい所に行かせてくれるわけでもないらしい。

そこで、「自分で裁量を持たなければ」と思いました。「手に職を」というのでしょうか、それが「士業」を志した経緯で、弁護士を目指した経緯です。こういうと、仕方なく弁護士になったように聞こえますが、そういうわけでもありません。

実際にタイで仕事している人のイメージは何となくついていましたから、「こういう人達を専門家の立場から支える仕事には意味があるな」と素直に思ったという感覚です。

 

ー そして司法試験に合格され、GVA法律事務所に入所されましたよね。どうしてGVA法律事務所に入所されたんでしょうか。

GVAに入所した背景も、弁護士になった経緯が大きく関わっています。まず、私がGVAに出会った当時、GVAは新宿のマンションの1室でまさに生まれたばかりでした。私は、自分で裁量を持って、しかも東南アジアに飛び立とうとしている人間でしたから、「創業間もない新しい事務所」は自分にとって面白い場所だと思いました。

また、新しい事務所なので、弁護士業務もしながら、ゼロから経営経験を積めることは私にとって魅力的な環境だと思っていました。

あとは代表パートナーである山本の雰囲気というか、考えというか、そういう部分だと思います。弁護士には、いろいろな人がいて、中には強く保守的な考えをお持ちの方もいます。私は当時、そういう先生方に随分と突っかかっていたように思います(笑)。

いずれにせよ、そういう保守的な風潮を自分なりに感じていた中で、GVAの山本はニコニコしながら「いいですね、それ。やりましょうよ。」と言ってくれました。しかも代表は当時まだ20代。エキサイティングですよね(笑)

入所後、4年間弁護士としてクライアントの法務支援を行いつつ、GVAという組織のマネジメント、人事、ビジョンの策定、サービス設計、マーケティングなど全てを経験してきて、組織規模も30名ほどまで拡大することができました。

 

2017年にタイに進出。東南アジアの新しいビジネスを支えるグローバルな法律事務所を目指して

ー そして2017年にタイオフィスを設立されました。ASEANの中でもタイにオフィスを設立された理由などはありますか。

もちろん事業的に、タイの法務サービスのニーズが一層高まると考えたわけですが、最終的には、知人がタイで事業活動をしていたので馴染みがあることで、シンプルな「人との縁」が大きい要因です。

実際のところ、やろうかなと最初に思った時は、正直なところ全然イメージが湧かなかったし、自信も全くなかったんです。しかし、興味のある分野というのは自然と情報を集めてしまうもので、本屋にいったらとりあえず東南アジアやらタイやらの本をよく分からないままに買っていました。

そういう小さなことが積み重なって少しずつ自信に変わり、ある時「タイに行ってやれるだけやってみよう」と思う瞬間がありました。

ー タイオフィスを設立されて約1年ほど経ちますが、タイの法律は日本のそれと大きく異なりますよね。日本と比較をして、現地の法律を基準としてビジネスのサポートをする難しさはありますでしょうか。

難しい質問ですが、皆さんが認識されている通り、タイは日本よりも法的にグレーというか、曖昧で不確かな領域が多いように感じます。法律の条文数からしても、随分と日本よりも少ないのは実感としてあり、その定め方も抽象的であることが多い。そのため、相対的に「日本よりも分かりにくい」というのは確かにあるかもしれません。

あと、弁護士としての目線で大きな違いだと思うのは、タイでは地方裁判所の判例が原則として公開されていないことです。なので、曖昧な法規制が、なかなか具体化されにくいというのもありますね。しかしこれは日本から見てそうだというだけで、日本が普通の国かと言えば、そうだとも思えません。

一方で、タイにおいても「法を遵守しなくてよい」と考えられているわけではありません。時折、「タイの法律は守らなくても何とかなる」と考えていらっしゃる方にお会いすることがありますが、私はそうは考えていません。少なくとも東南アジアにおける成熟国家になりつつあるタイでは、今後よりルールを遵守する姿勢が求められていくと考えています。

 

では日本との比較ではなく、ASEANという枠組みの中でタイの法整備は進んでいるのでしょうか。

ASEANの中で、既に先進国としての地位を確立しているシンガポールを除いては、タイ、マレーシアは法整備が進んでいて、法令遵守の姿勢も他国と比較するとかなり安定していますし、ビジネスのしやすい環境が整っています。実際、世界銀行グループが公表しているビジネス環境では、マレーシアとタイは、190カ国中24位と26位とかなり上位つけていて、日本の34位を抜いていますね。

私がいうビジネスのしやすさとは、「ルールがルール通りに動いているかどうか」という点です。新興国では、法律ではこう定められているけれども、現場と法律が大きく乖離してしまっている、ということも少なくありません。その点、タイとマレーシアは、まだまだ不確かな点が多く存在するとはいっても、比較的安定した運用がされるようになってきています。

 

ー タイの法律で、変わっている面白い法律があれば教えていただけますでしょうか。

やはり皆さん驚かれるのは、アルコール規制法ですね。宗教上の理由からか、飲酒を促進するようなビールの写真などはメニューに載せてはいけませんし、広告にも厳しい規制が敷かれています。

実際、飲食店のメニューにアルコール商品を載せたり、SNSでアルコール商品を投稿したりしたケースで摘発事例が存在しますし、広告手法にはかなり慎重にならなければなりません。

 

ー こんな法律があるんですね!日本の飲食店がタイに進出する際は気をつけなければならないですね。では、異国の地で企業のビジネスを支援する面白さ、醍醐味は何でしょうか。

上に述べたように、異国の地(特に東南アジア)では、ルールが曖昧であることが多いので、明確な答えが出ない状態で意思決定をしなければならない場面が多いのですが、それはチャンスと表裏一体になっています。

日本ではルールがクリア過ぎて、なかなか出来ないことも、東南アジアではチャレンジできるという部分は確実に存在し、それは豊富にアイデアを持つベンチャー企業にとっては大きなメリットです。

その中で法律家として企業を支援するには、ビジネスと、定量化しにくいリスクを上手く調和させる必要があります。GVAが一貫して大事にしてきたビジネスに寄り添う姿勢というのが、最も大事にされなければならない領域だと感じますし、だからこその面白さというか、やり甲斐は強く感じます。

また、タイには簡単に入手できる法務情報が大きく欠落しているので、それは特に日本語でのコミュニケーションが必要とされる日系企業を大きく苦しめている要因になっています。一人の弁護士として、その情報の隙間を1つ1つ埋めていく作業にもやり甲斐を感じます。

 

ー タイ人弁護士も積極的に採用されていますよね。異文化マネジメントとして工夫されている点は何でしょうか。

「仕事が楽しい!」と思ってもらえるようマネジメントにおいて工夫をしています。
仕事を頼む際も、単純に依頼するのではなく、「この仕事って〜〜だから面白いよね。」と意味づけをした上で任せるようにしています。

タイの弁護士の方は概ね富裕層が多く、給与が必ずしも100%のワークモチベーションではありません。給与やスキルではなく、楽しく、面白い仕事ができるかを重視しているという部分があるんでしょうね。いずれにせよそういった職場づくりを心がけていますし、自分自身が誰よりも楽しく働いている姿勢を見せることが重要だと思っています。

また工夫という意味では、チーム内で独自のバリューを言語化して共有することを実践しています。仕事がうまくいかない時に、立ち戻れる共通言語があるとコミュニケーションが円滑に進みます。日本だと、阿吽の呼吸で仕事をすることが多いですが、現地スタッフには伝えたいことは明確にして繰り返し伝えることが必要だと感じています。

ー 今後、東南アジアにおいてGVA法律事務所はどういう存在になっていきますでしょうか。

1つの思いとして、日系企業にとって、東南アジアでの事業展開をもっと簡単にしたいという気持ちがあります。いくらグローバル化が進んでいるとしても、現実には「国境」というのは大きな壁です。それは今後どんどん低い壁になっていくと思いますが、我々はその壁を低くする一助になる存在でありたいと思います。

また、タイ企業や他の東南アジア地域のローカル企業にとっても「新しいことに挑戦する」という時にはGVAがいいと思っていただきたいですね。これはグループ全体を通じた理念ですし、この実現にはやはり強い使命感を持っています。最近は、タイ人の弁護士達が頑張ってくれて、タイのベンチャー企業からの相談も頂けるようになりました。

これからタイのベンチャー企業から、新しいビジネスが生まれてきてくれることには強く期待していますし、それを応援したいと思っています。

 

ー 最後に読者の方にメッセージをお願いします。

東南アジアは、何かにチャレンジするにはとても魅力的な国だと思います。当然良いところばかりではなく、悪いところ、大変なことも多いですが、それ以上に「面白い」と思える要素は絶えることなく存在します。そして私は、アジアに出て行って仕事をするのは、組織としても個人としても、本来はもっと自然なことだと思うんです。何か特別なことなわけではありません。

また、私が個人としてアジアに出てきてよかったなと思うのは、「自分が今何をやろうとしているのか」を以前よりもクリアに認識できるようになったことです。アジアにいると、色んな国の人に会いますし、外国との距離はグッと近くなります。その中で、日本にいる時には意識しなくてよかった「違い」というのを感じることがある。そういう違いは、逆に自分の輪郭をクリアにしてくれるような気がします。

少なくともタイには、私を含めて皆さんの仕事を応援する人達も沢山います。是非気持ちを軽くして、足を運んでもらいたいと思います。

編集後記

これまではITや人材系の方の取材が中心でしたが、弁護士の方の取材は初だったので非常に新鮮でした。
「世界の挑戦者を支えるインフラになる」という志を持って法務の専門家として挑戦を重ねている藤江さんのお話を聞いて私も成したい志を持って挑戦をしていこう、と再認識することができました。