2016.11.12
「あぁ、日本食が恋しいな」
海外にいると、ふとそんな言葉が出てくることありませんか?
日本から一歩飛び出した瞬間に、“日本食”という言葉が懐かしさに変わり、思わず日本食レストランに足が向いたりするものです。
そんな日本食は、今や日本人だけのものではなく、海外の人たちにも欠かせない食文化のひとつとなりました。ASEAN諸国の商業施設には、ラーメンをはじめとする日本食を集めたレストラン街が集客の目玉になっています。中でも、新スポットとして注目されているのが、食の都シンガポールに誕生した「ジャパンフードタウン(JAPAN FOOD TOWN)」です!!
シンガポールには1000店以上もの日本食レストランがあるとされていますが、ジャパンフードタウンは今までにはない日本食の試みをしているとか。さっそくシンガポール国立大学に留学中のアセナビ副編集長、長田壮哉と潜入してきました!!
目次
「ジャパンフードタウン」って何?
高級商業施設が立ち並ぶシンガポールの中心地、オーチャードロードに面したシンガポール伊勢丹ウィスマ・アトリア店。7月16日に外食企業16店舗が日本料理を提供するジャパンフードタウンがオープンしました。
今回の出店は、政府や民間が出資する「クールジャパン機構」の一環で、日本文化の海外展開を支援するものです。日本食の分野で、外食企業が海外進出する際に直面する、食材調達、人材確保、 出店用地確保などの問題を解決するためのプラットフォームの構築、運営を行い、日本の外食企業の海外進出支援を通じて、日本の食文化拡大に貢献することをコンセプトとしています。
“意外な店”が多数出店。並ぶことを嫌うシンガポール人が大行列?!
正直、筆者は訪れる前、「どうせ日本人ばかりではないの?」と軽視していました。しかし、実際に行ってみれば・・・
「シンガポール人が行列してるぅ~~!!」
訪れたのは週末の午後2時。ランチタイムのピークを過ぎた時間帯にもかかわらず、その多くが満席店となっています。最近はシンガポール人もグルメ志向が高まり、昔ほど行列することに抵抗なくなったとはいえ予想外の光景でした。
出店しているジャンルはというと、人気の寿司、天ぷら、焼肉、ラーメン、日本酒をはじめ、シンガポール人に馴染みのない蕎麦やサバなどの専門店もあります。
しかし、どの店をみても日本人なら誰もが知る著名な企業の屋号はありません。
単独では海外進出が困難な企業でも、大きな官民連携プロジェクトの中で店舗がサポートを受け、一団体として出店することで、中小企業でも海外出店できる可能性を広げているのです。
サーモンに続く“NEXT FOOD”の可能性をサバに託す
さっそく16店舗のひとつ、とろさば料理専門店「SABAR(サバ―)」に伺い、現状をお聞きしました。
SABARは日本国内に10店舗を運営し、シンガポールが海外初出店。関西を中心に展開する鯖寿司専門店「鯖や」の系列店だけに、サバにはこだわりがあります。
鳥取県で完全養殖された真サバを使用し、シンガポールにも急速冷凍して輸送されています。
地下海水で養殖することで寄生虫の“虫がつかない”ため、「お嬢サバ」と命名されたサバ
サバはシンガポールでも食べられますが、やはり王者はサーモンです。世界的にもメジャーとなったサーモンに続く魚として、シンガポール人が本当のサバの魅力に気づく拠点となるのがSABARなのかもしれません。
オープンから1か月も過ぎると客足が落ち着き、各店舗での集客も一旦落ち込んでくるのが常。
しかし、「当店では極端な客足の落ち込みはなく、逆にリピーターが増えています。刺身の脂の乗り具合や焼き物のふんわり食感は、食べてみてこそわかりますよ」と語ってくださったのは同店店長の岡田亮さん。
人気メニューをご紹介してくださいました。
「TORO-SABA SASHIMI」S$18。昆布〆にする必要がなく、新鮮な状態で提供
「aburi TORO-SABA」(手前/写真は半身)S$22。「TORO-SABA SUSHI」(奥)S$20
いざ、サバをいただきます!
筆者も早速いただいてみました。まず驚いたのが“香り”。脂の甘味ある円やかな香りがふんわりと鼻腔をくすぐります。生の状態で香りを感じることは意外でしたが、食べてさらに食感の良さとうま味豊富な味わいに納得です。厨房で焼かれたサバの身は抜群のふんわり感。
日本からの輸送だけではなく、現地調達の食材は毎日マレーシアから配達されます。あしらいに使われる笹はバナナの葉、すだちはカラマンシーで代用するなど、使い方にもアイデアがあっておもしろい。
さて、アセナビ副編集長の感想はいかに?
「実は僕、アセナビ副編集長のくせにASEANのローカルフードより日本食が好きで、よく日本食レストラン巡りをしてるんです。なぜなら、毎回ちょうど日本食が恋しい時に日本食を食べると泣けるんですよね。その感動がもうやめられなくて...。
それでも、今回のはマジで別格です。おいしさの表現は伊能さんに任せるとして、シンガポールにマグロ、サーモン、ラーメンといったありふれた日本食ではなくサバで切り込んできたという斬新さがすごい!ぜひシンガポール人にもサバのおいしさを知ってもらいたいですね!」
サバ料理尽くしのメニュー。シンガポール名物にヒントを得た「Paper TORO-SABA」やサンバルソースの「Chilli TORO-SABA」などのアイデア料理も
店舗は、日本の富士山やシンガポールのマーライオンのようなサバのイラストが壁一面に描かれていてシンガポール人にも受け入れやすそう。サバにちなんで開店時間、席数、メニュー数も“38(サバ)”にこだわっているとのことです。
現在、シンガポール人と日本人の客の割合は5:5。特に富裕層から支持が高いというのも、リサーチ力があり、おいしいものを知っているシンガポール人だけあってうなずけます。
正直、この店舗のはエリアの中でも奥のくぼんだ角地にあります。恐縮ながら、そのことに関して岡田さんにお聞きすると、「他店よりも悪条件ではありますが、それでも来て下さるお客様が多くいることは、うちのサバの魅力があってこそ。味勝負です」と、テンションを上げて答えてくださいました。お話いただきありがとうございます。
店長の岡田さんは、大阪、東京の店舗を経てシンガポールへ。サバ愛が止まらない方!
日本食がASEANに広がる!
世界各国で言えることですが、魚やラーメンといった大きな括りでは知られていても、どれだけの種類があるかは未知数といえます。現在はそこをより細分化して、どこまで個々の食材や料理が現地の人に受け入れられるか、日本がどれだけその国に密に接していられるかがポイントになるでしょう。
ジャパンタウンのある伊勢丹は今後もASEANで店舗展開し、マレーシアでは「ISETAN The Japan Store Kuala Lumpur」が10月27日にリニューアルオープンしました。こちらもクールジャパン機構が関わっているとのことなので、どんな日本文化が発信されるか、楽しみです。