「もし私がラッキーだったのなら、そのラッキーを誰かにも共有したい」貧困街の改善をめざしてフィリピンで1人調査を行った、トビタテ留学JAPAN1期生山口侑香さん

2017.03.10 

大学1年生のときにボランティアで行ったフィリピンで見たスラム街にショックを受け、貧困問題に足を踏み入れることを決意。トビタテ!留学JAPAN第1期生 としてフィリピンで2 か月間、居住環境改善のための現地調査をされていました。初めはフィリピンにこれといった興味がなかったとおっしゃる山口さんの、留学を決意されるまでの経緯に迫ります。

《プロフィール|山口 侑香さん》

1991年滋賀県生まれ。滋賀県立石山高校卒業後、関西大学環境都市工学部に入学し、建築を専攻。2年生修了時に2年間大学を休学し、フィリピンのブラカン州立建築学科での1年間の交換留学と株式会社ピートンコーポレーションにてインターンシップを経験する。2015年2月から2カ月間、トビタテ留学!JAPAN1期生としてフィリピンのスラムコミュニティの調査を行う。その調査をもとに制作した卒業設計が学内講評会で最優秀賞を受賞。卒業後は都市計画コンサルタント企業で働く。 

正義感や使命感があったからではなかった

 ー山口さんはトビタテ!留学JAPAN1期生としてフィリピンに留学されていたそうですね。どのような活動をしていたのですか?

 2015年の2月から2か月間、マニラ首都圏のブラカン州で「再定住地」に住む人たち150人にインタビューを行っていました。「再定住地」とは 、スラム街に住んでいるような人が政府によって強制的に移住させられた地区のことです。

フィリピンにはスラム街や再定住地がたくさんあるので、そこに住んでいる人たちの居住関係を改善させるためのインタビュー調査をしていました。質問では、家族構成や生計を立てている生業といった基本情報から、住宅の設備や1日のテレビの視聴時間といったことまで聞きました。

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3度のフィリピン滞在を経て生まれた疑問

 ーそのような調査しようと思った経緯を教えてください。

 大学に入学してすぐに、フィリピンの孤児院でリコーダーを教えるボランティアに1週間参加したのがきっかけです。その時初めてスラム街 を見て、すごくショックを受けました。

その後は、自分の専門である建築を再度フィリピンで勉強しようと決め、フィリピン・マロロス市にあるブラカン州立大学に1年留学しました。

また、プラスチック精密加工を行う(株)ピートンコーポレーションのインターンに参加し、毎日の機械稼働率のレポート・全体の工程表の作成を行いました。

この2つを終えた後、1つの疑問が生まれました 。「自分の専攻である建築を活かしてフィリピンの人たちに役立てることはないだろうか?」。それなら、まずは現地の人たちにナマの声を聞くためにインタビューをしようと思い立ち、調査をしました。

1460036459340(フィリピンのスラム)

 ーなるほど、でも実際に行動に移すのは難しいと思います。それでもやろうと思ったのはなぜですか?

 ブランカン州立大学留学中に印象的なことがあったんです。学生寮の掃除係が自分と同い年だったのですが、彼は貧しく、妹が産んだ子供を育てながら働いていました。

彼は絵が上手で、経済的余裕があれば絵の勉強をしたかったそうです。そんな彼から「君は日本に生まれてよかったね、ラッキーだよ。僕にはお金がないから留学なんてできない。」と言われて・・・その言葉がとても印象的だったんです。

 それから、もし私がラッキーなら、今自分をラッキーではないと思っている人に対して私は何ができるだろうか。そう思うようになりました。

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 ー大変なことに遭遇したエピソードはありますか?

居住状況調査のために電気や水道についての質問をしているとき、毎日の生活の大変さをとうとうと語り出すおばあさんに出会ったことです。

「あなたが将来建築家になって成功したら、ここに戻ってきて私たちを助けてください。」

顔にしわが深く刻まれたおばあさんにぎゅっと手を握られて、そう言われたとき、思わず体が硬直しました。「ええ、もちろん」と答えながらも、私には助けられる力なんてないかもしれないのに、と心の中で深く詫びました。この経験が、これから仕事をする上でも原動力になると思っています。

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 1からスタートした留学

―トビタテ!留学JAPANに応募した背景を教えてください。

 大学で受けていた講義の教授からの紹介での存在を知ったのがきっかけです。トビタテ!留学JAPANは、多様な留学目的を評価して奨学金援助をしてくれるので、フィリピンという留学するのにメジャーでない国でも応募できたのが良かったです。フィリピンへの留学制度すら滅多にない中で、奨学金援助があったのは助かりました。

 ー留学計画はどのように立てたのですか?

 関西大学がブラカン州立大学と提携していたので、それを頼りに留学プランを立てました。

私の専攻は建築のため、デザイン分野だとヨーロッパへの留学はいくつかありましたが、フィリピンの貧困や居住環境に関してだとほとんどなかったので、具体的な計画はセルフプランニングです。

 ーフィリピンに調査に行かれたことで、どのような結果が残せましたか?

 インタビュー調査をもとに、卒業設計としてスラムの居住環境改善計画の設計手法を提案し、それが学内の講評会において最優秀賞を受賞しました。

受賞できたのは、居住者の生活実態について現地調査を行い、自分なりの問題点と解決策を提示したことが評価していただけたことが理由だと思います。

私は、解決すべき問題は飲み水の確保であると今回の調査結果から考えました。具体的な解決案として、竹と布で拵えた傘によって集めた雨水を濾過し、飲料水にする計画を提案し、くわえて、既存の住宅基礎をできるだけ活用し、平屋建ての街区から有孔ブロックを使い通風を向上させた二階建てへ更新すること、公共空間をつくることも同時に提案しました。

13644(最優秀賞を受賞した卒業制作)

 ー将来的には建築分野でフィリピンにどのように貢献したいですか?

 フィリピンの建築を日本の新しい技術を用いて援助したいです。日本の建築は清潔でレベルも高いため、フィリピンで必要とされていると思います。

 また、今回協力していただいた調査結果をもとに提案した設計手法は、今後フィリピンのみならず途上国の生活改善のために展開させていくことを目標にしています。将来的には、調査内容を生かして建築分野での国際協力専門家として、フィリピンの現地社会へ実質的に貢献することが目標です。

 「知る」機会をくれた留学

ー留学して自分のなかで成果はありましたか?

色んな生き方のパターンを知られたことが成果です。日本のなかでの生き方や価値観がすべてじゃないことがわかりました。

知らないことよりも、知っていたほうが良いことが沢山あるんです。そういった点で、留学のおかげで「知る」ことができたのが良い経験でした。

 トビタツ学生へメッセージをお願いします!

留学して、特別じぶんの人格が変わったり、成長したとは思わないけれど、「知る」という経験ができました。いろんな価値観を学んだことで、ニュースに対する見方などが変わり、そういったことでも留学経験は貴重だと思います。

【編集後記】

はじめてお会いした大学のトビタテ説明会にて、しっかりと前を見据えながら講演をされていた姿に、私もこんな女性になりたいと、憧れたのを覚えています。取材をとおして山口さんとお話しする機会が持てたことがすばらしかったです。




ABOUTこの記事をかいた人

林佑美

ライターを務めてます。94年生まれの奈良県出身、フィギュアスケートで有名な関西大学所属。私がアセナビに入ったのは、同じくアセナビ所属ライターの藪聡子からの紹介です。声を大にしては言いにくいのですが、なんとアセナビメンバーにも関わらずASEAN渡航歴がゼロです。そんなハンデを逆手に取り、ASEANに詳しくない読者の方たちと同じ目線に立って、ASEANを知るためのワンステップを踏み出すお手伝いができたらと思います。