シンガポールには「朝の定番料理」が数多く揃っています。中華系の粥やマレー系のナシレマ、インド系のロティプラタなど、多民族国家ならではの各国料理が盛りだくさん。
中でも、朝の活力源になっているのが「バクテー」。
日本人の感覚からすると、ちょっと朝からヘビーな食事?と思われがちだけど、けっこうパワー出ちゃいますよ!!
スープはおかわり自由!華僑が生んだ名物料理
バクテーは専門店があるほど、シンガポールでは定番の料理です。豚肉の骨付き部分、スペアリブのスープとして、ローカルの中国レストランやホーカーズ(屋台式レストラン)などで食べることができます。スペアリブは中国本土だと「排骨(パイクー)」料理として、煮込みや揚げ物など、料理のレパートリーが多いことでも知られていますが、バクテーはシンガポールやマレーシアならではの料理です。
(バクテーは福建由来の中国語で「肉骨茶」と書く。英語表記は「Bak kut teh」)
シンガポールのバクテーは、クリアなスープにスペアリブとニンニクの入ったシンプルな料理です。スペアリブで出汁を取って、少量の濃口中国醤油、塩で味付けをします。ここでポイントなのが“白コショウ”。コショウを入れることで、優しい味わいのスープにピリリとアクセントを加えて、さらにニンニクで風味抜群の味になります。
この料理の特徴は、“スープが主役”ということ。豚肉とコショウ、ニンニクのうま味をスープに浸透させて食べることから、一見スペアリブを食べる料理と思われがちですが、うま味満載のスープを楽しむ料理なのです。ローカルレストランで食べる時は、ほとんどの店でスープのお代わりをすることができます。しかも無料!!次から次へと注ぎ足してくれるので、まるでわんこそば状態です。初心者の方は少し戸惑ってしまうかもしれませんね。
スープはそのままいただくのも良いですが、バクテーの必須アイテムである揚げパンの「油條(ユーティアオ)」をスープに浸して食べます。口の中に入れた瞬間、油條からジュワジュワとスープが染み出してくるうま味が最高です。同様にごはんを浸して食べてもおいしいですよ。では、肉の方はどうするかというと、もちろん食べます。こちらは生唐辛子のスライスを入れた濃密な中国醤油につけてガブリといただいちゃいましょう。充分に煮込んでいるので、骨離れがとても良くてペロリと食べられます。
潮州タイプと福建タイプどちらがお好み?
バクテーの始まりは、かつてシンガポールがまだマレーシア領だった時代。マレーシアのクランという地域が発祥です。港で働く華僑(中国からの移民)労働者が、豚肉の残った骨の部分を漢方で煮込んで作ったのが始まりと言われています。骨に若干の肉がついていて、それを漢方で煮込んだことから「肉骨茶」と名付けられたと言われています。(諸説あり)
中国からの移民は福建省や広東省の方が多く、バクテーもその移民たちが作り出したものです。先ほどの説明でもあるように、クリアなスープが特徴のシンガポール版バクテーは広東省・潮州料理の括りになります。素材の味わいを生かした料理が特徴です。
(漢方と野菜がたっぷりのマレーシア版。スープの色合いから別名は「黒バクテー」)
一方、マレーシア版のバクテーは、福建省の華僑が作り出した料理です。レタスやエノキなどの野菜や油揚げが入っていて、八角やクローブ、シナモンなど、漢方のエキスがスープに浸み込んでいます、見た目の色合いからも全然違いますね。
シンガポールの店によってはこのクリアなスープに具をたくさん入れて提供している店もあります。どちらのバクテーも鉄観音茶やプーアール茶で口の中をリセットしながら、仲間との会話を楽しみながら食べるのです。労働者の食べ物だったバクテーも今ではシンガポール庶民の一日の活力源として欠かせない食べ物なのですね。
スープがない?ガイド本に載らないバクテーとは
私は、現地の情報が日本でどのように紹介されているか、ガイドブックや旅行雑誌をよくチェックしていますが、紹介されることのないバクテーがあります。
それは「ドライバクテー」というスープのないバクテー!
(濃密な中国醤油の水分を飛ばして甘辛く味付け。ポイントは“切りイカ”)
土鍋で提供されるドライバクテーは、濃厚なソースが豚肉に絡んで、艶やかさが特徴的。オクラやキノコが入って、乾燥切りイカのうま味と食感がとってもマッチしています。これは日本人なら絶対ご飯にのせて食べたい一品です。この料理は、シンガポールの中心部のレストランやホーカーズではほとんど扱ってはなく、マレーシア側北部の郊外にあるレストランで食べることができました。スープのバクテーと比べても同じ料理とは思えないほど、個性的なスタイルの料理です。もしも、バクテー屋さんに入ってドライがあればぜひトライしてみてください。
(バクテーの素は、だいたい100円程度~ 購入することができる)
バクテーは、とってもポピュラーな料理なので、スーパーに行けば「バクテーの素」が数多く販売しています。メーカーによってスープの味わいも違うので、お土産にしたり、駐在の方ならレストランの味と食べ比べをしたりしても新たな発見があるでしょう。
店によっては内臓系が入っていることもあるし、骨のついていないタイプもあったりします。スープや具のバリエーションも違いますので、自分好みのバクテーを探して仲間や家族と賑やかに楽しんでくださいね。