「クルン・サイアム」「タイ料理研究所」などの人気店を展開するのは元外務省職員!人気の秘密は理念とマネジメントにあり!株式会社SUU・SUU・CHAIYOO 川口洋氏

飲食店を全くの一から始めて13年。都内のみならずバンコクにもお店を出すまでに至った川口氏。タイ料理への熱い想いを胸に外務省から飲食業界と大きな方向転換をした先にある、相手を大切にしながら自分の好きなことをして生きる方法とは?そして今後のビジョンは?

《プロフィール|川口洋氏》
1969年、兵庫県生まれ。神戸大学法学部卒業後、1992年4月に外務省入省。アラビア語の専門家として、在シリア日本国大使館、在オマーン大使館と、約5年半にわたり中東諸国で勤務する。帰国後、2003年に外務省を退職し、飲食業界へ転身。
タイ料理店『ティーヌン』を運営する株式会社スパイスロード他を経て、2004年に独立し、株式会社SUU・SUU・CHAIYOO(スースーチャイヨー)を設立する。現在都内に13店舗、バンコクに1店舗を展開。

外務省から飲食業界への転身

―もともと外務省にお勤めだったのですね。これまでの海外との関わりを教えてください。

大学生のときニュージーランドに行ったことが、初めての海外との関わりでした。それまでは飛行機に乗ったこともありませんでしたが、一か月間ヒッチハイクをする中で様々な人との出会いや今までになかった刺激があり、とても楽しかったのを覚えています。

その後、中東・アフリカ・ヨーロッパを中心に旅行をしていく中で、「海外に住みたい」という思いを抱くようになりました。

訪れた中でも人々がアクティブで面白かったこと、そして歴史が好きなことからアラビア語専攻で外務省に入省したんです。

日本で1年働いた後、シリアに3年間、オマーンに2年半在住しアラビア語の専門として責任のある仕事もさせていただきました

オマーンで、大分県知事とマスカット知事の通訳

―タイ料理との出会いはいつだったのでしょうか?

オマーンに住んでいるとき初めてタイとの関わりがありました。和食レストランをはじめ様々なレストランのコックのタイ人と仲良くなったこと、そしてもともとタイ大使館で働いていた同僚ができたことなどが最初のきっかけです。

また、オマーンにいたときは毎週のように外交官を自宅に招き、アラビア語で様々な議論をしていました。

議論が終わるとホストとして料理を出したり音楽をかけるのですが、宗教の違いなど配慮しながら、どうしたらゲストに喜んでもらえるのか考えるのがとても楽しかったのを覚えています。

初めてタイに行ったのは、大使館の行事で使うための食材を買い出す出張に行った時です。漠然とタイ人は人がいいとは思っていたのですが、実際行ってみてタイ人の人柄、そしてタイ料理の魅力に惹かれました。

その後帰国し、6年間日本の外務省で働きました。クーデターなどの緊急時対応や海外向けプロモーション、インバウンド施策の立ち上げなどとても充実していて楽しかったのですが、「自分で商売をしてみたい」という気持ちから外務省退職を決めました。

モロッコのサハラ砂漠でキャンプ

―飲食業界という全く違う分野への方向転換ですが、きっかけは何だったのでしょうか?またキャリアを捨てる迷いなどはなかったのでしょうか?

「タイ料理店をやろう」という考えは天から降ってきました(笑)。海外がらみのサービス業をやりたいと思っている中で、自分が今まで関わってきた「タイ」を思い出しました。

「外務省を退職する、そしてタイ料理店を始める」と決めてからの迷いはなかったですね。嫌々やっていることは失敗もすると思いますが、自分が好きなことをやっていると思っていました。物事が決まる時は本当にスムーズに決まるものです。

また転職までの2か月間でタイ雑貨などを現地で仕入れて日本で売っていて、「物を売る楽しさ」というのはそこで初めて感じました。

―外務省退職後はタイ料理店「ティーヌン」などを経営しているスパイスロードさんで修業を始められたということですが。

それまで飲食経験が無かったので本当に忙しくて大変でした。

店長を自ら志望しやらせてもらったのですが、オペレーションが上手くいかずお客様に「もう来ない」と言われたこともありました。

スタッフ内で私は最初素人だったので相手にされないこともありましたが、一生懸命頑張って売上があがり、どんどん認められて仲良くなり周りを巻き込んで仕事ができるようになったのが嬉しかったです。

1年と期間を決めて修業をしていましたが、お店が楽しく、このまま店長を続けようか迷った時期もありました。しかし最初の目的通り独立しようと考え、2004年の11月に1店舗目となる「クルンサイアム 自由が丘店」を始めました。

ティーヌン修業時代の川口氏

一歩一歩の積み重ねを大切にし独立して開業、そして展開へ

―お店のコンセプトは何でしょうか?

先ほどもあったように中東時代の人を招く文化の影響を受け、「家に人を呼び、もてなす」イメージを大事にしています。

住宅街を中心にタイの昔の家を使ったレストランをイメージした「クルンサイアム」、ビジネス街にある「オールドタイランド」、レシピを作るテストキッチンが原点の「タイ料理研究所」、そして小さめな商業施設で屋台をイメージした「タイストリートフード」と都内に12店舗、そして今年1月にはバンコクにプロンポン店を出店しました。

―開業してから毎年すごく順調に1店舗以上の開店をなさっていますが、経営上で大切にしていることをお教えください。

経営理念として「タイ料理を多くの人に広める」ことを置いています。

その中で売り上げよりも客数を増やすこと、そのためには、来てくださったお客様に満足していただくことを重視してマネジメントをしています。また、毎日1時間ごとの来店客数を予測し、食材の仕入れならどのくらい仕入れたら新鮮で美味しいものをお客様に食べてもらえるのに適量かや、アルバイトのシフトが何人いれば予測した客数のお客様にご迷惑をおかけしないかなど、常に客数中心・お客様満足中心を考えています。

また料理に関しては変わったものを出すのではなく、スタンダードなものを美味しく提供することを心がけています。

たくさんお金儲けするとしたら、タイ料理を選びません。しかし多くの人にタイ料理を食べてもらいたい、それでお客様が喜びその結果、客数が増え売り上げがあがり我々の生活を豊かになる。その思いでお店を続けています。

―経営していく上で上手くいかないこともあると思います。

頭でわかってても、ありがちな失敗をしてしまうことはよくありますし、お店をやっていく上で店長やコックさんが見つからないなど様々な困難もありました。

ポイントはPDCAを回すことだと思います。仮定して、やってみて、うまくいかなかったら新しいやり方をする。上手くいかないことを続けて「たくさん努力しているのになんでうまくいかないんだ」と悩んでも仕方ない。常にやり方を変えていきながら前に進むことが大切だと思います。

最近ですと今後のチェーン化を進めるにあたり、会社組織、採用教育評価、調理方法、システムなど内部の体制を整えるため、とにかく「地道さ」を大切にして一つ一つ改善している途中です。

―今年1月にはバンコクに出店なさいましたがその経緯をお教えください。

「海外に住みたい」という思いが強いので、色々な国でやりたいともともと思っていました。

海外展開を進める中で、タイ料理店をやっているならヘッドクオーターとしてタイにお店を出さないといけないと考え、まずはタイに出店しました。タイの情報や食材の輸入やコックの育成など、タイに出店したからこそ得ることのできるものがたくさんあります。

今はお客様の70%くらいが日本人を中心とした外国人ですが、タイでやっている以上タイ人に評価されたいと思っています。

今回の出店に関してもまずは決断ありきでした。やると決めたら周りが手伝ってくれました。私は決断するまでは時間をかけますが、決断してからは目標に向かってなるべく迅速に走っていきたいと考えています。

また飛躍するためには、いつもと違う新しいことをやってみる繰り返しが大事だと思います。

初めてのアユタヤ訪問時

相手を尊重し、どうしたら喜んでくれるかを考える

―「タイ人と働く」ということに関するお考えをお聞かせください。

お店のシェフは100%タイ人で、アルバイトを含めたらスタッフの65%タイ人です。ただタイ人だからとか日本人だからということではなく、とにかく人として真剣に向かい合うことを大切にしています。相手のプライドを尊重し私が必死で伝えたら、相手も真摯に聞いてくれと信じています。

あとはスマイルとアイコンタクトですね。様々なマニュアルを作ってはいますが、最終的にはここに行きつくかなと思っています。

日本の外食がタイへ進出するときに現地スタッフと上手く働くのが大変という声をよく聞きましたがが、うちでは日常がすでにタイ人ワールドだったのでその大変さは感じませんでした。

―経営者として大切になさっていることをお聞かせください

社風のいい会社になりたい、従業員の満足がお客様満足につながると思っているので、そのために社内でもみんなが喜んでくれる仕組みを作りたいと思っています。

会社全負担で、バス旅行や忘年会などの社内イベント、店舗ごとの年2回の飲みにケーションなど。最近ではスタッフ間のサンクスカードなどを導入し、渡したり渡された枚数のポイント制で社内通貨を渡し、商品券や商品に交換できる仕組みを作ろうとしています。

また、社内で勉強できるような会社にしたいとも思っています。もともと自分が勉強会などの参加が好きなこともあり、そのような機会をたくさん提供したいと考えています。

人生がうまくいくようにするためには、自分の機嫌をとりつつ自分が不平不満に生きないことが大事だと思いますが、他人のことを考えて、何かしてあげる・貢献するという気持ちも持たないと絶対成功しないと思います。「我欲」を捨て、「奉仕欲」や「事業欲」を大事にする。私自身はその間を行ったり来たり、日々修行です。

2017年7月出店「クルン・サイアム渋谷文化村店」にて店長と

―今後の展望をお教えください。

タイ料理のチェーン展開を目指しています。日本よりタイ料理市場が大きくチェーン展開の基盤があるアメリカで2019、2020年を目途にやってみたいと思っていますし、韓国やASEAN進出も検討しています。

ただ今の延長線上で店舗を増やしても上手くいかないと思うので、何かイノベーションを起こす必要性を感じています。直営で拠点をいくつも出すのではなく、現地にパートナーを見つけて展開することも検討していて、今は組織の在り方を変えていくタイミングにきていると思っています。

タイ料理以外に事業を広げる予定はありません。ただ美味しいタイ料理を提供するという観点で今の事業の延長線上にある、食材の輸入や外国人の就業支援などやれることはやっていきたいと思っています。

タイ料理の市場は決して大きくはないですが、食材や味の多様さが素晴らしいと思います。またその多様さから、鳥インフルエンザなどがあっても他の食材で代替することができるといった事業としての安定感もあります。「タイ料理を沢山の人に広めたい」、その思いを大切に一つ一つ積み重ねてこれからもやっていきたいと思っています。

―読者へのメッセージをお願いします!

「自分がやりたいこと」「自分ができること」「会社・社会がやりたいこと、求めていること」の3つの輪を書いてみて、3つの輪が重なるのが成果であり輪が重なる面積を増やすのが大切という考え方を、先日内定式で説明しました。

その際の説明を引用させて頂いて、

1点目の「やりたいこと」に関してはやったらいいと思います。子供のころは特に無意識的に親のやってほしいことに影響を受けていますからそこを抜け出して自分自身が主体的に考え、本当に自分でやりたいと思ったことに挑戦してみるべきだと思います。

さらには現時点で、「やりたくないこと」と思ったとしても、やりたいことは、年齢や経験によって変わりますし、単なる食わず嫌いのことも多々あるので、素直にやってみることも大事です。たとえば、素敵な先輩の言うことならとりあえず従ってみるのも良いと思います。

2点目の「できること」に関しては、変なプライドを捨て挑戦してみることが大事です。最初は誰でも出来ませんが、経験を重ねて出来るようになります。恥ずかしがらず、少しでも興味を持ったことはやってみることが得策です。恥をかきたくないからと挑戦しないと何も人生も進歩しません。

3点目の「会社が求めていること」に関しては今までの2点とこれがなるべく重なっているところに身を置くのが幸せだと思います。なぜなら人生の中で仕事の占める時間的割合は大きいものだからです。自分の夢と仕事上の夢がリンクしていれば幸福です。

また、大事な視点として「やらなくてはと思っていることが本当に会社が求めていることなのか」ということは考えた方が良いかと。自分で思い込んで追いつめられるということはありがちですので、求められていることとのギャップがないか冷静に考えてほしいとは思います。

編集後記

自分のやりたいことを全力でやる、そして相手がどうしたら喜ぶかを考える、この両立はとても大切なことなので常に両輪を行き来できるようにしたいと思いました。また「海外との関わり方」というのは本当にたくさんの方法があるのだとも思いました。

ASEAN好きの原点が「クルンサイアム」でしたので、タイ料理への熱い想いが伺えて幸せでした。